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精霊界の危機(14)

大変お待たせ致しました(><)




 この日、全世界で天変地異が目撃された。空がヒビ割れ、見たこともない異世界が映し出される。その異世界とは精霊界だった。殆どの者が見たこともない植物や動物が、空の歪みから覗く事が出来た。

 世界はパニックになってしまう。この異常な現象が何なのかわからず、場所によっては大きなオーロラが観測された。

 精霊界を知る者は、精霊と関わり深い関係にある者達だった。その者達にも理解が出来ずに固まるしかない。このまま空の亀裂が広がれば、地上に大陸が落ちてくるのではないかと思われたからだ。



side アーク



 僕は許されない悪い事をしようとしている。でも、どうしても耐えられなくて⋯⋯ごめんなさいごめんなさい!

 震える手で掴んだ銀色の物体が、僕の顔を歪めて映し出していた。


 酷い顔だ。怖い⋯⋯僕は自分が恐ろしい⋯⋯


 テーブルの上に置かれた丸いそれに、銀色の物体をゆっくりと沈めていった。

 僕はなんて許されない事をしているんだろう? 僕は最低だ。なんて事をしてしまったんだ。

 それと同時に、口の端が吊り上がるのを自覚している。


 もう戻れないんだね。ダークサイドに堕ちる自分を、他人事のように見つめていた。


「あむ⋯⋯もぐもぐもぐ」


 あっまぁぁぁぁあああいぃぃいい!!!




 \( 'ω')/アアァァァァアアアァァァァアアア!!!!




 誰も見てないからってホールケーキ食べちゃったよ! カットしてないケーキを直接食べるだなんて、僕はなんて許されない事を⋯⋯


 ああ、僕は闇に堕ちる。とんでもないダークサイドに⋯⋯まるで魔王みたいだ。



『⋯⋯ウェ!』


「ん?」


『クルルウェ!』


「んん?」


 もぐもぐもぐもぐ。ああ、美味しいなぁ。


『クルルウェ! クルルウェ!』


「⋯⋯」


『クルルウェ!!!』



 !!!!



 体がビクリと跳ねる。そして意識が覚醒した。


「ん⋯⋯」


「クルルウェ! クルルウェ!」


「ホロホロ⋯⋯あ、僕寝ちゃってたんだ」


「クルルウェ!」


「⋯⋯」



 良かった。夢だったんだ。まだ僕はダークサイドに堕ちていない。


「ありがとうホロホロ」


「クルルウェ?」


「ホロホロの背中ってふわふわで気持ちいいよね」


「クルルウェ!」


 ホロホロが高い丘の上で足を止めた。眼下には戦場が広がっている。


「え? ⋯⋯これは?」



 イフリン達とのパスが閉ざされているし、非常事態なのはわかってた。



「厳しい状況だね」



 精霊さん達は力が発揮出来ていないみたい。力の弱い精霊さんは、意識を失っているね。


 動ける者が殆どいない。数が減っちゃっている⋯⋯動けなくなったところを食べられちゃったんだろう。



「酷いよ⋯⋯」


「クルルウェ〜」


 鳥さん達が僕を気遣って頭を体に押し付けてくる。


「んん、ありがとうみんな」



 世界コアの操作を、こうなるってわかっててやったんだ。悔しいな。ユシウスは許しちゃ駄目。もうこの世にいない人だけど⋯⋯


 精霊さん達が協力し合って、動けない精霊をフレイガースに運んでいる。国が地上に落ちてしまっているけど、危険な外に転がっているより安全だよね。鳥さん達に頼んで協力してもらおう。



 それよりも、これはどんな状況なの?



「魔術士第一部隊から第四部隊、広域殲滅魔術を行使しろ! 化け物に情けなどかけるな! 全て焼き尽くせ!」


「「「了解!」」」



 精霊さんとヘイズスパイダーの間に割り込んで、沢山の魔族の人が戦っていた。ヴァンパイア、デーモン、亜人、ラミア、サキュバス、ワーウルフ⋯⋯え? 味方? ハーピーやアラクネ、ダークエルフに他にも沢山。これ味方で良いんだよね? 精霊さん達を護ってるみたいだし、色々な種族の混成部隊みたい。


 少し離れた空の上に、巨大な魔導飛行艇が列をなしていた。その大迫力に息を呑む。そこから金色の槍のような何かが降り注ぎ、ヘイズスパイダーの群れを蹂躙していく。



「あれは、ライムお姉ちゃんが連れて来てくれたのかな? 味方でいいんだよね?」


「クルルウェ!」


「そう言えば、ビビ⋯⋯ビビはどこ?」



 きっと何処かで戦っているはず⋯⋯でもこんなに広い戦場で見つけるなんて無理だよね。


 僕の部隊の皆は多分大丈夫。ベスちゃんがいるから心配はしていない。ビビは大丈夫かな? 相手の吸血鬼は手強そうだったからなぁ。


 名前ラベンテシだっけ? ロバンプフだったっけ? ま、今はいーや。ビビが心配だよ。


 シルフ先生の国は、落下のダメージで崩れちゃったみたい。もう一度浮かせるのは難しいと思う。フレイガースはまだ大丈夫そうだね。あの中にはクオーネさんが助けた子供達もいる。皆無事だといいんだけど。


 ムーディスさんやヴォイドさんが動ける大精霊さんに指示を出してるみたい。



「アーク様⋯⋯」


 隣に並んだ鳥さんから、栞さんの声が聞こえて振り返る。


「あ、栞さん。気がついた? 大丈夫?」


「⋯⋯」



 栞さんが戦場を睨む。自分で今の状況を分析しているみたい。



「かなりの数の精霊が食べられたようですね⋯⋯なるほど」


「どうかしたの?」


「世界コアはダメージを受けた状態で、新しく沢山の精霊を生み出そうとしたのでしょう。世界コアはとても力が大きいですが繊細です。あの程度の破壊で崩壊したのが不思議でした。でも⋯⋯これで納得です」


 栞さんが小さく頷いた。一人で納得しているみたいだけど、よくわからないから後で詳しく教えてもらおう。



「ん?」



 狼みたいな何かが高速で近ずいて来る。一瞬敵かと思ったけど、そうじゃないみたい。一気に丘を駆け上がってきた狼は、僕らの前で大きくジャンプすると、くるりと一回転して人の姿になった。ちょっとかっこいいかも。



「何で精霊界に人間の子供がいる?」


 灰色の髪の青年が、ホロホロを見てから僕の顔を覗き込んできた。


「僕はアークです。ライムお姉ちゃんの友達です!」


「は? ライムお姉ちゃんって誰だ?」


 首を傾げる灰色髪の青年。もしかしてライムお姉ちゃんが連れて来てくれた人達じゃないのかな?


「まさか⋯⋯」


 青年の後ろからもう一人のフルプレートの人が現れた。その人が青年に耳打ちすると、青年が顔を青ざめさせる。


「あ、あの〜⋯⋯ライムお姉ちゃんって、ライムローゼ・ファム・ヴェルシュタリア魔王陛下の事でしょうか?」


 灰色髪の青年は、さっきとはかなり改まった態度で話しかけてくる。


「んー、多分そうかな? 南海島の魔王って呼ばれてたよ?」


「!!!? し、失礼しましたあ!!!」


 急に青年とフルプレートの騎士から土下座をされて驚いた。僕は栞さんと一緒に瞼を瞬かさせる。



 ──ズゴゴゴゴゴゴゴ⋯⋯


「「!!」」


 軋むような大きな音に、全員が顔を上げて空を見つめた。



「まずいです。この場所もやがて崩壊するでしょう」


「そんな⋯⋯」


 栞さんが顔を歪ませる。その顔を見たら、本当に精霊界が無くなってしまうのだと実感してしまった。



「は、早く皆を助けなくちゃ! 皆を集めて、それで⋯⋯」


 それで? それでどうしたらいいの? 皆を集めるのはいいけど、精霊界が無くなっちゃったらどうなっちゃうの? 元の世界に戻るにしても、皆をいっぺんに移動させる事は可能なの!?



「⋯⋯難しい⋯⋯ですね」


 栞さんの呟きが嫌に大きく聞こえた。



side ビビ



 体に力が入らない。アイセアも私の隣で這いつくばっている。シャムシェルも地面に根が生えたように重い⋯⋯負ける訳にはいかないのに。



「お前ら、本気で俺に勝つつもりだったのか?」


「うっ⋯⋯く⋯⋯」


 レバンテスが這いつくばる私の隣に立つと、背中に鋭い痛みがはしった。


「あああ!」


「カッカッカッ! もう霧化する魔力も残って無さそうだな」


 レバンテスが血晶魔法で剣を作り、私の背中に突き刺したらしい。

 焼けるような痛みを感じながら、アイセアの肩に手を伸ばす。


「アイ⋯⋯セア⋯⋯」


 アイセアは急に力を失って気絶した。シャムシェルもだ。二人が力を失わなかったとしても、勝てるかどうかはわからなかった。


 私はここで死ぬのだろうか? アークに出会う前は、いつ死んでもいいと思っていたのに⋯⋯



「ほら、もう一本!」


「ぐっ、ああああ!」


 アイセアに伸ばした私の手に、レバンテスの剣が突き刺さる。地面に縫い付けられて、これ以上伸ばす事は出来なそうだ。


「アイセア⋯⋯アイセア」


 起きて、シャムシェル、アイセア⋯⋯二人だけでも逃げてアークの元へ⋯⋯



「もうわかっただろ? お前じゃ俺に勝てないよ。生きてきた年月が違う、修羅場の数も経験も違う。魔術も使えないヒヨっ子にどうにかなる訳ねーだろ」


「⋯⋯」



 視界が霞む。もう体力も限界なのか。このまま気を失えば、私はこの男に連れ去られるだろう。そしたらもうアークに会えなくなるのかな⋯⋯それは、嫌だな⋯⋯


 アーク⋯⋯私が戻らなかったら泣くかな。アークを悲しませちゃうのかな。


 冷たい涙が零れ落ちる。私は今、死にたくない!


 アークとの思い出が頭の中に蘇る。何気ない日常が、どんなに私を救ってくれたのか。アークが居てくれたから、寂しさを感じなくなった。



「俺と一緒に来いよ」


 嫌だ。


「人間と吸血鬼なんて幸せになれねーよ」


 違う。私は幸せだった。


「どうせお前は捨てられる」


 そんな事ない! アークはずっと一緒にいてくれる!


「だから一緒に来い。嫌だと言っても連れて行くがな!」


「うっ!」


 レバンテスは私に刺した剣を抜き、首を掴んで宙吊りにする。



「お前はもう俺のもんだ」


 背中に腕を回されて、レバンテスの顔が近ずいてきた。


 嫌だ。私の全てはアークのものだ。こんな奴に奪われたくない!


 アーク⋯⋯アーク!!



 ──ギシィ⋯⋯ゴゴゴゴゴゴ⋯⋯!



 それは突然の事だった。レバンテスが目を見開くと、赤い世界が崩れ始める。


「ば、馬鹿な! 俺の空間に入って来ただと!? 有り得ない!!」


「そう? 結構簡単だったわよ?」


「ぐあっ!」



 鈴の鳴るような綺麗な声が聞こえてきた。次の瞬間には、レバンテスの体が勢いよく吹き飛ばされる。

 何が起こったのか理解出来なかった。気がつけば、私は柔らかな温もりに包まれていた。



「久しぶりね、ビビ」


「⋯⋯? ラズ⋯⋯?」


 私を抱きしめるラズ。何故此処に? どうやって? いったい何がどうなって⋯⋯


「もう、ボロボロになっちゃって⋯⋯もう大丈夫よ」


 まだそんなに離れてないのに、心が懐かしさでいっぱいになった。

 本当に、目の前にいるのはラズなのか?


「泣いてたの? ビビ」


「⋯⋯泣いてない」


「泣いてたわよね?」


「泣いてない」


 ラズは優しく微笑むと、私の頭を遠慮なく撫でる。このちょっとウザい感じ、本物のラズだと確信した。

 まだちょっと混乱していたが、レバンテスの事を思い出してハッとする。


「やっと会えた。ビビ」


「ちょっと待て、ラズ⋯⋯吸血鬼が⋯⋯」


「ん? さっきのあいつ?」


 噂をすればというやつか、レバンテスが怒りの形相で戻って来る。


「ぐっ⋯⋯」


 レバンテスの足がふらついていた。私があれだけ攻撃してもピンピンしてたのに、さっきのラズの攻撃がダメージを与えたのだろうか?



「お、お前は⋯⋯何者だっ!!」


「⋯⋯」



 ラズは優しげな顔を無表情に変えると、圧倒的な威圧感を放ち始めた。


 こんなラズは知らない。まるで、イフリートや黒狐に会った時のようなプレッシャーだった。いや、それよりも⋯⋯



「今、私、ビビと、話、してるのよ?」


「⋯⋯!」


 レバンテスの顔が一気に蒼白になる。これがラズなのか? 本当に?


「私の名前はラズ。これでも南海島じゃ有名なんだけど」


「なっ! まさか! 何故そんな大物がこんな場所に! ハッ!」


 頭上に大きな影が差し、魔導飛行艇が横切った。

 もうレバンテスの創造した空間は消え去り、外の状況が伺える。



「クソ! ユシウスの気配が消えてるじゃねーか! 世界コアはどうな──」


「余所見していいの?」


「!」


 ズンッ! と重い衝撃音を響かせて、ラズの拳がレバンテスの腹にめり込んだ。

 目に血管が浮き上がり、レバンテスはその場に膝を着く。


「余所見してなくても避けられないけどね」


「⋯⋯何故⋯⋯こんな⋯⋯」


 レバンテスには霧化があり、殴られたくらいじゃ直ぐに回復出来る筈だ。それなのに、レバンテスは白目をむいて気を失った。


 本当に圧倒的だった。ラズはこんなにも強くなっていたんだな。


 安心したら瞼が重くなってきた⋯⋯


「ビビ? ビビ?」


 ラズの声が遠くなっていく。私ももっと強くなりたいな。悔しい。



「泣いてるの?」


「泣いてない」



 その言葉を最後に、私は意識を失った。






良いお年を(´;ω;`)

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