オークの集落、捕えられた娘
アサシンモードのアークちゃんです。でも殺伐とした戦いだけでは無いので、最後まで読んでみて下さい。
狩人モードのアークです。オークの数が、ギルドから聞いていたより少ないと思う。集落の大きさに比べても、こんなものだろうかと思った。
狩りに出ている部隊がいて、今は戦力が半減しているのだと考えた方が良いかもね。予想出来る事は全部頭の隅に置いておかないと! 心にペンと剣だよね! 父様!
さあ、次の標的を探そう。
なかなか単独行動のオークがいないな。二体を狙うにはリスクがある。倒れた片方を見て叫ばれたら、他のオーク達まで臨戦態勢になってしまうよね。
初めての実戦だもん。焦っちゃいけないよ。ゆっくり慎重に倒さなきゃ。
また単独行動のオークを見つけた。棍棒を片手に持ちながら、ストレッチをしているみたいだね。
木の上に素早く上り、気配を消して弓を構える。落ち着いて⋯⋯もう一度だよ。
──ドス。
矢が眉間に刺さった瞬間、オークは膝から崩れ落ちる。さっきよりも上手く刺さったみたいで、意識を手放すのも早かった。
あまり苦しまないように倒したい。まだ未熟だけど、出来る限り頑張るからね。
倒したオークを素早く収納すると、次の標的を探して大木に上る。
次に見つけたオークは、二体で背中合わせになっている。動物の皮を剥いでいるみたいだから、少しリスクはあるけどいけそうかな。
僕はキリキリと弦をしならせた。
──ドス──ドス。
今回も無事に成功だよ。僕はホッと胸を撫で下ろす。結構緊張したけど、最初より乱れてはいなかったかな。
これはクライブおじさんがプレゼントしてくれた弓なんだ。三歳の誕生日に貰った手作りだけど、流石は元鍛冶師さんだね。
バランスが良くて使い易い。
オークの回収も忘れちゃいけない。死体が見つかったら叫ばれるだろうし⋯⋯
矢で仕留めているのは、無闇に血を飛び散らせないためなんだ。匂いでバレる心配もあるから、剣を使うのはもう少し後になる。
ベスちゃんの隠れる藪を見てみると、小さくこちらに手を振ってくれた。僕も小さく手を振り返した。
少しずつ少しずつ数を削り、僕の無限収納に十体のオークが収納された頃、広場のオークがザワザワし始めた。
異変に気がついたのかもしれない。キョロキョロと辺りを見渡しながら、何やら仲間と肩を寄せて会話をしている。
そろそろこっそり倒すのも限界かな。オークは飛び道具を使いそうもないし、囲まれなければ大丈夫だと思う。
広場に一番近い木の上に移動して、残りのオークを数えてみた。
家の中からも残りのオークが呼び出され、全部で十八体のオークが集合する。
ちょっと数が多いなぁ。本当なら罠とか作って追い込んだりした方が良いとは思うんだけど。
そう出来ない理由があるんだ。
矢を一本口に咥えながら、小さく溜め息を吐く。
一番近くのオークに狙いを定め、スパッと躊躇なく矢を射った。
──ドス。
そして次もすぐに矢を放った。どんどん無限収納から矢を取り出していく。
──ドス──ドスドス。
ここまでが限界だった。仲間の倒れる音を聞いて、数体のオークが矢の飛んできた方に顔を向ける。流石に僕の居る場所がバレないわけがない。
「ブギー!! ブ! ブギー!!」
「ブギギャ! ブブギー!!」
オークは怒りを露わにして叫び出した。でも怒っているだけじゃこちらの優位は変わらない。
──ドスドス──ガキン!
矢をどんどん射る。しかし、こちらの位置がバレてからは、狙っても急所は避けられてしまう。
普通なら無駄な矢を惜しむのだろうけど、僕の矢は無限収納に沢山ある。無駄矢でも結構です! 撃ちまくりますよ。
──ガン! ドス! ザシュッ! ドス。 ガキン!
「ブギー! ブギギャ! ブブギギャ!」
(おいー! 降りろよ! 卑怯だぞ!)
そんな風に聞こえた気がする。ふふふ。
矢から逃れるために、物陰に隠れる知能は無いのかな? まだ十二体残ってるのか。
一体のオークが突進して来る。狙い撃ちだねって思っていたら──
──ズドーン⋯⋯バキバキバキバキ⋯⋯
僕のいた木が体当たりの一発でへし折れてしまった。傾き始めた木の上で、急いで弓を収納する。
なんて馬鹿力! 反則過ぎると思うよ!
飛び降りながら魔剣を抜き、木を折ったオークの脳天に振り下ろした。
──スパン!
自分の手に残る感触がおかしい。まるで豆腐でも切るように、オークの頭が真っ二つになる。
これが魔剣の実力⋯⋯なんだね。普通の剣とはまるで違う! 鋼鉄の剣じゃこんな風にはいかないと思う⋯⋯扱いには注意が必要なんだ。
他のオークが今の光景を見て怯んだ。こんなに仲間があっさり斬られるのを見たら仕方がないよね。でも体勢を立て直す暇なんか与えない。
僕は直ぐにオークの集団へ斬りこんだ。今の僕のスピードは、Cランクでも速い方だと思う。敏捷のスキルも毎日鍛えているし、魔導兵との戦いで一気に魂魄レベルが上がったからね。
「“シャドウウォーリアー”」
オークの集団に突っ込む手前で、僕は短剣技のシャドウウォーリアーを発動した。
僕は右へ、分身は左へ走る。真ん中に飛び込んで混戦になるのは危ないと思うから、まずは周りから削っていこう。
「はぁああ!」
身長差は凄くあるけど、ステータス差はそんなに無い筈だ。剣を横薙に振ると、二体のオークが足首を失ってバランスを崩した。
そいつらは無視して一旦退る。ヒットアンドアウェイを繰り返そう。
逃げる僕を追おうにも、足を無くしたオークが他のオーク達の障害になっていた。
ありゃりゃ⋯⋯迂回すれば早いのに、それを態々踏み越えて来ようとしている。
「ブギャーー! ブギヤ!」
「プ⋯⋯プゲゴ」
踏まれたオークが痛そうに叫んだ。直ぐに倒してあげれなくてごめんね。オーク達から思ったより距離が離れた。これなら安全に魔法が使える。
「はああ! “ポイントレーザー”」
最近覚えた光魔法レベル2。ポイントレーザーは細い熱線が光の速度で対象を焼き貫く魔法だ。
中級魔法なので魔力消費は大きいけど、この魔法の良いところは正確無比で使いやすいところ。そして放たれたらまず避けれない。
四体をこの魔法で倒すと、集落の屋根の上を走りオーク達を迂回する。
オーク達は僕を忌々しそうに睨んできた。
待たせてごめんね。
そして先程足を斬って放置した動けないオーク二体に、僕は剣を振り下ろす。
これで残り六体⋯⋯建物の中に“オークが”いない事は気配察知スキルで確認してある。
それに矢を受けた手負いが二体。気を引き締めて頑張るぞ!
一度収納しておいた大量のオークを広場に出した。肉の塊を山にして、その上から弓を構える。
──ドス。ドシュ。ガキン! ガン! ドス。
走ってきたオークの脚にだけ狙いを定めて射る。三体のオークに命中したよ。肉山をよじ登ろうとすれば、きっと眉間が狙い易い。
すると、一体のオークが怒りの顔で投石してきた。確かに弓兵っぽいオークはいなかったけど、そんなに都合よくはいかないらしい。
僕の左横をすり抜けていった拳大の岩が、背筋が寒くなる程の圧力をかけてくる。
僕も初陣なんだよ。手加減して欲しいとは言わないけどさ。
肉山を反対方向へ駆け下りて、隠密を使い建物へ隠れた。さっきの投石はびっくりしたね。怖かった⋯⋯
改めて思ったけど、この集落は匂いが酷いよ。長居はしたくない⋯⋯
僕を探しすためなのか、勝手にオークがバラけてくれた。粗末な木の板を合わせたような建物の隙間から、弦を引き絞り矢を放つ。
──ドシュ。
オークの後頭部に矢が吸い込まれる。あと五体!
「プギー! プギャギャ! グギャギャ!」
「プギャ!!」
一体のオークが肉山を漁っている。そんな所に僕はいないよ?
背後から剣で首を刎ねた。直ぐに体だけ収納して、宙を舞う頭は放置する。
残り四体。
ふー。ふー。よし! 僕はちゃんと戦えてる。あの黒い魔導兵に比べれば、オークはそれほど怖くない。
「プ⋯⋯プギ⋯⋯」
「プギャギャ⋯⋯ギャー⋯⋯」
残りの四体は手負いだ。
そんな時、危険感知スキルが僕に警告を発した。すぐにその場から飛び上がる。
僕のいた場所に、硬い岩が通り過ぎた。油断はしちゃ駄目だね。僕は防御力が低いんだから。
「プギャーー!!」
「はぁああ!」
近くにいたオークを袈裟斬りにしようと剣を振り下ろした。僕の斬撃を棍棒でガードしようとしたみたいだけど、棍棒などよりもオークの体の方が丈夫そうに見える。
僕は剣を振り下ろしながら、人差し指のトリガーを引いた。
──スパンっ!
「プギャ⋯⋯ギャグ⋯⋯」
「残り三!」
元の姿になった仮名“ドラゴンシーカー”が、易々とオークを真っ二つに両断する。やっぱり魔剣って本当に凄い。
トリガーを戻し、呆けた顔をしていたオークの首へナイフを投擲した。
それはサクッと首へ吸い込まれる。簡単そうに見えても、ここまで出来るようになるには苦労したんだ。何万回も木に投げて練習したんだから。
──ドサ⋯⋯
「残り二」
「ぷ、プギ⋯⋯」
「ギャギャ⋯⋯プギャー⋯⋯」
最後の二体は逃げようとしている。でも脚を矢で貫かれているので、もう這う事しか出来ない。
「ごめんね。逃がすわけにはいかないの。君達は人を殺すし女の人を攫うって聞いた。痛くないようにするからね」
残り二体のオークは背後から弓で後頭部を射る。一応これで討伐は完了だ。
ふぅ。後は建物の中を調べに行こうかな。人間っぽい気配が一つあるんだよね。
もしかしたら攫われた女の人なのだろうか? 一応敵の可能性も考えなくちゃ。
建物の扉を静かに開けて、隠密スキルを使いながら中の様子を確認した。
「ひぃ! やだぁ! 助けてえ!」
やっぱり女の人だったんだ。それもミラさんくらい若い人。そんな人が、足を折られて手を縛られている。なんでこんなに酷い事をするの? オークは繁殖のために人を捕まえるって聞いたけど、僕にはよくわからないよ。
扉が開いた事で、部屋の中に光が入ったんだ。隠密スキルを使っても、侵入がバレたのはそういう事。
建物の外もバタバタ五月蝿かったから、異常をこの人も感じていたのかもね。
「大丈夫ですよ。依頼を受けた冒険者です。助けに来ました」
僕は隠密を解いてから、薄暗い部屋の中へ入った。
「人!? た、助け? たす⋯⋯かるの? 私⋯⋯」
女の人を拘束していた紐をナイフで切り、僕はお姉さんに微笑んでみる。安心させてあげたかったんだ。
「もう大丈夫ですよ」
「う、うぅぅ⋯⋯ひぐ⋯⋯」
女の人は涙を流し始めた。服はボロボロになっているけど、まだ繁殖? ってのはされていないみたい。多分。
泣いてる人を見ると、僕ももらい泣きしそうになるよ。こういう時どうするんだっけ? えと、え〜と。
そっと頭を抱き寄せて、優しく撫でてあげる。そのせいかもっと泣きだしてしまったけど、母様、父様、ミト姉さん、キジャさんにしてもらって嬉しかったからしてみたんだ。
「僕はアークです。お姉さんは?」
「あ、あたじぃ、サラ。でず」
「サラさんですね。帰るのはドラグスでよろしいですか?」
「たすがった⋯⋯うぅ⋯⋯」
名前は聞き出せたけど、まだ会話は無理っぽい。それ〜撫で撫で〜。
ん?
「⋯⋯」
少しまずいかもしれない。複数のオークの気配がこの集落に近づいている。
やっぱり別働隊がいたんだね。数は七? え? 人っぽい気配が二。むむぅ。また誰か捕まったのか。
「サラさん。ちょっと騒がしいかもしれませんが、少しここで待っていて下さい」
「や⋯⋯やだあ。一人にしないでぇ」
「サラさん⋯⋯」
そうだよね⋯⋯怖いもんね。弱ったなぁ。
サラさんの頭を撫でながら、どうしようか考えた。僕だって逆の立場なら、こんな場所に一人にされたくはないだろうね。
「いやーーー!」
「プギギャ! ププギ!」
外から悲鳴が聞こえてきた。その声を聞いたサラさんの体がビクッと震え、顔色が一気に青白くなる。
「うそ、嘘よ! なんで⋯⋯」
「サラさん!?」
サラさんは折れた足も気にせずに、建物の外へ飛び出していく。出た所で転んでしまったけど、悲鳴の主を見て顔を悔しそうに歪めた。
「せっかく⋯⋯逃がしたのに⋯⋯マーズぅ、モガぁ⋯⋯」
あれはサラさんの姉妹? もしかしたら、サラさんが囮になってあの二人を逃がしたって事なのだろうか?
そこまでしたのに皆捕まってしまったら、悔しい気持ちでいっぱいになるよね。
僕は隠密スキルで隠れながら外の様子を伺った。
一体だけ薄汚れた革の防具をつけたオークがいる。他のオークに比べて装備が上等だった。ちゃんとしたグレートソードまで持っているよ。
オーク達は広場に積み上がった仲間の死体を目にして、明らかにその顔を怒らせていた。巨大なグレートソードを片手に持ったオークが、それで地面を殴りつける。
あれがベスちゃんの言ってたハイオークかな? 普通のオークより体が一回り大きい。それに強そうだね⋯⋯
オーク達に捕まっているのは少女が二人。一人は僕と同じくらいの女の子で、もう一人は七、八歳くらいに見える。
悲鳴は小さい方の女の子が出したようで、もう一人の女の子はぐったりと意識を失っていた。
全員助けたいよ⋯⋯父様や母様みたいに。
上手くいく方法を考えなくちゃ。慌てたらいけない。このまま考え無しに飛び出して、あの子達を人質にされたら厄介だよね⋯⋯どうにか全員無事に救出したいんだ。
サラさんは悔しそうに歯を食いしばって、オーク達の集団を睨みつける。僕はこっそりと建物の裏側を斬り裂いて、家の外に脱出した。
女の子二人は、それぞれが腕を掴まれて引き摺られてきたみたい。気を失ってる方の女の子は、足を酷く擦りむいて血を流している。
生きてはいるみたいだけど⋯⋯心配だな。
最初の一合、奇襲してハイオークを倒す方が良いのか、人質になりそうな二人を助ける方が優先か⋯⋯人質になりそうな二人を助けた場合、小さな女の子が気を失った姉を抱えて逃げる事が出来る? 訓練しているようには見えないし、それはちょっと厳しいと思う。
ならハイオークは奇襲をすれば確実に倒せる? それはいけそうな気がする。矢は弾かれてしまいそうだけど、剣ならいけそうだ。でもそうすると、女の子二人は人質にされるだろうね⋯⋯
ならどうすれば良いのか。やっぱりアレしかないかな。
「“クレイゴーレム”」
僕は土魔法を詠唱した。これは三十センチくらいの粘土人形を呼び出す魔法で、簡単な命令を聞いてくれるんだ。
土魔法レベル2“クレイゴーレム”。見た目はずんぐりむっくりで、目と口の部分に穴が空いている。それを連続で呼び出した。
「んぱ」
「んぱあ」
「まーまー」
「んぱあ」
「んむんむ」
「ぱあぁ」
「まむぅ」
「んまむぅ?」
「こ、こら。静かに」
クレイゴーレムを八体並べ整列させる。そこ! 親指咥えないの!
「いいですか? 今悪いオークに女の子が二人捕まっています」
「んぱあ?」
「まむぅ?」
「ええ。ピンチです。絶対に失敗出来ません」
「ま!」
「んまあ!」
「君達の助けが必要なんですよ」
《ま!》
「よろしい」
クレイゴーレムは全員が敬礼した。
「僕がボスに斬りかかります。びっくりしているうちに、女の子二人を助けちゃって下さい」
《ま!》「まむう?」
ちょ⋯⋯一体だけ理解してないみたい⋯⋯で、でも多分大丈夫! きっとね!
「さあ。行くよ」
《まーむー!》
だから声が大きいよぉ!
「んぱ」→とうとう
「んぱあ」→生まれたよ!
「まーまー」→僕達
「んぱあ」→私達が
「んむんむ」→この世界の
「ぱあぁ」→メイン
「まむぅ」→ヒロインさ!
「んまむぅ?」→マジで?




