1. あの痛みを思い出して
久しぶりの投稿ですが、よろしくお願いします。
何か問題がありましたらご一報ください。
レッセル男爵家の次女、ティターニアとして生まれた私は、十五年間、末端貴族の娘として平凡に暮らしてきた。もうすぐどこかの貴族と婚約でもするだろうか。それとも平民とでもいいと放り出されるだろうか。ごくごく普通の私が前世というものを思い出したのは、そんな十五歳のまだ寒い春先だった。
男爵家ということもあって、豪遊三昧というほどの家計でもない私の感覚は、おそらくどちらかというと平民よりだ。領民とは親しくしているし、そこに身分を挟ませるほど無粋で非効率的でもない。私はいつも通り、視察という体で街に出かけた。
「おや、お嬢様、こんにちは」
「こんにちは。調子はどう、レーナおばさん?」
「ええ、今年は豊作になりそうですよ。ヴィンセント様が提案してくださった新しい方法がうまくいきそうです」
「それは良かった。父にも伝えておくわ。そのうち自分で来るでしょうけど」
からからと笑うのは八百屋を営むレーナだ。畑を耕して暮らす農民に顔が広いので、手っ取り早くその辺の事情を聞きたいときに、彼女の情報網は重宝する。
「ほかに困ったことは?」
「そうですねぇ……獣が畑を荒らすくらいですかね。まあ、それは毎年のことですし」
「獣、ね。考えておくわ、ありがとう」
「いいえ、私たちは幸せ者ですよ。レッセル領は平和で、領主さまがたがこんなに心を砕いて治めてくださるんですからね」
「ふふふ、その幸せがずっと続くように、努めます」
おどけたようにお辞儀をして、私はレーナと別れた。活気がある街をすいすい歩いていくと、私に気づいて挨拶をしてくれる人たちも多い。手を振り、世間話をしていると、子どもたちが駆けてきて私の周りをくるくる回った。
「お嬢さま、こんにちは!」
「ティアさま、こんにちは!」
「はい、こんにちは。今日も元気で何よりだね」
「ティアさま!」
「ティアさま、今日のおやつはなぁに?」
「こら、お前たち!いつもティア様にたかるんじゃない!」
「えー?でもティアさまはいいよって言ってくれるよ?」
無邪気に笑う子どもたちは私の手を引っ張っておやつを強請る。というより、私が何かにつけて買い与えてしまうので、癖になってしまっているのだ。知り合いのおじさんが子供たちを叱るのを宥めて、
「本当にいいのよ、毎日あげられるわけでもないのだし。私のおやつのついでだものね。そうね……今日はビスケットにしましょうか。おばさん、これ四つください」
「はいよ。まったく、ティア様は子どもに甘いんだから」
眉をハの字にして、少し呆れたように、でも優しく笑うおばさんに代金を渡し、ビスケットの袋を受けとる。砂糖とバターがたっぷり使われたビスケットは、庶民でも手の届く範囲だが、毎日食べるとはいかない。私は一つ目の袋から二、三枚取り出してぽりぽり食べると、残りを含めた四袋を、子どもたちに渡した。
「みんなで分け合って食べるのよ」
「はーい、ありがとう、ティアさま!」
口々にありがとう、と繰り返す子どもたちにどういたしまして、と返して、嬉しそうにほおばる姿を見つめる。どうしてか、私は小さい子どもに弱い。自分もまだまだ子どもであることは自覚しているのだが、この子たちがぱあっと笑顔になる瞬間に、たまらない幸福感を覚えるのだった。
「あ、ティア様、ちょっと寄っていきませんか?」
子どもたちのおやつタイムを満足しながら眺めていた私に声をかけたのは、装飾品を扱う店を営む若い男だ。かわいらしい小物や、貴族が身に着けてもおかしくないような品が置いてあるので、私もよく利用する。
「何か珍しいものでも仕入れたの、ダン?」
私は子どもたちに別れを告げ、言われるがまま彼の店に入った。彼はカウンターの奥をごそごそとあさり、しばらくして手のひらサイズの箱を出した。
「昔、この地方で採れた宝石をあしらった一品でしてね、髪飾りに加工することが多かったそうですよ。この意匠が一番美しいんですが、なにぶん流通量も少ないんです。親父が一度目にしてから、二十年ぶりですって。こりゃあ貴重ですよ」
ダンは丁寧に箱を開ける。その中にあったものを見て、私は息を呑んだ。
―――よくお似合いです、姫。
「二十年前、それを買っていったお方、誰だと思います?かの有名な……」
「アルトリウス・ティルナノーグ」
ダンの言葉を遮って、私はぽつりとその名前を呼んだ。
しばらく髪飾りを見つめて、目線を上げると、目を見開いているダンの表情があった。はっとして頭を振ると、先ほどぼんやりと頭を覆った霞が少し腫れた気がした。ちらりと後ろを確認しても、もちろん誰もいない。さっき聞こえたような気がした声は、やはり空耳だったのだろう。
「ご存じだったんですか?」
「え?いいえ、偶然よ。なんとなく、どうしてか名前が口に出ただけ。当たっていたの?」
「ええ、そうですよ。まだ叙爵されたばっかりで、クリスティーナ殿下付になる前のことだったとか。今じゃあ前代未聞、騎士出身の伯爵さまですがね。いやあ、立派なものです。王都じゃあさぞモテるでしょうね。ティア様も憧れとかあるんですか?」
「いや、私はそういうのは……それより、とてもいい品ね。綺麗だわ」
アルトリウス・ティルナノーグは、ティルナノーグ侯爵家の四男で、今はクリスティアノス伯爵を名乗る騎士だ。幼いころから剣術をはじめとしたあらゆる武術を学び、現在の国王陛下の妹君、クリスティーナ殿下の護衛騎士として取り立てられた実力者である。クリスティーナ殿下が隣国のヴァイセル王国に嫁がれる際も同行し、十五年前、クリスティーナ殿下が亡くなられたために帰国された。その功績と亡き王女殿下の希望により、初めて騎士の身分でありながら一代限りとはいえ伯爵位を授けられた。クリスティーナ殿下の伯爵、を示すクリスティアノス伯爵だ。王女殿下をお守りしていた姿に多くの女性が魅了され、三十歳を超えた今でも大変おモテになる、とか。
私がアルトリウス・ティルナノーグについて知っていることはこれくらい。その辺の女性が知っているようなことばかりだ。そこまで興味を持ったこともなかったし。私は一生会うこともないであろう人のことを考えるのはやめて、改めて髪飾りを見つめた。
その髪飾りは花と蔦をモチーフにした銀細工で、青みがかった石が花びらに、深い赤の石が蔦にちりばめられたものだった。一目で職人の手による素晴らしい一品であることはわかったし、私はとても気に入った。少し、奇妙な感覚を覚えていたが。なぜアルトリウス・ティルナノーグ様のお名前が頭に浮かんだのだろう。
「いかがです?」
ダンが提示した金額は、妥当なものだった。ただ、決して安くはない。私は少し悩んでから、結局頷いた。
「いただくわ。良いものを見せてくれて、ありがとう」
「いいえ、ティア様はお得意様ですからね。はい、どうぞ」
「ありがとう。また来るわ」
「ええ、またよろしくお願いします」
髪飾りが収められた箱を受け取って、私は屋敷の方へ歩き出した。もう少し街を見て回るつもりだったけど、なんだか疲れてしまったように、もやもやとした言いようのない不安に襲われたから。屋敷についたのはまだ日も高い、正午を少し回った時間だった。
「お嬢さま、お早いお戻りですね。おかえりなさいませ」
「ただいま戻りました。ええ、ダンのところで良い品が買えたから、部屋でじっくり見たくて」
出迎えてくれた屋敷の使用人に努めて明るく返事をして、お茶の用意を頼んだ。足早に自室に戻り、テーブルに小箱を置いて、傍らの椅子に座って息を吐いた。
「なんだろう、このもやもや……」
ひとりの時だと、少し口調が貴族令嬢らしくなくなってしまう。私は机に突っ伏して、小箱を眺めていた。そして、唐突なノックの音にびくっと肩を震わせ、慌てて姿勢を正す羽目になった。
「お嬢さま、お茶の支度ができました」
「ええ、どうぞ。ありがとう」
手際よくお茶を淹れ、使用人は一礼して去った。だらしなくしていたことはどうやらバレなくて済んだみたいだ。私はほっと息をついて、紅茶を一口飲んだ。
そっと箱の蓋に手をかけて、静かに開ける。ダンの店で見たものと同じ、綺麗な髪飾りがそこにある。手に取っていろいろな角度から眺めると、石が光を反射して煌めいた。
「どこかで、見た気がするのよね、これ」
これと同じもの、あるいはよく似たものを、私は見たことがある。
それがきっと、このもやもやの正体だと思う。でも、いったいどこでだろう?ダンは二十年ぶりに見た珍しいものだという。私がそれを見たはずはないし、旅先で髪飾りを見た覚えもないし、なあ。
わからない。
私はベッドに腰かけなおし、そのまま後ろに倒れた。ばふっとやわらかな感触が私を受け止めてくれる。わからないことを考えるのは、とても疲れる。私は髪飾りを両手で包んだまま、瞳を閉じた。
小さな女の子が泣いていた。その子が着ているのは一級品。王族だけが身にまとうことを許される、王家の紋章が金糸で縫い取られた深紅のリボンを揺らして、声を殺して泣いていた。まだたった七歳のクリスティーナ。子供でいることを許されなかったクリスティーナ。ひとりぼっちだった、クリスティーナ・スコット・リュスタニア。小さなちいさな、王女様。
彼女は―――私は、悲しかった。
私には泣くことも、怒ることも許されない。およそ普通の子供として生きることは許されない。そのことを思い知ったのが、その日だった。庭の植え込みの影でこうして泣いていても、心から慰めてくれる人はいないのだ。お父様とお母様は優しいけれど、いつも忙しい。周りの侍女や護衛たちは、困ったように言うのだ。
「殿下、泣き止んでください」
それで泣き止めるのだったら、とっくに泣き止んでいるわ。
私は不満に思いながらも、どこか分かっていた。彼らが悪いのではない。私にとって、これは当たり前なのだと。もう七歳になったのだから、我が儘を言わず、駄々をこねず、王女としての役目を果たさないといけない。
だから、私は今日で終わりにするつもりだった。泣き虫なクリスティーナとはもうさよなら。泣き止んだら、それからは、私はもう泣かない。第三王女として、お勉強もして、笑顔は絶やさず、立派な淑女になるのだ。
そう思って、未来の分まで涙を流すために、一生懸命に泣いていた私の前に差し出された、小さな手があった。七歳のクリスティーナよりも小さな、手のひら。
「ひめさま、大丈夫ですか」
私はとてもびっくりして、流そうとしていた涙が止まってしまった。そっと手をのせると、彼はなんだか満足そうに笑って、きゅっと私の指先を握った。きっと、彼の黒髪がさらりとゆれたその時に、澄んだ空のように碧い瞳に囚われてしまったのだと、私はその後ずっと頭を抱えることになる。
それが、クリスティーナとアルトリウス・ティルナノーグの出会いだった。
アルトリウスは、私よりふたつ年下で、よく王宮の騎士団で剣の稽古をしていた。王宮に上がることが頻繁でも、私と彼が会うことは難しかったけれど、私は遠くから目が合うだけでよかった。一人ではないと思えたから。
そんな遠目から互いを窺うような私たちに転機が訪れたのが、私が十二歳、アルトリウスが十歳の時だった。
アルトリウスが騎士見習いとして認められ、私付になったのである。
初めて会った時から五年後、ようやく私たちはまともに話すようになったのだった。歳も近いから、と話し相手としてよく共に過ごした。それから、私はアルトリウスが思っていたのと違う人であるということを知るのだった。
まず、彼はけっこう適当だった。
天才騎士というのだから、きっちりした人だと思ったら、割と面倒くさがりで気分屋なところがある。格式よりは実を重んじるたちで、私への言葉遣いも時折崩れるものだから、二人きりの時だけ許した。
ふたつめ、彼は皮肉屋だ。
性格があまりよろしくない。正義の騎士というよりは、悪の手先。頭がいいので口で言い負かされることもしばしばあった。年下扱いすると、彼はだいたい怒った。むすっとした顔を見て私が噴き出すと、もっと怒った。
みっつめ、でも、彼といると楽しかった。
どんなに意地悪なことを言われても、そのあとに笑うことができた。公務に出た時の外面を固めたアルトリウスを見ると自然と笑えた。彼がいなければ、きっと立派な王女ではいられなかったと思う。
終わった後、頬をつねられたりもしたけど。
「アルトリウス」
「はいはい、なぁに?」
「アルトリウス」
「ばかだなぁ、姫様は。こんなの簡単でしょ」
「アルトリウス」
「俺を頼ってよ、姫様」
私はアルトリウスにだけ、我が儘を言った。
城下のお菓子が食べたい。一緒にお茶を飲んで。剣を教えて。
―――私の傍から離れないで。
アルトリウスは私の我が儘を全部聞いてくれた。あの性悪にしては珍しいけど、アルトリウスは結局私に甘いのだった。そういえば、お願いしたときは嬉しそうな顔をしていたっけ。
そうそう、アルトリウスが私の傍を離れた時は、必ずお土産をくれた。それは遠征だったり、調査だったり、なまじ優秀な騎士だから、人手が必要な時は駆り出されていたのだ。王女付きの騎士を傍から離すなんて常識的には考えられないのだけど、まあ、息抜きもかねて私が許可していた。
あるとき、アルトリウスがだいぶ遠方まで足を運んだ時があった。アルトリウスは得意げに笑って、手のひらに載るくらいの箱を差し出した。促されるままに開けると、美しい銀の髪飾りがあった。碧い蔦と深紅の花びら。埋め込まれた宝石はキラキラと輝いて、とても綺麗だった。アルトリウスは私の手から髪飾りを受け取ると、器用に私の髪に飾った。
「とてもよくお似合いですよ」
「ありがとう、アルトリウス。とっても気に入ったわ」
「それは良かった」
ああそうだ、ずっと引き出しにしまってあったけれど、あれは私の一番の宝物だった。
十六歳になったとき、隣のヴァイセル王国の第二王子との婚姻が決まった。国境で採掘されるようになった燃料の利権をめぐった争いが起きないように。分割の条件に私と第二王子との婚姻が含まれていたのだった。私は、粛々と父である陛下の言葉を受け止め、ヴァイセル王国へ経つ前夜、すべての人間を私室から追い出して、一人で泣いた。
とっくに恋をしていた。アルトリウスが好きだった。
しかし、彼は騎士。私付の騎士として隣国へ連れていくために叙爵され、今は貴族の端くれだとしても。侯爵家の出であっても。第三王女が嫁ぐには利点も何もない。どうやっても不可能。叶うことのない、初恋だった。私が恋を実らせるには、この国を見捨て、何もかも捨てること以外に道はない。
「そんなことは、できない」
そう、そんな身勝手なことをしようと思うには、少し大人になりすぎた。七歳の時だったら、アルトリウスの手を握って駆けだすことができただろうか。いいえ、だめね。きっと彼が許してくれない。
「わたくしは、クリスティーナ・スコット・リュスタニア。リュスタニア王国の第三王女」
夜明け空に目を細めて、私は笑った。
仰々しく何台もの馬車を引き連れて、私はヴァイセル王国に発った。第三王女の結婚というのは国を挙げた慶事だから、王宮から王都の外れまで、通り道には民衆がずらりと並んで祝福してくれた。
「王女殿下、おめでとうございます!」
「クリスティーナさま、万歳!」
「リュスタニア王国、万歳!」
私はにこやかに微笑んで手を振り続けた。それも王女の仕事だ。
「なによ、アルトリウス」
「いいや、なにも?」
「王女の顔をしているわたくしを見て、いちいちにやにやとしないでくれる?」
「クリスティーナ殿下におかれましては、今日は一段とお綺麗だと思っただけですよ」
「まあ、白々しい」
「美しいと思ったのは本当だよ」
私は顔が赤くなるのを気力で抑えて、微笑んだ。王女らしく。
アルトリウスも、騎士らしく礼をした。
その後、特筆するようなことはなかった。夫となる第二王子は良い人だったし、ヴァイセル王国の民たちも歓迎してくれた。アルトリウスは変わらず傍にいてくれたが、私とアルトリウスの距離は少し開いた。私は何の不自由もなく、王子妃としての務めを果たした。
翌年、子どもが産まれた。もちろん、夫との子どもだ。
顔立ちは私に、色は夫に似た王女であった。王太子でもない第二王子の子どもであるから、男の子ではないと落胆されることもなく、可愛らしい天使の誕生を皆喜んだ。私もうれしかった。我が子がかわいくてしょうがない。アルトリウスが娘を抱いている姿は不格好でちょっとおかしかった。
「……」
「どうしたの、黙り込んで。その子を落としたりしたら、即刻、牢ね」
「怖いこと言わないでよ……」
「ふふふ、可愛いでしょう」
「うん、そうだね」
そのまた翌年、今度は王子が産まれた。
今度は凛々しい目鼻立ちが夫によく似た男の子だった。やはり男の子となるとことさら喜ばしいのだろう。夫の父であるヴァイセル王から直々にお祝いの言葉をいただいた。贈り物もたくさん。部屋が埋め尽くされて困るほどだった。もちろん、実家のリュスタニア王国の知人や父母とも手紙のやり取りはこまめに行っていたので、祝福してもらった。
王子が産まれたことでほっとしたのか、私は体調を崩しがちになる。夫は心から心配し、見舞いに訪れ、公務を減らし、療養に専念できるよう配慮してくれた。私は空いた時間を使い、何通かの手紙を書いた。遺書、とでも呼べばいいのだろうか。私がいなくなった後の夫へ、子どもたちへ、そしてアルトリウスへ。
数か月後、クリスティーナはあっけなく息を引き取った。
十九歳という、あまりにも短い人生を周囲は哀れんだが、私はそんなに悲しくはない。だって、もう叶わない恋を抱えて生き続けるのに、少し、ほんの少しだけ疲れたから。
サー・アルトリウス・ティルナノーグ
十二年前、あなたと出会った頃のことを、今も鮮明に覚えています。王宮で泣いていたわたくしに、手を差し伸べてくれたふたつ年下の男の子のことを。あれから十二年という月日が経ちましたが、あなたが変わらず傍にいてくださることを、とてもうれしく思います。
さて、あなたもご存じでしょうが、わたくしはもうすぐ神の御許に召されるでしょう。あなたがわたくし付きの騎士となってから、ずいぶんと振り回してしまいましたね。国外にまで連れてきてしまったのですから、少し申し訳なく思っています。しかし、後悔はしていません。あなたが傍らにいてくれたからこそ、わたくしは道を踏み外さず、今まで王女として、王子妃としての役割を果たすことができました。ほんとうに感謝しているのです。
せめてものお礼として、わたくしの死後、あなたに騎士伯を授けていただけるよう、陛下にお願いしてあります。リュスタニアに帰国するのであれば、一考してください。あなたが伯爵と呼ばれるところを見たいものです。もちろん、不要であれば断ってくださって結構です。陛下にも、あなたの意向をできるだけ汲むと約束をいただけています。爵位の他にも少しくらい、褒美を強請ったってかまいませんよ。
先ほども書きましたが、ずっとわたくしを守ってくれて、ありがとう。
どうか、どうか幸せに。
あなたを、 あなたと、会えて良かった。
クリスティーナ・スコット・リュスタニア・ヴァイセル
あなたを―――愛していました。
最期まで伝えられなかった想いをつぶやきながら、私―――ティターニアは目覚めた。
前作にはたくさんの閲覧、ブックマーク、評価などありがとうございました。
連載という形はまだ慣れないのですが、完結までどうぞよろしくお願いします。