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いざ町の外へ⋯⋯オーク戦記






 僕はCランク冒険者になってから、まだそれに相応しい働きが出来ていない。魔導兵事件から一ヶ月が過ぎたんだけど、まだ僕は町の外に出ていないんだ。

 でもね、それも今日までなんだ。今日やっと念願の魔剣が完成するんだよ。というわけで、朝訓練後に朝食を食べた僕は、軽い足取りで武器屋バススの扉を開いた。


 ──カラン。


 軽い音色を響かせて、静かな店内に反響する。


「おはようございまーす!!」


「おお! 来たか!」


 まだ誰もいない店内では、カウンターで頬杖をついているバススさんがいた。早くに現れた僕の姿を見て、バススさんもニコニコしている。やっと⋯⋯やっとだー!


「ほれ。出来たぞ」


 流石バススさん。僕が催促するよりも早く、カウンターの後ろから一本の剣を取り出した。


「おおおおぉ! キターー!」


「はっはっはっは」


 凄い! かっこいい!


 鞘には焦げ茶色の革が使われていて、とても渋カッコイイと思う。柄は真っ白になっているみたいだね。この剣を拾った時は全部黒かったんだけど、見た目にメリハリが出た気がする。


 急いで剣を引き抜くと、艶のある黒い刀身が現れた。刀身に少し反りがあるので、完璧に扱うには少し練習が必要だろう。

 そして、何故か柄の部分にトリガーみたいな物があった。


「それを人差し指で握ると、刀身と柄が伸びて剣が元の姿に戻るんだ。結構大きいから両手剣として使えるだろう」


「変形機能付きですか!?」


「ああ。成長すればいらなくなる機能だろうが、今はあると便利だと思ってな」


「とても素敵だと思います! やったー! 僕の剣だ〜!」


「術式にオンオフ機能を付けただけなんだがな。喜んでもらえて良かったよ」


「変形するとか凄いですからね!」


「まあ変形すると派手に見えるわな。鞘には重量軽減の魔術が組み込んである。だから剣を抜かなければナイフくらい軽く感じるぞ。剣に名は付けたか?」


 それは嬉しいよ。伸び縮みするなんて、それだけでも魔剣みたいだよね。重さも良い感じ。

 でも名前か〜。ブラックソードとか? 黒い剣?


「んー。名前って急には難しいですよね。黒剣?」


「黒剣か⋯⋯シンプル過ぎんか?」


「ですよね。んむぅ。そうだなー⋯⋯」


 どうしたらいいんだろう⋯⋯この剣って硬いだけの魔剣なんだよね。特徴から名付けると、ストロングソード? カッチカチ剣とか? それはちょっと嫌かな?


「その剣で何をしたい?」


「⋯⋯やりたいこと? 旅! 色んな物探したり、秘境を見つけたり、龍を探したり。後は〜⋯⋯」


「ふむ⋯⋯探す、か」


「はい。色々探しに行きたいです」


「龍を探すとか危ねぇなあ。俺が親なら許可はださねえよ」


「僕の両親は絶対に反対しませんよ?」


「そ、そうか⋯⋯とりあえず色々探したいと。なら剣の名前は、サーチャーか? 少し弱い気がするな。なら探求者からシーカーか? シーカーソード⋯⋯微妙だな。んー⋯⋯」


「いきなり剣の名前を考えるのは難しいですね。シーカー⋯⋯あ、ドラゴンシーカーはどうですか?」


「ほう。龍の探求者か。とりあえず仮名にそうしておくか」


「はい!」


 とりあえず仮名で“ドラゴンシーカー”になった。でも探すって感じじゃなくて、追求するって言葉になるのかな? まあニュアンス的に名前を付けただけだから何でも良いか。ドラゴンシーカーってちょっぴりかっこいい気がする。

 龍を追い求め、龍を知り、龍と友達になる。

 ドラゴンフレンズとかでも良いのかな? 剣に龍の要素が無いけどね。


 今はこの素晴らしい剣との冒険の方が大事だ。ギルドでベスちゃんと合流しよう。


 バススさんに借りていた剣を返し、大事な父様の剣もナイフとしていただいた。元は僕の大事な刃引きの剣。父様から貰った初めての剣だ。それがナイフとして蘇ってくれた。


「ありがとうございます。追加料金とか発生してたら払いますよ」


「大丈夫、予算内だ。新しく剣を打つよりも安い。Cランク祝いも込めて、鋼鉄のボディーアーマーも用意したんだ」


「わあ!」


 それは胴部分の鎧だった。とてもキラキラと輝いて見える。バススさんに着せてもらい、そのフィット感に更に驚いた。


「凄いですね!」


「ボディーだけだがな。なんせ今気合い入れて作っても、アークはすぐに成長する。今日は外へ行くんだろ? 無事に帰って来てくれよな」


「はい! 気をつけて行ってきます!」


「良い返事だ」





 冒険者ギルドにやって来ました。真新しい鎧を光らせているので、新人冒険者に見えるかもしれません。いえ、新人でした。二ヶ月目のペーペーであります。


「おい、あれ見ろよ」

「なんだあのちっこいのは」

「くっくっく⋯⋯笑かすなよ」


 見た事ない冒険者さん達です。まあ確かに小さいですよ? 少し踵を上げておきますか。

 視界良好。これで大丈夫です。

 装備が良いせいか、少し強くなった気分になります。


「アーク。ぴかぴかじゃないか」


「ベスちゃん。おはようございます」


「ああ、おはよう」


 そういうベスちゃんも今日は完全な戦闘服に身を包んでいるね。革鎧姿だけど、一目で高級品だとわかるよ。どんな素材を使っているのかな?


「ベスちゃんかっこいいね」


「アークもさまになってるじゃないか」


「えへへ。バススさんが鎧くれたんだよ。ランク上がったお祝いなんだって」


「良い物貰ったなあ。よしよし」


「ししょーーう!」


 ベスちゃんに撫でられていると、ターキが走り寄って来た。何故だか真剣な顔をしている。


「おはようターキ」


「おはようございます! その格好はどうしたのですか! ベス様まで!」


「え? 今日は町の外へ初の魔物狩りだよ」

「アークの初陣だ。花弁をふらせろターキ」


「良かった。何処かの国でも攻めるのかと⋯⋯」


 ターキの声は良く聞こえなかった。でも安心した顔をしているよ。


「気をつけて下さいね。師匠なら問題無いと思いますが」


「ありがとう。依頼を見てから行ってくるよ」


「では、ご武運を」


 ターキは軽い動作で去って行った。きっと仕事に行くんだろうね。ターキも冒険者登録の試験が終わってから、毎日依頼を頑張っている。

 慎重にGランクの依頼を真面目にこなし、先日Fランクに昇格したんだ。礼儀正しく爽やかで、新人の中では注目株だそうだよ。

 凄いんですね! ってミラさんに言ったら、アークちゃんがそれ言っちゃう? って言われた。僕の場合はライノス達のせいで、普通より早く昇格しちゃっただけなんだけど⋯⋯

 因みにライノス達の剣術訓練はまだ続いている。


 あれから二ヶ月か。早いもんだね。


 依頼掲示板を見てみると、Cランク依頼はかなり上の方にあった。でもギルドマスターからは、Dランクのオーク狩りをやって欲しいと頼まれている。


 普通はEランクの依頼なんだそうだけど、ハグレオークを狩るわけじゃなくて巣を潰して欲しいらしい。

 数の予想は五十体前後で、ドラグスの町から北に歩いて二時間の森の中だそうだ。

 町民にも被害が出ているらしく。早々に潰して欲しいらしいよ。


『それに、アークには【無限収納】があるじゃないか! ワッハッハッハッハッハ! 大漁を期待しているぜ! オークのベーコンをツマミに飲む酒は美味いんだよなぁ』


 と、キジャさんは言ってたんだ。

 保護者同伴だけど、今日の依頼頑張りたいと思います。僕もベーコン食べたいです。


 それで、昨日キジャさんから言われた依頼書をベスちゃんと探したのだけど⋯⋯


「無いよ? ベスちゃん」


「誰かが受けた?」


「ミラさんに聞いてみる?」


「そうしようか」


 ミラさんに聞いたら普通にカウンターの下から出てきたよ。


「美味しいお肉待ってるわね。オークなんてギタギタのガタガタにしてらっしゃい」


「う、うん」


 何故か迫力のあるミラさんに気圧されつつ、僕は初めての討伐依頼を受けた。


「でも、本当に気をつけてアークちゃん。ベスさん。アークちゃんをよろしくお願い致します」


「任された」

「ミラさん。行ってきます」


 ちょっとワクワクしてきました。焼いたオークのお肉に齧り付いてみたい。


 ドラグスには、北、東、南西と、三つの門がある。今日は北の森へ行く予定なので、当然北門からの出発になります。

 ドラグスの町の周辺は、比較的に魔物が弱いらしい。だから町を守る塀も高くない。だいたい二メートル半くらいの高さで、丸太を隙間無く並べただけの簡素な物なんだ。


 門へ行くと、兵士さんが出入りのチェックをしていたよ。ベスちゃんを見た兵士さんは姿勢を正し、僕を見て首を傾げる。器用な人だと思った。


「依頼で出るぞ」


「はっ! して、その子供は?」


「初めまして。Cランク冒険者のアークと言います」


「Cランクうう!!!」


「はい。今後ともよろしくお願いします」

「またな」


 僕一人じゃカード出すまで信じてもらえなかっただろうね。入場はカード確認があるそうなので、商人は商人の、冒険者は冒険者のカードを出すんだって。

 その他のカードだと、少額の入場料がかかるらしい。でも外に出る時にはカードの確認が無いみたいだね。


 町の外の景色は、田舎道と草原になっていた。僕は周りをキョロキョロ見ながら、風のように走るベスちゃんの背中を追いかける。


 オークの集落まで歩いて二時間と聞いていたけど、僕とベスちゃんは楽々三十分で現地に到着してしまった。

 オークの集落と聞かされていたんだけど、洞窟のような場所を想像していたんだ。だけど本当の集落と言ってもいい程に、ちゃんと家らしい掘っ建て小屋が森の中に現れた。


「これは⋯⋯ハイオークがいる可能性があるな」


 ベスちゃんが小さく呟く。


 僕とベスちゃんは藪に隠れながら、オークの数を確認した。


「気配察知スキルを使っても、遠くの家の中まではわからないや」


「適当な間隔で小屋があるね。死角として使わせてもらおうか」


「こっそり倒すの?」


「うん。アークの訓練だもの。アークだけで行って来なさい。外から見ているからね」


「わかりました」


 初討伐だもんね⋯⋯緊張するな。まずは何処から攻めようかな? 兎や野鳥とはわけが違うよね? 動物より少なからず知能がある相手なんだ。それに下手をすれば、こちらが食べられる危険だってあるんだから。

 ベスちゃんは僕に指示は出さなかった。僕が自分で考えて、自分で行動するのを優しそうに見つめている。


 うん⋯⋯僕なら出来る。


 深呼吸をして、頭の中を切り替える。僕はこれから狩人になるんだ。

 オークと集落をよく見てみよう。集落の中央は広場になっていて、十体くらいが集まって談笑(だんしょう)っぽい事をしていた。


 オークは身長が高い。横にも広くかなりの巨漢だ。二メートルはあるんじゃないかな? 色はピンク色だけど、土汚れで汚く見える。


 棍棒のような物を持っている奴と、何も持っていない奴もいた。下半身には腰巻がされているけど、それ何処で手に入れたの? んー、きっと動物から剥いだ皮を使っているかも⋯⋯


 よし。作戦が決まったね。まずは外側から攻めるんだ。気がつかれないように慎重に行こう。

 ただでさえ昼間なんだから、隠密スキルの効果は薄い。集落に柵は無いみたいだね。見張りもいるようには見えないし⋯⋯良し!


「いい目になったなぁ。アーク」


 ベスちゃんが僕の顔を見てうっとりとしているよ?


「僕、そろそろ行ってくるね」


「甘さだけじゃ駄目だ。アークのそういうところ好きだぞ」


「??? どうしたの? 僕もベスちゃん好きだよ」


「ふふふ。気をつけて行ってらっしゃい」


「うん。頑張る」


 藪から藪へ移り渡り、影から木の上によじ登った。意外と広い集落だね。

 なるべく外側の孤立している個体を探そう。まずは一体⋯⋯トイレをするみたいだ。


 僕は無限収納から弓矢を取り出して構える。野鳥で何度も練習してきたんだ。距離は二十メートルも無い。外すわけは無い筈だよ。


「すーはー⋯⋯」


 落ち着くように呼吸を繰り返す。緊張するね⋯⋯弓を構えて、木々の暗がりから矢を引き絞った。



 今だ!


 ──ヒュん⋯⋯ドス。


 矢はオークのこめかみに突き刺さった。当然衝撃を感じたんだろう⋯⋯オークは自分の頭を触り、こめかみに何かが刺さっているのを確認すると、何をするでもなく意識を手放した。


 ふう。まずは一匹やっつけたぞ。


 直ぐに僕はそのオークを回収する。命を奪う感覚には慣れないけど、それが生きていくって事だから。


 さあ、次も頑張らなくちゃ!





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