はなのくに ④
「……きて……おきて……」
「これ、は……?」
女王がまだ朦朧とした意識の中で目にしたのは、自分、いや、少女の顔だった
「えっとね、あの蜜には濃淡のまだら模様の病気の薬になる効果があったの。ほら、もっと飲んで」
少女に従うままに、女王はその蜜を口にする。
「なんだか、力が湧いてきて、すっかり体が良くなったような気がします。あなたが来てくれていなかったらどうなっていたことか……」
少女はほっと胸を撫で下ろした。
難しい理屈はいらなかった。説明も、もちろんいらなかった。
「ありがとう」と、 ただ一言、そう言った。
蜜をこまめにとっていたおかげで、それから湖に至るまで、女王も少女も体調を崩すことはなかった。
二人がたどりついた湖は大きく広がった緑の中に悠々とした青を湛えていて、周りから流れ込んでいる川がないことから察するに湖底から水が沸いているようだった。
「女王さん、ほら、お水、飲んで。蜜も」
少女も流石に疲れたからか、湖の水を口にする。
「ふふ、ありがとう。ここまできてもしものことがあったら嫌だから、ちゃんと飲ませていただくわね」
そうして二人して湖の水を少し飲んだ後、二人で運んだ『根っこ』を湖に浸した。
「これで国の中枢部まで水を運べるはずよ。採りすぎないように注意しなきゃいけないでしょうけど……」
そこまで言って、女王はふと神妙な面持ちになった。
「……どうしましょう。湖から水を運ぶところまでは考えていたけれど、その後どうするかを考えていなかったわ。町の人たちの口に水を突っ込むわけにはいかないし、第一そこまで『根っこ』を細かく広げることはできないわ」
「そのことなんだけどね」
と、少女は思い出したと言った具合に女王に質問をした。
「この国の人々って、緑色の身体をしているわよね?それに植物に近いって、女王さんは言ってた。わたしみたいな人間は口からしか水を飲むことしかできないけれど、この国の人々はそのあたりどうなのかしら?」
「たしかに、この町の人たちは身体の表面からでも水を摂取することが出来ると思うわ。でもそれがどうしたの……?」
「なら、私にいい案があるの」
少女は顔全体を使ってにっかりと笑った。