表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/214

精霊界の危機(12)





 盲点でした。それは凄ーく盲点。せっかく跨ったホロホロが、ユシウスの逃げた通路に入れなかったから⋯⋯


 大きくなりすぎなんだよホロホロ。そもそも、他の鳥さん達も通れないんだけどね。


 少し高い位置に、ヘイズスパイダーが出てきた大きな穴があった。ホロホロは鋭い目でその穴を睨むと、助走をつけて駆け上がる。


「クルルウェ!」


「いや、飛ぼうよそこは⋯⋯」


 穴を抜けた先では、戦闘で破壊された跡が生々しく刻まれている。

 僕の後には鳥さん達が続き、栞さんと蓮さんを乗せた鳥さんも着いてきた。


 気配拡大感知にユシウスが引っかかる。思ったよりも直ぐに追いついちゃった。何で止まっているのかな?



「⋯⋯」


 ユシウスと目が合い、僕とライムお姉ちゃんが地面に降りる。


「⋯⋯アルフレッド達はどうなりましたか?」


「半分捕まえて半分は⋯⋯」


「そうですか⋯⋯」


 食べられましたとは言えないよ。でも結果は同じだから⋯⋯


 ユシウスが剣を抜いて後退る。


「逃げ場は無いぞ」


「そのようですね」


 ん? どういう事?


 よく目を凝らして見てみると、四季山を丸ごと覆うような結界が張られていた。


 あれのせいでユシウスは逃げる事が出来なかったんだ。きっとライムお姉ちゃんが結界を作ったんだろうね。


 戦いは夜中から続いている。気がつけば少しだけど明るくなっていた。


「最後に一つ忠告しておきましょう」


「忠告?」


 ユシウスが剣を捨てる。


 それに今最後って言ったよね。どういう意味で言ったんだろうだろう⋯⋯


 荒れ果てた大地に佇むユシウスは、その瞳に諦めや絶望の表情は浮かべていなかった。


「十年以内に世界は変わ──」


 ──ドガァァアアン!!



「なっ! なに!?」


「上だアーク!!」



 それは突然空から降ってきた。ライムお姉ちゃんの結界を貫いて、大剣がユシウスの背中を貫いた。



「ごふっ⋯⋯」


「ユシウス!」


 ユシウスが吐血をして、膝から崩れ落ちる。



三人称視点



 焼け野原になった戦場で、精霊達の殆どは地に伏していた。アークの部隊も例外ではなく、立っているのは雪月虎とボーネイト、ベスだけであった。


「だ、大丈夫なのか?」


 ベスはかなり焦っている。せっかくアークに任せてもらったのに、その部隊がいきなり行動不能になったからだ。


「ベスさん⋯⋯大丈夫じゃないっぽいです」


 ボーネイトが額から汗を流しながら言った。あらかた敵は殲滅されていたが、まだ全てを倒しきれた訳じゃない。こんな状態で襲われれば、ベス以外無事では済まないだろう。


 そんな時、ベスは遠くから迫る敵の増援を感知していた。


(まずいな⋯⋯千? 一万? な!? まだまだ増えるだと!?)


 イフリートとシルフの国が落ちた事にも驚いたが、ベスは今の危機的状況に改めて焦り始める。


(逃げ道がない⋯⋯街には子供達もいるのに!? このままでは⋯⋯)


「ゆる⋯⋯さない⋯⋯」


 ボソリとそんな声が聞こえてきた。その声はマリーからで、這いつくばりながら顔を歪めていた。


 ボーネイトはそんなマリーに近づいて、跪いて抱き寄せる。


「ゆる⋯⋯さない⋯⋯んだから⋯⋯」


「ああ、わかってる」


 マリーの気迫のこもる瞳には、薄らと涙まで溜まっていた。


 精霊は今誰も飛べなくなっている。雪月虎が部隊の一人一人を、口で咥えて一箇所に集めた。


「ありがとう」


 ベスは例を言うと、再び頭を悩ませ始めた。


(⋯⋯三体か。デカいな)


 ヘイズスパイダーは大きい方が強い。十メートル級が二体と十五メートル級が向かって来るのがわかった。


「来るぞ!」


 ベスがそう言ったその瞬間、その三体は切り刻まれたかのように崩壊した。

 唖然とベスがそれを見ていると、一人の老戦士が現れる。


「全く⋯⋯だらしない」


 ベスはその人を一度見た事がある。マウンティスで会ったきりだが、忘れようもない。


「む、ムーディス様」


 そう呟いたのはボーネイトだ。ムーディスの後ろには、イグニスとファヴリーゼとイフリートがいた。

 錚々たるメンバーに、その場にいた全員が息を呑む。


「お前達は一度フレイガースへ戻れ」


 そう言いながらムーディスが刀を一振りすると、数百の気配が消える。ベスはそれが理解出来なかったが、実力の差に背筋が凍りつく。


「今度こそ俺が精霊(みんな)を守ってみせる!」


「期待してますわお兄様」


「新手も厄介だな。時間が無いぞ」


 上からイグニス、ファウリーゼ、イフリートだ。気合いを入れるイグニスに、ファウリーゼが微笑みかける。イフリートには、戦場を取り囲むように迫るヘイズスパイダーが見えていた。


(湖に現れた化け物は、王族にしか手に負えないだろう⋯⋯しかし、どうしても手が足りない⋯⋯これでは)


 イフリートは奥歯を噛み締めた。万全の力が発揮出来れば、蜘蛛が何体いても相手にはならない。そんな時、北の空の空間が揺らぐ。


「今度は何だ⋯⋯」


 全員が見つめる中で、空間から現れたのは巨大な魔導飛行艇だった。飛行艇には沢山の砲門が設置されていて、それが普通では無いのは見ればわかる。

 魔導飛行艇と言うよりは、飛行戦艦と呼んだ方が正しいかもしれない。

 その巨大な飛行戦艦の数は、実に百以上だった。





「もー駄目。もー勘弁して下さい」


 そう言って、大の字で甲板に寝転ぶ魔族の青年がいた。彼の名はフィッシュモン。ライムローゼの配下で、五本角の天才魔術師だった。


「良くやった。一分休め」


 その青年に声をかけたのは、見た目四十代の五本角の魔族。彼もライムローゼの配下で、名をセキオウと言う。

 フィッシュモンはこの大艦隊を魔術で精霊界に連れて来た。膨大な魔力を使って、胸で荒い呼吸をしている。

 そこにセキオウから言われた言葉に、「一分⋯⋯?」と呟いて青い顔になる。


 ピンク色の瞳を輝かせて、ラズは甲板から精霊界を見下ろした。一目見ただけで、最悪の状況なのは直ぐに理解出来る。

 ラズの周りには三人の将軍が並んでいて、同じように状況を確認しているようだ。


「セキオウちゃん。ハクビちゃん。トーガちゃん。ついでにフィッシュモン。私行く所があるから」


「良いぜ、行って来いよ」

「死ぬなよ? 心配はしてないが」

「こっちは任せとけ」


 ラズの言葉に、セキオウ、ハクビ、トーガの順で返事をする。フィッシュモンは、「ついで⋯⋯?」と小さく呟いた。


「総員戦闘配置!」


 セキオウが手に持った魔導具に声をかけると、全ての魔導飛行戦艦へ声が送られる。


「目標はあの白い蜘蛛だ! 片っ端から焼き尽くせ!」


 ラズは将軍達に全てを任せ、一人甲板から飛び降りた。



(ビビ、アークちゃん⋯⋯もう直ぐ会える)


 ラズのその瞳からは、自然と涙が溢れ出していた。






遅くなりすみません(><)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オホー! ラズちゃんもライムちゃんも来て嬉しみの翁
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ