表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/214

僕は冒険者です。






 僕は冒険者ギルドへ向かいながら、今日の朝のことを思い出していた。


 赤ちゃんのいる日々はとても大変です。母様はミト姉さんと協力をしながら子育てを頑張るんだとか。

 僕は暫く寝ていたので知りませんでしたが、昨日初めての夜泣きに何度も飛び起きました。


 どうしたの? って聞いても、赤ちゃんはまだ答えれないんだって。喋れるようになるまで時間がかかるらしいです。


 道理でおかしいと思ったんだよね。赤ちゃんが生まれる時、もう少し右だ! 違う違う! とか言ってくれたら、出産もスムーズにいけたと思うんだ。


 父様は一度寝てしまうと起きないらしく、母様は溜め息を吐いていたよ。

 でも育児は経験済みだから大丈夫なんだって。


 赤ちゃんは女の子だったんだけど、まだ顔じゃ性別がわからない。名前は決まってないけど、父様が強い名前を考え中なんだとか。


 どんな名前になるんだろう? 上級剣術最強の技、ディメンションソードちゃんとかになるのかな? それとも神聖剣術の技だろうか? どんな強そうな名前になるのか楽しみだね。





 はい! そういうわけでやってきました冒険者ギルド。久しぶりのギルドに顔を顰めます。煙草の煙が酷いです。あ〜煙い煙い。慣れたけどさ。

 あれは大人の栄養らしいからね。吸ってない人は栄養いらないのかな? 母乳でも飲んでいるんだろうか?


 ギルドは実に半月ぶり。新しい顔もチラホラ見える。何か言われる前に踵上げとくべき? 言われてからでもいいかな?

 冒険者は移動が激しい人達です。ここは特になにもない町なので、冒険者はさっさと違う町へ向かうんだよ。ドラグスは田舎だからね⋯⋯そこそこ人は住んでるんだけど、大きな街は凄いんだって聞くからね。


 この町に家族がいる冒険者は、他の町へはあまり行こうとしない。それでも半数は出て行っちゃうんだ。


 ベスちゃんは珍しい部類に入るかもしれないな。ドラグス生まれでも無いのに、何も無いこの町にずっといるんだから。


 さて、まずはどうしようかな?


「おい坊主」


 突然誰かの声が聞こえた。


 坊主って僕をのことだろうか? 多分そうなんだろうね。


 声のした方へ顔を向けると、見た目が三十歳くらいの強そうなおじさんがいた。分厚い金属鎧に身を包み、それを麻服の如く着こなしている。とても自然体に見えるんだ。


 酒場の椅子に足を組んで座り、瓶のままお酒を飲んでいた。


「僕でしょうか?」


「ああ。お前だ。子供がここに何の用なんだ? しかもそれ魔剣だろ? 何からつっこんだら良いかわからねーや。ハッハッハ」


 おじさんは大きな口をあけて笑う。銀歯みっけ!と思いながら、なんて答えようか考えていた。


「長命の種族じゃねーんだろ?」


「僕は人族です。先月五歳になりました」


 右手の指を全部立てた。これなら左手を使う日も近い。ふふふ。左手が疼くぅ〜⋯⋯鎮まれ! 僕の左手よ! まだ十一ヶ月早い!


「はぁ〜。五歳か! じゃあもう大人だな」


「わかってるじゃないですか! 貴方は素晴らしい人ですね! 感動しました!」


「お、おう⋯⋯」


 こんな良い人がいるんだなー。話してみて良かったよ。この町に来たばかりなのかもね。僕は顔が緩むのを止められない。


「変わった坊主だなぁ。何か依頼にでも来たのか? ここ煙いだろ?」


「煙いです⋯⋯僕はとりあえずミラさんの予定を聞きますかね。ピクニックの約束をしてるので」


「ミラさんって受け付け嬢か?」


「そうです。仲良しなんですよ?」


「ハッハッハ! 良かったなぁ」


「おじさんは何してるの?」


「俺は今パーティーメンバー待ちで暇だったんだ。早く来てくれないと酔っちまうぜ。ガッハッハッハッハッハ」


 それ、お酒飲まなきゃ良いじゃないの〜。大人はお酒好きだよね。ミルクさんなんて何時来ても飲んでるし⋯⋯


「なんか食うか坊主。奢ってやるぜ」


「朝食は食べてきました。御気持ちだけ有難く頂戴させて頂きます」


「礼儀正しいんだな⋯⋯俺のこのくらいの頃なんて、川で石ころ投げて遊んでたぜ」


「投擲の訓練ですね! わかります!」


「いや、そうだな⋯⋯ガッハッハッハ」


 やっぱり訓練は大事だよね! よくわかるな〜。


「ちょっと。何やってるの?」


 また新しい人の声が聞こえた。僕の後ろから猫耳付けたお姉さんが現れる。

 細長いモフモフの尻尾が揺れ動いているので、猫の獣人さんかもしれない。布地の少ない服で、かなり身軽そうに見えた。


「朝からなんで子供に絡んでるのよ」


「ガッハッハッハッハ。これが話してみると面白くてな」


 鎧のおじさんは膝を叩いて笑った。猫耳さんは目を細めている。

 僕は動く尻尾と耳に夢中になった。

 さ、触ってみたい。ちょっとだけ⋯⋯いや、触るならちゃんと許可をもらわなきゃ!


「猫耳さん。おはようございます。猫耳触りたいです」


「あら。普通は駄目なのよ? ん〜。じゃあ頬っぺたを触らせてくれたらいいわ」


「どうぞ!」


 しゃがんだ猫耳さんに頬を弄ばれた後、約束通り猫耳を触らせてもらった。

 ふわふわで暖かい。さわさわしてて手が気持ち良い。


「尻尾もどうぞ」


「ありがとうございます」


 猫耳さんの後ろへ回り、尻尾を触ろうとしたら尻尾が逃げた。

もう一度⋯⋯あれ? また逃げた? もう一度? あれれ?


「ほらほら〜」


 尻尾が右へ左へ素早く動く。くぅ⋯⋯なかなか捕まらない! ぐぬぬぬぬ⋯⋯


「おい。虐めてやるなよ」


「しっしっし」


 おじさんの言葉を聞いて、猫耳さんは悪戯っぽく笑う。

 僕は尻尾に集中していた。右へ左へパターンを解析。並列思考で頭の中を総動員だ。

 お尻の根元を掴んでも良いんだけど、それじゃあ負けた気がするもんね。

 ここだ! というタイミングは直ぐに来た。ほんの一瞬だけ右手を身体強化して、尻尾の軌道に割り込ませる。


 ──パシィ!


「ニャ!!」


「つっかまーえた。モフモフだぁ」


「ニャ⋯⋯やめ、やめてぇ⋯⋯」


「モフモフモフモフ〜」


「あん⋯⋯ごめんニャ〜」


 顔でスリスリすると、尻尾はとっても気持ちよかったよ。


「ガッハッハッハッハッハ! 獣人はな。尻尾が敏感なんだよ。触らせるのは(つがい)だけなんだ」


「ツガイって何?」


「旦那様だな。男なら妻か。だから獣人見かけても尻尾掴んじゃいけないぞ。子供なら怒られないけどな。良くある話なんだとよ」


「動いてると気になりますからね」


「確かにな」


 でも良い尻尾触れたな。ふわふわモフモフだったよ。


「猫耳さん。ありがとうございました」


「いーえ。次は負けないわ!」


 勝ち負けがあったんだね。でも僕は実力を少しも見せてないから次も勝てる! ふふふ。


「僕そろそろ行くね。楽しかったよ」


「またな」

「またね」


 軽く手を振って二人と別れた。貴重な良い時間だったと思う。


 ミルクさんにお辞儀した後、直ぐに受け付けカウンターに向かった。

 ミラさんはカウンターテーブルを見つめながら、少し顔色を悪くしていた。どうしたんだろう? 何かあったのかな?

 気がついてないみたいなので、僕は普通に挨拶する事にした。


「おはようございます」


「っ!!! あ、アークちゃん!!」


「は、はい。アークです」


 凄い迫力にちょっと怯みました。ミラさんの目が見開かれているからね⋯⋯


「アークちゃーん。ヘルプミー⋯⋯」


「どうしたの? ミラさん」


「うぅ⋯⋯頭撫でて」


「良いですけど⋯⋯よしよーし」


 いつも撫でてもらってばっかりだから、撫でるのは新鮮だね。ミラさんが元気になるように頑張って撫でていたら、ミラさんの顔が赤くなってきた。


「ここじゃ恥ずかしい⋯⋯」


「やる前からわかっていたことでしょう?」


 ここギルドの受け付けだから人の目が多いよね。


「てっ! 今はそれどころじゃないのよ! まだFランクに上がったばかりの子達が、Eランクのゴブリンの巣の殲滅に行っちゃったの! すっごく止めたのに、自信だけは一流なんだから!」


「ゴブリンですか。巣の規模はどれくらいですか?」


「三日前の調査では二十前後よ。でもゴブリンって増えるの早いし小狡いから危険なのよね」


 うーん。一応経験を積むために、ベスちゃんとゴブリン狩りに行った事はあるけど、ホブゴブリンも全く相手にはならなかったんだよね⋯⋯オークの集落よりもずっと楽なのは確かだと思う。


 力も弱いし矢もへろへろ。魔法も微妙だし体も楽に斬る事が出来た。ゴブリンの剣ごと真っ二つだよ。

 苦戦する要素が⋯⋯無い⋯⋯毒もベスちゃんの鍋よりは楽だもんね。


「あのねえ。アークちゃんを基準にしないでよね?」


「!!」


 僕の考えが見えたの? ⋯⋯流石ミラさんだ。


「Fランク冒険者さん達の人数と実力はどの程度ですか?」


「試験ギリギリ合格レベルよ」


「それはちょっと微妙な感じがしますね」


 試験官をやっていたからわかるけど、合格の基準ってそこまで高くなかった。

 魔法や武術がレベル2でも使えれば合格だし、ターキは特別強かったらしい。真面目だもんね。


「僕も心配になってきました!」


「でしょ! 死んでからじゃ遅いんだから!」


 本当に不安になってきたよ。お節介かもしれないけど⋯⋯


「様子を見に行ってみましょうかね」


「本当! ありがとうアークちゃん!」


「場所はどの辺りですか?」


「南西の門を出て真南へ徒歩五時間くらい行った場所に、川が流れているわ。それに沿って上流へ三十分くらい進むと、洞窟の入口が見えてきます。その中にゴブリンの巣があるらしいわ」


「わかりました。冒険者さん達はいつ出発したんです?」


「三時間くらい前よ。追い付けるかしら?」


「はい。大丈夫です」


「じゃあ本っ当にお願いね! アークちゃんにこんな事させて悪いわね」


 僕はお金いっぱい持ってるから、そんなに毎日稼がなくても大丈夫。だってお金殆ど使った事ないもの。食事と寝る場所に困ってないからだと思うけど。


「では、アーク。出撃します!」


「行ってらっしゃい」


 バンザイしてミラさんとハイタッチする。わけのわからないテンションで、僕はギルドを出発した。

 ベスちゃんのいない初めての町の外に、とってもワクワクしちゃうんだ。

 やっぱり僕は冒険者なんだなー。なんだかとっても楽しいです。






もふみが欲しい⋯⋯もふもふしたい⋯⋯

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ