先行き不安なFランク冒険者達
*誤字修正
このドラグスの町には三つの出入り口があります。北門と東門と南西門です。
今向かっているのが南西の門で、そこから外に出るのは初めてなんだ。
南西門を使う依頼が無かっただけで、ただの偶然なんだけどね。南西門の外の景色が楽しみだな。
門の兵士はほぼ固定メンバーになっていて、数人がローテーションを組み配置されている。多分南西門もそうだと思う。
ここはどんな人が守っているんだろうか?
南西門に到着すると、入場の順番待ちが少し出来ていた。門の出入りは左の片側通行なので、入場待ちが並んでいても外に出る人間には関係がない。
僕が門に近づくと、一人の兵士が道を塞いでくる。
出て行く人の審査は甘いんだけどね。非常時はわからないけど、普段は軽く挨拶をする程度だ。ドラグスだけかもしれないけどね
あれ? この人は⋯⋯
「お? お前さん。久しぶりだな」
「おはようございます。タイナーさん!」
「おお! 名前覚えててくれたんか! 確かお主は⋯⋯えーと、出てこんの⋯⋯えーと、えーっと。あれじゃったよな。アークツーじゃ!」
「アークワンもいたのかな?」
「蕎麦屋の息子じゃろ?」
「もりそば食べたいな」
久しぶりのおじいちゃん兵士だ。熱血系良い人! 野次馬を蹴らせたら町一番さ! 魔導兵事件の時は助かったよね。
「すまん。ちとボケたかの? 歳には勝てんわい」
「あはは。タイナーさん朝食の献立言える?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯(´・ω・`)」
「⋯⋯」
この人ちゃんと門守れるのかな? 顎に手を添えて首を傾げる。眉根を寄せてちょっと渋かっこいい! でもこの顔で朝食の献立思い出せなくて悩んでるんだよ?
僕はポケットへ手を突っ込んで、無限収納から蜂蜜飴を取り出した。
「これ食べて頑張って下さい。僕は仕事でちょっと出てきますね」
「おお。ありがとさんよ。きーつけてな」
僕は帰ってきた時に聞くんだ。最近いつ飴食べたって。
ここから南へ真っ直ぐに向かい、徒歩で五時間くらい行くと川があるんだっけか。そこに行くまでに冒険者さん達を見つけて合流したいな。
方位磁針を取り出して、ちゃんと南の方角を調べる。その方角にはうっすら山が見えるので、その山を目指して走れば良さそうだね。
う〜ん。なんか向こうの空曇り気味だな〜⋯⋯もしかしたら雨降っちゃうかもだよ。
レインコートは持ってるから大丈夫だけどさ。普段から何でも持ち運べるし、本当に“無限収納”のスキルが便利すぎる。
ベスちゃんの長年の経験により、必要な物は指示されて詰め込んでいるんだ。だから色々な状況に対応可能なんだよ。
こんなことが出来るのも、王都の商会長さんのお陰だなぁ。本当に頭が上がらない。⋯⋯⋯⋯⋯⋯名前なんだったっけかなー。
「よっ、ほっ、ふっ」
ちょっと体をほぐしてから、軽くその場でジャンプをする。一度息を吐き出してから、身体強化を発動した。
「それじゃーよーいど〜ん!」
周りの景色が滑るように流れていく。風が体に当たって気持ち良い⋯⋯僕は自由だー! って叫びたくなった。あはは。ベスちゃんいないから何してもいいもんね! 楽しい楽しーい!
門の外の風景は、北や東の門の外とあまり変わらないみたい。街道があり草花が自由に咲いていて、道を外れると森が何処までも広がっている。更にその奥に山が見えるというド田舎セットの大安売り。
僕は田舎しか知らないけど、栄えた街にも行ってみたいな。
あ、でも街の外はドラグスと大して変わらないのかも? 山岳地帯とか海のある街とかに行かないと、そこまで変化は無いかもね。
ただ走っているのも暇なので、軽く歌いながら流れ行く景色を楽しむ。
町の外は空気も美味しいね。気分が上がるのも仕方ないよ。家の中じゃ歌えないから、今はとても開放的です。
「裸足の大人が増えているのは〜♪ エーキせ⋯⋯あ、見つけた」
今何曲目になるだろうか⋯⋯暇潰ししながら歌っていたけど、冒険者さん達を見つけたので歌はここで終了だ。
川まで徒歩五時間って事は、約二十キロメートルちょいの距離だ。クライブおじさんからちゃんと勉強を見てもらっているからね! これくらいの計算は出来ちゃうんですよ。僕は直線のこの距離ならば、身体強化でゆっくり走っても三十分かからない。
向こうは荷物が多いせいで、移動に時間がかかっていたみたいだね。Fランクじゃ収納魔術がかけられた鞄や袋を買えないだろうし、E〜Dランクくらいになれば、五百キロの収納袋を買うお金くらい貯まるでしょう。
流石に冒険者と言うべきか、今は川辺で休憩中らしい。
川で汲んだ水を沸騰させて、お茶を飲みながら談笑していた。年齢は十六歳前後に見えるかな。多分半年前に学校を卒業した冒険者さん達だ。
でも見たことない人達だなぁ。近くの町からドラグスに来たのかも。
メンバーは男性三人に女性が二人、男性は片手直剣にスモールシールドを装備した人が二人いる。もう一人の男性は薙刀を脇に置いていた。
女性は魔法使いっぽいかな。二人共長い杖を脇に置いてるし。
うーん。でもバランスの悪いパーティーに見えるな。誰か気配察知スキルを持っているのだろうか? 弓術を使う人も欲しいよね。遠距離攻撃が魔法だけだと、派手で隠れながらの戦闘が出来ない。
まず、魔物との戦いは奇襲するかされるかのどちらかだ。開けた場所ならまた違うけどね。
魔法を使う時には魔力が漏れるので、魔力感知のある敵には奇襲がバレてしまう。
ベスちゃんの野外訓練でそこら辺をみっちり仕込まれたんだよ。
奇襲されるイコール先制攻撃を受ける。やられた方は状況の確認からしなければならない。敵の配置は? 数は? 攻撃はどこからだ? などなど、圧倒的に不利になってしまうのだ。伏兵もいたら大変だね。
前衛の男性三人のうち、その対処が出来る人がいるのだろうか? まるで真正面から戦いますよと言っているような気がする。そんなパーティー編成に見えるんだ。
隠密行動出来る人は大事。弓や投擲スキルが使えて気配察知に鋭い人が一人は欲しい。ちょっと確認しながら近づいてみよう。
僕アーク、あなた達から三十メートル後方にいるの。僕アーク、今残り二十メートルよ。僕アーク、後十メートルで着くわ。僕アーク、今貴方の背後にいます。
んー⋯⋯
「こんにちは」
「おわ! びっくりした! え? 子供?」
声をかけるまで気が付かれませんでした⋯⋯野生を取り戻したクレアより鈍い人達だな。
今では凛々しい姿で余裕たっぷりに歩くクレアさん。昔はデブニャンコだったんだけどね⋯⋯ビフォーアフターアークプロデュースを受けたんだ。
今では鋭い目に自信溢れる立ち姿で、爪を出してはそれを舐めて微笑んでいる。かっこいいニャンコになったのだ。
「誰? 迷子なの?」
「こんな人里離れた場所でか? 危ないだろ」
「町からかなり遠い⋯⋯」
「どうしよう。依頼の途中なのに」
「どうしようもなにもないだろう。巣の殲滅期限はまだ五日ある。一度町にこの子を届けに戻ろう」
「それがいい」
「困った子ね」
「ちょっと撫でても良い?」
うふふ、あはは、と、勝手に話が進んでいく。悪い人達じゃないみたいだけど、緊張感が足りないな。
「僕の名前はアークです。みなさんはドラグスの町から来た冒険者さんですか?」
「ああ、そうだよ。こんな所で家族とはぐれちゃったのかい?」
薙刀使いの男性が返事をしてくれた。もしかしたらこのパーティーのリーダーさんなのかもしれない。
「いえ。貴方達を追いかけて来たのです」
「はぁ〜⋯⋯まじかぁ。冒険者はかっこいいもんなー。俺も小さい頃は追っかけてみたりしたけどさ、それは町中限定の遊びだったよ」
「町の外まで追いかけるのはアウトよね。あの老齢の兵士さん大丈夫かしら?」
薙刀の男性と、魔法使いの女性が返事をする。
うん。あの兵士さんは駄目っぽい。良い人だけど。
「お気遣いありがとうございます。でも町へ戻らなくて大丈夫ですよ」
「いや、気にするな。一度町に連れて行くけど、金をどうこう言うつもりはないさ」
「違うのですよ。僕は冒険者なのです!」
「あはは。可愛い冒険者さんだな!」
伝わってる? 伝わってない? ごっこ遊びだと思われてそうだね。
「違うのです。ミラさんが困っていたので、事情を聞いて僕が様子を見に来たのですよ」
「え? ミラさんって誰だ?」
「ギルドの受け付け嬢で、今日の早朝に貴方達の依頼を受理してくれた人です」
「はい? 確かに受け付け嬢は確かに反対していたけど、ゴブリンくらい俺達なら倒せるさ。それは置いておくとして、君はあの人とどういう関係なんだ?」
「大事なお友達ですよ。心配そうに頭を抱えていました。なので僕が駆けつけたのです」
「⋯⋯」
事情はちゃんと説明出来たはず。リーダーっぽい人は口を半開きにして固まっていた。他のメンバーも頭の上にクエッションマークが浮かんでいるっぽい。
「えーっとですね。なので貴方達は普通に仕事して大丈夫です。僕が見守っていますので、安心して戦って下さいね」
「ちょっと、俺疲れてるのかも⋯⋯やっぱり帰らないか?」
「俺も⋯⋯ちょっとよくわからない」
「茶、おかわり」
「私⋯⋯えーと??」
「ちょっと顔スリスリしても良い?」
ちゃんと僕の言うことが理解出来てるのかな? しっかり説明したつもりなんだけどな。
後は安心して仕事するだけなんだよ? あ、忘れてた。
僕は顔をスリスリされながら、懐からカードを取り出した。そのカードを見た全員が、声を失って口をパクパクさせる。顔スリさん以外。
「僕は一応貴方達の先輩なのです。だから安心して下さい。危なくなれば支持したり援護したりします。これギルドカードです」
「これ⋯⋯本物?」
「マジ?」
「嘘だろ⋯⋯玩具に見えない⋯⋯」
「Cランクカード? 五歳⋯⋯」
「頬っぺありがとう。堪能したわ」
これでわかってもらえた筈だね。僕は安堵の息を吐き出して胸を撫で下ろす。
「う、嘘だ。そんなCランクがいるわけが⋯⋯」
「待って⋯⋯私、この前酒場で聞いたかも⋯⋯四歳で竜殺しのキジャ様に一太刀浴びせた子供がいるって」
「え⋯⋯まさかその子供か? 冗談だとばかり」
「俺も作り話かと思ってたけどな⋯⋯」
「頬っぺ。後でまたお願いね? 絶対よ?」
酒場でそんな話がされてるのか。ギルドの中は煙いから、用事が無いと直ぐ外に出ちゃうしなぁ⋯⋯僕の話題は僕の前で話さないだけかな? それよりもキジャさんが竜殺しって呼ばれてるの知らなかったよ。
ベスちゃんの話だと、竜の牙で造られた剣は最低でもBランク以上の魔剣になるらしい。だから一攫千金を夢見る人が、竜に戦いを挑んだりするんだってさ。
竜は誇り高い生き物で、人間一人が相手の時は一対一で戦ってくれるそうだ。戦う人間が複数だと、竜も複数で襲ってくる。でも一人で戦える人なんてそうそういないよね。だから竜が一体しかいない時にパーティーで挑むのが普通なんだって。
ベスちゃんは昔やんちゃだった時に何度も竜へ戦いを挑み、負けては命からがら逃げるを繰り返してたんだって聞いたよ。最終的に執念で何とか勝利をもぎ取ったんだとか。
何度も腕をもぎられたり、脚を吹き飛ばされたかわからんって言ってたなぁ。もう無理だって思ったら、ちゃんと四肢を収納袋に回収して、重力魔法で空を飛んでなんとか逃たんだって。想像しただけで怖いよね。
逃げたら最寄りの教会で、手足を繋ぎ直せば再挑戦だ。
僕もいつか倒せるようになるのかなー?
あっと⋯⋯いつまでもこうしてるわけにはいかない。
「余計なお世話かもしれません。でもミラさんはとても心配性なんです。なので僕の同行を許して下さい。お願いします!」
僕は頭を下げた。ちゃんと了承を得て着いて行きたいんだ。
「いや、あ。あはは⋯⋯俺まだ信じられないんだ。でもわかったよ。それなら君は着いて来れば良い。ただの子供じゃないってわけだね。Cランクって言ったら俺達より三ランクも上じゃないか。でも俺達はピンチになんかなりはしない。ギルドに帰ったら問題は一つも無かったって報告させてみせるさ」
「そうなるのが一番ですね! よろしくです」
「ああ。よろしく頼むよ。皆もそれでいいだろ?」
「わかった」
「ああ」
「うん」
「次は頬っぺで何しよう?」
これで僕は一緒に行ける事になった。実力はわからないだろうけど、僕がCランクなのも信じてもらえた。カードのお陰だけど⋯⋯
後はこの人達の仕事を見守るだけだね。
「俺はカイザーだ。このパーティーのリーダーをやっている。得意武器は薙刀だね」
「俺は剣と盾。名はブフ」
「私マイリー。水魔法使いよ」
「おりゃシドーだ。ブフと同じ前衛をしている。よろしく」
「火魔法使いのアン。子供の頬っぺが大好き。ラブなの。愛しているのよ?」
「僕はアークです。好きな食べ物はケーキ。先日お兄ちゃんになりました!」
「え? あ、おめでとうございます⋯⋯」
「おめでとう⋯⋯」
「めでたい⋯⋯わね⋯⋯」
「ははは」
「赤ちゃん⋯⋯ゴクリ」
自己紹介も終わり、僕達は直ぐに移動した。あんまりゆっくりしていたら、帰るのが何時になるかわからない。僕には門限があるのだから。
川沿いを進むカイザーさん達。背中には大きな鞄を背負っている。Cランク冒険者の僕に見られているからか、目を鋭くして警戒をしているようだ。
出来る人達みたいな雰囲気だよ。雰囲気だけね。
森の木の密度が濃くなってきた。枝葉で太陽が遮られて、川辺ではあるけど暗くなり始める。空が曇っているから余計に暗く感じてしまうのかな。川も細くなってきたよ。
先頭を男性陣が進み、後方を女性陣が歩いて行く。途中魔物に襲われる事も無く、順調にそれらしい洞窟まで辿り着いた。
「ここか?」
「じゃねえか?」
「きっとそうよ」
うん⋯⋯僕もここが怪しいと思う。微妙に悪臭が漏れてきているのがわかった。
洞窟は真っ暗で先が見えないね。きっと奥まで行けば、ゴブリンが生活するために明かりを灯しているかもだけど。
カイザーさん達は松明を取り出した。布部分に油を染み込ませ、火打石で火を着けた。一人一本ずつそれを手に持ち、表情を引き締める。
「それじゃ皆。やるよ」
「「「「おー」」」」
( *´∀`))´ω`)スリスリ
アークの歌ってた曲がわかった人はいるだろうか⋯⋯




