フレイガースの楽しい仲間達
謁見の間から出ると、僕達は少しもぬけの殻のようだった。豪華な廊下に立ち、イフリート様の余韻に浸っていたんだ。
はぁ〜⋯⋯もう溜め息しか出ないよ⋯⋯パワフルだったね、イフリート様。自信に満ち溢れていて、本当に王様らしい王様でした。
まさか人間の王様より先に、精霊の王様に会う事になっちゃうなんて⋯⋯なかなか無い経験だと思うんだ。
ふふ⋯⋯人生何があるかわからないよね(*注意、六歳児です)
気配拡大感知に集中すると、街で動き回る精霊さんが沢山いるのがわかった。
ヘイズスパイダーはもう殆ど倒せたみたい。イフリート様にはゆっくり休むように言われたけど⋯⋯
「外の戦いが気になっちゃうなぁ」
「今かなり高高度を飛んでいるぞ。街のヘイズスパイダーも殆ど駆除出来たようだし、私達が行く必要は無いと思う」
「ビビってさ、もしかしていつも蝙蝠で情報収集してるの?」
「他にも色々と⋯⋯別に蝙蝠の姿をさせる必要などないからな」
魔法だから形は関係ないって事だね。便利で良い魔法だなぁ。僕にだってゴーレム達が⋯⋯んー、無理だよね⋯⋯
「アーク。すまないにゃ⋯⋯大きな事に巻き込んじゃって⋯⋯」
トラさんが頭を下げた。僕はトラさんの肩を起こして首を振る。
「気にする必要はないよ。僕が助けたいと思ったんだもん」
「それでも申し訳ないにゃ」
「トラよ。謝るくらいなら礼をしろ。精霊界にはどんな珍しい物があるんだ?」
あ、それは気になるかも。きっと僕達の住む世界では見れない物もあるだろうし、ちょっとワクワクしちゃうよね。
その時、長細い精霊さんが近づいてきた。木の枝のような見た目なんだけど、人型で緑の帽子を被っている。
「アーク、ビビ、トラ、着いて、くるよ」
「こんにちは。貴方は誰ですか?」
不思議な雰囲気を纏った精霊さんだ。いきなり着いて来いと言われても困っちゃうよね。警戒してる訳じゃないけど、この精霊さんがどんな目的で来たのかくらいは知りたいよ。
「案内、頼まれた。食事、風呂、部屋、食事、風呂、部屋、食事、風呂、部屋、食事──」
「わ、わかりました! 説明ありがとうございます!」
「⋯⋯⋯⋯食事⋯⋯」
あわわ⋯⋯ちょっとびっくりしたよ。何時までも続くんじゃないかと思って心配しちゃった。
結局名前はわからなかったけど、枝帽子さんって覚えておこうかな。
細い足でゆっくり歩く枝帽子さん⋯⋯来た時と同じ向きで歩き出した。
関節が自由自在で、前とか後ろとか無いみたいだよ。目は無いけど周りは見えているようで、壁にぶつかったりとかはしないみたいだね。
揺れる枝をトラさんが見てるけど、じゃれついたりはしちゃ駄目だよ? 強引に触ったら折れてしまいそうだもん。
「少し、なら、折れない」
「え?」
「俺、心、読める」
えー! 心が読める精霊さんなんだね。さっきまで考えてた事で、何か失礼とかなきゃ良いけど⋯⋯大丈夫かなぁ?
「気に、するな、木、だけに」
「え⋯⋯あははは」
またまたギャップが⋯⋯冗談も言うんだね。見た目でもっと堅苦しいのかと思っていたら、面白い精霊さんみたいだよ。
「トラ、仕事、欲しい、なら、明日、案内、する」
「わ! ありがとにゃ! 役に立ってみせるにゃ!」
「ビビ、寝室、アークと、同じ、部屋に、する」
「え⋯⋯あ、その⋯⋯頼む⋯⋯」
枝帽子さんは何でもわかっちゃうのかな? ビビの顔が赤くなってる? 凄いね。カードゲームとか強そうだな。
「普通、気味、悪い、思う。アーク、変わって、るな」
「え? そうですか?」
それが普通なの? 気味悪いなんて思わなかったよ。隠し事があった場合は、避けたくなっちゃうのかな?
便利な面もあるけれど、辛い思いとかもしそうだね。
でも枝帽子さんは、僕達に心が読める事を隠さなかった。きっとそれが誠意であるからだと思うんだ。言わなければわからない事を、初対面の僕達に教えてくれたんだからね。
「やはり、変わって、いる」
「⋯⋯」
そうなんだ⋯⋯僕は変なのかな? 枝帽子さんにはどこまでわかっちゃうんだろうか?
そんな事を思っていたら、枝帽子さんが微笑んだような気がしたんだ。顔らしいものは無いんだけどね。
*
案内された部屋には、白く丸いキノコのようなテーブルが置いてあったんだ。
大衆食堂のような雰囲気のある大部屋なんだけど、壁や天井はとても豪華でキラキラしているね。テーブルの周りには、花柄の丸椅子が四つ用意されているよ。
お城はやっぱり凄いんだよね。掃除が大変だと思うんだけど、魔法で綺麗にしてるのかな?
優しいお花のような香りが漂ってきた。
何の香りかなと思っていたら、テーブルの上に果物が用意されてあるみたい。見た事も無いやつばっかりだ。
黒い大きなバナナ、透き通った宝石のようなメロン、丸くて小さい卵? 一つ一つがカラフルな葡萄もあるね。
とっても良い香りで美味しそう⋯⋯この綺麗なメロン、ドラグスの皆に持って帰りたいな。
「精霊、料理、作らない。食べる、必要、無い、から。たまに、こうして、果物、食べる、だけ、趣味、で」
そうなんだ。じゃあ精霊さんは娯楽として食べたりするのかな? 思えば街も必要ない? それも娯楽の一つなのかもしれないね。
「そう、だ。精霊、娯楽、少ない。寝る、必要、も、無い、から、本来、家も、必要、無い。でも、街、壊れる、のは、悲しい」
今日の事を思ってか、枝帽子さんから悲しげな雰囲気が伝わってきた。そっか⋯⋯精霊さん達にとって、娯楽は大切な物なんだよ。それをいきなり踏み荒らされて、仲間も沢山襲われたんだから⋯⋯
僕は枝帽子さんの細い体を撫でる。そしたら少し震えたような気がしたよ。僕に出来る事は少ないけど、何とかしてあげたいって思うんだ。
「オイラはハーフだから食べにゃいと死ぬにゃ。量は少しで大丈夫だけどにゃ」
椅子に座ってテーブルに着く。枝帽子さんも一緒に座ったけど、丸椅子に逆関節から座ったからドキッとした。そうだよね、枝帽子さんは関節が自由なんだったよ⋯⋯だからイタズラ成功みたいな雰囲気出さないで!
神様に祈りを捧げて、さあ食べてみようと思った時だった。部屋の扉が開かれて、オンミールさん、アイセアさん、さっき手伝ってくれた風の精霊さん達が中へ入ってくる。
「人間いた。すっごい人間」
「怖い? 食べられない?」
「さっきはありがとう。ありがとうありがとう」
「私ピュノール。ピュノって呼んでね?」
「魔物もいる〜。綺麗な銀髪〜触って良い?」
「変な猫もいるぅ?」
次から次へと精霊さんが増えていく。きっと外の問題が片付いたんだ。
何!? え、どうしよう⋯⋯
言葉を返す暇もなく、脇やまたの間にまで精霊さんが入り込んできた。ちょっと皆自由過ぎるぅ⋯⋯
「ちょっと⋯⋯あはは。くすぐったいよぉ」
「やめろ。髪を引っ張るな!」
「ふにゃあ! 何で! オイラは! 胴上げ! なのにゃ!?」
こうやって揉みくちゃにされながら、僕達は精霊さん達から歓迎された。
結局果物は食べられなかったけど、無限収納に色々入ってるから大丈夫だね。
お風呂は明日の朝にしてもらって、僕達は部屋に案内してもらったんだ。また凄く広い部屋で、立派な天蓋付きベッドがある。
凄いなぁ。ベッドで飛び跳ねても良いかなぁ?
部屋まで着いてきた精霊さんもいたけど、ビビは血を吸う姿を見られるのが嫌みたいなんだ。最後まで抵抗したアイセアさんを引き剥がして、逃げるように扉を閉める。
明日はイフリート様との特訓だね。いったい何をするのかな?
*
side トラ
案内された部屋で、オイラは直ぐに明かりを消す。あんなの⋯⋯初めてだったのにゃ⋯⋯楽しかったにゃぁ⋯⋯
人間って、もっと怖い人達だと思っていたのにゃ。よく聞かされてきた話では、見つかったら捕まえられて食べられちゃうって母ちゃんが言っていたのにゃ。
でもアークはそんにゃ事にゃかったにゃ。精霊界に帰してくれて、一緒に戦ってくれているのにゃ。
半端者のオイラのために⋯⋯
父ちゃん、母ちゃんは大丈夫かにゃぁ⋯⋯蜘蛛に食べられてなきゃ良いのににゃ。
アークはとっても優しい⋯⋯オイラを見ても軽蔑しなかったのにゃ。そんなアークと一緒にいたから、ここの精霊にも普通に接してもらえたんだにゃ⋯⋯
オイラは半端者として、皆からは嫌われてきたにゃ⋯⋯直接言われる事は殆どにゃかったけど、友達は一人も出来にゃかったのにゃ。
心の中が複雑にゃ⋯⋯こんにゃこと考えてる場合じゃにゃいのに、アークはオイラを友達だと思ってくれているのかにゃ?
ベッドに飛び込んで、シーツを被る。アークの気持ちが知りたいのに、それを確かめる方法がわからない。
どうしたらいいのにゃ? 友達って何なのだろうにゃ?
一緒に戦ってくれるアーク。仲間かにゃ? 仲間と友達はどう違うにゃ?
⋯⋯楽しかったのにゃ⋯⋯アークとビビ、二人と友達になりたいにゃぁ。
オイラは望まないように気を付けていたにゃ。父ちゃんがケットシーで母ちゃんが闇の上位精霊。オイラがクヨクヨしていたら、父ちゃんが悲しむ事になるにゃ。
オイラは父ちゃん似だから、精霊の力を使うのは苦手なのにゃ。でも沢山練習すれば、きっと母ちゃんみたいに凄い力も使えるようににゃる⋯⋯筈にゃ⋯⋯
父ちゃん、母ちゃん、絶対に助けに行くから待っていてにゃ。絶対に死んじゃ嫌なのにゃ。
これがデタラメな冒険譚の世界観。ついてきてくれる皆(読者様)に感謝です!
30万PV突破しました! ありがとうございます(´;ω;`)
五章はもう少し続きます。




