迷宮都市ドラグスへ、ランクアップ
夕陽を眺めながら、僕達は町へ歩いて戻ります。
ベスちゃんに肩車をされているので、ターキよりちょびっとだけ視線が低い程度です。
そう言えば、また魔物を大量に持ってきちゃったな。フォレストガバリティウスの場所になら、全て出し切れると思うんだけどね。
メタリックなゴーレムはバススさんの所へ持って行けば良いかなー? 体が金属だから使えると思うんだ。
ゴブリンは全部置いてきたけど、無限収納の中は凄いことになっているよ。
その前に冒険者ギルドの新人さんになんて言おう。約束したんだけど⋯⋯助けられなかった⋯⋯悔しい⋯⋯父様や母様なら皆助けちゃうのになぁ。何で僕はこうなんだろぅ⋯⋯
キュッと手を結んでいると、下からベスちゃんの手が伸びてきた。僕の握りしめた手を包んで、そっと揉みほぐしてくれる。
「アークは理想が高すぎなんだ。でもアークならいつかなりたい自分になれるかもしれない」
「本当に?」
「アーク次第さ。私も手伝う」
「ありがとうベスちゃん」
「ふふふ。手伝ったらちゅーしてくれるか?」
「イヤかな」
「ッ!!!!!」
ベスちゃんの頭を撫で撫でする。水色の綺麗な髪の毛が、夕陽を反射させて輝いて見えた。
ベスちゃんは綺麗で可愛いなぁ。
「うぅ⋯⋯アークぅ」
「たまになら⋯⋯ん〜⋯⋯やっぱり駄目」
「ッ!!!!」
町が見えてくると、物々しい警戒体制になっているのがわかった。塀の向こう側に、沢山の頭が見え隠れしている。
きっと塀の向こう側には台を設置してあるのかもね。その上に弓を構えた兵士さんや冒険者の人達が立っていて、魔物が攻めて来ても良いように見張っているのかも。それでこっち側からも顔が見えているんだね。
僕達の無事な姿を確認した兵士さん達が、その意味を考えてホッとした顔をしている。
「ベスちゃん降ろして」
「なんだアーク。恥ずかしいのか?」
ん〜⋯⋯そう言われると、
「そうかも。恥ずかしいのかも。今とっても降りたい気分なんだ。ベスちゃんと一緒だから恥ずかしいのかな?」
「それは違う! 絶対に違う!!」
「そうかなー?」
素早く地面に降ろしてもらうと、確かに恥ずかしさは無くなった。ベスちゃんのせいじゃなかったみたいだ。手を繋いでも大丈夫。
リフレさんが代表をして、南西門を守る兵士や冒険者さん達に説明をする。
とりあえずスタンピードの脅威が無くなったこと、一応半分の冒険者が現場に残ったこと、迷宮で何かあればすぐに報せが走って来ること、これからギルドで同じ説明をすることなどを話していた。
おじいちゃん兵士のタイラーさんも、無駄に濃い皺と強い眼力で話を聞いていたね。
僕は先にターキとベスちゃんを連れてギルドへ戻った。ギルドの中はほとんど誰もいなくて、煙草の煙も無くなっていた。ミルクさんはいるけど⋯⋯そのお陰なのか、すぐにあの人を見つけてしまった。
「あ」
「アークちゃん」
新人受け付け嬢さんと目が合い、自然と距離が近づいていく。どうしたらいい? 普通に話すしかない? 何も言葉が思いつかないまま、僕の顔がぽふっと受け付け嬢さんのお腹にぶつかった。
「アークちゃん⋯⋯」
「ごめんなさい」
「良いの。聞いたよ⋯⋯ありがとう。探してくれたんだよね」
「約束したのに、助けられなかった」
またあの時の感情が蘇ってくる。涙を堪えて受け付け嬢さんの顔を見た。そこには僕と同じような表情の顔がある。
「シェリー、こっちへ」
「ミラ先輩⋯⋯」
「アークちゃんもおかえり。すっごく心配したんだからね」
「ただいま」
三人で静かに抱き合う。辛い時は抱き合うと落ち着くよ。
ミラさんに連れられて入った部屋で、冒険者さん達を収納から取り出した。
シェリーと呼ばれた受け付け嬢さんは、帰ってきた皆の名前を呼びながら、一人一人におかえりを言う。
とても気持ちのこもったおかえりだった。僕はそれを見ながら涙が零れてしまう。
我慢出来なかったんだ⋯⋯どうしても助けたかったから。
ミラさんが膝を折って、僕の体を抱きしめてくれる。必死に堪えていたものが、声になって溢れ出した。
シェリーさんも一緒になって泣いたんだ。僕達が泣き止むまで、ミラさんがずっと背中を撫でてくれたんだよ。
*
明日には全員家族の元へ返されるそうだ。ショックが少ないように少し綺麗にしてから、荷物を分けたりするんだって。
「皆が帰って来れたのはアークちゃんのお陰よ」
「⋯⋯うん」
「ありがとう」
「うん」
シェリーさんは辛そうにしながらも、最後には笑って見せてくれた。
僕に出来るのはここまで、ここからはミラさんにお願いしよう。また何かあれば、次こそは必ずやり遂げるんだ。僕は父様や母様みたいになるんだから。
決意を新たにして、キジャさんの部屋の前に立つ。中からベスちゃんとターキの話声が聞こえてきた。
一応ノックをしてから中に声をかけると、キジャさんが笑顔で迎えてくれる。
「見たかベス。これが正しい部屋の入り方だ」
「流石アークだ。こんなゴミ溜めにまで礼儀を尽くすとはな」
「あ? そのゴミ溜めのテーブルにいつも顔擦り付けてたのは誰だ? テーブルが更に汚れちまっただろ」
「あ?」
「はいはいストップです。今後の話をしましょう」
僕がいないうちに、ターキが母様ポジションを確立していた。僕はいつも二人を放置するから、放任主義の父様ポジションかな?
僕とターキは今日の出来事を順に説明していく。森で手がかりを探していた時に缶詰を見つけたこと、その後ゴーレムに手を引いてもらい魔術の囲いの中に侵入出来たこと、その時に手に入れた缶詰を少量テーブルに出す。
「こいつは⋯⋯海の魚か⋯⋯と言うと⋯⋯ふむ。なるほどな」
「え?」
「こっちの話だ。これは良い情報だぞアーク」
キジャさんは一人で納得して狡いよね! 僕に教えてはくれないみたいだし、渋々諦めることにしたよ。
ベスちゃんが座っているソファーの隣へ腰掛ける。
泣いたばかりで目が赤かったからか、ベスちゃんが目元にちゅーしてくるんだよ? 止めて欲しい。
それから迷宮の扉を見つけ、変な男から奇襲を受けたことを話す。戦闘の途中で遺体を取り出してきたことも話した。
僕が混乱しているうちに、体を乗っ取るようなスキルを使ってきたことも話し、朝の大まかな説明はだいたい終わったと思う。
それからターキと合流して昼食を食べ、帰ろうとした時に謎の声が聞こえたことを話す。その後の説明はターキが話をした内容と同じだ。
「とりあえずアークは良くやったな。とんでもないお手柄だぞ? ターキも良く頑張ってくれたな。二人にはランクアップと、ギルドから10万ゴールドを支払おう」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!!」
10万ゴールドと聞いて、ターキは目を見開きながら勢いよく頭を下げた。きっとテーブルに瓦があれば粉砕していただろうと思う。
「しかし、俺も宜しいのでしょうか? 師匠に着いて行っただけですし⋯⋯」
「はっはっは、ターキの働きも申し分ねーよ。犯人を連行して危機を報せてくれただろ? ターキのお陰ですぐに動くことが出来た。だがランクが上がったからって無茶はすんなよな? それが実力とは思わねーこった」
「勿論です! ありがとうございます!」
「とりあえずターキはDランク。アークはBランク⋯⋯か⋯⋯はえーなぁ」
確かに早いかも。ターキが三月にギルドに来てからもう七ヶ月が経つね。僕もいつの間にか八ヶ月も経っていたんだな。
「これからこの町は賑やかになるぞアーク。なんたって迷宮が発見されちまったからな。アークはまた領主から金一封が出されるだろう。迷宮発見とスタンピードで大活躍だったんだからよ! はっはっはっは! 噂が広まれば直ぐに冒険者共が集まって来る。それにあやかりたい奴らも沢山来るぞ。町は数年で大きく発展するだろう。これからどんどんデカくなる! 大きな宿場も沢山必要になるだろうな」
「そんなにですか?」
「ああ。領主も無能じゃねえ奴だ。これを機に上手くやるだろうな。そうすればこの町は⋯⋯いつか迷宮都市ドラグスと呼ばれるようになるだろう」
「迷宮都市!! かっこいいですね!」
この町が迷宮都市⋯⋯凄いなぁ。もうただの田舎町じゃなくなるのかな。
「そしたらベスちゃん一緒に迷宮行けるね」
「ねー」
「⋯⋯ババアが、ねーって鳥肌立つわ」
「あ? 何か言ったか?」
「まあまあ落ち着いて下さいよ。町が潤うのは良いことですよね」
ターキは二人を宥めながらニコっと笑った。
やっぱりターキは母様ポジションだよ。大黒柱の僕は黙るしかないね。
「良いことだな! ターキはそろそろパーティーを探せや。お前の持ち味はソロより集団戦だろ?」
「あはは。元々Dランクになったらメンバーを探そうかと考えてはいたのです」
「そうか。ターキがリーダーでDランクを集めれば、いつかCランクに上がれる筈だ」
「俺がリーダーですか?」
「お前のポジションは司令塔だからな。それが一番上手くいく」
それからもキジャさんとターキで話し合いというか雑談が続いた。僕は家に帰る時間になり、ミラさんから新しいギルドカードをもらう。
新しいギルドカードは純金製みたいに輝いているよ? Aランクになるとどんなカードになるんだろうね。ちょっと楽しみだ。
*
ベスちゃんの引き止める声を躱して、僕は真っ直ぐ家に帰りました。ミト姉さんが食堂で出迎えてくれたので、とりあえずバフっと抱き着いてみる。
今日は色々あったから、いつもより安心するなぁ。
「ただいま帰りました」
「おかえりアークちゃん」
「皆は?」
「今日は迷宮が発見されて忙しいの。アークちゃんのお父さんは兵士と町を巡回しているわ。お母さんはアーフィアちゃんとお部屋よ」
「そうだったんだね」
父様が町を見てるなら、例え龍が百匹攻めてきても大丈夫だろう。今この町は神界よりも安全になったのだから。
「もう食事の準備は出来ていますよ」
「お腹空きましたぁ。母様呼んできます」
「お願いね」
それからは四人で夕食にした。アーフィアはまだまだ母乳から離れられないみたい。夢中になって吸ってたけど、飲んだらすぐに寝ちゃったよ。
寝ている時に少し触ってみたんだけど、赤ちゃんって凄く柔らかいんだ。ぷにぷにのもっちもちで、手とかもすっごく小さいんだ。手首もむちむちだなぁ。凄く可愛い。
アーフィアは将来どんな女の子になるんだろう。楽しみだね。
これを二章のエピローグに⋯⋯でも文字数が微妙なんじゃ⋯⋯あうち(´×ω×`)




