侵入
多くの機材やモニターがある部屋に、武装した男たちが慌ただしくしている。
モニターを確認し支持している人や、無線で何かを伝えている人などがいる。その中で一際、大きい筋肉質で頭はスキンヘッドの髭面男が腕を組みながら見ている。その男の左腕は鋼鉄に作られた巨大な義手が付いており、指先はまるで熊の爪のように鋭くなっていた。
「隊長!グリズリー隊長!」
「なんだ?」
グリズリーは眉を寄せ、いぶし銀な顔で報告してきた男をみる。男との身長の差が大きくグリズリーは優に二メーターを超えている。
少し強張りながらも男は伝えた。
「順調にシステムを掌握中です!計画も終盤にきています!」
「そうか。もう少しで手に入る!グフフフ!最後までぬかるなよ!」
「イエッサー!」
グリズリーは不敵の笑みを浮かべながら伝える。周りの男達も合わせて答える。
「にしても、狩に出たAチーム、Bチームからの報告が来ないがどうなっている?」
「そ、それが、、、、」
男は喉に言葉を詰まらせながら、どのように伝えるべきか悩んでいる様子であった。
「まさか・・・」
「ヒィッ」
その言葉に男は青ざめ恐怖している。グリズリーの放つ覇気に気取られている。
「あいつら俺様のこと嫌いなんじゃないのか!!だから意地悪で連絡して来ないとか!!」
「・・・・・・」
その場にいた全ての人が時が止まったように固まった。
「最近飲み会の集まりも悪いし、俺様は避けられているのかもしれない!とんでもない非常事態だ!」
「いえ、あの、」
「なんだ、やはり髭か!?この髭がいかつくしてるのか?怖いのか?」
「その、」
「目つきか!目つきだな!でもさ!目つきは生まれつきだから仕方ないだろうが!!!」
全員が固まっている。
「そ、それがターゲットを狩に出たチームは全員やられました。ヘリも落とされています。」
「なぁーにぃぃいい!ターゲットはただの一般人だろう!何故やられる?!?」
グリズリーは怒号をあげる!その覇気にさっきまで固まっていた人たちが一斉に青ざめる!
「それが情報では政府の秘密組織がそのターゲットを守り、反撃にあったと!」
「おのれぇぇぇ!ゆるさねぇぇえ!俺様の計画を邪魔立てする奴は1人残らず切り刻む!」
グリズリーは左義手の爪をならす!
「Cチーム、Dチームで奴らを血祭りに上げろ!俺様の邪魔立てを許すな!」
「それが・・・・」
そう言って男はグリズリーの耳元で囁くと、
「そうか、なるほど!飛んで火に入る夏の虫とはこの事だな!グフフフ!てめぇら!戦闘準備だけしておけ!わかったな!」
「イエッサー!」
グリズリーは不敵の笑みを浮かべながら笑っていた。
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車で30分走った頃、町外れに大きく、広い敷地の建物が見えてきた!
僕達は近くに車を停めて様子を伺う。街外れにあり周りには人の影は全くなかった。
この街にあんなものあったんだなぁ。僕この街に住んで相当長いけど全く知らなかったなぁ!多分ハルシステムが出来てから作ったんだろう。
まぁ街外れにあるし知らないのも無理はないか。多分システムの関係者ぐらいだろう。こんなところを知っているのは!
「ここが天下の魔王城かぁ。なんだか殺風景で、魔王の城にしてはつまらないな!僕的にはもっとオドロオドロしくしてほしかったわ!作りが甘いね!軽く見積もっても三階ぐらいじゃん!魔王の城は十はないとね!ね!」
冗談で言ってみたが正直、敵が待ち構えてる可能性もあるのでビビってます。
最近のRPGゲームはどうなのだろう?もう魔王の城なんて存在してないのだろうか?だいたい同じパターンが多かったが今はだいぶバリエーションも増えているのだろう。剣と魔法の冒険!魔物を倒して世界を救う。
今の転生ものの基盤だったといってもいいなぁ。そんな事ないか。
もう世界の半分をくれてやる詐欺なんてないんだろうなぁ。嫌いじゃなかったけどさ!
昔はそりゃ怯えたものだ!あの雰囲気!あのBGM!子供心にトラウマが植え付けられたわ!
僕はレベルとかコツコツ上げる苦手だったからよくつまずいたなぁ。めちゃめちゃ回復薬持っていったって言うのに全然、歯が立たないんだもん。攻略法とか教えてくれる友達もいなかったし、一人寂しく敗北に打ちひしがれていたなぁ。
「いや、もしかしたら穴熊の巣かもしれない!心してかかれよ!」
とニヤついてジャックが答える。
怖えぇよ!膝笑ってんだけど!しかも乗ってくれたよこの人!
ああ、そうか。確か穴熊だったね!敵の名前!なるほどね。僕の魔王の城よりセンスあるわ!チクショー!
「いや〜!着いたねー!」
「てか、なんで着いてきてんだよ!ローザ!危ないから帰ってろ!」
ちゃっかり付いてくるなよ!危ないぞ!ジャックしか戦闘できる人いないんだから!
「そんな言い方はないじゃない〜〜!誰のおかげで車動いたのよぉ〜!それにビビりまくってるルーカスに言われたくはないわ!」
ビビるのはしょうがないだろ!!ジャックもなんで何も言わないんだよ!
これから魔王の城に潜入するようなもんなんだぞ!ビビらない方がおかしいじゃないか!今にもあの恐ろしいBGMが流れて来てもおかしくないぞ!そもそもなんでこいつはビビってないの?だいたい事の内容をこいつは理解しているのか?ゲーム感覚で来てるんじゃないだろうな!
「それにしてもどう潜入する?システムは奴らに抑えられとる!正面ゲートから行くのも無理じゃろ。見張りはいないみたいじゃがな。何故じゃろ?」
「システムを信用してるんだろ?破れっこないって!だから外に見張りは付けてない。中だけに集中して見張りを付けている方が得だと考えたんだろうよ!無理やり破ろうもんならすぐバレるしな!」
システムを完全に信用しているってことはもしかしたらこれが逆手に取らないかな?その隙を突くことさえできればチャンスになると思うんだけど、、、
「じゃ〜どーするのぉ?壁でもよじ登る?」
ローザがお気楽そうに答える。もちろん、ここの壁を素手で登れる高さではない。多分不用意に触れてもセンサーか何かに察知される気がする。詳しくは全くわからないが用心に越したことはないだろう。
だからこその僕の出番である!この時こそあれを使わせてもらおう!
「いや、正面ゲートを突破する!しかもバレずにな!」
決まった!今のすげーカッコよかったでしょ!いや〜!できる男は違うでしょ〜!僕自惚れていいでしょうか!!はっはっはっはっ!
僕の気持ちとは裏腹に全く表情を変えない2人。
なんだか悲しくなってきた。全然微動だにもしないもん。この二人!真顔だよ!聞き逃したんじゃないかってくらい!いや、もしかしたら聞き逃したんじゃないかな?もう一回言っちゃう?言ってみる?
「いや、正面ゲートを突破す」
「いや、聞こえたよ。」
食い気味だった。
すげ〜冷たい声でローザが言う。君ってそんな声出せたんだね。僕知り合ってから始めて聞いたよ。そしてとっても傷ついたよ。
「で!どう突破するんじゃ?」
わかりましたよ。説明すればいいんでしょ!も〜!せっかくカッコよく決まったのになぁ。
「こいつさ!」
僕はジャック達に見せた!特別だぜ!
「テテテッテッテレー」
「やめろ!その効果音はダメじゃ!偉い人たちから怒られてしまう!」
ムム!でもアイテムを見せる時はこの音がぴったりじゃないか!今まさにこのためにあると言ってもいい!全てのアイテムはこの音から始まったと言っても過言ではないな!
「じゃ、テレレテッテテッテー」
「それはレベルアップの音!マジでクマにじゃなくて、偉い人にわしらが消されるぞ!」
おふざけが過ぎたか!ごめんなさい!消さないでください!偉い人!
「コントローラーに画面付き、それにコードが長いの一本。これなにぃ〜?」
ローザが不思議そうに顔を覗かせる。可愛い!そして近い!近い!近い!顔が!近い!いい匂いがする!別の意味で心臓が張り裂けるぞ!
そんな可愛いローザに答えちゃおう!
「さっきのガラクタ置き場から見繕って作ってみた!これはな!このコードで接続して強制的にバトルアンドアニマルズに転移させる!そしてバトルに負けると支配権を奪える!」
「どーゆー事じゃ?」
「つまり!あそこのゲートを守ってるアバターをぶっ飛ばせば、ゲートを開けられるって事だよ!」
「すごぉーい!ルーカス!あのガラクタからこれ作ったの!?」
まぁ〜ね!僕天才かもしれないからね!へへん!もっともっと褒めてくれたっていいんだぜぇ!ローザちゃぁぁん!
「ヘェ〜!やるじゃないか!」
おふぅ!ジャックに褒められるとなんか調子狂うな。ちょっと照れる。素直な褒め言葉って奴に僕はまだまだ慣れていなかった。自分で求めたくせに!
そういえばこいつの名前決めてなかったな!何にしようか?みんなに意見が欲しいところ!
「こいつの名前決めてないんだけどどんな名前がいいかな?」
やっぱり名前がないと締まらないので二人に聞いてみた!
「殺戮マシーン三号とかどうじゃ!」
いや、どの辺が殺戮マシーン?しかも三号って一、二どこ行ったんだよ!
「却下だ!」
「厳しいのぉ」
厳しくないわ!普通だわ!
「アニマルバスターズってのはどう?」
アニマルバスターズかぁ、僕の頭をよぎったレッツ侵略君よりいいか。
「わしの頭をよぎった全部圧殺獣解!よりマシか、」
こいつのセンスは分からん!なんでそんなにスプラッタなの?そんなに攻撃的なんだ!怖ぇーよ!
「じゃローザの案で決定だな!それでいこう!」
やっぱり名前がつくと使いやすくなるな。気持ち的に!
「よろしくなアニマルバスターズ!」
頼んだぜ!お前が今から僕の剣だ!
「で!僕のアバターは乗っ取られちゃってるから、ローザ!アバターを貸してくれ!」
「え!?あっ!?ごめん!なんも持ってこないで飛び出してきちゃったから、、」
「えっ!?」
どぉーしよぉ〜!予定狂っちゃったぁ!?アバターがないと戦えないよ!やべぇー!この先どうしよう!!何もできないぞ!振り出しに戻ってしまった!双六で六を出したら一回休みより酷い!
「わしの携帯を使え!これで新しく作れないか?」
おおおおお!そっか!ジャックので新しく作ればいいのか!いけるかもしれない!
ジャックがここの出身じゃなくて助かった!新しく登録すれば新たにアバターを作れる!
「ありがとう!ジャック!」
僕はジャックのアバターを作った!アバターは自由に作れるから、一応ジャックのアバターなのでジャックに色々意見を聞いてたらネズミのアバターになった。
何故ネズミ?せっかく色んなパーツがあるんだからもっと強そうなのにすればいいのに!
でも僕も最初はライオンとかワニとか強そうなのにしようと思ったが、女子ウケを狙って少しかわいいうさぎにしてしまった。こんなの知られたら恥ずかしくて死ねるな!
「ヘェ〜!なんだかかわいいね!ちょっとキザっぽくて、カッコいい部分もあるし!ステキなデザインね!」
ジャックのネズミはハットを被ったキザなネズミであった。
「有名なネズミ達が多いからそれにあやかったんじゃよ!」
それも偉い人たちに怒られそうなグレーなところだな!
有名テーマパークに、ポケットに潜むモンスターか、バレてる?バレてないよね?みんなはわかっててもスルーしてくれるよね!
「にしてもこんな機械を作るなんてルーカスは天才なんだねぇ〜!しかもあんなガラクタの山から!見直しちゃったよぉ〜!」
「えっ!?今惚れ直したって?」
「一回も惚れたことないのに惚れ直すことはできないよぉ〜!」
その言い回し余計に傷つく!嫌なえぐりかただ!しかも訂正が早くて的確で、尚且つ今現在お前に興味がないって言われてて、三連コンボでノックダウンしそうだ。
「まぁこれから僕に惚れちゃうイベントのフラグだな!前向きに考えよう!」
そうさ!僕は前を向くことにしたんだ!こんなことで落ち込んでいられない!ポジティブになるんだ!ルーカス!これからローザは僕の魅力に気づいてメロメロになっていくんだ!
「そぉ〜だねぇ〜〜!現実を見ないことに関しては一級品だもんねぇ〜〜!ルーカスは!」
やめてぇぇ!今その話でやっと前向いたところ!ボケでそう言うところえぐっちゃダメだよ!やめてぇぇ!そこはデリケートな部分だからぁぁ〜〜!簡単に触っていいところじゃないからぁぁ!
「茶番はいいかの?そろそろそのマシンで開けてくれ!」
あ、はい。すいません。
僕はゲートにコードを繋ぎ強制的にバトルフィールドにアバター達を転移させる。
ここからは僕の見せ場だぞ!
敵は2体!カバのアバターだ!
ジャックのアバターを使い立ち向かう!フィールドは峡谷!岩の壁が多く、高低差が出るマップだ!
僕はやはり剣士タイプが得意なので剣士タイプにしている!敵も剣士タイプのようだ!どっちもスコップ持ってるけど!なんだかダサいなぁ!
敵の動きは鈍いがその分パワーがある!剣で攻撃を受けるとこちらの体が後ろに後退させられる。
これは受けるよりかわした方がいいな。
こちらは動きが早いスピードタイプ!手数で決める!着実に隙を突きダメージを稼ぎ飛ばすしかない!
ジャックのネズミはガタイが小さいから攻撃は当たらずらい!そのかわり当たると軽く吹っ飛んでしまう。ここは僕のテクニックが試されるな。
僕は敵の攻撃をかわしながらダメージを稼ぎいく!
やはり重量級は体力が多いな!なかなか浮き上がらない。軽い攻撃じゃピクリとも動かない。もう少しダメージを稼いでいかなければ!
運良く今回は高低差が大きいフィールドだ!上からも横からも攻撃が出来る。
ジャンプ力もスピードもある僕の方が優勢と言っていいだろう!
僕はカバの腕や腹を斬りつける!
そしてカバ二人が並んだところを上から真ん中に降り立ち、
「必殺!回転地獄斬り!」
二体は両端に吹っ飛んでいき場外となった!
ゲートのロックがロックからオープンに切り替わる。
「はやーい!さすが!瞬殺だね!」
「お前には負けるよ!」
ヘヘッと笑うローザが素敵でした!というかローザが操れば負けなしなんじゃない?盲点だった!その事に気がついていなかった!まぁ勝ったからいいか!
「さぁ!ここからは引き締めてかかれよ!敵が待ち構えてるかもしれんからの!わしから離れるなよ!」
一気に緊張感が襲う!でも何故だか僕達ならうまく出来そうな予感がする!そんな自信が湧いてきた。
「で、敷地の内側には入れたけど、建物内にはどっから入る?正面は流石にきついよね?」
敵さんに撃ってくださいって言っているものだ!格好の的になってしまう。
「うむ、とりあえず裏口から入ってみよう。裏口はどこじゃろう。」
「確かこっち側だったよ〜!」
僕達は裏手に回り、裏口を探す!
「あった!ここだ!」
きちんと非常出口って書いてある扉があった!
「いいかの!こっからは一つ一つの音にさえ注意を払え!敵の音を察知し、居場所の特定。そしてこちらの音はなるべく立てず潜入していく!良いな!」
こっからは音を立てずか、何故か人ってやつはダメダメと禁止されればされるほどしたくなるのは何故だろう!いや、今回に限っては大きな音を出したくなるとかじゃなく、ダメダメ言われると余計に意識してしまって大きな音を出してしまいそうで怖いのだ!
僕はこれまでスポーツもやってこなかったから試合に出るなんてこともなかった。このプレッシャーや緊張感って奴に無縁だったのだ。
手に汗が、額から汗が、心臓の音が早くなっていく。
「システムのメインサーバーはどこじゃ?」
「うる覚えだけど確か最上階の奥の部屋だった気がするなぁ〜。」
「それじゃ死なんように!作戦名は命を大事にじゃ!」
いやだから!怒られるっつーのー!間違ってないけどさぁ〜〜!
周りを警戒しながら中に入る。中には職員はおらず、静かだった。
「まずは上に上がるために階段を見つけなければならんのぉ。」
階段か、また足音とか響きそうで余計に緊張感する。
「エ、エレベーターとかじゃダメ、なの?」
「阿呆!いきなりエレベーターが動き出したら怪しいじゃろうが。」
それもそうでした。
「確か中央の広場から上に上がれたと思う。」
広場まで見にいくと誰もいないようだ。むしろこの静けさが余計に怖かった。嵐の前の静けさみたいだ。
僕達はゆっくり階段を上がっていった。
そぉ〜〜っと!一歩一歩千鳥足で!
「なんで千鳥足なのよ!」
小さい声でローザがツッコミを入れていく。こしょこしょ話って憧れるよね!なんか二人だけの秘密の会話みたいだし、耳元に声が聞こえるし!
「随分余裕があるんじゃの!」
「緊張をほぐそうかと思って!」
このままだと僕の心臓が破裂して死ぬもの!
僕達は忍び足でゆっくりと上がっていった。
階段を上がると
奥の廊下がある。そこに見張りが立っている。
ジャックが僕達に手で指示を出す。隙を見てジャックが反対側に渡る。ローザもジャックの指示でゆっくり静かに渡って行く!
敵はまだ気づいていない。そして僕もゆっくり渡ろうとしたその時
「いっで!」
いや、嘘でしょ、まさか、盛大に転んでしまった。あまりの緊張で足が!
「ん?来やがった!侵入者だ!」
「やばい!お主ら下がれ!」
ジャックが叫ぶ!
正直ここからパニック状態になり僕とローザは慌てて混乱していた。
「慌てるな!落ち着くんじゃ!」
すると突然白い煙が僕達を覆う!
一体何がどうなってるんだ?敵が煙玉でも投げてきたのか?
「くっ!」
「きゃぁぁぁあ」
ローザの悲鳴が響く!
ローザに何が?とにかくローザを助けなきゃ!ジャックは無事だろうか?
僕は何も見えない中がむしゃらに進んだ!
「うぁぁぁあぁぁぁあ」
どうやら足を踏み外し僕は下へと落ちていった。
3人はバラバラになってしまった。