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消えた冒険者(3)





 受け付けカウンターの内側でミラさんの気が済むまで弄られた後、冒険者ギルドを出て錬金術ギルドへ向かった。


 ここは商業ギルドとは違う雰囲気で、ポーションなどの直売りもしているが主に製造や倉庫として使われている。


 商品棚と言うよりは、物流倉庫だと思った方がイメージに近いかもね。

 製造の現場は立ち入り禁止になってるんだって。禁止って言われると、一度で良いから見てみたくなるよ。

 きっと怖いシワシワの魔女が、大きな鍋をグルグルしてるんだよ? でも見つかったら捕まえられて鍋に放り込まれちゃうんだ⋯⋯あ〜怖い怖い。チラリ。


 色んな物をゆっくり見る時間も無いので、チェック模様の制服を着た職員っぽいお姉さんに話しかけた。


「すいません。少しお時間頂きたいのですが?」


「あら? お客さんの子供かな? お父さんお母さんを探してるの?」


「迷子ではないです。収納系の魔術がかけられている物は何処にありますか?」


「お客さんだったんですね。小さいからてっきり⋯⋯」


 てっきりなんでしょうかね。てっきり子供に見えましたか? 残念。大人ですよ?(ドヤァ)


「でもね、そんなに安くないのよ? 収納の魔術を施すには、色んな高価な素材が必要なの。僕ちゃんにはまだ早いかな」


 僕ちゃん呼びされたのは初めてです。来年には両手を使わなきゃ数えられない年齢なのにな。


「お金は大丈夫です⋯⋯多分⋯⋯。商品がある場所まで案内をして欲しいのですが」


「そう。わかったわ。でも高くてがっかりしないでね」


「はい」


 お姉さんにやっと動いてくれたよ。収納魔術の施された商品がある棚に連れて来てもらえた。

 確かにとっても高い⋯⋯膝が笑いそうになるくらい高いのもあるね。やばぁ。


 収納袋は人気らしく、値段も結構高かった。値段の手前には収納限界値が記載されていて、何キロまで対応出来るのかが直ぐにわかるように記載されている。


 特大容量五トンの収納袋が500万ゴールド!? ベスちゃんの二十トンの収納袋っていくらするの!?


 驚愕しながらも安値の商品から見ていくとしよう。


 収納魔術のかけられた物は、主に手提げ袋、背負い鞄、ハンドポーチ、ウエストポーチ、大箱などがある。

 嵩張る物の方が値段的には安くなっていて、大箱なんかはコスパが良い。でも冒険に大箱持って移動するなんて嫌だよね。

 戦闘の邪魔になりにくく、値段も手頃なのは背負い鞄かな。


 むむむと商品とにらめっこをしている後ろでは、お姉さんが苦笑いをしている。すいませんもう少しお待ち下さい。


 ターキのDランク祝いに渡すより、お金を稼ぐ助けになるように明日渡しちゃおうかな?


 ちょっと迷ったけど、薄型のショルダーバッグから選ぶ事にした。

 見た目も悪くないし、肩にかけた状態でも中身が取り出しやすい。それに値段的にも嬉しいかな。


 最低ランクでも五百キロは収納したい。それなら自分の荷物込みでもオーク一匹くらい入ると思うんだ。


 五百キロは1万ゴールドか〜。一トンは3万ゴールド!? まさか足元見られてる? 二トンは10万ゴールドかー⋯⋯一気に高くなるなー。


「お姉さん。値引きとかって」


「出来ません」


「ちょっとだけ?」


「出来ません」


 うぅ⋯⋯お姉さんは良い笑顔でキッパリ断るのね。


 うん。わかった。買っちゃいましょう!


「では一トンのショルダーバッグを下さい。この焦茶色の革のやつが良いです」


「へ? 分割払いとか出来ないのよ?」


「はい」


 僕はポケットから出すフリをしながら、無限収納から金貨を三枚取り出した。

 これは平民の平均年収よりも高い。無造作に出てきたお金に、お姉さんは目を見開いてしまう。


 人族の僕みたいに小さい“大人”が、こんなに大金持ってるとは思わないよね。

 やっぱり少し踵を上げるべきだったかな。フリーズしたお姉さんにお金を握らせて、僕はターキへのプレゼントを手に取った。


 ラッピングはいらないよね? すぐ使うだろうし。


「案内してもらいありがとうございました。またそのうち来ますね」


「はえ? ま、またのご利用を、お、お待ちしておりますぅ!」


 お姉さんの上擦った声を聞きながら、僕は錬金術ギルドから出てったのだった。


 バススさんの所へ行こうかと思ったけど、もう小銭くらいしか持ってない。ナイフを直してもらいたいけど、時間も無いから明日にしよう。


 この日、寝る前に父様がまた昔ばなしをしてくれた。


「アーク。あの灰色の巨大な魔獣を見たか?」


「うん。フォレストガバリティウスって言うんだって」


「フォレス? 長い名前だな」


「Cランクの魔獣らしいよ?」


「ほほぅ。あれは凄いな。あんなの⋯⋯」


「あんなの?」


「⋯⋯実は、昔ペットにしていたんだ!」


「凄い! 父様はあれを飼い慣らしてたんですか!?」


「あんな小さいのじゃないぞ? 更にデカくて強い奴だ」


「うわあ⋯⋯更にデカくて強い魔獣かぁ⋯⋯」


「ああ。今はいないがな。百一匹飼ってたんだ」


「百一匹!!?」


「半分はドラゴンだったんだぞ?」


「!!?」


「懐かしい話だな! はっはっはっは!」


 僕は言葉を失った。約五十頭のドラゴンを飼うなんて、どれだけ強くならなきゃいけないんだろう。

 まだまだだ⋯⋯まだ父様には全然追いつけない。本当にいつか追いつけるの? もっともっと頑張らなくちゃ駄目なんだな。

 そっと俯せになり顔を枕へ押し当てる。


「どうした? 眠いか?」


「ぅん⋯⋯寝るぅ」


 頑張ろう。僕はまだ頑張れるから⋯⋯頑張るんだ。僕にはそれしか出来ないんだから。

 父様に悟られないように、僕はキュッと目を閉じた。





 さあやって来ました冒険者ギルド! 朝の訓練を十二分にこなし、しっかり朝食もおかわりだ!

 お弁当も沢山持って来たし、気持ちもやる気に満ちているぅぅ。意味無くふんすっ! っとやっちゃうくらいだよ。


「おはようございます師匠」


「おはようターキ」


 ターキは既にギルドにいた。昨日一緒に探し回ったから、今日も同じペアになるのかな?

 Fランクの冒険者さん達は見つかったのだろうか?


「ターキ。夜の捜索結果は聞いてる?」


「ええ。ですがやはり見つかってはいないようです」


 夜じゃ効率も落ちるよね。でも早く見つけてあげたいな。お腹空いてないかな? 見つけたらお弁当分けてあげたいんだ。

 ターキにいつプレゼント渡そうかな。喜んでくれると良いけど。


「冒険者さんまだ見つかってないなら今日も探さなきゃだね」


「そうですね。今日こそ見つけましょう」


 ターキと一旦別れ、ミラさんを探した。いつものカウンターの近くにいたので、すぐに見つかったんだ。

 とりあえず抱き着いておく。


「おはようアークちゃん。どうかしたの?」


「んーん」


「うん?」


「⋯⋯どうもしないよ。おはようございます」


「ふふふ。変なの。なでなで」


 僕にもちょっと変な時はあるんだよ。それから受け付けをしてもらって、九時からまたあの森へ向かった。

 今日もリーダーはリフレさんで、昨日とメンバーも変わっていない。


 カイザーさんのパーティーメンバーのアンさんが、僕のことを神頬っぺと呼んで崇めてくる。頬でスリスリスリスリされると動けないんだよね。


 森ではまたターキとペアになり、全員がエリアを変えて捜索をした。

 僕達は午前中何も見つからなかったけど、昼食の時に他の冒険者さんが焚き火の跡を見つけたらしい。


「それが妙なんだよ。こんなに町に近いのに、焚き火するくらいなら帰るだろう? 休憩したってことも考えられるが、それでも警戒しやすい安全な森の外へ一旦出る筈だ」


「それもそうよね⋯⋯」


 Dランク冒険者さんの言葉に、リフレさんが首を傾げる。


「もしゴブリンに食われちまったなら、その痕跡くらいも無きゃおかしい。なのにこんなに何も見つからないとはな」


「⋯⋯」


 この日の午後は焚き火跡周辺を集中して探索が行われた。藪の葉の裏まで確認して、血がついてないかも調べて行く。

 僕もターキも頑張ったけど、今日の捜索は暗くなったので中断される。


 帰り道、皆口が重いようだ。疲れは大したことないけど、成果らしい成果も無い。疲れてる人もいるけどね。


 ギルドに戻ると、あの新人受け付け嬢さんが椅子に座っていた。今捜索をしているFランク冒険者さん達を送り出した人だ。

 不安そうにこちらを見てきたけど、僕達の表情を見てガックリと肩を落とす。


 辛そうだな。心配なんだよね。たまには僕が慰めてあげなくちゃ。一応先輩だし? 僕の方が半年早くギルドに入ったからね。


 名前も知らない人だけど、一緒に遊んだことはある。僕はその人に近づいて前から膝に乗った。


「ふぇ? アークちゃん?」


「うん。まだ見つからなくてごめんね?」


「うん⋯⋯」


 暫く頭を撫でてあげることにする。ずっと気を張ってたら、心が疲れてしんどいよね。僕も毎日大変だから良くわかるよ。

 新人さんは涙を耐えるように体を震わせた。絶対に見つけてあげなくちゃいけないね。


「ありがとうアークちゃん」


「んーん。お菓子あげるよ」


「私そんなに子供じゃないよ」


 !!? びっくりだ! 大人はお菓子食べたないの!? でもキジャさんはお菓子食べるよね? 食べないなら執務室のお菓子全部収納しちゃうよ?


 新人さんはほんのり笑い、少し元気が出たようだ。それでホッとしたんだけど、次の瞬間には涙が出てしまった。

 やっぱり辛かったんだろう。声は出さないけど僕にしがみついて泣き始める。遠くでミラさんがそれを見て、僕にサムズアップしていきた。


「きっと連れて帰るからね。絶対に! 約束するよ」


「う゛ん⋯⋯お願い⋯⋯おねがぃ」


「うん」


 夜にでも見つかってくれたら良いな。痛いほどに体を締め付けてくる腕が、その想いの強さに感じた。





「ふー⋯⋯」


 朝から訓練にも気合いが入る。雑木林を走り回りながら、落ちる木の葉を斬りつける。一二三⋯⋯八九十! 一瞬で細切れになる落ち葉を見て、“魔気融合身体強化”を解除した。⋯⋯までは良かったんだけど、周囲の木まで両断してしまった。


 ありゃりゃ⋯⋯ごめんねスモモの木さん。悪気は無かったんだ⋯⋯だから来年も頑張って実をつけてね! 大丈夫さ! 切り株になっただけなんだから。


 僕は切り株に謝罪をして、また次の落ち葉を斬りつけたのだった。


 意識が冴え渡り閃く剣の軌跡。毎日努力をしているけど、中級剣術はなかなか成長しない。初級と中級では、積まなきゃいけない努力が格段に変わる。レベル1とレベル2では大きな開きがあるのだ。

 短剣術も鍛え、体術も練習する。余裕があれば他の武術もやりたいんだけど、この三つが上級になるまでは我慢しよう。

 弓は程々に鍛えていけば良い。杖は持っていることに意味がある。


「ふぅ⋯⋯」


 継続は力なり。父様と母様を超えるまで、僕は少しも止まらないよ。そんな暇ないんだから。







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