命名。ゆるふわミラさんとピクニック
ちょびっと長め(〃ω〃)
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おはようございます。今日も良い初心者育成日和ですね。え? 何を言ってるのかって?
それには深い事情が⋯⋯と言う程でもないのですが、カイザーさん達と冒険した次の日に、僕はギルドで低ランクの冒険者さん達に囲まれてしまいました。
何事!? って思ったら、カイザーさん達が僕の噂を酒場で広めていたそうです。
なんでも初心者にも礼儀正しくキチンと悪かったところを指導してくれて、手に負えない危険は排除してくれるし安心して強くなれるし頬っぺたが気持ち良いと言っていたのが広まってしまったらしい。
あれは聞かれたから教えてあげたわけであって、僕も初心者だから偉そうに言うつもりは無いんだけど⋯⋯
教えを乞われはしたんだけど、流石に全員の依頼に着いて行くなんて出来ないので、訓練場でライノス達三人と共に戦闘訓練をしました。
ライノス達は強くなったよ⋯⋯低ランク冒険者と渡り合えるくらいにね。商人さんなのに凄いんですから。
僕とばっかり戦っていたから、自分達がどれくらい強くなっているのかわからなかったみたいだけど、今回本物の低ランク冒険者さん達と戦えた事で、ライノス達は自信をつけられたみたいです。すっごく生き生きとしていたよ⋯⋯あの笑顔はなんだろう?
その訓練がまた噂になり、俺も私もと増えていく。流石に悪いと思ったのか、ギルドから気持ちばかりの報酬を頂きました。
キジャさんもミラさんも喜んでいるよ。たまに訓練場の隅でお菓子食べながら見ているからね。
断ることも出来たけど、流石に見捨てるわけにもいかず、そんな感じで半月近く拘束されて、今に至ると言うわけです。
僕があまりにも忙しいので、ベスちゃんが放置されて拗ねています。タコみたいに唇を尖らせて、たまにこちらをチラ見してきます。
ギブ達三人も魔力感知を習得するために、今頃楽しくバススさんの熱い工房でどろどろの汗まみれになっているんだろうな。あ〜楽しそう⋯⋯楽しそう?
⋯⋯訓練するのは好きなんだけど、誰かと一緒に訓練するのは調子が狂いますね。
なので、この原因を作ったカイザーさん達には僕のお手伝いをさせていました。
これくらいは良いですよね? ちょっと皆のために、訓練場で毎日百回以上地面を転がってもらっただけです。⋯⋯残念ながら詳細は割愛します。
「神⋯⋯よ⋯⋯」
「違います。アークです。アンさん」
ゲッソリした顔のアンさんが、僕の体にもたれかかってきます。さて、そろそろ訓練も切り上げて良いでしょう。この半月で皆の戦力は底上げ出来たと思う。
僕はバテる皆に体を向けて、少し大きめの声で喋ることにした。
「お疲れ様でした。皆さんよく頑張りましたね。各々は自分の課題が見えてきたと思います。きっとこれで強くなれるでしょう」
『ありがとうございました!!』
「明日からも毎日続けて下さいね!」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
「明日からも毎日続けて下さいね?」
『はぃ⋯⋯』
冒険者さん達の気持ちが一つにまとまった気がするぅ。これでめでたしめでたしですね。
僕は込み上げてくる熱い気持ちを握りしめ、その場をあとにするのでした。
*
夜二十一時頃、使用人の皆が食堂に集まり、とうとう妹の名前が発表されるらしいです。
やっぱり名前はディメンションソードちゃんなんでしょうか? ちょっとワクワクするなー。
「この子の名前は、俺と母さんの名前を取ってアーフィアと名付ける事にした。アーフィアにはアークのアーも入ってるからな! 良い名前になったと思っている」
「アーフィアか。悪くない」
アーフィア! 父様と母様の名前が入ってるなんて神様超えちゃうよ!? なんて強そうな名前なんだろう。
サダールじいちゃんも満足気に頷いて、顔をだらしなく緩めていた。
アーフィアはどんな子に育つんだろう。将来は冒険者になりたいって言うのかなー? 早く喋れるようになってくれたら嬉しいな。
次の日は久しぶりに全てをお休みにした。ギブ、モカちゃん、マーズちゃんを呼んで、アーフィアを紹介したのだ。
あんまり誰かを招くのは領主家の使用人として駄目なので、一時間だけの面会にさせてもらった。まあ、僕はまだ使用人じゃないんだけどね。その後雑木林で遊んで、お弁当食べてリフレッシュしたよ。
いつかこの輪に妹も混ざるからね。
*
朝からお弁当を用意して、今日はギルドで待ち合わせ。⋯⋯の筈だったのに⋯⋯なかなかギルドに来ないので、ミラさんの部屋に行きました。
実は、今日は約束していたピクニックなんです。ちょっと朝早過ぎちゃったかな? 出発時間をちゃんと決めておいた方が良かったね。
ミラさんはもう起きているだろうか? 部屋の前でノックをしても返事がなかったので、勝手に扉を開けてみる。普通に鍵がかかってなかったよ。
部屋の中に入ると、ミラさんはまだ寝息を立てていた。
仕事で疲れてたのかな? 毎日大変そうだもの。
「“リジェネーション”、“ヒール”」
優しい光がミラさんを包む。これで気持ち良く起きれるね。僕はベッドの端っこに座って、何となく窓の外を眺めていた。背後で気配がもぞもぞ動く。どうやらお目覚めみたいだね。
「んぁ⋯⋯アーきゅちゃん?」
トロンとした眠そうな顔で、こちらを見ながら呟いた。
「おはようございます」
「おはようごじゃ⋯⋯まふ⋯⋯」
目を擦りゆっくり起き上がったミラさんは、小さく欠伸をしてからベッドを出る。
「お〜といれ〜」
完全に寝惚けているみたいだよ。下着と薄いネグリジェ姿でフラフラと廊下に出て行った。ガダンと壁にぶつかった音が聞こえてくる⋯⋯怪我とかしてないよね?
「き、気をつけてね?」
扉の隙間から顔を出して、ミラさんの後ろ姿を見送った。
大丈夫かなー? 紅茶でも用意しておこう。
無限収納からティーカップを取り出して、部屋にあった小さなテーブルに置いた。
昼食に用意していた果物を取り出し、食べやすいようにカットする。
僕はミルクティーにしようかな。ミラさんは何がいいだろう。
戻ってきたミラさんは、まだ半分夢の中だった。ぽわぽわフラフラしている。
「大丈夫ですか?」
「アークちゃーん⋯⋯」
寝惚けるミラさんに抱き上げられて、ベッドの中へ連れ込まれ⋯⋯?
「ミラさん?」
毛布までかけられてムギュっと体を包まれた。石鹸の良い匂いがする⋯⋯母様に抱きしめられてるみたい。暖かくて柔らかい⋯⋯安心するぅ。むにゅむにゅ。
ハッ! このままじゃ僕まで寝ちゃうよ!
「ミラさん。ミラさん起きて? 遊びに行くんだよ?」
腕の中から両手を引っ張り出して、ミラさんの頬へ手を伸ばす。弱く摘んで伸ばしたりしていると、ミラさんが薄らと目を開けた。僕を優しく見詰めてから、再び瞼を閉じ⋯⋯て、駄目だよ〜。
「僕、靴履いたままなんだよ。ベッド汚れちゃう」
「⋯⋯」
しょうがないなぁ⋯⋯実力行使するしかないか。
抱きしめる腕から下へ抜け出して、毛布を取ってベッドから出る。椅子の上に柔らかいブランケットを敷いて、強引に引っ張って座らせたよ。何かを食べさせたら起きるよね? とりあえず僕と同じミルクティーを用意する。
艶のある髪の寝癖を直してあげて、濡れタオルで顔を拭いてあげた。紅茶を飲み終える頃には普段のミラさんに戻ってきた。
「ふわああ。アークちゃんいると何でもしてくれそう」
「んー、何して欲しい?」
「何でも良いの?」
「うん!」
「ふふふ。じゃあねー⋯⋯毛布畳んで、少し窓開けてちょーだい。ミルクティーおかわり。今日の服と下着を見繕うのよ? 後は鏡を私の前に持ってきて。その次は化粧道具をお願いね」
「畏まりました」
恭しく頭を下げ、なるべく余裕を持って優雅に動く。従者の練習になりそうだね。十二歳になった時に、領主様の子供のお世話をしなくちゃいけないからなぁ。
貴族様の学園かぁ⋯⋯想像もつかないや。
おかわりのミルクティーを用意し、窓を少し開けた。サッと毛布を畳んでから、今日の着ていく服を選んであげる。
格好は動きが楽な服が良いだろうね。森歩きだから、長袖長ズボンにしておきましょう。下着は何着ても変わらないよね? とりあえず上下同じようなやつにしよう。立て鏡をテーブルに置いて、化粧道具箱を持ってミラさんに手渡した。
「はわわ。毎日こんな暮らしがしてみたい〜」
「貴族になるかお金持ちになるしかないかなー? そしたら使用人を雇えますね」
「お金でアークちゃんが雇えるのかしら?」
「僕は無料ですが、期間限定になります」
学園を卒業したら僕は旅に出るんだから。
「アークちゃんの貴重な時間を貰えて幸せよ」
「ミラさんは友達だからね」
「ふふふ」
「そろそろ準備しないと、ピクニックのお昼が町中になっちゃうよ? それにもう寒い季節だし」
「そうだったわ!」
ミラさんを急いで着替えさせて、あっという間に北門を出発した。
どこに向かっても景色はあまり変わらないから、今日は行ったことの無い北西に向かおう。
笑って話をしながらゆっくり歩く。今日はどんな景色が見れるんだろうな。
「私ね、町を出るの初めてなのよ」
「そうなの? 魔物がいるから?」
「それも理由ではあるんだけどね⋯⋯外に出る用事も無かったしさ。生きてる魔物も見たことないのよ?」
ミラさんがとても良い笑顔で話す。仕事から解放されてお出かけだもんね。今日はヒールを履いていないからか、いつもよりミラさんを近く感じた。
「それならすぐ見れるかな。直進方向にオークが一匹いるよ? ランチの足しにする?」
「いきなりオーク!? オークは美味しいけど、解体を見るのは厳しいわ」
「迫力あるからねー。じゃあ普通に持って帰るよ」
「ええ。オークはすぐに倒さなきゃ駄目ね! オーク即斬よ!」
懐かしい! ミラさんもあの絵本読んだことあるんだね! (*二話参照)
「オークがいたら駆けつける。我ら狩人新鮮組!」
「鮮度が命よ!」
「行ってきます!」
「ふふ。気をつけてね」
ミラさんからオークが見えないうちに狩ってこよう。
はぐれオークが森の中をさ迷っている。木の上から弓で額を撃ち抜き収納すると、目を閉じて数秒間の黙祷を捧げた。いくら人に害をなすオークとはいえ、余裕がある時は祈ってあげたいと思うんだ。
ゾワリ⋯⋯
不意に背筋に悪寒が走った。
!! 何かまずいものがいる!? 気配察知に反応が無いのに!
僕は何時そいつが動いても良いように、集中しながら背中の剣を抜いた。
ミラさんは今のところ無事だね⋯⋯微笑みながら僕を待っている姿を見て、少し安心出来たけど緊張感が増していく。
気配察知に反応は無い⋯⋯でも近くに何か危ないのがいる。間違いない⋯⋯でも場所がわからない⋯⋯どうしよう。
ゆっくりと後退りしながら、ミラさんの居る場所まで引き返した。剣を抜いて警戒している僕を見て、ミラさんは何も言わずにじっとしてくれた。
空気を読んでくれてあり──
──ズズゴゴゴゴ!
「うわわ!」
「きゃ!」
地面が激しく揺れて、森が波うったように動いた。野生の鳥達が異変を察知して飛び立ち、何かがのっそりと動き出す。
「ブモーアアアー!!」
お腹に響くような重低音が、体の芯まで痺れさせる。僕は焦りながらもミラさんを背中に庇った。
「なんだろう⋯⋯これ」
「あれは!?」
それは巨大な牙だった。僕がさっきオークを仕留めた場所の近くから、その巨体が頭を持ち上げる。
ミラさんはその姿に絶句して、体が小刻みに震えていた。僕だって怖いよ⋯⋯あんなに大きな魔物は見た事がない。しかもミラさんは初めて町の外に出たんだ。こんな恐ろしい状況で、一緒にいるのが頼りなさそうな僕⋯⋯怖がらせちゃってごめんね。でも僕が絶対守ってみせる!
「Cランク魔獣、フォレストガバリティウス⋯⋯」
「あれがCランク魔獣? 初めて見たよ」
「わ、私もよ! 冒険者ギルドの事務員採用試験の時に、魔物図鑑で勉強して覚えただけだわ!」
その体は大きかった。二階建ての大きな冒険者ギルドよりも、その倍は高さがある。緑色の苔むしたような体毛が、まるで山がそこにあるかのようにそそり立っていた。そして伸びてきた影が、僕達がいる地面を暗くさせる。
「フォレストガバリティウスは、発見される事がほとんどないのよ! 森と同化して、近付いた獲物を何でも捕食するわ! 騙し討ちのような捕食が得意で──っ!!!」
「っ!!!」
──ズゴゴゴゴン!
ミラさんの説明を聞いていた途中、巨大なソレが口を開いて襲いかかってきた。
圧倒的な迫力に耐えながら、僕は咄嗟にミラさんの腰を引き寄せて横に飛ぶ。巨体から考えられない突進の速さに、ミラさんの体を気遣う余裕は無い。
さっきまで立っていた地面が大きく抉れ、それをお菓子でも食べるかのようにガリガリ咀嚼しているようだ。
そのたったの一口が、恐ろしい程に地面を深く大きく抉りとっていた。
「ゴホッ! げほ!」
「ごめんなさい! ミラさん!」
青白い顔をしたミラさんに顔を向けると、サッとイノシシへ指をさした。
「前⋯⋯集中⋯⋯」
「はい!」
急激な加速にミラさんの体がついてこれる筈もない。でもあのままじゃ食べられていたから仕方ないけど。
困ったな。もしかして⋯⋯食べようと思っていたオークが、僕に目の前で取られて怒ったとか?
あ、有り得るかもしれない。僕の背中を襲った悪寒はそういう事だったんだ。でも今更オークを返しても僕達を食べない保証は無いよね。
フォレストガバリティウス⋯⋯かぁ。嫌なタイミングで会っちゃったな。
「“リジェネーション”、“ヒール”」
敵に集中しながらも、まずはミラさんを回復させる。
でも困った⋯⋯どうしようか。
今は周囲にこのイノシシ以外の敵の気配は無い。でも僕が戦っている間、ミラさんを一人にするのは不安だな。ミラさんは戦えないから、弱い魔物にもやられてしまうかもしれない。
でもミラさんを抱えて逃げ切る事は不可能だよね? まずミラさんの体が、僕が高速で走る衝撃に耐えられない⋯⋯アレを倒す間だけでも隠れていてもらうしかないのかな? 倒せるかわからないけど⋯⋯やるしかない!
「ミラさん。僕ちょっとフォレストガバリティウス? と、戦ってみます。ちょっと待っていて下さい」
「だ、駄目よ! あれはBランク冒険者でも危ないわ! アークちゃん一人なら逃げ切れるでしょ?」
「もし僕がアレに追われたら町が破壊されますよ?」
「うっ⋯⋯」
黒い魔導兵を思い出したけど、あの頃みたいな絶望感は感じない。それに、あれとは全く違うタイプの魔獣だろうね。
気配を完全に遮断して、待ち伏せが出来る脅威の大型魔獣。口から天に向かって伸びる巨大な牙⋯⋯あれには何か意味があるのかな?
本来ならば、悪寒を感じる前に食べられていたんだろうね。目の前にある餌に、殺気をぶつける人なんていないでしょ? だけど獲物を目の前で横取りされて、あいつは怒りを抑えられなかったんだ。
危機感知スキルがあるから、食べられたかどうかわからないけどね。
もしフォレストガバリティウスが怒っていなければ、パクッと食べられてもしゃもしゃされていた可能性が高い。
見えているのかわからない死んだような瞳が、次はお前達だと見据えている。
「あれ? 色が変わった? 体が灰色になったよ」
「⋯⋯森との同化が解けたのよ。普段は擬態しているから見つからないんだわ」
全身が灰色になり、体から蜃気楼のような靄が溢れ出した。あれは⋯⋯身体強化? 間違いない! 巨大な魔獣が身体強化をかけている姿に、僕は戦慄を覚える。
僕一人に注意を集めないと、襲われたらミラさんが危ない。
ミラさんをその場に残し、イノシシの側面へ向けて走り出した。
「あ、アークちゃん!」
イノシシは僕とミラさんを交互に見てから、ミラさんの方へ視線を固定する。そうはさせない!
「僕だってきっと美味しいですよ! “ファイアボール”!!」
──ドバーン!
ファイアボールはイノシシの横顔に直撃する。大きな爆炎がその衝撃の強さを物語っていた。でもダメージはあまり無いみたいで、煩わしそうにこちらを見ただけだ。
中級の光魔法を除けば、僕の使える魔法の中で最高威力なんだけどな⋯⋯
もっと気を引かなきゃミラさんが危ない! まだまだいくよ!
「“ファイアボール”、“ファイアボール”、“ドライミスト”!!」
二発のファイアボールで顔を狙い、更にドライミストで目を攻撃する。流石に無視出来なくなったのか、怒りの顔をこちらに向けてきた。
「ブモーオオオォァア!!」
そして大きな咆哮。次の瞬間、その巨大な牙が光輝く。
「アークちゃーーん!!」
我の肉を⋯⋯許さぬ(っ`ω´c)ギリィ




