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はなのくに ①

 少女の目に飛び込んできたのは、様々な色鮮やかさだった。

 藤紫ふじむらさき色のストケシア、山吹やまぶき色のディモルフォセカ、空色のハイドランジア、桃色のサクラ、赤紫色のラナンキュラスなど、他にも色とりどりの様々な花々が咲き誇り、その花弁を舞い散らせていたのである。


「綺麗……」


 思わず少女が口にする。空は雲一つなく晴れ渡っていた。

 ふと、少女の目にとまるものがある。それは綺麗に咲き誇る花々の側ですやすやと眠っている動物の姿だった。その動物は身体が緑色で、顔や身体は狐か、あるいは猫に似ているだろうか。身体には蔦が撒きつくようにしてなっており、花の中に埋もれ、その寝顔はとても幸せそうだった。ただよく見れば、その緑色の中に枯れたような茶色の斑点と濃淡のまだら模様が混ざっているように見えた。

 他にも同じような体色のアヒルのような生物だったり、ネズミのような生物だったり、姿かたちはそれぞれだったが、皆一様にすやすやと気持ちよさそうに眠っているのは同じだった。枯れているような茶色の斑点と濃淡のまだら模様が混じっているのも同じだ。

 そうしてるうちに、少女もふわふわした気分になってくる。


「ふわ~あ、なんだか……素敵なところだけど、わたしもねむくなってきたわ……」


 その眠気に逆らうことはできず、少女は、その場の柔らかい草場に身を預けるようにして眠りについてしまう。なんだか素敵な夢を見られるような、そんな気がした。




「……なさい……ざめ……い……」


 そんな声が、少女の頭の中にこだましてくる。意識が次第にはっきりとしてきた。


「……目覚めなさい……」


 その声が、そう言っていることがわかると、意識がはっきりしてきた。

 眠たい目をこすりながら、そのまぶたを開く。

 相変わらず、周りには色とりどりの花々が咲き誇っているが、先ほどと違うのは、そこが宮殿のような場所だということだった。大きなフロアに、高い天井、そこにも花が花弁を開いている。窓ガラスには、そこに絡みつくように、白色のユリや、紫苑色のアジサイなどが咲いている。ホールから上に繋がるであろう階段の手すりにも花が咲いていた。

そして、そこで少女は、大きな驚きを得ることになる。


「わた、し……?」


 そこにいて、手を差し伸べていたのは、少女そっくりな女性だった。違うのは服装だった。彼女は緑色を基調とした、まるで植物をそのまま着たようなゴシック調のワンピースを着ていたのである。


「やはり、あなたは完全な眠りにはつかないのね。きっと、特別なのでしょう」


 落ち着いた様子で彼女は言う。


「おはよう、ええと、あなたは?」


 そう聞かれて、女性はにこりと笑って答える。


「私はこの国の女王。ここは花の国。様々な花に彩られた、植物の国よ」


 少女はまだ、自分とその女王の見た目が双子のように似ていることに動揺していた。


「えっと、こんにちは、女王さん。あなた、私とよく似ているわ。なんでなのかしら」


 女王は少し困ったような顔をする。


「それは、私にもわからないわ。ただ、これも意味のあることなのでしょう。あるいは、だからこそ、あなたはここに引き寄せられたのかもしれないわ」


 むぅ、と少女は頬を含ませて悩む。


「わたしね、二つ国を回ってきたの。それでね、魔女さんに言われたの『あなたの前には壁が待っているでしょう』って。でもこの国はとっても綺麗で、問題なんて……」


 それを聞いて、女王の顔が暗く影を落としたものに変化した。それを見て少女は察する。


「……なにか、あるの?」


 まさしく同じような顔で女王はうつむきがちに答えた。


「……やはり、あなたは特別なんですね。えぇ、私たちの国は今、大きな問題を抱えているのです」


 少女が女王の方に近寄って、聞いた。


「なにがあるのかしら?私には、国にいる人たちは気持ちよさそうに眠っていて何の問題もないように思えたけど……でも、身体にある枯れたような部分とまだら模様、あれが問題なのかしら」


 ぱっと、女王は顔あげ、少女の瞳を見つめる。同じような顔が二つ並ぶ。


「そう、まさにそれなんです。私は、ここを花の国だと言いました。でもそれは正確には違うんです。ここは花と、そして眠りの国なのです。私の力なのか、ここに咲く花たちがそうさせてしまうのか、この国の住人は眠ってしまうのです。今までではそうではありませんでした。でも、ここしばらく眠りの力が強くなってしまって……その枯れたような部分やまだら模様は、きっと、その人々の消滅が近いことを示しているのか、あるいは別のものなのか、とにかくわからないことだらけなのです」


 女王は顔を曇らせた。


「つまり、この国は今、滅びの危機に瀕しているんです」

「滅び?みんな死んじゃうってこと……?」


 少女は悲しそうな顔をして尋ねた。


「えぇ、花が次に世代を繋げていくためには……花粉が運ばれる方法にはいろいろあるの、一つは風、一つは虫、そして一つは動物よ。小さいから気が付かなかったかもしれないけれど、虫も眠ってしまっているわ、もちろん見た通り動物も。このままだと風に運ばれるしか世代を繋げる手段はない。それじゃあこの国はいずれ滅んでしまうわ」


 女王はさらにその顔をさらに暗く曇らせた。


「何とかする方法はないのかしら……ほら、わたしと町の人たちって例えば身体の色が違うでしょう?それが関係あるとか……」

「確かに、この国の住人達は普通の人間とは少し体のつくりが違うわ。私は人間に近い作りをしているけれど……どちらかと言えば住人達は植物に近いかしら」


 身体の色の違いについては納得したものの、なにか解決策が思いつくと言うわけではない。似たような顔が、顔を突きあわせてうーん、と悩む。


「普通、眠りに入ってしまうと目が覚めないものなの。でもあなたは目を覚ますことができた。だからなにか、希望になると思ったのだけれど……」

「力になれなくって、なんだか……ごめんなさい」


 二人とも再びそっくり思案顔になった。その姿はまるで鏡合わせのようだった。

 ハッとそこで女王が、気が付く。少女の腕に濃淡のまだら模様が浮かび上がっていたのである。


「これは……町の人たちと同じ……やっぱり、あなたでもだめなの?」


 女王は暗い顔で座り込んですすり泣いた。


「だ、大丈夫!大丈夫よ!わたし、これでも火あぶりにされそうになったことだってあるのよ!でもその時だって大丈夫だった!今回もなんとかなるわ!」


 少女は気丈に振舞ってみせた。

 結局その日は、少女は女王にあてがわれた部屋で眠ることになった。色鮮やかで、綺麗で、ふかふかの布団があって、最高の部屋だった。ベッドにぼふりと身を預けて、少女は思案する。自らの腕には濃淡のまだら模様が浮かんでいる。なんだかそれだけで、なにかに心を浸食されているようで胸が苦しくなり、気持ちが悪くなった。なんだかじんわりと、まだら模様の部分に痛みがある気もする。

 どうすればみんなが起きてくれるのだろう?どうしたらこの腕の濃淡のまだら模様は消えるのだろう?きっと女王さんもいっぱい考えたに違いないわ。わたしが考え付くことなんて、女王さんはとっくに考えたんじゃないかしら。

 ふわふわのベッドなのに、そう考えると少女はなかなか眠りにつくことが出来なかった。

少し期間が空いてしまいましたが次章突入でございます。

「はなのくに」よろしくお願いします。

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