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大迷宮ラガス





side ラガス



 冒険者達が俺の努力を踏み(にじ)る。そんな光景が俺の目の前に広がっていた。

 ダンジョンマスターのこの部屋には、今全ての戦場が映し出されている。


 マンティコアもアダマンタイトゴーレムも、全てあの子供に倒されてしまった。主戦力を欠いた状況で、多勢の冒険者が救援に来るなんて⋯⋯


「止めろ⋯⋯止めてくれ⋯⋯もう止めてくれよ!」


「マスター⋯⋯」


 サキュバスのリリーが、こんな俺に寄り添ってくれていた。心配そうに俺を見ながら、そっと手を握ってくれる。

 彼女は俺が一番最初に生み出したパートナーだ。今までどんな時も俺を支えてくれた⋯⋯唯一の理解者だと思っている。


「マスター。私がマスターを守ります! 守ってみせます! 私に戦わせて下さい!」


「だ、駄目だ! リリーが居なくなったら⋯⋯俺は立ち直れない⋯⋯リリーはいなくならないでくれ」


「マスター⋯⋯私は死んだりしません! 必ず守ってみせますから」


 もう助けてくれたおじさんもいない。半年溜め込んだ膨大な魔力も、強制的なスタンピードで底を尽きかけている。


「いつまでも一緒にいますから。私が、私が守ってみせます! だから⋯⋯」


「リリー⋯⋯」


 リリーだけは失いたくない⋯⋯リリーを守るにはどうしたらいい? このままじゃ、大切な物が全部奪われてしまう⋯⋯そんなのは嫌だ!


「俺はリリーを失いたく⋯⋯ない⋯⋯」


 頬を熱い雫が伝う。死にたくは無い⋯⋯でもそれ以上にリリーを失いたくないんだ。


「⋯⋯私は、マスターに生み出されて幸せでした。こんなに大事にされて、嬉しくないわけがありません」


 リリーの唇が俺の口を塞いだ。涙を流しながら、一心に俺のことを考えてくれている。


 リリーだって怖いはずだろ! あんな場所に飛び込むなんて、怖くない筈がないんだ!


 そっと抱き寄せて彼女を包んだ。やっぱり体が震えているじゃないか⋯⋯リリーが落ち着くまで抱きしめてやった。もう一度キスをすると、混乱していた俺の頭の中が冷静になっていく。


「リリー。俺はリリーを愛しているよ」


「私もです。マスター」


「もう⋯⋯何も奪わせない⋯⋯」


 リリーを失うわけにはいかないんだ。そのために今出来ることを考えろ!







「⋯⋯撤退だ」


「マスター?」


 俺の言葉に、リリーは目をパチクリさせた。今ならまだ何とかなるかもしれない。


「今すぐ魔物の死体を集め、迷宮の中に引き返せ。迷宮を通常の状態に戻す!」


 リリーを左腕で抱きしめながら、全ての魔物に指示を出した。この温もりを失うくらいならば、俺の復讐なんてどうでもいいらしい⋯⋯


「宜しいのですか? マスターの悲願だったのでは?」


「⋯⋯俺は気がついたんだ。もう間違えたりはしない」


「それはどういう?」


 リリーの背中を撫でる。きっと俺は復讐なんてどうでも良かったんだ。ただ理解してくれる人が傍にいてさえすれば⋯⋯


 おじさんならば、もっと良い方法を教えてくれたかもしれない。冒険者達を倒す方法を、乗り切る術を与えてくれただろう。

 今まで俺はおじさんだけが唯一の理解者だと思っていた。でもすぐ近くにこんなに心配してくれる人がいたんだな。



 赤く潤んだ瞳を覗き込む。華奢な体を震わせながら、俺の肩にすがりついていた。


 リリーが居れば俺は生きていける。復讐よりも大切な人なんだ⋯⋯何故俺は気が付かなかったんだろうか? この暖かさに勝るものは無いと言うのに。

 あの甘い言葉が無くなったせいなのか、余計にリリーが愛おしく感じる。


 心に絡みつく呪縛のような物が、プツリプツリと千切れていく。この想いを確かめるように、リリーと長い時間唇を交わした。


「ま、マスター。はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯そんなにされますと、私⋯⋯愛しさが溢れてしまいそうです⋯⋯」


「⋯⋯」


 そうだった⋯⋯リリーはサキュバスだ。色々と⋯⋯そういうことなのだろう。


「ごほん⋯⋯ふ、二人で頑張って行こう」


 今まで何度もそういうことはしてきた⋯⋯でも、改めて見たリリーが可愛すぎて、少し声が裏返ってしまう。


「二人だけじゃありません。マスター。迷宮の皆がマスターの味方ですよ」


「⋯⋯そう⋯⋯だったな」


 ここからは防衛戦だ。誰も敵わない大迷宮を構築してやる。一階層から全て見直して、攻略困難な大迷宮にすれば良い。


 俺のユニークスキルは【設計士】だ。こんなしょぼいスキル、今まで役に立たないと思っていた。だけど、迷宮とこんなに相性の良いスキルは他には無い。


 やってやる! やってやるさ!


 リリーをソファーに優しく寝かせる。真っ赤な顔のリリーに覆いかぶさり、胸部の布地に手をかける。


「リリー、大切にするよ」


「やるのですね! マスター!」


「⋯⋯あ、その⋯⋯少しオブラートに包んで言ってくれないか?」



side アーク



 今、僕の伏線が意味を成さずに折れた気がした。なんて言えば良いのかな? 勝手に何かが解決したようなしないような⋯⋯


「どうしたのだ? アーク」


 ベスちゃんは何時になったら僕を解放してくれるのか⋯⋯僕だって身長毎日伸びてるんだからね! あと三十センチも伸びればベスちゃんに並んじゃうよ? 逆転したら僕がベスちゃんを持ち運ぼうかな。


 魔物が少なくなってきた気がするな⋯⋯ん?


「あれ? 魔物が魔物の死体運んでるよ?」


「何だって? おー。本当だ」


 魔物が迷宮に引き上げ始めた。これってもしかして?


「終わったのかな?」


「そのようだ。それにしても、アークは強くなったなぁ」


 ベスちゃんはニコニコしている。そう言われると嬉しい気分になるね。


「ありがとう。まだまだだけど」


「いいや、アークは強くなった。きっと今回の働きでBランクに上がると思う」


「え?」


 Bランク? 僕がベスちゃんと同じBランク冒険者になれるの!? でもまだCランクであまり活躍してないのにな。

 日帰りで出来る丁度良いCランク依頼も無かったから、ポイントも貯まらなくてBランクは当分先だと思っていたよ。


 でも何でランクが上がるのかな?


「アークはそれだけのことをしたからな。消えた冒険者の発見。その犯人の確保。次が迷宮の発見だろ? しかもスタンピードを単独で何時間も堰き止めたんだ。これでBランクにならなかったら嘘だろうな」


「そっかぁ。そうなるのかぁ」


「ん? 嬉しくないのか?」


「嬉しいよ。でも僕には実力がね。まだCランクの魔物を倒すので精一杯だもん」


「いや、Cランクの魔物を単独で倒せたら十分だよ。Bランクの魔物を倒せるようになれば、実力はAランク冒険者だぞ?」


「そうなの? CランクだからCランクの魔物で精一杯なのかと思ってたよ?」


「⋯⋯Cランクの“パーティー”がしっかりと前準備をして、作戦を立ててやっと倒すのがCランクの魔物だ。それを単独で襲われて倒せたならば、Bランクになってもおかしくないんだよ」


「んー。でもベスちゃんはドラゴンも倒したんでしょ? ドラゴンってAランク以上の魔物だよね?」


 ベスちゃんは望んでBランク冒険者をやっているって聞いたことがある。でもドラゴンを倒せたならば、実力的にはどのランクが当てはまるのだろう?


「ドラゴンは強いぞ〜。最低でもAランクの魔物なんだから。亜竜と戦ってブレスに慣れてからでないと、本物のドラゴンにはまず勝てない。予備動作もわからずに、ブレスで灰も残らないことになる」


「うぅ、先は長いな〜」


「目指す場所が遠いからそう感じるんだろう。実際ドラゴンを倒すことを最終目標にしている冒険者は多い。ドラゴンスレイヤーってのは箔が付くからな」


 ドラゴンスレイヤーかぁ⋯⋯響きがかっこいい。でも僕は、


「龍の背中に乗ってみたいんだ」


「竜騎士でも目指すのか? それが出来ればSランクは確実だな」


「友達になって背中に乗せてもらうだけだよ?」


「ドラゴンは警戒心が強いんだよ。頭も良い」


「話せばきっとわかってくれるよ」


 ベスちゃんが小さな声で「そうだな⋯⋯」と、呟いた。


「ドラゴンの住む霊峰はいくつかあるんだ。そこから稀にドラゴンが降りてくることがある。その時を狙ってパーティーで倒せれば英雄に成れるのさ。だが──」


 ──グゴゴゴゴゴ⋯⋯ズズーン。


 ベスちゃんが続きの言葉を喋ろうとした時、迷宮の扉が閉じていった。

 完全に扉が閉まるのを見たら、僕は少し安心したよ。これで皆を守ることが出来たんだね。


「アークアークアークうぅ」


「??? どうしたの? ベスちゃん」


「アークが生きてたことの再確認をね」


 ベスちゃんの顔がだらしなく緩んだ。ちょっとかっこいいと思ったらこれだもの⋯⋯世話のやけるお姉ちゃんですよ。


「⋯⋯生きてるから大丈夫だよ。ベスちゃんがポーションかけてくれたでしょ? とっても助かったんだ。ありがとうベスちゃん」


 いつもベスちゃんがしてくるように、僕はベスちゃんの頬っぺにちゅーをしてあげた。たまには良いかなって思う。


「あ、アークが⋯⋯アークがデレた!!!」


「ん、感謝の気持ち」


「アーク!! もう一回! もう一回お願い!!」


「んー⋯⋯ヤダかな」


「っ!!!!」


 感謝は何度もしたら安くなりそうだ。初めて僕からちゅーしたんだから、今ので許してちょうだい。


「ありがとうベスちゃん。いつも感謝しています」


 言葉は思った時に言うべきだと思う。固まったベスちゃんを置いて、僕はとりあえず“ウォーターウォッシュ”で綺麗になった。

 ボロボロになった服は収納して、新しいのに着替えておく。

 バススさんにもらった胴甲冑も限界になってるね。歪んでヒビ割れして穴が空いてるよ。本当に僕って物持ち悪いなぁ。大事にしてるのになぁ。


「師匠! ご無事で何よりです!」


「ターキも頑張ったね。お疲れ様」


 町から戻ってきたターキは、主に皆のサポートをこなしていた。鞭や火魔法に加え、召喚の魔法陣も扱える優秀な人材である。


「本当に師匠が無事で良かったです⋯⋯」


「苦労したんだよ? いっぱい出てくるから」


「普通はそんな感想じゃ⋯⋯ふふ、はっはっはっはっ! 師匠らしいですね。参りました。本当に」


 無事再会出来て良かった。ギュッと抱き合ってから離れると、ターキは爽やかに笑ってくれた。


「頑張ったわね」


「あ、リフレさん」


 エルフのリフレさんが近付いてきた。この人の戦い方は、主に弓と魔法を遠距離から放つ援護向きなタイプに見えた。こんな人がパーティーにいれば、きっと安定感があるパーティーを作れると思うんだよね。


 リフレさんは僕の前でしゃがむと、軽く頬を撫でてくれた。触られた頬が気持ち良いな⋯⋯それにとてもリフレさんは良い匂いがするんだね。気持ち良くてサラサラしているから、もっともっと撫でて欲しくなっちゃうよ。


「君は宿命のライバルーーーーさっ!!!」


「かっこいいポーズの人!」


 ごめんなさい。名前覚えてないんです。


「アークぅ。もう一回! 口にお願いだよ〜」


「ヤダかな」


「ッ!!!」


 それから帰ることになったんだけど、半分の冒険者はこの場に残していくことになりました。









楽しい。続きが読みたいと思っていただけたら嬉しいです。


良かったら評価やブクマ、感想などよろしくお願いします(つω`*)

レビューとかしてもらえたら、きっと不眠不休で続きが書けちゃうくらいに嬉しいでしょう(´,,•﹃ •,,`)w

この後もお楽しみ下さい。

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[良い点] 不思議と読んじゃいます(^-^) 完結してから一気読みしたい!
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