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諜報員の暗躍

*血の描写があります。




side???



 半年と少し前だったかな。俺は都合の良い奴を見つけたんだ。俺は神に感謝したよ⋯⋯これで陛下のお役に立てると。


 ドラグスの古びた安酒場で、そいつは一人で飲んでいた。

 不機嫌そうな顔をしながら注文を取りに来た娘を怒鳴り散らす。


 クックック⋯⋯体格は良いが器の小さそうな男だ。濁った目にぼさぼさの黒髪。強がって暴れ出しそうなくらい小物だろう。これは声をかけるしかないな。クハハハハハハ。


「おい。おめー何そんなに苛立ってんだ?」


「ああ!? 誰だテメー」


「俺のことはどうでもいい。今はな」


「ケッ! 変な野郎だ。あっちへ行きやがれ!」


 俺は馴れ馴れしい態度で近づいて、男の座る椅子の背もたれに手をかけた。


「そんなに邪険にするな。な? 俺も暇なんだよ。ここは好きなだけ奢ってやるから、何があったのか話してみろ」


「誰がテメーなんかと飲むかよ!! 頭わいてんのか!? あ!? 陰険野郎が!」


 男は立ち上がろうとしたが、立ち上がれない事に驚愕の顔をした。それだけじゃない。腕も首の角度でさえも動けないのだから。


 これは俺のユニークスキルで、対象の感情が大きく揺さぶられた時に発動する能力だ。

 ユニークスキルの名前は【二人目の支配者】。まあ、言う程万能じゃないスキルだがな⋯⋯


「息はしてもいい」


「っ!! ぶはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ」


「さあ、何があったんだ?」


「ふざけ⋯⋯っ!!!」


「何があったのか聞こうとしただけだぞ? 少しお仕置きが必要なようだ」


「っ!!! や、止めて! た、助、助け⋯⋯」


 今男の頭の中では、俺が首にナイフを突きつけているように見えている筈だ。体も自由に動かせず、死を目前にすれば大概の奴は心が折れるだろう。

 俺は男の首に腕を絡め、内緒話でもするように語りかける。


「そうだなぁ。まずは今日の出会いを祝して乾杯をしようじゃないか」


「か、乾杯?」


「ああ、俺は従順な奴には優しいんだよ。まだ首ついてんだろ?」


「く、首ぃ⋯⋯」


 もうこの男には何が何なのかわかってやしないだろう。突きつけられていたと思ったナイフはもう無い。体も今は自由に動く。


 俺のユニークスキルの【二人目の支配者】は、相手が自分の体に命令を出して動かすように、俺も同じく命令する事が出来る。

 腕を動かそうとすれば動かないように止め、息をしようとすれば抵抗するだけだ。

 これを上手く使えばもう相手は何もすることが出来なくなるんだ。ただ感覚も共有するので、痛みを感じるようなのはやりたくはない。

 ナイフはただの幻術だが、素人にはわからないだろう。


「で? お前は俺に従順なのか?」


「あ、ああ。⋯⋯あ、いえ、はい!」


「ふむ」


「従順です! 従順です!! 俺あ何でもい、言うことを、き、聞きます!」


「強制しているわけじゃないんだがなぁ」


 俺は男の腕を動かして、自分で自分の首を絞めるように力を入れる。


「うっ⋯⋯くふっ⋯⋯ぐぎぃ⋯⋯」


「さっきの態度は良くなかった。いやー、残念だなぁ」


 首を離してやると、青ざめた顔で俺を見てきた。体がカタカタと震えている。内心では色々考えているだろう。


 もう一押ししておくべきかな。


 テーブルに乗っていた食卓用ナイフを握らせて、それをゆっくり男の目に近づける。

 男の悲鳴も出せないようにして、最大の恐怖を植え付けよう。


 瞼も閉じることが出来ない。あ、泣きながら漏らしやがった⋯⋯直ぐに止めたが気持ちわりぃ。まあこれくらいで良いだろうか⋯⋯


 能力を解除して、男の肩を優しく叩く。


「さて、お前は俺に従うか?」


「はい!」


 カタカタと震える体。青を通り越して蒼白な顔。


 仕込みは完了した。さて、次は餌を与えてやらなければな。だがその前に、


「さっきの続きだが」


 俺は男に問いかける。

 心を折られた男は、すらすらと何でも話をするようになった。


 男は冒険者の試験を受け、実力が足りないと言われた。しかもその試験官は、明らかに人族の子供だったらしい。

 試験が始まった瞬間に、男は地面に転がった。わけがわからなかったのだ。絶対に何か汚い手を使っているに違いないと言う。


 俺は内心爆笑しながらもそれを聞く。ここで笑ったら俺のイメージ台無しじゃん? 笑えないと思うと滅茶苦茶大変だった。腹筋崩壊しそうになりながらも最後までその話を聞く。


「俺は⋯⋯復讐してやりたいんです。汚い罠に(おとしい)れて、組織的に俺を追い出したんですよ!! アイツらは!!」


 何処の組織が動いてるってんだよ! 笑い殺す気かよ! やべぇ⋯⋯本気で辛い。


「それで⋯⋯それで俺は⋯⋯くそっ!」


「ふむ。組織ぐるみでそんな事をするとはな。ばくしょ⋯⋯恐怖すら覚えるわ」(キリ)


「ちきしょう⋯⋯ちきしょう⋯⋯今頃奴らは笑ってやがる⋯⋯許さない⋯⋯」


 俺が笑ったわ。もうヤバいくらい危なかった。


 ふ。でも都合が良いな。


「復讐させてやろうか?」


「そ、そんなの、出来るわけが⋯⋯出来るんですか?」


 そうだ。この男はもう俺の言葉を疑わない。疑えないのだ。


「お前に力をやる。圧倒的な力だ。世界を滅ぼせる程のな」


「っ!!!」


「Aランク冒険者だって殺れるさ。その子供とやらも殺れるだろう。ついてくるがいい」


「は、はい!」


 後は甘い言葉で思考力を奪う。復讐したいなら本気でさせてやるさ。ダンジョンマスターにしてやるがな! クックック。



 それから半年以上の時が流れた。


 男の名前はラガスと言うらしい。ダンジョンマスターになるのは少し戸惑った。だがダンジョンマスターってのは、なりたい奴には垂涎(すいぜん)の代物である。


 まず不老になる。年老いないのだ。それに本人も圧倒的に強く強化されるし、ダンジョンを好きに弄ることが出来る。秘書にエロいサキュバスなんてのも可能だ。

 甘い言葉を並べれば、ラガスも(みずか)らそれを望んだ。


 今はダンジョンマスターの部屋で、優雅にお茶を飲んでいるところだ。


 この部屋は広い。天井や壁まで手の込んだ造りになっているな。王族の部屋だと言われても遜色がない。どこにこんな才能を隠してやがったんだ⋯⋯興味もねーがな。


 こいつの趣味なんだろうが、給仕をしているのはメイド服姿のロリっ子サキュバスだった。


 まあ⋯⋯見なかったことにしよう。人の趣味はそれぞれだよな。


「組織を調べて来た。お前を罠に陥れた奴らだ」


 俺は懐から出した書類をラガスに手渡す。勿論内容は嘘っぱち情報である。何組織って? 思い出して死ねるわ!


「くっ! こいつらが!」


 その顔止めて! ヤバいっつーの!


「そうだ。Aランク冒険者を筆頭に、大きな組織を組んでやがる。大きな仕事になるだろう⋯⋯兎に角大きい⋯⋯巨大だ。もうそれしか言えん。そんな奴等を倒さなきゃならないんだよな。出来るか?」


「やる! や、やります! 必ず大軍勢を作り上げ、俺は復讐を成し遂げます!」


 ヤバい。わ、笑いそう⋯⋯くぅ、耐えろ俺! 成功させて帝国に帰るんだろうが!


「よし、その意気だ。今の進捗状況を言え」


「はい! まず、スタンピードで作りやすいのはゴブリンです。それとポイズンスライムを一階から十階まで使って無限増殖させています」


「ふむ」


「数を増やすことに重点を置き、今は内部構造も単純です。十一階からは大量のオークを混ぜ、十六階からはレッサーデーモンとダークタートル」


「ほうほう」


「二十一階からスケルトンナイトとスケルトンマジシャン、二十六階からリビングアーマーとサイレントドッグとオーガ、三十一階からコキュートスタイガーとプラズマベアー、三十六階からデーモンとダークデーモン」


「⋯⋯」


「四十一階からトロールとデススコーピオン、四十六階からアダマンタイトゴーレムとマンティコア。今この辺ですかね」


「⋯⋯」


 こ、こいつ! 仕事めっちゃできるやん! 焦った! 焦ったぞ俺!


「ふむ。まあまあだな」


「ありがとうございます! 五年後にはドラゴンも生産出来るように頑張ります!」


 んん⋯⋯ドラゴンなんて作ったら、王国軍釣る前にドラグス滅びちゃうんじゃない? 多分滅びるな⋯⋯そしたら作戦は失敗だ。そんな大きな大災害級の魔物が出てきたら、王国軍は王都から出ずに守りを固めるだろう。

 それはまずいな。それにドラグスが完全に無くなれば、王国軍が動く口実が無くなる。迷宮の価値だけじゃ、民を納得させつつ王都を無防備には出来ないだろう。

 もしそうなった場合、高額でSランク冒険者が雇われる⋯⋯そうなれば目的も果たせずにはいしゅーりょーってパターンだ。


「ふんっ! ドラゴンよりも今は数を増やせ。数は力だぞ?」


「⋯⋯そうですね。わかりました」


「うむ」


 ──ビービービービー!!


 急にサイレンが鳴り響いた。これは侵入者警戒用の魔道具だ。

 何故だ? この場所がもう見つかったのか? 有り得ないだろう⋯⋯俺が慎重を期して探した場所だぞ?


「現場を映せるか?」


「多分⋯⋯んー、まだ迷宮の外みたいですね。これです」


「⋯⋯」


 空中に四角い窓が現れ、そこに目的の場所が映し出される。


『あはは。ミリー、こっちこっち。いっぱい生えてるよ〜』

『わー! 本当だ!』

『流石だな! フレオがいれば何でも出来る気がする〜』

『『『『『ないない』』』』』


 顔に装備、立ち居振る舞いが、明らかに新人(しろうと)だな。数は六人か⋯⋯まだ見つかるわけにはいかんのにな。


 何をしに来たのかはわからない。しかし、出来ればこのタイミングで殺したくはないな⋯⋯迷宮を設置するのに町が近すぎたか⋯⋯クソッ!


 更に迷宮の入り口に近付く冒険者。そこまで来たところで見つけてしまったのだろう⋯⋯迷宮の入り口に向かって指をさしていた。

 俺は深く溜め息を吐いた。そいつは直ぐに仲間に報せ、全員で世紀の大発見だと大喜びし始める。


 はぁ⋯⋯残念だよ。面倒だなぁ。


「入り口に飛ばしてくれ」


「⋯⋯」


「ん? おい、ラガス。どうした?」


「あ、あいつらは、同じクラスメイトでした⋯⋯」


 クラスメイト⋯⋯? 今更何を言う⋯⋯ここで怯むならこいつを殺して場所を移す方が良いか? 一芝居打つか⋯⋯


「クラスメイトなら何だ?」


「それは⋯⋯」


「薄情な奴等だな!」


「え?」


「だってそうじゃないか! お前が一人でこんなに苦しんでるのに! 奴等は友達同士で楽しく冒険だ! お前だけが何故試験を落とされた? 何故お前がいないのに奴等は笑っている!? そんなの許せる理由がないだろう!」


「お、俺が⋯⋯いないのに⋯⋯」


「そうだ。奴等がお前の苦しみに気づいてくれたか? 手を取って助けてくれたかよ!? 違うだろう!! 奴等はお前のことなんてすっかり忘れている! 見ろあの顔を!」


「⋯⋯笑ってる⋯⋯? 俺がいないのに」


「その通りだ。お前は奴等の事を覚えていたのに、奴等はお前のことを忘れているだろう? なんて薄情な奴等なんだ!」


「うぅ⋯⋯」


 ちょっと演技過剰だったか? ラガスはどう答えを出す? その前にもう一押しするか。


「ラガス。奴等は笑ってお前を殺しに来るぞ」


「えっ!!!」


「ダンジョンマスターになって力を手に入れた⋯⋯半年だ。やっとここまできたのに、奴等はギルドに報告する。そして、寄って(たか)ってお前を攻撃しに来るんだ」


「そんな⋯⋯」


「そんな? 無いと思ってるのか?」


「いや⋯⋯報告⋯⋯する⋯⋯」


「ああするさ。それで大金もらって遊びまくるんだろうな。お前を殺して」


「い、嫌だ! 俺は⋯⋯せっかく⋯⋯」


 ラガスは涙を流し始める。


 ふむ。良い調子だ。全く⋯⋯世話がかかる餓鬼だな。


「俺だけはお前の味方だ。俺ならそれを食い止めることが出来る」


「死にたくない! 死にたくないです!」


「ああ、任せておけ。それでもお前は心を痛めるだろう。辛いお前は見たくない。画面を消してから俺を入口に送るんだ」


「は、はいぃ⋯⋯ずいまぜん。ありがとうございまず」


 ラガスはもう大丈夫だろう。俺の人形にはこれくらい馬鹿が良い。


「泣くんじゃない。俺がいる! お前を殺そうとする奴は俺が許さん。ラガスは安心して魔物を作ると良い」


「はい!」


 ラガスは俺を入口にワープさせた。ダンジョンマスターのみが使える特別仕様のスキルである。


 俺はナイフを抜いてから迷宮を出た。転移して現れた俺に気がついた奴もいるな。殺りたくないが⋯⋯


 喜び合う冒険者達の首を、一瞬でナイフで掻っ捌く。


「う? うげ⋯⋯」

「ごふっ」

「なん? な」

「⋯⋯」

「や⋯⋯」

「はう゛」


「⋯⋯すまんな。帝国のためだ」


 背中越しに声をかける。理解すら出来ないまま、新人冒険者達は血飛沫を飛ばしながら倒れ伏した。嫌な仕事させてくれるぜ。


 ナイフの血を払い、遠い故郷に思いを馳せる。皆を飢えさせないためならば、俺は何だってやってやるさ。汚れて地獄に落ちてもな。


 可能性は半分程度だとは思うが、こいつらを探しに来る奴がいるかもしれない。大変だが人避けの魔術を組むべきだろう。そのせいでこの森に違和感が出るのは仕方ないか。

 色々気が重いが、さあどうなる?






悪役にも人間らしさが欲しいのです。憎めない外道⋯⋯いや、憎めますね。難しい⋯⋯でも信念をもって行動する人は、悪役であっても応援したくなります。


だからザマァ系が書けない⋯⋯


さ!次をお楽しみに(*^^*)

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