素直になれないビビ。ハゲと狩人
みんなの応援のお陰で、初めてアクションランキング日間1位になれました!ありがとうございます(´;ω;`)
*年齢の記載ミス。改稿
とても綺麗な湖⋯⋯太陽の光に照らされて、水面がキラキラと輝いてみえる。桟橋の上から覗き込むと、底の方まで良く見えた。
人が住み着いても汚れない理由は、スライムが老廃物などを食べているからだそうだよ。
魔導飛行艇を港へ出して、船長に引き渡した。
「すまねーな。徹夜お疲れさん」
「いーえ。整備頑張って下さいね。また貴族がちょっかい出して来たら直ぐ呼んで下さい」
「ありがとうよ。ゆっくり休んでくれ」
いきなりの徹夜仕事で疲れたから、宿に帰ったらぐっすり寝られそうだね。
欠伸をしながら船長に手を振る。「はしたないですわよアークちゃん」と、ミト姉さんに言われたような気がした。
ドラグスの皆は今何をしているんだろう。ベスちゃんとベルフさんは町に戻った頃かな? もうずっと会ってないないように感じられた。
皆に会いたいよぉ⋯⋯
*
宿に到着すると、案内された部屋がかなり豪華だった。窓からは綺麗な街並みが見えるし、冷たいジュースを部屋に無料で持って来てくれるみたい。
ビビが部屋にあったソファーに座ると、髪を解いて欠伸をする。僕は紅茶を二人分用意してから、対面に座わってクッキーを取り出した。
紅茶の香りを嗅ぐと落ち着くよね。クッキーも焼きたてを収納しておいたから、直ぐに甘い香りが漂ってきた。
「ねえ。ビビはヘイズスパイダーって知ってた?」
「いや、初めて聞いた魔物だ。奇っ怪な魔物だよなぁ」
「Bランク冒険者さんが探しているみたいだけど、手掛かりは見つかったかな?」
「親の蜘蛛が姿を消していたら厳しいだろう。どんな探し方をしているかわからないけど、そもそもどうやって探すんだ?」
「わからな⋯⋯ふわああ⋯⋯」
欠伸がでるぅ。眠くなってきちゃった。
「⋯⋯眠そうだな。また夜にギルドへ行く。その時に話を聞けば良い。今日は寝よう」
「寝る前に⋯⋯お風呂かなぁ」
「風呂の中で寝そうだな」
眠くて頭が回らないや。ふわああ⋯⋯
何とかお風呂をいただいて、パジャマへ着替える。ベッドへ入ると僕はジャンガリアン⋯⋯zzZ
*
目が覚めると、ビビの目が僕の顔を覗き込んでいた。薄目でぼんやりそれを見詰めていたら、また瞼が重くなってくる。
「アーク、好きだ。⋯⋯違うか⋯⋯私もずっと一緒にいたい⋯⋯それも違う⋯⋯いや、違わないけど⋯⋯どう言えば良い? わからない⋯⋯愛? んー⋯⋯はぁ。言えない⋯⋯でも」
「⋯⋯」
ビビが小さな声で呟いている。僕の頭をそっと撫でてみたり、抱かれるように腕の中に入り込んでみたり⋯⋯何だか一人で楽しそうだな。
好きだって言われるのも、ずっと一緒にいたいって言われるのも嬉しいよ。
優しさで胸がいっぱいになり、そのままビビを抱きしめる。
「ひゃ⋯⋯あ、アーク?」
ぼーっとするぅ⋯⋯
「な、なんだ⋯⋯まだ寝てるのか?」
「⋯⋯」
「ふぅ⋯⋯危ない⋯⋯」
ビビの手が首の下から背後へと回される。キュって抱きついてきたかと思ったら、首筋をそっと舐め始める。
これはビビの癖なんだ。ちょっと擽ったいです。
「アークの全てが欲しい⋯⋯駄目だ⋯⋯恥ずかしい⋯⋯アークの血以外飲みたくない⋯⋯これも私には言えないな。どうすれば好きだと言えるんだ?」
好きだと言えなくて困ってる? ゴソゴソとイタズラされると擽ったいよ。もう⋯⋯
大丈夫。ビビの気持ちはちゃんと聞いた。でも知らないフリしとこう。ビビ楽しそうだから。
*
あれからまたちょびっと寝ていたみたい。ビビも悩み疲れちゃったのかな? 僕の腕の中で気持ち良さそうに寝息を立てている。
呼吸で上下するビビの背中を撫でてから、今のうちにステータスを確認しておこうと思った。
僕は無限収納から冒険者カードを取り出して、カードに少し魔力を流す。
*名前 アーク
種族 人族
年齢 6
出身地 ドラグス
魂魄レベル 72
体力 1612
魔力 3150
力 1022
防御 685
敏捷 2786
残金 20081365ゴールド
武術系スキル
中級剣術レベル2
剣技“パワースラッシュ”、“ウェポンスナッチ”、“アーマーブレイク”、“オーラスティンガー”
中級短剣術レベル2
短剣技“クイックシャドウ”、“シャドウウォーリアー”、“スピードバインド”、“バックスタブ”
中級体術レベル3
体技“二段跳び”、“岩砕脚”、“震激雷波掌”、“加歩”、“超重踵落とし”
中級弓術レベル2
弓技“ディスタントビュー”、“エンチャントアロー”、“インビジブルセカンドアロー”、“ディスタントルーラー”
魔法系スキル
生活魔法レベル4
“クリーンウォッシュ”、“イグナイト”、“フリーズ”、“ドライ”
火魔法レベル5
“ファイアバレット”、“ファイアスネイク”、“ファイアアロー”、“ファイアボール”、“ボイルドファイア”
火炎魔法レベル2
“フレイムランス”、“アンチフレイム”
水魔法レベル5
“バブルボム”、“ウォーターフォール”、“ドライミスト”、“ウォーターウィップ”、“エリアレイン”
氷魔法レベル2
“ブリザード”、“アイスウォール”
風魔法レベル5
“エアークエイク”、“エアーショット”、“エアーコントロール”、“エアーカッター”、“ダストデビル”
暴風魔法レベル3
“サイクロンブレード”、“テンペストウィング”、“ウィンドプレス”
土魔法レベル5
“ヘキサゴンストーン”、“クレイゴーレム”、“ストーンハンド”、“フォーリングロックス”、“ストーンエッジ”
大地魔法レベル2
“アースドリル”、“サンドクラッシュ”
光魔法レベル5
“ライト”、“ポイントレーザー”、“オプティカルカムフラージュ”、“ミラージュ”、“ライトフェザー”
極光魔法レベル1
“オーロラカーテン”
神聖魔法レベル6
“ヒール”、“リジェネーション”、“キュアポイズン”、“リフレクション”、“セイクリッドスペース”、“キュアノーマリー”
補助スキル
魔力感知レベルMAX、魔力操作レベルMAX、魔力高速循環レベル5、魔力消費軽減レベルMAX、魔力効率化レベル1、魔力増強レベル5、魔法威力増強レベル3、探索レベル7、気配察知レベルMAX、気配拡大感知レベル2、罠察知レベル3、尾行レベル7、隠密レベルMAX、透過レベル2、悪路走行レベルMAX、忍び足レベル2、水上走行レベル2、荷運びレベル8、忍耐レベルMAX、物理耐性レベル3、苦痛耐性レベル8、精神耐性レベル3、毒耐性レベル5、火耐性レベル7、水耐性レベル3、氷耐性レベル3、風耐性レベル3、土耐性レベル2、光耐性レベル2、血晶耐性レベル3、礼儀作法レベル6、暗視レベル7、自然回復力向上レベルMAX、超回復レベル3、敏捷強化レベルMAX、高速移動レベル4、筋力増強レベルMAX、剛腕レベル1、剛脚レベル1、分割思考レベルMAX、並列思考レベル4、思考加速レベル3、投擲レベル8、料理レベル6、解体レベル5、釣りレベル3、回避レベルMAX、超回避レベル3、危険感知レベルMAX、危険予知レベル2、威圧レベル5、気力操作レベル9、身体強化レベル8、再生レベル3。
???スキル
魔気融合身体強化レベル3
精霊体転化
ユニークスキル
恩恵の手引書、無限収納
称号
猫の天敵、お姉さん殺し、町のアイドル、魔法使い、小金持ち、我が道をゆく者、ゴブリンキラー、オークキラー、夢を追いかける者、異名を持つ者、金持ち、町の英雄、見習い賢者、大魔法使い、絵本の主人公、お兄ちゃん、小さな英雄、男を惑わす笑顔、オタクのアイドル、猫耳メイド
テイム
ヴァンパイア子爵 ビビ レベル8/60
A級魔剣“ドラゴンシーカー”
“遺伝子吸収”、“魔気融合増幅”、“魔法強化”、“ホーミングレーザー”、“毒尾”、“ブルードラゴンブレス”、“アルティメットスケイル”、“黒溶岩砲”、“エレメンタルブレイク”
魂魄レベルはイグラムの戦いで結構上がったね。流石にCランクの魔物を連続で五体はキツかったよ。
ステータスもそこそこ上がってきたと思うんだ。でも上級冒険者としてはまだ頼りないかもしれないね。
んー⋯⋯ギルドに預けたお金が凄いことになってる。ストーンゴーレム狩りを一ヶ月半くらい頑張ったのと、マグニリムリザードの討伐にその素材、イグラムの防衛で倒した魔物のお金が入っているからだろうね。お金持ちだなぁ。
これにイグラムのタシックナル様からいただいたお金も入れたら、5000万ゴールド超えちゃうんだけど⋯⋯まあ貯めるのは嫌いじゃないよ。いつか何かのために使えるもんね。
実はドラシーにも新しいスキルが増えていたんだ。発見の難易度SSSランクの魔物だから、かなりレアなスキルだと思う。実は猫耳メイド喫茶で働ていた数日で、どんなスキルなのかは試してあります。結構えげつない威力だったんだ⋯⋯“黒溶岩砲”を撃つよりも、若干消耗が少ない。
魔物のスキルまでは僕のユニークスキルでもわからない。きっと人間には取得する術がないからだと思うんだけど、ドラシーのお陰で使えちゃうんだなー。ありがとうねドラシー。
このまま頑張れば⋯⋯届く? 僕は父様や母様みたいになれるかな?
虚空を見詰めながら、僕はゆっくり目を閉じる。
今回のヘイズスパイダーもそうだけど、僕にかかる責任の重さに怖くなる時があるよ。でも、僕が目指す先はずっと遠いんだ。寄り道してる時間なんて無い。
「ビビがいれば大丈夫⋯⋯きっと大丈夫だから」
そう自分に言い聞かせた。でもやっぱり少し怖いなぁ。
僕は見たい景色があるんだよ。誰も見た事のない場所まで行くんだから。
「ふあぇ⋯⋯アーク⋯⋯しゅき」
もぞもぞ動いたと思ったら、ビビが起きたみたいだね。ちょっと寝惚けた顔になっているよ。目がとろんとしていて、口がにヘラァってなっているんだ。
「しゅき?」
「しゅき〜⋯⋯す⋯⋯あ」
「あ?」
「!」
我に返ったビビが、腕の中で固まっている。目が泳いだと思ったら、途方に暮れた顔になった。
つい笑いそうになったけど、可哀想だから助け舟を出してみようかな。
「おはよう。僕、寝てるうちにビビを抱き寄せてたみたい」
「そ、そのようだ⋯⋯おはよう」
「何時ものことだけどさ」
「そうだな⋯⋯いや、まいるなあ」
「まいるの?」
「そんなことは! ない⋯⋯んだけど⋯⋯」
身長はあまり変わらないんだけど、少しビビが小さくなって見えた。ビビの顎を持ち上げて、瞳の色を確認する。
ほんのり赤っぽいかな? そろそろ血が飲みたい筈だ。
「ビビ」
「ん⋯⋯」
ビビが頬まで赤くしながら目を閉じた。口を少し突き出してどうしたんだろう? 変な反応だな。
「血、吸わないの?」
「ち、血か! そうだな! 血だよな!」
うん? 血が吸いたいんじゃなかったのかな? 本当にぐっすり寝れたね。今は何時だろう?
壁の時計は今十六時を指しているね。昨日蜘蛛が出始めたのが二十時過ぎだったから、まだ四時間は暇があると思う。
ソファーに移動して座ると、ビビが恥ずかしそうにしていた。何かを言いたそうにしていたけど、僕の膝に跨って血を吸い始めた。
仕事の前には魔導飛行艇を回収した方が良いよね。ヘイズスパイダーの親が見つかっていたら、共同で討伐とかもあるのかな? 一応十九時にはギルドへ行こう。
「アークのバカ⋯⋯」
「え? 何で?」
「しらん⋯⋯」
うぅ⋯⋯わからないけど、何かごめんね? ビビが満足するまで血を吸わせてから、着替えて街の中を歩いて行く。
朝じゃないけれど、朝食に屋台で食べ物を購入する。勿論ちゃんとベンチを見つけてから食べますよ。
湖の見える人工の高台公園で、ビビが焼き鳥を頬張っている。空は綺麗な茜色で、湖も一緒に染まっていた。
綺麗だなぁ。風も気持ちが良い⋯⋯ギブ達に自慢する事が増えちゃったよ。
ビビはやっぱり花より団子だね。僕は大きな肉饅頭を買ったんだ。湯気を立てるそれにかぶりつくと、中から肉汁が溢れてきた⋯⋯程よい塩加減とスパイスの良い香り。んー⋯⋯中のお肉がトロトロだ。野菜の旨みも染み出していて、噛む度に幸せな気分になれます。
ミルクティーを飲んで食後の休憩をしていたら、知っている気配に気がついた。背中がぞわりと撫でられたような不吉な気分⋯⋯なんで? なんでなの?
間違いない⋯⋯嘘でしょ? この気配は⋯⋯だってこれは⋯⋯
僕はベンチから立ち上がると、バッとその方向へ体を向ける。
「ビビ、警戒して」
「ん? あ⋯⋯何で奴が?」
「わからない⋯⋯行ってみよう」
「仕方ないな。だが戦闘になったら街が滅ぶぞ?」
「でも⋯⋯放っておけないよ」
「まーな。さて、どうする?」
「どうしよう?」
二度と忘れられない気配だよ。向こうもこちらに気がついたみたい。僕が行かなくても向こうから走って来た。
彼奴は剣を抜いて飛び上がった。僕もドラシーを抜き放つ!
──ズガァンッ!
物凄い重さが伝わってくる。激突の衝撃波で、近くにあったベンチが吹き飛んでしまった。
相手は本気じゃないみたいだけど、身体強化プラス気力操作で対抗してもギリギリだ。
「久しぶりだな銀閃のアーク」
「何で⋯⋯アルフラにいるの? えっと、後頭部ハゲの人」
「ああ!? もう治ったよ! 思い出したら腹が立ってきたぜ!」
この人は氷竜剣を使っていた人だ。人を攫って奴隷にする悪い人で、モウメスさんの仲間を二人殺したんだ。⋯⋯そんな人が、何でこんな所にいるの?
「捕まえた筈なのに⋯⋯」
「ああ、捕まったぜ。お前のせいでな! らあ!」
「ッ!!」
強引に力で剣を振り切られる。僕は足の力を抜いて、それに逆らわずに後ろへ吹き飛ばされた。
「アークッ!!!」
──バシュッ!
動き出そうとしたビビの足元に、狙いすましたかのような矢が突き刺さる。
僕は大丈夫だから安心して。ビビ。
それよりも、矢を放ったのは誰? 飛んできた方向を見ると、狩人の格好をした黒髪のおじさんが弓を構えていた。
「戦いに来たんじゃないでしょう? ジルクバーン・フォルティーニ」
「ちっ、うるせーよ」
低い声でそう言うと、一歩一歩近ずいてくる。雰囲気のある人だ⋯⋯もしかしたら、氷竜剣の人より強いかもしれない。
まずい状況だね。何でこんな場所で会ったのかも気になるけど、これじゃ下手に動けないよ⋯⋯
「すまないね。銀閃のアーク君」
「⋯⋯」
一触即発の危機的状況は避ける事が出来た。でも、これからどうしたらいいのかわからない。
どうしたらいいの? どんな理由があるにせよ、僕はこの人を⋯⋯
ドラシーを握る手に、自然と力が入ってしまう。僕は今でも奴隷さん達の涙を覚えているんだから⋯⋯




