反撃のフレイガース と ビビの居場所
ぐっと背伸びをすると、とても気持ちが良い。無限収納から水筒を取り出して、その中身を一気に傾けた。
良い香り⋯⋯冷たくて美味しいな。中には甘いミルクティーが入ってるんだよ。はぁ⋯⋯ちょっと落ち着いた。
「アークすっご!」
「そうだぞ。だからお前には不釣り合いだ」
「いきなりね吸血鬼! あんたにも似合わないと思うけど?」
ビビとアイセアさんが争うのを横目に、完全回復ポーションも飲んでおく。
体の傷が瞬く間に消えて、魔力も気力も満タンになった。でもまずい⋯⋯まずいよぉ⋯⋯ミルクティーで押し流そう。
僕は戦って強くなりたい⋯⋯でも、やっぱり普通の日常が好きなんだよね。
チラッと横を見ると、ビビとアイセアさんの言い争いがエスカレートしているように見える。
あはは。今日のビビは怒ってばっかりだなぁ。喧嘩する程仲がいいってやつなの?
なんでもないこんな時間が良いんだよ。それを守るためには、やっぱり戦わなきゃいけないんだ⋯⋯
魔物を討伐するのは好きじゃない。でも黙って見過ごすつもりもない。誰かが助けてくれると思っていたら、後悔する事になるかもしれないもの⋯⋯
胸の前で十字を切る。この戦いで死んだ魔物と精霊さんが迷いませんように。
「ビビ、外の敵はどう?」
「⋯⋯きりがないな⋯⋯だが、ディスティニーエンドで街全体を覆う事が出来たぞ?」
城壁の外を見てみると、赤い霧と真っ赤な花が咲き乱れていた。
凄い⋯⋯どれだけ広範囲をカバーしているのだろう。もしビビと戦闘になったら、暴風系の魔法が無いと相手にならないかもしれないね。
「維持は辛いかな? 僕も外手伝う?」
「⋯⋯いや、どうやら増援が出て来たようだな⋯⋯」
城のある方角から、複数の強い気配が向かってきた。その中には、オンミールさんが混じっている。
数が結構いるね。
「どうやら動き出したみたいね」
「あれは何? アイセアさん」
「さあ?」
「え? さあ?」
「私もよくわからないよ」
アイセアさんが小さな声で呟く。その顔は微笑みながら、少し安心した顔になっていた。
オンミールさんと一緒になって、こちらへ向かって来ている精霊さんは百体以上。
全員気配が強いな。きっとアイセアさんのように強いんだろうね。加勢してくれるなら頼もしいよ。
「待たせた。助かったよ少年⋯⋯確かアークだったな」
「はい。貴方はオンミールさんでしたよね? そちらの方々は?」
「ちょっと待ってくれな」
オンミールさんからは、さっきの切羽詰まった感じが消えている。多分街の状況が良くなったから、ひとまず安心しているのかもね。
精霊さん達は皆バラバラに飛んでいた。その中から一体の精霊さんが抜け出してくる。
見た目は凄く熱そうな感じだった。複数の小さな太陽が、繋ぎ合わさって人の形になっている。頭の部分の太陽には、大きな口の裂け目とギョロっとした目がついていた。
近くに来ただけなのにすっごく熱い⋯⋯もしかしてこの人は偉いのかな?
「急遽イフリート様が命じて作らせた隊なんだが、この隊にはまだ名前が無い。リーダーはヴィカロだ」
オンミールさんが紹介してくれた。
「こんにちは」
「ああ、初めましてアーク少年⋯⋯俺の名はヴィカロ。反撃の準備に手間取っていたところを、君に助けられてとても救われたよ。何せ争いの無い精霊界だ⋯⋯上位精霊を寄せ集めるだけで、こんなに時間がかかってしまった。人間の騎士団のように連携は無理だが、これからは俺達が反撃をさせていただく。ゆっくり話をするのは後になりそうだ」
見た目は凄いけど、真面目そうな精霊さんだよ。背筋? が、あるのかわからないけど、ピンと伸ばしてから小さく頭を下げた。
「いえ、緊急事態ですからね。目の前で精霊さんが食べられているのに、見ないふりは出来ませんから」
「はっはっは! ありがとう。じゃあまた後でな」
「はい」
ヴィカロさんは高く上昇すると、腕や足の太陽が増殖を開始した。体がボコボコと増えて分裂していき、大きさも強大になっていく。
精霊さんは凄いね。何となく倒し方を想像してみたけど、ブルードラゴンブレスでどうにかなるかな?
「あつ! あつあつ! 熱い!」
ビビの蝙蝠が慌てていた。きっと熱いのは蝙蝠じゃなくて、上にいるビビだろうね。トラさんは大丈夫かな?
「アークよ。城で王がお待ちだ。案内する」
「え? でもヘイズスパイダーは?」
「ヘイズスパイダー? アレはそういう名前の魔物なのか⋯⋯残りはヴィカロ達に任せれば平気だよ。そのための部隊なんだからな」
そっか。確かに上位の大精霊さん達は皆強そうだもんね。
「それに、もう直ぐ移動を始めるからな」
移動? 皆で逃げようってのかな山場は乗り切ったとは思うんだけど⋯⋯うーん⋯⋯。
その時だ。突然轟音が聞こえてきたと思えば、街全体が揺れている気がする。
「何? 地震!?」
「違う。“街の”移動が始まったんだ。イフリート様はまずノーム様を助ける事に決めた。シルフ様とウンディーネ様はまだ余裕があるとのこと。ノームの国まで街を飛ばす事になさったのだ」
え? 街を飛ばすって⋯⋯こんなに大きな城と街を?
「可能なのですか?」
「現に動き初めているだろう」
本当だ⋯⋯僕は高度を維持している筈なのに、街の方からゆっくりと近ずいてくる。それに音が凄いんだよ! 街が飛ぶとかかっこいいなぁ。迫力がある! 外から見たらどうなってるのかな?
「凄いですね!」
「ははは。まあ凄いだろうな。人間の住む世界では不可能だろう。ここにはイフリート様がいるから可能なのだ」
オンミールさんは誇らしそうに胸を張った。
「うんにゃーー〜!!!! 落ち、落ちるにゃーーー!!!」
空から絶叫が聞こえてきたので見上げると、ビビが落ちるような速度でこっちに向かってくる。
飛べないトラさんからしたら怖いよね。もう⋯⋯後でビビには怒らなくちゃいけないよ。
遠くで炎の柱が立っていた。ヴィカロさんが戦闘を始めたんだね。
「アーク!」
「おかえりビビ」
「死ぬかと思ったにゃ⋯⋯」
トラさんが涙目になっている。毛がボサボサになっていて、体が小刻みに震えていた。尻尾も膨らんでいる⋯⋯
ビビは何かを言いたげだったけど、僕の左手を取ると落ち着いたようだ。
「お前は吸血鬼か!? 今日は何度も驚かされるな⋯⋯」
オンミールさんがビビに視線を向けた。
「ビビは悪い事しないよ?」
「ビビというのか⋯⋯アークの言うことなら信じよう。それに、さっきは世話になったしな」
そう言われて、ビビは驚いて目を大きく開く。人間の世界は魔物に厳しいけど、精霊さんにはあまり関係が無いのかな。
「信じるのか⋯⋯この私を」
「勿論だ。それに、吸血鬼は精霊を食わんしな」
軽い冗談のつもりか、オンミールさんが微笑んだ。ビビの存在が許されて、僕は自分の事のように嬉しかった。微笑みながらビビを見ると、何かを誤魔化すように体を小さくする。
きっと嬉しいんだね。
「ありがとうございます。良かったねビビ」
「ん⋯⋯まあな」
元の姿へ戻ったビビが、ほんのりと頬を染めて明後日を向く。ビビの存在が許される場所は貴重だよね。精霊界でなら、ビビも自由になれるんだ。
ほんのり一段落です(*^^*)
デタラメな冒険譚では、異世界物の中でも『命の大切さ』『思いやり』などを大切に書いていきたいと思っています。
異世界転生、転移、ざまぁ、追放からのチート覚醒作品などとは違い、なろう系の中ではスッキリしない印象があるかもしれません。それでもこの独特な世界観が好きになってもらえたら、とても嬉しく思います。
これからも頑張って書いていきますので、応援よろしくお願い致しますm(*_ _)m
感想はいつでも大歓迎です。必ず返信致しますので、気軽に書いてもらって大丈夫ですよ(((o(*゜▽゜*)o)))
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次話、イフリート様との謁見
五章で50万字⋯⋯




