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領主様との邂逅





 モカちゃんとマーズちゃんが、武器屋バスス店の中に入って来る。その顔はやる気に満ちていて、目がキラキラと輝いていた。


「アーク君だ! アークく〜ん」


「おはようございますバススさん。アークもいるのね。おはよう」


 二人に小さく手を振ると、モカちゃんが僕の手を捕まえてくる。その顔はニコニコしていて、元気いっぱいって感じがしたよ。

 最近会えなかったからか、とっても距離が近いんだ。体もピッタリ寄せてくるから、つい頭を撫でちゃったよ。


「二人共おはよう」

「よう来たの」


「ふへへ。アーク君何してたの?」


 モカちゃんのキラキラした瞳に射抜かれる。その目は僕の何を見ているのだろう。ちょっと不思議な感じがしたけど、とても綺麗な瞳だと思うんだ。


 もっと撫でてと要求してくるように、今日のモカちゃんはグイグイくるね。勿論撫でてあげるよ? よしよーし。


「僕は武器をバススさんにお願いしに来たんだ」


「そーなんだ。アーク君は大人だよねー」


 わ、わかってるね! 流石モカちゃんだよ!


「使う額が洒落にならんが⋯⋯」


 バススさんが何か言ってる⋯⋯僕だって金銭感覚がおかしくなってる気はしてるんだけどね。でもBランク冒険者なら有り得る額だと思うよ。


「アーク君次いつ遊べるの? お仕事あるの?」


「今日はもう予定終わっちゃったんだよね。だから──」


 ──カラン。


 僕の言葉を遮るように店の扉が開かれた。気になってそちらに顔を向けると、ミラさんがキョロキョロしてから僕を発見する。


「アークちゃん。ちょっとギルド来てくれない?」


「え? どうしたの?」

「アーク君⋯⋯誰この⋯⋯綺麗な人」


「え? この人はミラさんっていって──」


「ちょっと時間ちょうだい。多分すぐ終わるから」


「ミラさんちょっと待って」

「アーク君!」


「モカちゃんもちょっと⋯⋯」


 なになに? 急でちょっと混乱するよ? ミラさんもいきなり過ぎる。まずはモカちゃんにミラさんを紹介して、ミラさんにここへ来た理由を聞くのが良いのかな?


「また戻って来れば良いから。さ、早く行くよ」


「え? ちょっと待って、あ〜」


 ミラさんに抱き上げられて連れて行かれる。モカちゃんは何故かショックを受けた顔になってた⋯⋯


 なんだかいきなりで慌ただしいな。仕方ない⋯⋯今度落ち着いた時にミラさんを紹介してあげよう。

 僕の大好きな人なんだって言えば、きっと皆もミラさんを気に入ってくれるよね?



side バスス



 今のは何だったんだ? いや、わかってる。冒険者ギルドの受け付け嬢だろう。

 えらい綺麗な人だったな。長い綺麗な亜麻色の髪にあの顔だろ? 趣味には合わんが、人族にはモテそうな顔をしておったわ。


 でも流石に店に入ったら、店主にくらい声かけてくもんだろうが。まあ気にしちゃいないが、“コレ”どうするよ⋯⋯


「アーク君が⋯⋯アーク君が⋯⋯」


 涙顔になっているモカちゃんを置いて行きやがって! こういうのには耐性がねーんだよな。ギブも俺と同じだろう。


「あの女はなんなのよ!」


「アーク君がぁ〜⋯⋯取られちゃった〜⋯⋯うわーん⋯⋯」


「⋯⋯」


 アークはただ仕事で連れて行かれたんだろう? って言って五歳の女の子が理解するか? そんな事を考えてるうちに、モカちゃんが号泣しておる⋯⋯


「うぅ〜⋯⋯アークく〜ん⋯⋯」


「よしよしモカ。アークはきっと戻って来るわ! それまでに女を磨くのよ!」


「うわーん⋯⋯」


 ナニコレ⋯⋯女を磨くとか何処で覚えてきたんだ? マーズちゃんは確か八歳じゃったか? もう九歳じゃったか?

 とりあえずアークよ。早よう戻って来んかい!


「何事!?」


「ギブ⋯⋯頼んだぞ」


「え?」



side アーク



 道中ミラさんから説明を受けた。どうやら冒険者ギルドで、領主様が僕に面会を求めているらしい。

 でもそれって屋敷で良くない? 領主様に会うのは初めてだなぁ。


 きっとスタンピード関連の話なのかもしれないよね。礼儀作法しっかり出来るかなー?


 ギルドに到着すると、ミラさんがやっと降ろしてくれた。


「応接室よ。わかるわね」


「はい。キジャさんの部屋の隣りですね」


「ケーキは何が良い?」


 ケーキは何が良い!? そ、そんな素敵な言葉があるなんて僕知らなかったよ。


「チョコケーキッ!!!!」


 おっと、返事に気合いが入り過ぎちゃったみたい。

 ミラさんがくすくす笑いながら離れて行く。僕はゆっくり階段を上がった。


 部屋の前で一呼吸おく。従者はいつも余裕がなきゃいけないのです。ミト姉さんがいつもそう言ってるからね。


 ──コンコン。


「アークです。ただいま参りました」


「入れ」


 部屋の中からキジャさんの短い返事が聞こえてきた。扉を開けて中に入ると、手前にキジャさんがいて奥に領主様っぽい? んー、平民っぽい姿の人がいた。


「失礼します」


「おう。隣りに座れ」


「はい」


 キジャさんは平常運転っぽいな。領主様の前だからって気を使っているようには見えない。それにしても本当に普通の服だ。貴族様はもっと豪華な服を着てると思ったんだけどね。


 一応領主様に一礼をしてから席に座った。

 こういう時どうすれば良いの? まず僕から自己紹介するべき? とりあえず挨拶して大丈夫かな? それとも「呼びましたか?」⋯⋯って言う? 流石に違うかな。

 わからなさ過ぎる⋯⋯どうしたらいいの? 助けてサダールじいちゃん! 今こそ僕に憑依して!(存命です)


「君がアーク君かい?」


「はい!」


 領主様から話しかけてくれたよ。僕は緊張で声が上ずってしまう。

 あわわ。次はなんて話せば良い? 本日はお日柄も良くケーキ食べたいですね? ⋯⋯違うと思う。何かが違うぅ!


「緊張しすぎだぞアーク」


「キジャさんは普通ですね! ケーキまだですか?」


「はっはっはっは」


「っ!!!」


 キジャさんの言葉に返事をしたら、領主様から笑われてしまった。


 失敗した⋯⋯本当に⋯⋯緊張しちゃってどうしたら良いかわからないよ。


「アーク君は強いんだってね」


「まだまだですが、頑張っています!」


「五歳でBランク冒険者になったそうじゃないか。謙遜しなくてもいい」


「はあ」


 な、何とかギリギリ会話してるよ! ケーキまだぁ? もう僕全部出し切った気がするんだ。


「一応自己紹介しておこうか。私はセルジオス・ラム・ガルフリーだ。よろしくねアーク君。スタンピードでの活躍の話も聞いた。町民を、街道を行き交う人達を守ってくれてありがとう。君のお陰で多くの民が救われた。感謝するよ」


「とんでも御座いません。本当にギリギリでした」


「はっはっはっ。君は加護でも授かっているのかい?」


 今日二度目の質問だね。勿論僕には加護なんてないよ。強いて言うならば⋯⋯


「僕に神様の加護はありません。ですが、僕を大事にしてくれる人達が、この町に沢山いるのです。それがなによりの加護だと思っております」


「はっはっはっはっは。凄いなアーク君は。何処かで礼儀作法でも習っているのかい?」


 あれ? 領主様って僕の事知らないの? んー?


 あ、わかった! 僕が領主様の一家に紹介されるのは、十歳になってからの決まりだもんね。だから知らないフリをしてくれてるんだ。多分。


「はい。礼儀作法は頑張っています」


「そうかそうか。前に魔導兵の時も活躍してくれただろう? あの時は謝礼金だけになってしまって悪かったね。沢山の家が燃えてしまって、代わりになるテントの用意だとかで忙しかったのだよ」


「もっと被害を減らせれば良かったのですが、力が足りずに申し訳ございません」


「いや、あれは災害級の敵だったと聞いている。災害級と言えば、あのイノシシも凄かったね! 名前なんて言ったっけ?」


「フォレストガバリティウスです」


 領主様の問いにキジャさんが答えた。存在感の消えていたキジャさんが浮上してきた瞬間だ! もっと援護してくれても良いんですよ?


「それそれ! あんなにデカいイノシシ初めて見たよ」


「ありゃあデカいだけじゃないんですよ。Cランクの中ではかなり上位の魔物でして、硬いし魔法も強いから全滅なんて話もよく聞きます」


「ほぉ」


 領主様の好機の視線がまた僕に戻って来る。キジャさんは領主様の興味を僕に集めるだけ集めて、自分の存在感を海の底に沈める気満々だ。

 キジャさんは策士⋯⋯メモっておかなきゃ。


「あのイノシシを見てからね、うちの娘が大はしゃぎしていたんだ。私も剣振るんだーって言って、兄のキースを困らせていたよ。やっぱりあれは強かったかい?」


「と、とても強かったです。魔法が雨のように降ってきて、その一つ一つが中級魔法並の威力がありました」


「おおお! そういう話が聞きたかったんだ! もし良ければ、君の戦いを本にしてもらえないだろうか?」


「ええ? 僕の戦いですか?」


「ああそうだ。娘の誕生日が近くてね、是非プレゼントしてやりたいんだ」


 えと⋯⋯ど、どうしよう。どうしたらいいですかキジャさん! あー! 寝たフリしてるー!! うぅん⋯⋯困った。自分で自分の活躍書くの? なんかヤダかな。でも⋯⋯領主様は娘に喜んで欲しいだけだし⋯⋯はぁ〜書いてみるしかないのかな。


「畏まりました」


「ありがとうアーク君」


「領主。肝心の話が進んでないです」


 キジャさんがタイミング良く復活する。肝心の話って何だろうね。


「ふむ。そうだな。まずあの変態男を捕えてくれたことに礼を言うよ。大手柄さ」


「はあ」


 変態男って? もしかしてあの襲ってきた人のことなのかな? それしかなさそうだ。


「迷宮も発見してくれて、その後スタンピードまで止めてくれた。これ以上の喜びは無いさ。そこでアーク君には謝礼金を支払いたいと思う。金貨100枚を受け取ってくれ」


「ええ! そんな、大丈夫⋯⋯」


 大丈夫なんですか? って言いそうになった。だって領主様ってお金持ってないって聞いてたからさ。でも心配なんかしたら流石に失礼かもしれないよね!?


 僕が途中で止めた言葉の意味を、領主様はすぐに理解したのか下を向いて笑っている。

 ごめんなさい。わざとじゃないんです。


「大丈夫も大丈夫! これから領は潤うさ。アーク君が見つけてくれた迷宮があれば、金貨100枚くらいどうってことない。それにあんなに大きなイノシシを狩るくらいだ。金貨100枚くらい見慣れてるだろう?」


 金貨100枚は100万ゴールドだ。見慣れているかどうかで言えば、確かにそうかもしれないけど⋯⋯僕はそんな大金を実物として見たことがない。ギルドカードの数字としてなら見てるけど、いきなり出されたら驚きますよ。


 重そうな革袋がテーブルにドンと置かれる。中身を見たいような見たくないような⋯⋯


「ちょっと色はつけておいたよ。これからしばらくの間机にしがみつかなきゃいけない。ドラグスも拡張しなければいけないな」


 どうやらドラグスは生まれ変わるらしい。領主様が色んな計画を話してくれる。

 迷宮の扉はギルドで管理をして、そこから持ち帰った物は、基本的にギルドで買い取るようにする。そうすれば税金も沢山稼げるもんね。

 町も大幅に拡張するため、外から大工や魔術師を沢山雇うそうだ。


 他にも色々話してくれたんだ。荒くれ者も集まるだろうから、息抜きのために闘技場を作るんだって。豪華な宿やレストランも作るそうだ。オペラハウスとか演劇の舞台とか、この町に無かった娯楽を取り入れるらしい。


 そう話す領主様はとても楽しそうだった。普段忙しいって言っても、お喋りして息抜きくらいしたいよね。まさか僕が領主様と雑談する日が来るなんて思わなかったけど。


 出されたチョコケーキはとても美味しくて、勿体ないからちょっとずつ食べた。キジャさんのケーキも隙あらば⋯⋯収納しよう。


「本はいつまでに用意したら良いですか?」


「来月までに書けるかい? ギルドマスターに渡しておいてくれれば良いからさ」


 そうだよね。家で渡すわけにはいかないもんね! まだ十歳になってないのだから。

 領主様は拘るんだね! ふふふ。


「大丈夫です。面白くは書けないかもしれませんが、正確に書かせていただきます」


 領主様と握手をしてその日は別れた。帰りにバススさんの所へお邪魔すると、モカちゃんが半泣きでべったりくっついて来る。

 何かあったのかな? よしよしよーし。








ちょっとモカちゃんをプッシュしておこうかと⋯⋯



実はメインヒロインはまだ出て来てなぃ⋯⋯ゲフンゲフン。

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