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1日目(Ⅰ)

「紫苑!」

 耳に響くのは、甲高い母の声。物凄い形相でこちらにやって来て、強く手を引っ張る。

 「今から病院に行くよ!」

 病院? 何故? どこも悪くないのに。

 「黒い目は悪魔の目だと、神は言っている。だから病院で手術して、おまえの目を赤くしてもらう」

 目の手術? 嫌だ。赤い目なんて、絶対におかしい!

 「菫は青い目にしてもらったから、今度はおまえの番だ。ほら、グズグズするんじゃないよ!」

 痛い。止めて。お願いだから、手を離して――!


 ――「止めろ!」と口にして、秦野はベッドからばっと飛び起きた。体に掛けられたブランケットと、派手はでしい色の壁が目に入る。その後しばらくぼうっとして、彼はようやく冷静になった。……どうやら夢だったらしい。夢の中でも過去にうなされるとは、とんだ災難だ。

 『おい、起きたか』

 ……どこからか、あの悪魔の少女の声が聞こえてくる。

 「……ディアボロスか?」

 『そうだ。私は天界に直接関与することはできないが、紋章を通じて力を貸すことはできる。今こうやって会話ができるのも、貴様が私と契約したからだ』

 秦野は右手の甲を見る。確かに、この紋章から力が溢れているような気がした。

 『今、貴様がいる場所は、統括区ε(イプシロン)だ。天界は六つの統括区に分かれていて、各々の統括区に一人の神がいる』

 ディアボロスの説明を受け、彼は窓の外を見遣る。鮮明なネオンや明るい高層ビルが見えるが、ここは本当に天界なのだろうか。

 『おまえには、各統括区にいる神を殺してもらう。私も時々助言してやるが、何せそちらの様子は全く見えないからな。基本は、貴様が自力で動くことになる』

 ちらりと窓際の壁を一瞥すると、そこには禍々しい気配を放つ大剣が立て掛けられている。

 『窓際の武器は、私からの贈り物だ。それを使って、神を突き刺せ』

 秦野はベッドから足を下ろし、大剣の柄を掴んだ。思ったより重みのあるそれは、手の甲の紋章に反応して、暗黒のような力を放っている。

 ――そのとき、秦野はやっと自身の服装の変化に気づいた。いかにも天界人と言ったような感じで、布などがひらひらとしているが、確実に戦闘向きではない。

 「おい、この服装は何だ」

 『貴様の服装は、あまりにもお粗末だったからな。私が勝手に用意した。天界に相応しい、すかした服をな』

 彼女は忌々しげに吐き捨てると、話を続けた。

 『勘づかれると面倒だから、紋章は隠しておけ』

 「名前はどうすればいい」

 『人間どもは適当に呼んでいるらしいが、元々神に名などない。貴様も、適当にω(オメガ)とでも名乗っておけ』

 彼女の指示が思ったよりも適当で、秦野は少々困惑する。

 『ω、よく聞け。私は力を貸してやると言ったが、それは今から十八日間だけだ。それ以上は、間接的な干渉すらできなくなる。貴様はただの人間だ。生身では確実に死ぬだろう。いかに早く神に近づけるかが、貴様の生死を分けることになる』

 制限時間があるなどと言う話は、全くの初耳だ。重要なことは事後報告とは、いかにも悪魔らしい。

 『いいか、貴様は神さえ殺せばそれで良い。余計な気は起こすなよ』

 口早にそう言うと、途端に悪魔の声は聞こえなくなった。

 「……」

 紋章をじっと見つめ、ωとなった秦野は黙り込む。あのときはついつい感情的になって、悪魔の囁きを引き受けてしまったが、彼は相当面倒なことに巻き込まれてしまったのかもしれない。


 

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