アークの休日
サブタイトル変更しました。
ここ数日間、近くの雑木林でギブとモカちゃんとマーズちゃんと遊んでいます。
あのオーク殲滅依頼の後、サラさん達は仲良く母親と帰って行きましたが、数日後にモカちゃんが一人でギルドに遊びに来た時はびっくりしたよ⋯⋯本当にびっくりだった。
僕で子供を見慣れてる冒険者さん達は、何故か体をビクッとさせてモカちゃんを眺めていたんだ。
現在、オークの初討伐依頼から時が流れ、先月僕は五歳になったんだよ。
五歳って言ったらあれですよ? もうすっごく大人なんです。バスローブを着て赤い月を眺めながら、ケーキを食べて怪しく笑っちゃうくらい大人なんですよ? ああ、ケーキ食べたいなー。けど高いからな〜⋯⋯ふわっふわなスポンジが口の中いっぱいに広がって、しゅわしゅわ解けながら溶けていくぅ⋯⋯ゴクリ。
と、まあそれは置いておくとして、母様のお腹が凄く大きくなってきたんです。もうそろそろ赤ちゃんが生まれるんだってさ。外に行く時はなるべく近くにいるように言われています。
なのでここ数日はギルドへ行かずに四人で時間を潰していると言うわけです。
ここで僕達が遊んでいる事は、父様も知っています。母様が産気づいたら呼びに来てくれる予定になっています。
出産は女達の戦いだそうで、父様でも入っちゃいけない聖域なんだってさ。
父様を止める事が出来るなんて、何処の神様ですか? 僕は信じられません。眉唾物ですぅ。
ちょっと追いかけっこをし過ぎて皆喉が渇いたみたい。雑木林に自生している洋梨とアケビをもぎってきました。
採れたて新鮮。ああ、大好き雑木林! 九月は果物多くて楽しいな。
「「「「甘〜い!」」」」
果物を川で洗い、皮も剥かずに齧り付く。とっても甘くて美味しいから、皆幸せそうな顔をしているよ。
「アークは足速いわよね。私も結構自信あったんだけど?」
「んー。僕はCランク冒険者の中では速い方かも? マーズちゃんも速く走りたいの?」
「アーク程じゃなくても良いから速く走りたいわ。私アークよりもお姉さんなのに」
「アーク君が本気で走ると見えないです」
モカちゃんの言葉に、皆がうんうんと頷いている。近くから見るから見失うだけだと思うけど、僕は走りを重点的に鍛えてきたからね。
スピードは何よりも大事だと思うんだ。いくら強力なスキルがあっても、当てられなくちゃ勝てないもの。
モカちゃんは僕に「君」を付けて呼ぶ。最初はアーク様ってギルドで呼ばれちゃって、その時隣にいたベスちゃんにからかわれたんだよ?
ギブとマーズちゃんは普通に僕の名前をアークって呼ぶね。友達が沢山出来て嬉しいよ。
「マーズちゃんが速く走りたいのなら、僕が訓練メニュー考えようか?」
「本当!?」
「うん! まず朝起きたらね、全力ダッシュするの」
「それだけ?」
「うん。倒れるまでね」
「倒れるまで!?」
「そうだよ? それを二十回、朝、朝、昼、夜、夜の五セット」
「朝と夜が二回ある毎日⋯⋯」
「そうすればきっと早くなるよ? でもいきなりそれはきついから、朝と夕方に十本ダッシュから始めたらいいかな」
顔色が青くなったマーズちゃんの横で、モカちゃんが真剣な顔でメモを取っていた。
ギブは苦笑いしながらそれを見ている。
「アークの言う事は間違いないと思う。俺も言われた通り頑張ったら剣術スキルを授かったんだ」
「ギブが剣術? 良いなぁ〜私も何かスキル使ってみたいなぁ」
「剣術も良いよね。僕も剣術好きだし魔法も好き」
「アーク君の剣は凄かったです。魔法も見てみたいな」
モカちゃんが首を傾げながらお願いしてきた。両手を祈るように握ってほんのり微笑んでいる。
「どんな魔法が見たいの?」
「えっとぉ。空飛びたい!」
モカちゃんが自分の顎に人差し指を当てながら、キラキラした目でお願いしてくる。
いきなり難易度高いお願いがきたー! でもそれって上級の重量魔法だ⋯⋯暴風魔法にも空を飛べる魔法がある。でも今の僕には無理だなー。
「モカちゃん。もう少し簡単なやつでお願いします」
「じゃあどうしよう。瞬間移動とか?」
「難易度上がってる!」
瞬間移動は空間魔法。上級魔法の無属性魔法のさらに上⋯⋯最上級魔法だよ!!
「えと、消える魔法とか?」
「⋯⋯」
それは⋯⋯出来ちゃう⋯⋯やっちゃう? やっちゃうかな?
「“オプティカルカムフラージュ”」
そして僕は消えた。これは光魔法の“オプティカルカムフラージュ”だ。僕は確かにここにいるけど、他人からは見えていないだろう。
姿を消すことは出来るけど、感知系スキルの鋭い人には場所が丸わかりなんだ。案外使えない魔法なんだよね。
「うわあ〜。アーク君どこー?」
「動いてないよ。うりうり」
モカちゃんの頬を突っついてあげた。びっくりするモカちゃんを見て、すぐにギブとマーズちゃんにぺちぺち触られる。
「本当だ。アークいないのにいる!」
「ここに顔があるのね。本当に見えない」
「凄いすごーい!」
皆魔法に興味があるみたいだ。新しい魔法が出来るようになるのは楽しいんだよね。初めてファイアバレット使った時は感動したもの。
それからしばらく雑談して、新しい遊びをしようという話になった。それならあれが良いかな?
「僕、目隠しと耳栓して手足を後ろで縛るから、剣かナイフで攻撃してくれない? 当たった人が勝ちね」
「「「それ遊び!?」」」
「盗賊に襲われて、全てが封じられちゃったごっこ?」
「「「却下!(です)」」」
あれれ? これベスちゃんと頻繁にやる遊びなんだけど、何か間違っただろうか?
話し合った結果、かくれんぼをするって話になった。でも僕には気配で場所がわかっちゃうし、逆に僕が隠れると見つからない。困ったなぁ⋯⋯鬼ごっこは僕鬼より速いしね。木登りは木を飛び越えられちゃうから遊びにもならない。この半年で僕も強くなったんだよ?
*名前 アーク
種族 人族
年齢 5
出身地 ドラグス
魂魄レベル 35
体力 645
魔力 936
力 422
防御 168
敏捷 835
残金 268915ゴールド
武術系スキル
中級剣術レベル1
剣技“パワースラッシュ”、“ウェポンスナッチ”、“アーマーブレイク”
中級短剣術レベル1
短剣技“クイックシャドウ”、“シャドウウォーリアー”、“スピードバインド”
中級体術レベル2
体技“二段跳び”、“岩砕脚”、“震激雷波掌”、“加歩”
初級弓術レベル4
弓技“ディスタントビュー”、“エンチャントアロー”
魔法系スキル
生活魔法レベル2
“クリーンウォッシュ”、“イグナイト”
火魔法レベル4
“ファイアバレット”、“ファイアスネイク”、“ファイアアロー”、“ファイアボール”
水魔法レベル4
“バブルボム”、“ウォーターフォール”、“ドライミスト”、“ウォーターウィップ”
風魔法レベル4
“エアークエイク”、“エアーショット”、“エアーコントロール”、“エアーカッター”
土魔法レベル4
“ヘキサゴンストーン”、“クレイゴーレム”、“ストーンハンド”、“フォーリングロックス”
光魔法レベル3
“ライト”、“ポイントレーザー”、“オプティカルカムフラージュ”
神聖魔法レベル1
“ヒール”
補助スキル
魔力感知レベルMAX、魔力操作レベルMAX、魔力高速循環レベル1、魔力消費軽減レベル6、魔力増強レベル3、探索レベル5、気配察知レベル8、尾行レベル3、隠密レベル8、悪路走行レベル7、荷運びレベル6、忍耐レベル7、苦痛耐性レベル5、毒耐性レベル3、火耐性レベル5、礼儀作法レベル5、暗視レベル4、自然回復力向上レベル8、敏捷強化レベルMAX、高速移動レベル1、筋力増強レベル7、分割思考レベルMAX、並列思考レベル1、投擲レベル7、料理レベル4、解体レベル5、釣りレベル1、回避レベル7、危険感知レベル6、威圧レベル1、気力操作レベル3、身体強化レベル3
???スキル
魔気融合身体強化レベル1
ユニークスキル
恩恵の手引書、無限収納
称号
猫の天敵、お姉さん殺し、町のアイドル、魔法使い、小金持ち、我が道をゆく者
今のステータスがこれ! 町周辺の魔物だと、魂魄レベルを上げるのが辛くなってきたよ。でも遠出するわけにはいかないしね⋯⋯地道にコツコツ頑張ります。
ベスちゃんはレベルを上げたいなら迷宮だと教えてくれた。もし学園を卒業した後に予定がなかったら、迷宮のある町に行っても良いかなと思うんだ。
魔力と敏捷がかなり伸びてきたけど、それはスキルのお陰と称号の魔法使いのせいなんだ。
敏捷強化がレベルMAXになり、スキルの高速移動が解放された結果である。ここまでくるの大変だったなあ。
魔法使いの称号は、魔法の種類を二十個以上覚えた時に授けられました。魔法の威力も多少上がって、スキルに“魔力増強”が仲間入りです。
次、毒耐性がついちゃったのは、ベスちゃんと外に出た時によく食べさせられるからだね。
ベスちゃんの料理が不味いとかじゃなくて、森で摘んだ毒草を少しずつ鍋に入れて微毒料理で耐性をつけられました。毒を食らわば鍋まで! 何度お腹を壊したかわからない⋯⋯毒の味や種類、対処方法なども教えてくれたよ。本当はエルフのお姉さんの方が詳しいんだってさ。
それと、便利かと思って威圧スキルを頑張って覚えてみたんだよ? それをベスちゃんに言ってみたら、やってみ? と言われ、ベスちゃんを威圧してみたら笑われたよ⋯⋯ミラさんにも笑われたんだ⋯⋯うぅ。この頬の膨れ具合が目に入らぬか! 指で突っつかれて潰されました。本当に悔しかったです。
最後に一つ“知らない”スキルが増えたのが謎です。恩恵の手引書にも無かったスキルで、“魔気融合身体強化”という。
普通のスキルとは別枠みたいだね。ユニークスキルでもないみたいだ。
中級の武術を覚えたことで、身体強化と気力操作を習得することが出来ました。
身体強化、魔法操作、気力操作で体を三重強化して雑木林を走り回っていたら、急に体の奥が熱くなって焦ったよ。無理な負荷をかけ続けた結果手に入っちゃったスキルだと思うんだ。
身体強化を発動すると、全身から蜃気楼のような靄が吹き出す。これに気力操作で更に全身を強化すると、金色の闘気みたいなのが溢れるんだ。
それだけでも凄い力を感じるんだけど、そこに更に魔力操作で全身を強化してみた。そしたらもう大変だったんだよ⋯⋯体が軋むような音を立てながら、銀色に輝く濃密な闘気に変わったんだ。
初めての時は本当に痛かった⋯⋯血が出るかと思った。こんな大きいの無理って思った。
それでも僕は諦めなかったよ。父様と母様に追いつくためにね! 苦痛耐性もこれのせいでレベルが上がっちゃったんだ。
この三重強化状態でまともに動けるようになるまで三ヶ月もかかったよ。最初は立っているだけで精一杯だった。それに何度も気を失った。
今ではすっかりこの状態に馴染んで、溢れる大きな力も制御下に置くことが出来ようになったんだ。
それで雑木林の中を駆け回ってたら⋯⋯と、言うわけなんだ。
“魔気融合身体強化”を発動すると、その三重強化の状態に直ぐになれる。並列思考が無い人には絶対に習得する事は困難だろうね。
この“魔気融合身体強化”を使えば、父様みたいにそこら辺の魔物なら指先一つでイチコロさ。
ただ、このスキルは燃費が悪くて、最大でも今は五分でへばっちゃうんだ。自分の身が危ない時は、切り札として迷わずに使おう。
誰にも教えてないから、ベスちゃんも知らない僕の奥の手になった。ちょっと強いくらいの相手なら、身体強化と気力操作だけでいけるはず。
はぁ⋯⋯ここまで頑張ってるのに、父様と母様は遠すぎるよ。
「アーク君。聞いてるぅ?」
「え? なーに? モカちゃん」
「やっぱり聞いてなかったー。むぅー」
モカちゃんが頬を膨らませる。僕は苦笑いしながら頭を搔く。
「お魚釣り過ぎよ。こんなに食べられないもの」
「あはは。考え事してたみたい」
マーズちゃんが眉根を寄せた。皆で遊べる物を探して、小さな滝の近くで魚釣りをしてたんだった。
ギブとマーズちゃんは浅い川で水かけっこをしていたよ。モカちゃんは釣れた魚を弄ったり、綺麗な石を探したりしていたね。
水かけっこに白熱してたのか、全身びしょ濡れの二人に収納からタオルを取り出した。
「ありがとう」
「ありがとうアーク」
「風邪ひかないようにね」
さて、タライには十匹の川魚が入っているね。ギブが四匹食べるとして、僕とモカちゃんとマーズちゃんは一匹ずつかな。小さい魚は逃しちゃえばいっか。お弁当もあるし。
収納からテーブル、椅子、お弁当を取り出して、モカちゃんとマーズちゃんには木の枝を集めてもらう。ギブには魚の内蔵を処理してもらい、僕は石を組んで鉄網を置いた。
「アーク君。これくらいで大丈夫?」
モカちゃんが持ってきた生木を地面に置く。
「モカ。それ湿ってない?」
「湿ってちゃ駄目ー?」
マーズちゃんがモカちゃんに指摘したけど、生木でも大丈夫さ。
「量は大丈夫だね。湿っててもいいよ。中に入れちゃって」
「良いの? アーク」
「うん。問題無いよ」
準備が出来たので魔法を詠唱する。
「“ドライミスト”、“イグナイト”、“エアーコントロール”」
水魔法“ドライミスト”、これは対象を乾燥させる魔法だ。生木でもこの魔法を使えば、直ぐに燃えやすい薪に変える事が出来る。“イグナイト”は生活魔法で、小さな種火をつける事が出来る魔法なんだ。
風魔法の“エアーコントロール”で空気の流れを作り、種火を燃え上がらせれば簡単に火を起こせる。
「アーク君。凄い!」
「本物の魔法使いみたいね!」
「俺も魔法使ってみたいなー」
「あはは。魔法はやっぱり覚えたいよね。ギブの家は鍛治で魔石いっぱい使うでしょ?」
「うん」
「その近くに毎日座ってれば、魔力が感知出来るようになると思うんだ」
「そっか。暑いけど我慢する。ありがとう」
「頑張ってね!」
マーズちゃんとモカちゃんの家は、あまり魔石を使わないらしい。一般家庭だと、貴族の家みたいにお風呂が無いからしょうがないか。
「じゃあ私達は⋯⋯」
「あうぅ⋯⋯」
「⋯⋯俺が父ちゃんに頼んでみようか?」
「良いの?」
「私も良いー?」
「父ちゃん次第だけどね。頑張ってお願いしてみる!」
「「わーい!」」
ギブが家に誘ったので問題は解決だ。なので暫くバススさんの仕事場は騒がしくなるかも⋯⋯僕後でバススさんから怒られないよね? きっとモカちゃんとマーズちゃんが目をうるうるさせれば、バススさんも怯んで断れないと思う。
たまにはこんなのんびりも良いな。爆ぜる火の粉の音を聴いて、四人で焼ける魚を見ながら楽しいお喋りが続いていく。
魚は皆で美味しくいただきましたΣ(*´д`*(ω・` )ハムハム
閑話で書きたい話が沢山あるのですが、とりあえず本編を進めないとヽ(`•ω•´*)ゝ




