表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は「おはよう」と言った。  作者: 藍緒 弦
2.おおかみのくに
14/27

おおかみのくに⑦

 少女たちが姿を現れしたのは、赤犬の家の近くにある街はずれの草原だった。

 ぷっ、と魔女が噴き出す。


「あっはははは、あなたたち、見た?あの裁判長の顔!結局フタを開けてみればこんなものなのよ!情けないったらなかったでしょう?もしかしたら、この国の情勢も少しだけ変わるかもね」


 釣られて、青犬も笑った。


「確かにな!ケンケン。あんな顔、一生に一度見られるかどうかだぜ、あんなのは」


 少女もくすくすと笑う。


「最初に見たこわーいイメージとはかなり違ったわね、あはは」


 そうしてひとしきり笑った後、魔女が少女に向き直った。


「青犬さんに回りくどいって言われたことなんだけれどね、さっきも言ったけれど、今のあなたは水の中をたゆたう葉っぱのようなものなの」


 真剣な表情になった魔女に釣られたのか、少女は真剣なまなざしを返す。


「きっと、あなたのこれから行く先には、あなたが本当に得たいものを得るための、たくさんの困難……壁が待ち構えていると思う。あなたのその勇気と、機転と、なによりもその真っ直ぐな魂が、あなたを導いてくれるはず。それが、例え、壊れてしまっていると、到底辿り着けないと今はわかりきっていても」


 魔女の紅緋色の瞳が、少女を見据える。


「まぁ、たぶんよくわからないと思うけれど、今はそれでいいの。あなたは、あなたの思う通り、やっていけばいいわ。きっとそれが、あなたの望む答えに辿り着くための方法だと、私は思う」

 そう言ってから、魔女はふところをがさごそと探った。

「これを、持っていきなさいな」


 それは、あの白藍色しらあいいろの水晶だった。


「これはきっとあなたの役に立つ。あの真珠の中の液体と同じにね。あれが『』だとするならこれは『心臓・・』……きっとそろそろ時間だろうと思うから……全部教えてあげられなくてごめんなさい。私も長い時間を経て、昔ほどの力は持っていないから、全てを見通すことはできないの」

「えっと、たしかによくわからないけれど、ありがとう、魔女さん!」

 少女が水晶を受け取って、そう答えた時、あの鐘の音が、また、鳴った。


 ごーん ごーん


彼女の背後に、両開きの扉状の光の塊のようなものが現れる。少女の身体は、その扉に取り込まれていく。


「あのね!青犬さんもありがとう!青犬さんはとっても優しかったわ!」

「うるせぇよ!……元気でな!」


少女は完全に光の塊に飲み込まれ、そうして消えた。光の塊も収束し消えていく。

 赤の魔女は、それを見送ってから、青犬の方に振りかえって、言った。


「さて、青犬クン。君もいろいろ思うところはあると思うけど、とりあえずは今の仕事のままでいるより、『赤犬』のところで働く方がいいんじゃないかなって私、思うんだけど、どうかな?」

「………まぁ、悪くねぇのかもな。どのみち、あいつらに逆らった時点で、俺はそうするしかねェんだろうさ」


 青犬は皮肉そうに、嬉しそうに笑ってみせた。


これにて、おおかみのくに、おしまい、おしまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ