見なかった事にするアーク。荒ぶるミルクのおじさん。出動、ドラグスのBランク冒険者。
「まむぅ?」→出番まだ〜?(:3_ヽ)_
「んまむぅ⤵︎ ︎」→忘れられちゃうよ〜。
「んぱあ」→んぱあ(ノ*°▽°)ノ
四章もよろしくお願いします(*^^*)
ドラグスに新しく出来た喫茶店に入り、花柄の紙カップに入ったオシャレな珈琲を買った。持ち帰りが出来るお店で、そこには陽当たりの良いテラスまであるんだよね。
爽やかな朝の空気と珈琲の香りを堪能しつつ、別のお店で新聞を一部購入する。
その新聞を脇に挟んで、冒険者ギルドに向けて歩き出した。
何で今日はそんな感じなのかって? それは僕が考える大人のイメージだからだよ! 昨日歯が抜けちゃってかなり大人に近づいたから、そろそろ見た目から入った方が良いかと思ってね!
ズズズと熱い珈琲を啜る⋯⋯ぶふぁ、にぎゃいよ⋯⋯
「ビビ⋯⋯あげる」
「⋯⋯だから砂糖とミルク多めにしてもらえって言ったんだよ」
「だってさぁ⋯⋯」
「なら明日は紅茶にしような」
「わかったよ」
べ、別に苦いから飲めないんじゃないんだからね! 今日はたまたまなんだから! 抜けた歯が気になるだけなんだから〜!
ビビは買ったばかりのバナナスムージーを飲んでいるので、珈琲は収納に入れておくことにした。
新聞を開いてみると、✕✕と○○が戦争、どの国が滅んだなど、暗いニュースが大きく書いてある。僕はそこら辺を読み飛ばし、四コマ漫画や今日の占いから目を通した。
ふむふむ。今日のラッキーアイテムは? ⋯⋯あ〜、土地の権利書かぁ。持ってても持ち歩きたくないよ!
ビビに少しバナナスムージーを分けてもらい、新聞を投げるように収納にしまった。
見なかったことにしよう。そうしよう。
教会の前を通っていたらシスターさんが掃き掃除をしていたので、挨拶をするついでに寄進でもして行こうと思う。最近全然通ってなかったしね。
「おはようございます」
「あら。アークさんお久しぶりでございます」
「寄進させて下さい」
「感謝致します」
銀貨を数枚渡すと、僕は頭を撫でられる。孤児院の子に接するみたいな気安さに、ちょっと新鮮な気分になった。
「シスターさん。またね」
「中に寄ってかれませんか?」
「冒険者ギルドに行ってきますので、時間ある時にまた来ますね」
「そうですか。アークさんのご活躍は教会にも聞こえて来ます。そのお話を聞いた子供達が、アークさんみたいになりたいって言うんですよ」
そう言ってシスターさんは笑った。でもすぐに表情を暗くする。
「あの⋯⋯どうかされましたか?」
その表情が気になってしまった。何か悩みでもあるのかなー?
「いえ。子供達が冒険者になりたいと言っても、教会は剣を買ってあげるお金も学校に行かせてあげるお金もございません。それは子供達もわかっているのでしょう。我儘は言いませんが⋯⋯あ、いけませんねこんなこと言っては」
そう言ってシスターさんは無理に表情を明るく作った。
⋯⋯冒険者になりたい気持ちは良くわかるよ。憧れちゃうのは仕方がないよね。剣術や盾術なんかは、木刀や鍋の蓋なんかでも習得は可能なんだ。ただ知らないだけなんだろうけど、それを教えちゃうのはどうなのかな?
ユニークスキル【恩恵の手引書】の存在に繋がるようなことは言いたくない。それを教えてバレるようなことは無いだろうけど、それなら剣などをプレゼントしちゃえば早いと思う。
「シスターさんちょっと来て」
僕は教会の庭の隅に移動した。そこでスタンピードで手に入れた武器などをどっさり出す。使い道も無かったし、役に立つなら寄付してしまおう。
「こ、これは!?」
シスターさんはびっくりして、持っていた箒を落としてしまった。
「スタンピードで魔物が使っていた武器などですね」
「こ、こんなに大きな金棒⋯⋯こんなのを振り回す魔物がいるんですか?」
それはオーガが装備していた金棒だね。確かに見た目が迫力満点だよ⋯⋯威力もこの身で体験したからね。
「うん。だからね、冒険者には当然命の危険があるんです。それでもやりたい子がいるならば、これ全部好きに使っても良いですよ。“ウォーターウォッシュ”」
流石にちょっと見た目が汚かった。血の汚れが着いてたら、一般の人にはドン引きされるに決まっている。
洗浄の魔法で綺麗にすると、新品みたいに輝き出した。
品質は下の上くらかな。僕が使うには耐えきれない物ばっかりだね。
「学校に行けば知識を得られると思うけど、努力しなくちゃ意味は無いんですよ。僕だって学校まだなんだからね」
シスターさんはハッとした顔になる。今更ながらに、僕の年齢が学校入学前だと気がついたのだろう。
だから大事なのは本人がどれくらい努力したかであって、どれくらいお金をかけたかではない。冒険者になりたい人がいるのであれば、無理のない範囲でサポートしてあげても良いと思ったんだ。
「そうですね。アークさんの言う通りです⋯⋯」
「真面目に頑張ったらきっと神様からスキルが授けられますよ。本人の努力に学校は関係ありませんからね」
「ありがとうございます! 私も冒険者目指しますね!」
「へ? ⋯⋯えええ!?」
「私もなりたかったんです。冒険者!」
僕は何か間違っただろうか? 優しく綺麗なシスターさんが、煙草の煙渦巻く冒険者ギルドに来るイメージが湧かない⋯⋯
どうしよう⋯⋯鼻息を荒くして両手を握るシスターさんが目の前にいた。あ、あの⋯⋯本気ですか?
「え、えーと。あはは。良いですよね冒険者⋯⋯」
「最高です! ふんすっ!」
「で、ですよね〜⋯⋯」
よし! 見なかったことにしよう。(本日二回目)
ああ〜⋯⋯次来た時に、神父様が上半身裸で大剣振り回してたらどうしよう⋯⋯イメージ壊れちゃうな。シスターさんが「根切りですぅ」とか言い出したら⋯⋯あぅぅ。
この後、簡単に剣や盾などの訓練方法を教えて、ビビと逃げるように冒険者ギルドへ向かうのでした。
*
冒険者ギルドに到着しました! もうワクワクが止まらないよね! 今日は何があるのかなー?
扉を開けて中に入ると、八割くらい知らない冒険者達で埋まっていた。これは珍しい光景では無いよ。迷宮が発見されてからは、毎日がこんな感じなのだから。
それと、今年も学校を卒業した新人さんがいっぱい入ったからね。
その新人冒険者さん達は、先輩冒険者さん達に気圧されて隅っこで小さくなっている。
ミルクさんはワインを口の中で転がして、片目を瞑って唸っていた。
流石はミルクさんだ! 安物のワインもミルクさんにかかればビンテージ物の高級品だよ! 飲まれてるワインも自分を誇らしく思っている! 多分!
僕がミルクさんに近づこうとしたら、僕よりも早くミルクさんに近づく影があった。何者かと思って遠くから見てみると、十七歳前後のお姉さん三人がミルクさんに近寄って行く。
「あ、あの⋯⋯すいません」
「ん? なんだ?」
お姉さん達に話しかけられて、ミルクさんが渋い顔で返事をする。
「もしかして、貴方がミルクさんでしょうか?」
「ふ⋯⋯⋯⋯何を言うのかと思えば⋯⋯」
ミルクさんは軽く肩を竦めると、更に渋い顔で睨み返す。
「⋯⋯そうだ。バレちゃ仕方ねえな⋯⋯俺はミルク。アークを鍛えし男よ」
「キャー! 本物のミルクさんよ!」
「この人が!?」
「はわわわ」
あ、あれ? 僕ミルクさんに鍛えてもらったっけ? ミルクさんは女性達に囲まれながら黄色い歯を輝かせていた。
うーん、楽しそうだからほっていてあげようかな。よくわからないけど、頑張ってねミルクさん。
今はミルクさんに近寄るべきじゃないかな? 話しかけたらややこしい事になりそうだしね。
依頼掲示板の前に移動しようと思ったら、一人の兵士がギルドに飛び込んで来た。腕から血を流していて、只事じゃないことだけは理解出来る。
「大変だ! 南にデカいトカゲがいた! 兵士が二人食われちまった⋯⋯冒険者ギルドに討伐を要請したい!」
その声はギルド全体に響いたようだ。二階から階段も使わずにキジャさんが降ってきて、兵士の肩をがしりと掴む。こういう時のキジャさんって早いよね。
「特徴! 大きさ! 使っていた魔法! 数! わかる範囲で話せ」
「ああ、キジャさん! 特徴は頭に大きな角を持っていました! 大きさは二十メートルくらいで、多分炎の魔法を使う。数は三匹です!」
「なるほどな。亜竜の一種かもしれねえ! Bランクと自信のあるCランク冒険者は二階の会議室に来い! 怪我してるとこわりーが、お前はその魔物を見た場所を説明してもらう。来い」
「わかりました!」
Bランク冒険者は強制みたいだ。Cランク冒険者が強制じゃないのは、そこまで緊急性が無いのと命を落とす危険が高いからだろう。
僕が二階へ上がろうとしたら、何故かミルクさんが立ち上がりかける。まさかミルクさんも行く気?
いくらミルクさんでも今回の依頼は危ないと思ったので、ミルクさんの肩に軽く手を置いた。
「ぬ? ⋯⋯お前が行くかアーク」
「ええ。それは⋯⋯行きますが⋯⋯」
「ふっ。俺が行くまでも無いってことだな」
「え、あの⋯⋯多分?」
何? どういう事?
「シャキっとしねえか! ほら行ってこい! 町は“俺に”任せておけ」
「は、はい!」
背中をバンと叩かれて、僕は何故か押し出された。お姉さん達が僕とミルクさんの会話を聞いて、驚いたように目を見開いている。
「あれがアーク様⋯⋯」
「ミルクさん。アーク様とはそこまでの仲なんですか!?」
「ふっ。まあな。何度も一緒に死線をくぐり抜けたからよ。あいつは手のかかるやつだったなぁ」
「キャー」
「パないです」
「凄い⋯⋯」
うーん。何か後ろで変な会話をされている気がするぅ。でも気にしないでおこう⋯⋯ミルクさん楽しそうだから。
ビビが少し引き攣った顔をしているけど、何かを言う気は無いみたいだね。
会議室に入ると、ベスちゃんと騎士風の男性がいた。僕はミルクさんを止めていたので、少し出遅れちゃったかな?
「アークも来てたのか! 丁度いいな」
「アーきゅうぅ」
キジャさんが口角を吊り上げた。ベスちゃんが条件反射のように抱き着いてきて、嬉しそうに顔をデレデレにさせる。
「おはようございます。キジャさん、ベスちゃん。と?」
「俺⋯⋯ベルフ⋯⋯よろしく⋯⋯」
「よろしくお願い致します」
騎士風のベルフさんと握手をした。とても大きな手をしているね。ゴツゴツしていて、皮膚が岩みたいに硬くなっている。
「良い⋯⋯手だ⋯⋯」
「ありがとう⋯⋯ございます?」
この人タメが長いよ。僕も移っちゃった⋯⋯よ⋯⋯
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! この三人だけなんですか!?」
僕達を見ながら、兵士さんが顔を赤くしながら叫んだ。ちょっと待って下さいよ! ビビもいるんですよ?
多分ビビは、魅了で自分の存在を空気みたいに感じさせているんだろうね。
「⋯⋯確かにアークとベスは小せえ。二人共真っ平らだ」
「おいクソ髭⋯⋯今の言い方おかしかないか? おい──」
「だが! 実力は申し分ねえ。襲われた場所を説明してくれ」
キジャさんがベスちゃんをスルーしながら地図を広げた。
「Bランク冒険者とはそこまでの実力があるんですか!? 敵は化け物ですよ!?」
「勿論だ。Cランクの冒険者じゃ準備に時間がかかるが、Bランク冒険者ならすぐに戦える。多分その亜竜はマグニリムリザードだ。三人いれば一人一匹ずつやれば良い計算だぜ」
まずマグニリムリザードという魔物の説明をしてもらった。僕は名前を聞くのも初めてだけど、ベスちゃんもベルフさんも戦ったことがあるらしい。
普段は地面の下を溶かしながら進む高熱の亜竜で、サラマンダーに近い特性を持っているそうだ。
見た目は焦げ茶色で、ブレスは一万度を超える場合もあるという。角が光るとブレスをするらしいので、その前に倒すのが良いんだって。弱点は水系の魔法で、それを喰らわせれば行動が極端に遅くなるそうだ。火系統の魔法は吸収するから、目とかに撃ち込んでも駄目らしい。
本来は魔力を食べて生きているため、肉食ではなくこちらから襲わない限りは無害なんだって。でも進路上の全てを焼き溶かしてしまうため、この町に迫るなら放っておくわけにもいかないそうだ。
「さっきはこの場所にいました。そしてそこから真っ直ぐに此方へ向かっています。それで⋯⋯その、食べられた兵士は助かるでしょうか?」
「希望を持たせてやりてーが⋯⋯無理だな。食われたら俺だって死ぬかもしれん。体の中で灰も残らねえだろうさ」
「そうですか⋯⋯良い奴等だったんですよ⋯⋯」
「そうか⋯⋯残念だ。後は任せろ」
「はい。よろしくお願いします!」
兵士さんの気持ちを受けて、僕は頑張ろうと気合いを入れた。仲間が目の前で食べられるのを見て、辛くならないわけがない。
「頑張ります!」
兵士さんの目を見ながら、僕はしっかりと言ってあげる。
*
ベルフさんの走る姿が、僕の目に焼き付いて離れない。あんなに必死な顔で走る大人は、そうそう見ることないよ。
「頑張って〜! ベルフさーん!!」
きっと重そうな鎧のせいだろう⋯⋯僕はベスちゃんにおんぶされて空を飛んでいる。ビビも後ろをすいすい飛んでついてくるね。
「大⋯⋯こひゅー⋯⋯丈夫⋯⋯だ⋯⋯こひゅー⋯⋯こひゅー⋯⋯」
ベルフさん⋯⋯心配だな。僕は気配拡大感知で警戒しながら、ベルフさんを何度も空から見下ろした。
ん? あ⋯⋯!
「ッ!!! いた!! あの丘の向こう側に敵がいるよ!!」
「ほう。この距離から見つけるとは、成長したなアーク」
「いた⋯⋯こひゅー⋯⋯か⋯⋯こひゅー⋯⋯」
三つの大きな反応を捉え、全員に聞こえるように声を出す。だけど何かが妙だ。異常な魔力の高まりを感じる!?
「べ、ベスちゃん! ブレス来るかも! ベスちゃん!」
「ちょ、アークぅ⋯⋯そこは⋯⋯んん、優しく触ってくれ⋯⋯」
「何言ってるの!?」
やばい! やっぱりブレスを放つかもしれない!
「“テンペストウィング”!!」
僕だって急上昇くらいは出来るんだ! テンペストウィングの魔法を唱えると、背中から暴風を伴う白い翼が大きく空に広がった。それをひとおもいに羽ばたかせて、ベスちゃんを掴んで強引に引っ張り上げた瞬間──
──ゴガアアアアアアアアァァァ!!!
眼前から迫る三本の極太な光が、全てを焼き尽くすかのように地面を舐め暴れる。
そんな⋯⋯こんな筈じゃ⋯⋯
僕とベスちゃんとビビは上空に退避することが出来た。でもベルフさんは避けれずに飲み込まれていたように見えたんだ。
「ベルフさーーーん!!」
溶けた地面が地平の彼方まで続いている。あれに巻き込まれたのなら、大変な事になっているかも!
ベルフさんはどうなったの!?




