混戦のフレイガース、舞い降りた銀閃(完)
昨日夜、こっそり閑話を投稿致しました。まだ見てない方は、そちらから見ても良いと思ぃす。
嫌な感じがする? 直感だけど、その方向へ向かってドラシーを振り下ろした。
銀色の一閃が迸り、刃の軌跡が直進する。
──ギャリイィンッ!!
そこには何も無い筈だったんだ。でも何かを感じて剣を振ったんだけど、やっぱり何かがいたみたい。
僕の放った銀閃が、空中で何かに弾かれてしまった。
気配は感じないね⋯⋯魔力も感じないよ⋯⋯厄介だな⋯⋯
「アイセアさん」
「わかってる。いくよ! はああ!」
アイセアさんが全方位に雷を落とし始める。僕は気をつけてねって言おうと思っただけなのにな。
その雷は、見えない何かに阻まれた。倒す事が目的じゃないから大丈夫だね。
「“オーラスティンガー”」
──ガボン!
輪郭を顕にした魔物へ、オーラスティンガーでトドメを刺す。見えていればいくらでもやりようがある⋯⋯ん⋯⋯あれ? 手応えが無かった?
それは左右に分裂し、発光しながら姿を現した。
それぞれ体長二メートル半くらいで、甲殻に覆われた白い人間のようであった。
特殊個体だ⋯⋯顔が蟻みたいになってるね。羽付きで鋭い爪がある。
「あれもう蜘蛛じゃないわ」
「僕、まだ空中戦は苦手なんです⋯⋯」
「来るわよ!」
アイセアさんが叫んだのと同時に、二体のうち一体が僕へ向かってきた。
「はぁあ!」
気合いと共にドラシーを振り下ろす。敵の動きは早く、軽く左へ避けられてしまった。
やっぱり飛べる魔物と空中戦は厳しい⋯⋯
至近距離から突き出された爪を、二段跳びスキルと加歩スキルでギリギリ躱す。薄く首の皮一枚を斬られたけど、僕も相手の脇に飛び込めた。
「“震激雷波掌”」
体術スキルの震激雷波掌。魔装ベヒモスで上乗せされた力と、魔気融合身体強化スキルで最大強化されていた。
人型ヘイズスパイダーの鳩尾にめり込み、空から地面に叩きつけられた。
油断はしないよ。トドメ⋯⋯
「“超重踵落とし”!!」
今体術スキルで使える中で、最大級の威力を誇るのがこのスキルなんだ。でも使える場面は少ないし、上から下にしか放てない必殺技なんだよね。
体を縦回転させて、ギロチンのように踵を振り下ろした。直撃すると、地面が大きくヒビ割れる。
「⋯⋯」
たまに我に返る感覚があるんだ。命を奪うという事に、善し悪しよりも⋯⋯んー⋯⋯なんだろう⋯⋯上手く考えが纏まらないよ。
今度キジャさんかベスちゃんに聞いてみよ。
上空を見上げると、まだアイセアさんが戦っていた。
アイセアさんは空中戦が凄いなぁ。どうやったらあそこまで自由に飛べるんだろう⋯⋯
雷を物質化させたような鞭を、上手く使って敵の爪を防いでいた。
でもジリ貧だな⋯⋯アイセアさんは距離を離したそうだけど、ヘイズスパイダーがガンガン突っ込んでくるんだ。
苦しそう。援護をしてあげたいな⋯⋯どうしよう? あ、そうだ。
「“オーロラカーテン”」
極光魔法のオーロラカーテンを唱えた。光の膜が敵とアイセアさんを分かち、僕は空へ舞い戻る。
「アーク。これは?」
「ちょっと待ってて下さい」
魔法はイメージが大事なんだよね。
光の膜を、何とか突き抜けようと引っ掻いてくる。そうしててくれると助かるよ。
僕はオーロラカーテンの形を変えて、光の膜を折り曲げていく。
「出来た!」
それは光の牢獄だった。牢獄と言うよりも、鳥籠に近い形をしている。変形に数秒かかるので、頭が回る敵には使えないね。
動けなくなったヘイズスパイダーに、アイセアさんが極大の雷を落として蒸発させた。
凄い威力⋯⋯流石は精霊さんだよ。
「ふぅ⋯⋯アーク、私疲れたぁ⋯⋯オンミール遅いよー。何してんのかしら?」
「あはは。僕も疲れました⋯⋯でもまだあいつがいるんだよね」
「倒せるかしら?」
街の中央付近にいる巨大なヘイズスパイダーは、今も動かずに静観していた。
もしかしたら、部下に戦わせて情報でも集めていたのかな? そんなに頭が良い魔物なの?
あのままずっと動かないのなら、そのまま放置しておいても良いんだけどね。
僕としてはこの状況は都合が良い。精霊達の反撃が始まって、全体が押せ押せムードになっている。
あんまり楽観視も出来ないけど⋯⋯今はビビがヘイズスパイダーを押し止めてくれているから、新手があまり入って来ないだけ。
ビビの魔力が尽きる前に、城壁内のヘイズスパイダーを殲滅or迎撃体制を整えなければならない。
僕がチラッとアイセアさんを見てみると、また大きな雷を落としていた。大きな五メートルクラスのヘイズスパイダーと戦闘を始めたらしい。
精霊さんの強さは良くわからない。でも、アイセアさんならきっと大丈夫だろう。僕は目の前の敵を──
「ッ!!」
──ブフォン!
急に体を溶かされて死ぬ未来が見えた。咄嗟に高度を上昇させると、さっきまでいた場所に緑色の何かが通過する。
魔力の高まりは感知出来なかった⋯⋯? 魔法じゃないとすれば、これはヘイズスパイダーの体内で生産されたもの?
その緑色の何かは、大きな時計塔の土台部分を蒸発させた。
きっとあれは街のシンボルのようなものかな⋯⋯根元の部分を失い、ゆっくりとその巨大な建物が傾いていく。
轟音を悲鳴のように響かせ、ゆっくりと倒れていくさまは、言葉に出来ない物悲しさがあった。
地面に叩きつけられて、壊れた時計の秒針が宙を舞う。
酷いな⋯⋯
悔しそうにそれを見ていた精霊さんがいた。俯きながら肩を落としている。
「⋯⋯街の外に出せれば良いんだけど」
それは現実的じゃないよね。挑発すれば誘い出せるかな?
あの精霊さんを見ていたら、胸の奥が苦しくなった。僕も悔しいよ⋯⋯僕は⋯⋯皆の笑ってる顔が好きなんだよ。だから、必ず取り戻してあげる!
「シッ!」
一振りの銀閃を放つ。空間を斬り裂くように直進した斬撃が、巨体に見合わない軽い動きに躱された。
普通体が大きくなれば、鈍重になりそうなものなのに⋯⋯
「ギシャァァアア!」
ヘイズスパイダーが咆哮した。僕を全力で威嚇してきているんだ⋯⋯
首がグリンと逆さになったり、前足を広げて上半身を擡げる。口をガチガチと鳴らしながら、緑色の液体を垂れ流していた。
「シッ! ハッ!」
追加で銀閃を放ったけど、また軽く避けられてしまった。
この大きなヘイズスパイダーは、胴体部分だけでも十メートル以上あるんだ。だから回避されるだけで、街が甚大な被害を受けてしまっている。
「うぅ⋯⋯ごめんなさい。どうしよう⋯⋯全力で戦うには──」
「私達に任せて下さい!」
突如そんな言葉が聞こえてきて、僕の目の前に複数の精霊さんが現れた。
風の精霊さんなのかな? 緑の鮮やかな羽根が生えていて、人形のように綺麗な顔の小さな女の子達だった。
精霊さんと言うよりは妖精さんに見えるかな。でも精霊さんと妖精さんの違いとかよくわからないし、やっぱり精霊さんなのかな?
彼女達が両手を前に突き出すと、巨大なヘイズスパイダーの周りに八本の竜巻が権限した。
当然街に被害も出ているけれど、このまま戦って広範囲壊されるよりはマシだよね。
凄い⋯⋯あれじゃいくら身軽でも避ける事は出来なそうだ。
「皆〜やるよ〜!」
「うん!」
「はーい!」
「わかったわ!」
ヘイズスパイダーの体が徐々に持ち上げられていく。じたばたともがいているけれど、そう簡単には抜け出せない。
複眼も目まぐるしく動いている。
これはチャンスかも!?
僕はドラシーを鞘へ戻し、竜巻に向かって両手を突き出した。
「“ウォーターフォール”! “エリアレイン”!」
大量の魔力を注ぎ込み、魔法の威力よりも水量を意識する。精霊さん達の作り出した竜巻が、水を吸い込んで巻き上げた。
「ギィシャァァアア!! ゲギャァァアア!!」
苦しそうに叫ぶヘイズスパイダー。そこへ更に、
「くらえー!!」
アイセアさんが叫びながら雷を落とす。
精霊さんの魔法は威力が凄い! ヘイズスパイダーの大きな体が、ビクビクと硬直と痙攣を繰り返している。
今がチャンスだ!
ドラシーを抜いて一気に魔力を流し込んだ。その刀身が光に包まれると、竜の頭が現れる。
よし。これで!
「“ブルードラゴンブレス”!!」
身動きが取れないうちに、最高威力に高めた“ブルードラゴンブレス”を放った。
水を含んだ竜巻が、外側から一気に冷やされる。
「ギギャ⋯⋯ギーギャ⋯⋯」
ヘイズスパイダーの動きが完全に止まった。精霊さんの作り出した竜巻と一緒に、その巨体を大きな氷像へと変える。
「凄い! 凄いですね! 人間さん!」
「ひゃー⋯⋯寒そうだねぇ」
「すっごーい!」
「⋯⋯まだ終わってないよ」
まだ生きている。倒せていたなら、魂魄レベルが沢山上がっていてもおかしくない。
僕は“魔気融合身体強化”を最大限に高めていく。それを見た精霊さん達が、巻き込まれないように距離を置いた。
テンペストウィングを大きく広げ、限界まで高めた力で突進する。
「行くよ! ドラシー! はぁぁあ! “エレメンタルブレイク”!!」
振り上げたドラシーに、七色の光の粒子が集まってくる。これは僕の放てる最高威力の斬撃だ。
光の粒子は剣となり、長さ三十メートルを超えて巨大化する。僕はその光の剣を力の限り振り下ろした。
激突の瞬間、巨大な光の剣から閃光が放たれた。自分で繰り出した技なのに、そのとてつもない熱量が汗を噴き出させる。
振り下ろす角度には注意したんだ⋯⋯威力はとても強いけど、そもそも街の中で使える技じゃないんだよ。
街の外には底が見えない程に深い大地の裂け目が出来上がる。
街の中には被害は無い。そして大きなヘイズスパイダーは真っ二つになり、僕の魂魄レベルも上がりました。
大変だったよ⋯⋯でもこれで一段落かな? 後は精霊さん達が、反撃出来るように手助けすれば良いと思う。
「すんごかぁ。これが人間なのかぁ?」
「人間ぱないね⋯⋯人間怖い⋯⋯うち、もう人間からかうのやめる⋯⋯殺されちゃうもの。そうでしょう?」
「食べられちゃう? 食べられちゃう?」
「かっこいいです! 尊敬します!」
小さな風の精霊さん達が、僕の周りを旋回し始めた。アイセアさんとビビの操る蝙蝠も、こっちに近づいてきているみたい。
「皆が手伝ってくれたからですよ。確実に当てられたのは精霊さん達のお陰です」
「んーん。私達じゃ倒せかなったもの。やっぱり凄いです」
「凄い凄〜い!」
「食べられちゃう? 私、美味しいかもね?」
「ハイタッチしようぜ! 人間さんよ!」
あはは⋯⋯なんかこの軽いノリが良いね。とても気持ちの良い精霊さん達でした。




