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魔法使いになるの。初めての迷宮




side モカ



 私はね、将来魔法使いになるんだよ? 魔法が使えるようになったらね、あの日みたいにサラお姉ちゃんを置いて逃げなきゃいけないことにならなかったもの。


 本当に私は弱かったの⋯⋯自分では何も選べなくて、マーズお姉ちゃんに手を引かれて逃げたんだ。

 マーズお姉ちゃんも辛かったのに、私のせいで全部背負わせちゃった。


 何でもっと考えてあげられなかったのかな? オークはとっても怖かったけど、恐怖よりも見なきゃいけないことがあったのに⋯⋯


 オークに捕まってからのことは、良く覚えていない。マーズお姉ちゃんが殴られたショックで、気が動転してたんだと思う。

 引きずられるマーズお姉ちゃんに、私は必死で声をかけていた。それしか出来なかったんだ⋯⋯私を掴むオークの手が、万力のような力で何をしても外れなかったから。


 遠くにオークの集落が見えて、食べられてしまうと思って悲しくなった。想像してまた恐ろしくなった。


 でもなんだろう? オークの集落には大きな肉の山が出来上がっていた。それを見て怒り狂うオーク達。私を握る手にも力が入ってきた。


「せっかく⋯⋯逃がしたのに⋯⋯マーズぅ、モガぁ⋯⋯」


 お姉ちゃんだ⋯⋯サラお姉ちゃんだ⋯⋯私は涙が溢れてきた。

 ごめんね⋯⋯ごめんね⋯⋯せっかく逃がしてもらったのに⋯⋯捕まっちゃってごめんなさい。


 サラお姉ちゃんも泣いていたんだ。目が真っ赤になっていた。その時の光景を思い出すと、今でも体が震えちゃうんだ。


 だけどそんな時、空から何かが降ってきた。焦げ茶色の動く何かが、オークの顔に取り付いて離れない。

 私はオークに振り回されて、痛いって思っていたら急に腕を離される。

 私は自由になれたんだ。自由になれたけど、何をして良いのかわからなかった。

 呆然と立ち尽くしていると、右手が冷たい物に包まれる。


「何?」


「んぱあ。まむむ!」


「え?」


 そこには小さな泥人形がいて、私の手を引っ張っていく。私は強く引っ張られて、されるがまま走っていった。理解が出来なかったけど、そうしなきゃいけないと思った。でもふと思い出す。サラお姉ちゃんを助けなきゃいけない!


「離して」


「んまむぅ?」


「離して!!」


 助けてくれたのはわかっていた。でもまだ逃げちゃ駄目なんだ。私はお姉ちゃんを助けたいの!


 手を振りほどいて、私は集落に駆け戻る。


「ま! ま! まむぅ!」


 土の人形も私を止めようと追いかけて来た。でもごめんなさい。わかっているけど⋯⋯わかっているけれど、サラお姉ちゃんの顔を見ちゃったら、もう戻らないわけにはいかないの! あんなに辛そうな顔をしていたんだから。

 何も出来ないかもしれなかった。それでも私は戻りたかった。例え助かったとしても、誰かが欠けた家なんて嫌なんだから!


 必死になって戻って来てみたら、そこでは異常な事態が起こっていた。青い光が舞い飛びながら、オークを次々に斬り裂いていく。

 よく見ればそれは男の子だった。青い光を放ちながら、恐ろしい勢いで黒い剣を振るっていた。


 かっこよかった⋯⋯綺麗だった⋯⋯私もあんな風に戦うことが出来たら、お姉ちゃん達を守ってあげれたんだ。


 こうして私達は救われたのよ。何度も何度も思い出しちゃうの。冒険者ギルドって所まで連れて行ってもらって、家族皆で助かったことを喜んだ。こんなに泣いた日は初めてだったと思う。


 冒険者ってなんだろう? 冒険者になれば、あの人みたいに強くなれるのかな?

 家に帰ってからも、気になって気になって仕方がない。もう一度会いたいって思った。でも名前しか知らないの。

 あの人はアーク様⋯⋯きっと住む世界が違う人。でも会いたくて我慢出来なくなって、私は冒険者ギルドに行ってみた。


 冒険者ギルドには、沢山の大人の人達がいた。私がキョロキョロ周りを見ると、目が合った人が後退る。


 アーク様は何処? 居ないの? もう会えないのかな?


 おめかしして来たんだよ。黄色いワンピースなの⋯⋯マーズお姉ちゃんのお下がりだけど。

 奥へ入って行くと、やっとアーク様を発見した。


 良かった。やっと見つかったと思い、嬉しくなってアーク様に抱きついた。


「え? モカちゃん?」


「っ!!」


 アーク様は不思議そうに私の名前を呼んでくれた。覚えていてくれたことが嬉し過ぎて、何を言ったら良いのかわからずパニックになってしまう。


「クックック⋯⋯アーク。抱きしめ返してやらんとだぞ」


 この人はベスちゃんってアーク様から呼ばれていた人だ。アーク様に無理矢理キスする悪いお姉さん。私は許さないんだからね! 怒っているのよ?


「えと、こうかな?」


「っ!!!!」


 アーク様が私を包んでくれた。両手が背中に回されて、キューッて! キューッてぇ! やっぱりベスちゃんお姉さんは許してあげる。私今幸せなの。


「もしかして、まだ怖い? 大丈夫?」


「アーク様⋯⋯」


 アーク様が私の頭を撫でてくれる。ずっとこのままでいたいなーって思った。


「僕が⋯⋯様?」


「私も呼んでいいか? アーク様ぁ?」


「じゃあベスさんって呼んじゃうよ?」


「っ!!! そ、それは嫌だ! アークぅ」


「なーにベスさん」


「っ!!!!」


 二人の会話はちょっと親しそうでモヤモヤする。私のアーク様なんだからね!


「モカちゃん」


「はい」


「ちょっと離れよ?」


「⋯⋯」


 それは嫌なの。私は首を振って抵抗した。


「アーク惚れられたな?」


「ベスさんまだ居たんですか?」


「っ!!!!」


 アーク様が温かい。離したらどっか行っちゃう気がするから離したくない。でもアーク様困ってる。困らせるのは駄目だよね? 私我慢するよ。


「僕の名前は呼び捨てで良いよ」


「呼び捨ては⋯⋯」


「じゃあ、君付けは?」


「アーク君?」


「そう。流石に様付けは変な気分なんだ」


「わかり⋯⋯ました。アーク君」


「それが良いね。モカちゃんは何しに来たの?」


「アーク君に会いたくて来ました」


「うーん。でもここは冒険者ギルドだからなー。別の所へ行こうか」


 アーク様⋯⋯アーク君が私の手を握ってくれた。それがとても嬉しかった。

 見ていただけじゃわからなかったけど、アーク君の手はマメだらけになっている。


 凄いんだなー。こんなになるまで私は何かをしたことないよ。アーク君は本当に凄いんだね。


「アークぅ。私を置いて行かないでー」


「ベスちゃんは反省」


「うぅ⋯⋯」


 それからはアーク君に遊んでもらえるようになったんだよ。ギブ君も紹介してもらって、マーズちゃんも一緒に遊んだりしたの。

 サラお姉ちゃんは家のお手伝いがあるから来れないけど、アーク君にもう一度ちゃんと御礼が言いたいなって言ってたよ。


 アーク君に魔法を見せてもらって、今はギブ君の家で毎日訓練をしています。

 マーズお姉ちゃんもギブ君も魔法を覚えたくて頑張ってる。アーク君が言っていた事はちゃんとメモしているからね。


 そして今日もマーズお姉ちゃんとギブ君の家に向かいます。

 私、魔法使いになるんだよ。魔法使いになって、サラお姉ちゃんが何回オークに捕まっても良いように強くなるの! 私の決意をサラお姉ちゃんに言ってみたら、捕まる前に助けてだって。


 ギブ君の家に到着すると、お店が今日も繁盛しています。ギブ君のお父さんのバススさんは、お店と鍛冶場を行ったり来たりして忙しそう。


 あれ?


「アーク君の匂いがする⋯⋯?」


「え?」


「アーク君がここにいたの!」


「そうなの?」


「多分ここでベヒモスモードって言ってたかも! そんな気がする?」


「そこまで!?」


 ちょっとモヤモヤします。何でだろう? アーク君に会いたいなー。でも早く魔法覚えなくちゃね。



side アーク



 迷宮の大きな扉の前に立った。改めて近くで扉の表面を見ると、色々な魔物が描かれている。


 迫力がある⋯⋯僕は深呼吸をしてからビビの手を握った。いつもひんやりしてて気持ち良い。


「ふはは。何緊張しているんだ?」


「いいじゃん⋯⋯初めてなんだからさ」


「心配しなくても大丈夫だ」


「⋯⋯そだね」


 ビビの手を握ったまま、僕は扉に手を触れた。その瞬間、視界が真っ黒に染まった。転移させられているんだろうね。

 初めての感覚で驚いたよ。ここを警備している冒険者さんが、扉に触れるとどうなるのかを教えてくれていた。


 そして闇が払われると、目いっぱいに光が飛び込んでくる。その光を右手で遮りながら、爽やかな向かい風を体に感じでいた。


「凄いね」


「こんなもんだろ?」


 景色が一瞬で切り替わり、眼前には大きな湖が映し出される。迷宮の中だと言うのに、まるで外にいるかのように感じた。太陽があり、大空がある。


 なんて夢のある場所なんだろう⋯⋯遠くには高く(そび)える山があって、その頂上の噴火口に第二階層の門があるらしい。


「急いでも第二階層まで半日はかかりそうだよ?」


「それは私達での話だろ? 普通の奴らなら三日くらいかかるんじゃないか?」


 こんな凄い空間が広がっているなんて、走って通り抜けたら勿体ないね。


「不思議だなー。こんなに広いなんて」


「第二階層を見つけるのに半月かかったらしいからな」


「今一番進んでる冒険者パーティーが四階層だっけ?」


「そう聞いた。だから迷宮には転移魔法陣を設置するんだと」


「何階層まであるんだろうね」


「わからないな。だが迷宮ってのはこんなもんさ。町に迷宮専門の大手クランが来るって話もあるらしいぞ」


 本当に、迷宮フィーバーが凄いんだ。何も無い田舎町だったのに、迷宮が発見されてから活気に溢れているよね。

 大手クランってどんな人がいるのかな? 冒険者仲間みたいな人達なのかな?


「何で迷宮専門なんだろうね。僕も迷宮にはトライしたいけど、毎日屋敷に帰らなきゃ怒られちゃうから」


「私が魅了を使うか? 誤魔化せるぞ」


「それは駄目。心配してくれているのにそれをしたら裏切りだよ」


「それもそうか」


 なんにせよ、今日は一階層で魔装ベヒモスの試し運転だ。無理して二階層に向かう予定はない。

 五階層まで攻略が進んだら、転移魔法陣を設置するんだって。使用は有料らしいけど、その価値は十分にあると思う。


「ベヒモスモード!!」


「それ毎回やるの?」


 僕はベヒモスモードに変身すると、ビビの手を握って歩き始めた。


 第一階層は綺麗だなぁ。自然に溢れる場所みたいで、当たり前かもしれないけど道らしい道は無いみたい。

 帰り道をしっかり覚えつつ、湖のほとりを歩いて行く。


「兎がいるよビビ!」


「いるな」


「ゴブリンもいる!」


「ああ」


「はい、じゃあお昼にしようか」


「この流れでか? ベヒモスを起動した意味はあったか?」


 僕とビビは綺麗な湖のほとりに座り込んだ。平たい大きな岩をテーブルにしてお弁当を広げる。あ〜⋯⋯今日も楽しくなりそうだなぁ。






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