消えた冒険者(1)
夕焼け空を眺めながら、ミラさんと手を繋いで歩いています。もう街道に出たので危険は無いと思いますが、ピクニックは帰るまでがピクニックです!
最初は色々あったけど、ゆっくり自然を満喫出来たから良かったなぁ。
ギルドへ帰る前に、ミラさんに新しい服を選んでもらいました。ミラさんが買ってくれようとしたけど、勿論支払いは僕がしたよ。
服が駄目になることは珍しくないですからね。冒険者だもの! ふんすっ!
ついでにミラさんにも似合いそうな服を選んで買ってあげたらとても喜んでたんだ。
僕ね、ミラさんの笑顔を見てたら嬉しくなったんだ。幸せそうな笑顔を見てると、自分の事みたいに嬉しい気持ちになる。
不思議だなぁ。これからも、もっともっと笑わせてあげよう。
ナイフが駄目になっちゃったから、バススさんにまたお願いして作り直してもらわないとね。初代父様ナイフと二代目父様ナイフが⋯⋯あうぅ⋯⋯仕方ないけど無いと寂しい。
冒険者ギルドを素通りして、ミラさんを寮まで送る。またねって手を振ってから、キジャさんの部屋に向かった。
ギルドの中は酒場を中心に盛り上がっている。それを横目に見ながら通り過ぎて、階段を一段飛ばしで駆け上がった。
「キジャさ〜ん。いますか〜?」
「入れ」
許可が出たので、静かに扉を開けて入室する。部屋の中ではキジャさんが難しい顔をしていた。
キジャさんどうしたんだろう?
僕が首を傾げていると、キジャさんが無理矢理表情を柔らかくする。何かあったのかな?
「大丈夫ですか?」
「ちょっと問題があってな。なんか用か? ミラと外でピクニックして来たんだろ?」
キジャさんが執務机から移動し、ソファーにドカッと腰掛ける。僕も対面に座って今日の出来事を説明した。
「ピクニックして帰ってきました。とっても楽しかったです。その時に偶然襲われた魔獣を狩ったんですけど、解体場に入らなそうな魔獣はどうしたらいいですか?」
「はあ!? 解体場に入らねーだと?」
「えと、試してはいませんよ? ただ高さだけでもギルドより大きくて長さは冒険者ギルドの三件分くらいです」
「⋯⋯」
キジャさんは目元を押さえ、下を向きながら考える。やっぱりギルドで買い取りは無理なのかな? って思ったら、手をぽんと叩いて顔を上げた。
「あそこにしよう。魔導兵が暴れて更地になった再開発予定地があっただろ? そこを臨時の解体場にする。まだ手付かずの場所があるから借りれるだろう。で? 何を狩ってきたんだ?」
「フォレストガバリティウスとかいう魔獣でした」
「⋯⋯マジかよ。Cランクの中でも大物じゃねーか。よく勝てたなぁ」
「強かったですよ? 三回も死ぬかと思いました」
「フォレストガバリティウスと言えばよ、硬い、速い、魔法強いの三拍子揃った強敵だ。俺だってそんなに楽には倒せねえぞ? ミラを守りながら戦ったのか?」
「いいえ、それは僕にはまだ無理です。ミラさんを置いて離れて戦いました。勝てたのも偶然ですから」
「そうだよな。でも勝てたのはアークの実力だろう? それと、フォレストガバリティウスは全部売っちまうのか? もし魔武器や鎧を作るなら、牙と魔石は買い取りから外すけどよ」
「魔法の武器や防具ですか?」
「そうだ。流石にそれだけじゃ完成しねーけどな」
おお〜⋯⋯良い情報だね! 今後の事を考えると、ドラゴンシーカーだけじゃ頼りないかもしれない。装備も強化していかないとね。ナックルガードも欲しいしなー。
「では牙と魔石は無しでお願いします」
「わかった。場所借りる許可を取るのは明日だ。今日はそろそろ日が落ちるから、朝になったら建築ギルドに聞いてくらあ」
「よろしくお願い致します」
「おう、任せろ」
良かった。魔武器かぁ⋯⋯バススさんに頼まなくちゃね。キジャさんも忙しいみたいなのに、仕事増やしちゃって悪いなー。何か手伝えればいいけど。
「ところで、何かあったのですか?」
ストレートに聞いてみよう。キジャさんは前置きとかそういう話をするのが煩わしく感じるような人だ。真っ直ぐ簡潔に要点だけを話すのが、キジャさんと仲良くなるコツだと思う。
雑談はまた違うけどさ。無駄な時間が嫌いな人なんだよね。
「ちとな、Fランクの六人パーティーが帰らねえんだとよ」
「え? 手に負えない依頼でも受けちゃったんですか?」
「いんや、Fランクにでも簡単な仕事だぜ? 歩いて数時間くらいの場所にある眠気覚ましの薬草を取りに行っただけだ。薬にしなきゃそんなに日持ちしねー薬草だからよ、町に帰ったら直ぐにギルドまで来ると思うんだがな。日帰りで終わる仕事の筈なんだが⋯⋯これが何日も帰らねーんだとよ。俺に報告が来たのがさっきだ。どうやらこの町で冒険者になった新人らしい」
冒険者には突発的な事故がある。盗賊に襲われたり予期せぬ魔物と出会ったり様々だ。
自分の命は自己責任とは言え、生死の確認くらいはしないといけない。それが竜の住む危険な山に向かったって言うのなら話は別だけど、近場で初心者冒険者が入れる場所でのイレギュラーなら調べないわけにはいかない。
生きていて欲しいけど、経験の少ないFランク冒険者さんが町の外に数日かぁ。大丈夫かなー?
「明日、現場周辺の探索依頼を出すからよ。アークも参加してくれねーか? 人数は集まるだけ集めるつもりだ」
「わかりました。僕も頑張って探しますね!」
「頼むぜ。他の町の冒険者にはここまでしないんだがな。明日の九時出発で依頼を出すつもりだ。アークはその前にフォレストガバリティウスを出してもらうから、八時半頃ギルドに来てくれ」
「はい。ではまた明日」
*
家に帰ると、ミト姉さんから「また服が変わって帰って来ましたね」と、チクリと言われる。
次の日の朝、「またお弁当なんですね」と、チクリと言われた。
誰かに迷惑かけてないか心配みたい。でも僕良い子にしてるから? 安心して欲しい。うんうん。
今日も町の平和を守りに行ってきます♪ アーク出発です。
冒険者ギルドに来ると、マスターのキジャさんと知らない筋肉質の男性が立っていた。解体場で話したことのある職員さんも数人いるね。
「おお、来たな」
キジャさんが僕に気がつくと、片手を上げて微笑んだ。
「おはようございます」
「おはよう。こいつら連れてけや。場所は大工のヤーフが案内するからよ」
キジャさんが親指でヤーフさんを指さした。でもヤーフさんは少ししかめっ面である。
「解体なんか冒険者ギルドでやればいいのによ⋯⋯なんでそんなに広い場所を借りたがるんだ」
「さっきも言っただろ? ギルドにゃ入らねーんだよ」
「法螺話にも程があらーな。大方そのチビが、大きく話を盛ったにちげーねー」
「お前なぁ。Cランクの獣系の魔獣になると、そこら辺の魔物より本当にでけぇんだぞ? 町に出たら滅亡するクラスの魔獣なんだぜ?」
「ふん! そんなの本当にいんのかよ」
「もっともっとでけーのだっているさ」
「だいたいキジャさんの話も大袈裟だろ? そんなにでけー魔獣、何十トンあるんだよ。持って帰るにゃ厳しいだろう」
話が長くなりそうだ。一般人のヤーフさんには信じられない話かもね。ここで無駄話しても仕方ないのに、キジャさんが珍しく頑張って説明しているよ。
十分後、やっとヤーフさんが案内してくれる事になったので、僕は解体場の職員さんを連れて移動した。
ぞろぞろ後ろを着いてくる皆が、子供のように目を輝かせている。
キジャさんは僕が戻ってくる前に、ギルドで今日の捜索メンバーを集めるそうだ。ランクはF以上を条件に広く集める予定らしい。
「ここで良いぞ」
現場に到着して、ヤーフさんが振り返った。
見ててやるから出してみな? みたいな顔をしているよ。
「はい。わかりました。頭はどちら向きが良いですか?」
ヤーフさんに返事をしてから解体員さんに話を振る。
「頭こっちな。腕が鳴るぜ!」
「ひっさしぶりの大物だからな!」
「アーク、はよしろや!」
解体員さんは元気だなー。
僕は笑いそうになりながらフォレストガバリティウスを取り出した。優しく置いた筈だけど、いきなりの重みに地面が揺れる。
「うおわ! すっげーなこりゃ!」
「なかなか拝めない魔獣だ。牙と魔石残せば良いんだよな?」
「ほとんど無傷じゃねーか。やべぇ。興奮してきた!」
「ハッハッハ。牙と魔石抜いても80万ゴールドはするだろう。依頼から帰る頃には査定だけでも終わらせとくよ」
「80万!? あ、ありがとうございます。よろしくお願いしますね!」
「任せとけ!」
ヤーフさんは限界まで口を大きく開けているね。びっくりし過ぎて声も出ないみたいだ。しょうがないよね⋯⋯大きな更地が全てうまっちゃったもの。
でも町中で見ると更に大きく見えるな。町の何処からでも確認出来そうなくらい大きい。
「ヤーフさん。道案内と場所を提供して頂きありがとうございます」
「こ、これ、本当にお前が?」
「はい。僕が倒しましたよ?」
「う⋯⋯」
ヤーフさんは気まずい表情をして肩を落とすと、小さく首を振ってから溜め息を吐いた。そして僕をもう一度見てから頭を下げる。
なんで頭下げてるんだろ。
「すまない。俺は冒険者を舐めていた。冒険者ってのは、半端に遊び歩いている連中だと思ってたんだよ」
「はあ⋯⋯えと?」
「俺は大工仕事に全ての時間を費やしてきた。勿論すげー冒険者がいるのは知っているよ。いや、知った気になっていたんだ。世の中にはこんなデカい魔獣がいて、それを本当に倒す人間がいるんだな⋯⋯俺達が安心して仕事出来るのも、冒険者や兵士達がいるからなんだと今ハッキリわかったよ。態度だけデカい冒険者共を見て、魔物も大したことないと思っていたのかもなぁ」
「⋯⋯」
「いや、はは。すまねえ。兎に角だ! ありがとうな」
「どういたしまして?」
話の半分くらいしかわからなかったけど、大きな態度は良くないと思う。ベスちゃんに見つかったらゴートゥー地中だよ? 危ないよ。
最終的に僕はヤーフさんと笑顔で別れ、冒険者ギルドに戻ったんだ。
*
冒険者ギルドの中に入ると、やはり煙草が充満していてかなり酷い。体に良くないと思うんだ。それに目が痛くなるんだよ?
キジャさんが冒険者を何組か集めて、昨日の話をしていた。
Fランクのパーティーが薬草を取りに行ったことと、そのまま何日も帰っていないこと。生死の確認とは言っているが、遺品があったら持ち帰ることなど細かく全員に指示を出している。
僕は昨日聞いたからとりあえず受け付けかな。
掲示板をチラリとみたけど、依頼書になっているわけじゃないっぽい。直接受け付けに行けば受けれるのだろう。
「おはようございます」
「おはようアークちゃん」
ミラさんに挨拶をして、探索の依頼を引き受ける。ふと気になって自分の冒険者カードを見てみると、魂魄レベルが42に上がっていた。
やっぱり強い魔物を倒した方がしっかりレベルは上がるんだね。昨日の戦闘だけで7も上がっちゃってる。ステータスも結構上がってるや。
「みんな無事だと良いんだけどね」
ミラさんが溜め息を吐いて悲しい顔をした。
「知っている人達だったんですか?」
「私はそのパーティーと話したことは無いわ。でも担当した受け付け嬢はまだ新しい子なの。だからね⋯⋯わかるのよ。あの子の気持ちが」
ミラさんの見つめる先には、まだギルドの制服が馴染んでいない女の人がいた。今年の八月に採用されたギルドの受け付け嬢で、やっと仕事にも慣れてきたらしい。
お風呂では見た事ある人だな。シャボン玉で遊んでもらったこともあるよ。
「お願いねアークちゃん。私達は他の町に問い合わせて、その子達が立ち寄ってないか調べる予定だから」
「畏まりました。現場の捜索は僕に任せて下さい」
「ふふ。よろしくね」
気合いを入れて冒険者さん達の集まりに混ざった。
知ってる顔が結構あるね。カイザーさん達もいるみたい。ターキも説明を聞いていた。
「場所は全員把握したな? 森まではバラけずに移動しろ。現場ではパーティーで行動りゃ良いかと思ったんだが、ソロのアークと新人のターキは臨時パーティーを組んで捜索しろ」
「「はい」」
「向こうで喧嘩とかすんなよな? 全体のリーダーはリフレに任せる。向こうでの指示は頼んだぜ」
「わかった」
キジャさんにリーダーを頼まれたのは、魔導兵との戦いで知り合いになったエルフさんだった。
僕の命の恩人で、肌が綺麗な美人さんである。名前はリフレと言うらしい。
今回の探索に参加するのは、Cランクのリフレさんをリーダーにして、Dランクパーティーが二組、Eランクパーティーが四組、Fランクパーティーが一組、そしてソロのターキと僕になる。Fランクパーティーはカイザーさん達だね。
「私はリフレ、知らない人は覚えてね。リーダーやる事になったけど、向こうではエリアを分けて自由に行動しましょう。近いから乗り物はいらないわね。向こうに着いたらパーティーリーダーだけ私の元に集まって頂戴。では出発します」
リフレさんが歩き出し、全員が二列になって着いて行く。
今日見つかるといいなーと思いながら、僕も最後尾を歩いて行くのでした。
二章の山場へ向かいます。
そして、いよいよメインヒロインが!?
ヒロイン引っ張りすぎ( '-' )ノ)`-' )痛い⋯⋯(まだ先とか言えない)




