魔剣と我が家
教会にある小さな部屋のベッドで、僕は上半身を起こして座っていた。町は今大混乱だ。人的被害も残念ながら少し出てしまったらしい。
でも皆頑張ったんだよ? とっっても頑張ったんだ! ベスちゃんなんて魔導兵を一人で十体も倒したんだってさ。
もう一人のBランクの人も凄かったらしい。見た事ある人かなー? 僕はトドメだけの一体と、黒い魔導兵だけだもの。だから数えたら一体とちょびっとになるのかな。
キメラ研究所の話では、あの黒い魔導兵は隊長のポジションにあったそうだ。スペックが非常に高く、素材的に量産が出来ない特別な魔導兵なんだとか。でもまだ完成じゃなくて、改良の余地が沢山あったんだって! ありがとう! 未完成!
獄炎魔法を使ってきたのは、逆に幸運だったんだと思う。あれを維持しながらだったから、その後中級の魔法しか使えなかったんだ。でも死ぬかと思った。本当に⋯⋯怖かったぁ。
今はベスちゃんと一緒に休憩中です。神聖魔法は凄かったよ? エクストラヒールの優しい光に包まれて、思わず寝そうになっちゃったくらい気持ちが良かったです。
でも直ぐに完治とはいかず、火傷が酷くて少し時間がかかったね。シスターから飴玉を貰って、口の中で転がし中⋯⋯不味いです。変な味です。ポーション入りなんだとか。
「アークぅぅぅ」
「ベスちゃん? 甘えん坊?」
「ぅぅぅアーク〜ぅぅぅ」
駄目だねこれは⋯⋯ベスちゃんが故障中だよ。神父様、ベスちゃんの頭に神聖魔法をお願いします。
「余程心配だったんじゃろうな」
「神父様。治療ありがとうございました」
「ほっほ。私からも礼を言うぞ。敵のボスを倒したのだろう?」
後からベスちゃんに聞いた話になるけど、黒い魔導兵は指揮官魔導兵だったんだって。
「倒した敵がボスだった? みたいな感じです」
「これからも、アークの進む道に神の御加護があらんことを」
「ありがとうございます」
神父様はほんわかしてて良い人だな〜。ほんわかの塊が神父様だ。
「アーキュゥゥ〜」
「ベスちゃん⋯⋯あんまり抱きしめると苦しい。当たってる! 当たってる〜! 肋骨が顔に当たってる〜! 痛い〜!」
「アークぅぅぅ」
さっきからベスちゃんはずっとこんな感じ。治療が終わってから遠慮が無くなっちゃった。んー、ベスちゃんどうしようか。
一度ギルドに戻らなきゃいけないけど、昼食に帰らないと怒られちゃうし。それに、バススさんにも謝らなくちゃ。ギルドは最後で良いかな? 一日も経たずに剣駄目にしたらね。借り物だったし気が重いなぁ。
「ベスちゃん。うち来る? 昼食を食べに帰らなきゃいけないんだよ」
「なっ!! 勿論行くぞ!」
「その前に武器屋バススに行かなきゃいけないけどね」
「おお〜。あのハーフドワーフのやっている店な」
「知ってるの?」
「なかなか良い腕をしていると聞いている。機会があれば行ってみたいと思っていたんだけど、自分の武器は自分で整備してるからなかなか行く口実もなくて」
「ベスちゃんは鍛治も出来るんだね! 凄い!」
「これでもドワーフだからな!」
「ちっちゃいもんねー」
「アークに言われても悔しくないな」
ベスちゃんが離れてくれた。早速移動するとしよう。
「神父様、本当にありがとうございました」
「また来なさい。みなも喜びます」
*
side ???
ここはドラグスの上空一万メートル。宙に漂いながら、坊っちゃまとドラグスの町を見下ろしている。羽織ったローブが水色と白の迷彩になっていて、私達は下から見つかりにくい工夫がされていた。
「ふむ、これじゃ動かんか」
「そのようですね。坊っちゃま」
「これだけ隙を作れば、帝国の密偵も尻尾を出すと思ったんだがな⋯⋯慎重なのか、動けなかった理由があるのか⋯⋯ふぅ、無駄な時間を費やしちまったか」
「潜んでいるのは確かなのですか? 人も死んでいるようですが」
「多少の被害は目を瞑れ。潜んでいるか確かめるのに炙ってみたんだよ。まだわからんがな⋯⋯油断して国を盗られたらそれまでだ。打てる手は打つ必要がある」
「左様で。しかし、何故ドラグスなのですか?」
「よくわからなかったが、子供が人形殺ってなかったか?」
「私の質問は無視ですか⋯⋯子供が人形を? あれはそんなに脆くはないはずなのですが」
「ふむ⋯⋯」
「⋯⋯」
「まあいっか。今日は引き上げだ。帰るぞ」
「はい坊っちゃま。“ディメンションゲート”」
*
side アーク
一度深呼吸をしましょう。落ち着いて〜落ち着いて〜。
──カラン。
軽いベルの音を響かせて、僕は重い気持ちで扉を開く。
ここはバススさんの武器屋だ。借りたばかりの剣が粉々になってしまった。我が身の未熟がゆえにぃぃい⋯⋯orz。
店内にはお客さんが一人もいなかった。町が大混乱中なので、普通にショッピングを楽しむ猛者はいないのだろう。
ベルの音を聞きつけて、バススさんが店頭に顔を出した。
「おお! アーク。無事だったか!」
「はい。僕は無事です」
「そうか! 良かった良かった。キメラ研究所でまた事件があったって聞いたからよ。アークが巻き込まれちゃいないか心配していたんだ」
「そ、それがぁ⋯⋯」
「ん? あ? あんたは⋯⋯っ!!!」
バススさんはベスちゃんに遅れて気がついた。ベスちゃんは機嫌良さげに僕と手を繋いでいる。
「やあ、店主。私はアークの保護者だ」
「すぐ壊れちゃうけどね。頼りになるお姉さんだよ」
「私は壊れても良いのさ」
「武器みたいに自分の整備も出来たら良いね!」
「炉にぶち込まれたって治る気がしないな! はっはっはっは」
「試してみる?」
「アークの剣に私はなる!」
「収納しちゃうんだから」
バススさんをほったらかしにしてベスちゃんと喋ってしまった。ぽかんとした顔でバススさんは置いていかれている。
忘れちゃ駄目だ。ちゃんと謝ろう。
「バススさん。そのキメラ研究所の事件には、冒険者ギルドの緊急依頼で行って来たんだよ」
「ん、ああ。そうだったのか」
「敵がミスリルの騎士みたいな人形で、戦った時に剣が粉々になっちゃいました! ごめんなさい!」
深く頭を下げながら、無限収納から粉々の剣を取り出す。ついでに魔導兵の使っていた剣も取り出した。黒い刀身で、かなり大きな片手剣だ。
「ミスリルのゴーレムだって!? またとんでもないのとやり合ったんだな。剣は気にすんな。⋯⋯で? これはもしかして敵が使ってた剣か?」
「本当にごめんなさいバススさん。この剣は敵から奪った戦利品ですね」
「ちょっと見させてくれ」
「どうぞ!」
バススさんは剣を手に取ると、構えたり見つめたりして分析していく。結構重いんだけど、扱いに慣れているのか様になって見えた。
武器限定で使える解析スキルを使っているのか、右眼に魔力の光が灯って見える。
「ふむ。これは魔剣だな。ランクはDってところか。特別な特殊効果は無いが、かなり頑丈なようだ」
「魔剣! 凄いですね!」
「ああ、凄いな。アークに作ろうと思っていた剣を止めて、これを使えるようにしてみないか?」
「この大きな剣をですか?」
この剣は魔導兵の体格と力に合わせた大きな片手剣だ。直剣ではなく少し反りがある。大人の人でも持て余すサイズだと思うんだけど⋯⋯うーん。
「術式を組み込んで、アークに丁度いいサイズにすりゃいい。重さはどうだ?」
「えと、ステータスはかなり上がったとは思うのですが、まだ結構重いですね」
「なら重さの軽減もつけるか。これだけの剣だ。収納に放置じゃ惜しい」
「私もそう思うぞアーク。それを使えるようにしてもらった方がいい。その剣なら砕ける心配も無いからな」
バススさんもベスちゃんも言うくらいだから、そうしてもらった方がいいかもね。
「でもバススさんが作ろうとしてくれていた剣が無駄になっちゃいます」
「まだ昨日の今日だぞ? 設計の段階だったんだよ。それにミスリル合金の剣でも、今のアークの成長には不足かもしれん。この剣をうちで売り出したら、純ミスリルの剣と等価だ」
「ふぇ!?」
「50万ゴールドの値は付ける筈だ。いや〜、良い拾い物したなアーク」
「ふええええ!?」
ケーキが⋯⋯ケーキが何個買えちゃう!? そうだよ。バススさんは魔剣って言ってたんだよ! 魔剣って凄く高いじゃないか!
「決まりだな。ほれ、代用品も必要だろ。暫くそれ使ってろ」
「あ、ありがとうございましゅ!」
「良かったなぁアーク。うりうり」
そんなに凄い剣が手に入るなんて夢みたいだよ。
バススさんに新しい剣を借りて、僕とベスちゃんは家に急いだ。
*
屋敷の裏門から屋敷の中に入ると、慌ただしく二階で誰かが駆け回っているのがわかる。
何事かと思ったけど、領主様は色々あるのだろう⋯⋯町の一角が焼けちゃったわけだしね。
「ただいま〜」
僕はベスちゃんを連れて食堂へ向かう。クライブおじさんもサダールじいちゃんもいないみたいだな。
ミト姉さんもいない、父様もいないみたい。珍しい。
「アーちゃん!」
「あ、母様みっけ」
母様は僕を見つけると、急ぎ足でこちらに近づいた。
「町が大変だって皆騒いでいたわ。あら? こちらの方は⋯⋯っ!!!」
「友達のベスちゃんだよ」
「初めまして。アークの友のベスです」
「ベ! べべべべベス様っ!!」
「そんなに長い名前じゃないよ? 母様」
「ベスちゃんで良いぞ」
「べ、ベス様がうちに⋯⋯」
母様が挙動不審になっている。今の母様はツワリという恐ろしい病に侵されているのだ。安静にしてなきゃいけないのに、そんなに動揺してたら体に悪そうだ。
母様に椅子を引いてあげて、テーブルに着かせた。ベスちゃんにも座ってもらって、僕は紅茶を用意する。
「どうぞ」
「ほぅ。⋯⋯んん、美味いな」
「えへへ。ミト姉さんをよくお手伝いしてるの」
「それは誰だ? メイドか?」
「うん!」
お昼にはサンドイッチが用意されていた。でも初めてのお客様だ。もう一品何か欲しいな〜。
母様はベスちゃんをチラチラ見ながら、ほんのり頬を赤らめたりしている。
珍しい母様だと思った。
「息子は素晴らしいな。良い教育をしているようだ」
「きょ、恐縮でしゅ! です!」
「そういえば、冒険者ギルドで見たことがあったか?」
「は、はいぃ! 隅から見させてもらってまし、ました!」
ベスちゃんと母様の会話が厨房まで聞こえてくる。やっぱり母様は体調が良くないみたい。何故か噛み噛みになっているよ?
使える食材の中から、サンドイッチに合いそうな料理を考えた。
うん。やっぱりスープにしよう。カボチャのスープ。サンドイッチには丁度いい。
コトコトミルクで煮て、ちゃんと裏ごしもする。クルトンとパセリもふりかけたら完成だ。
味付けは塩だけ。お金があまり使えない僕のうちでも、丁寧に作れば美味しいのだ。
テーブルに並べ、皆で神様にお祈りをする。
「アークが手料理か。器用なんだな」
「美味しいでしょ?」
「うん。優しい家庭の味がするよ。こういうのはレストランでは食べられない。いいものだ」
「サンドイッチはミト姉さんが用意してたやつなんだ」
「どれも美味しい」
「うん」
母様は微笑むだけで会話に入ってこないみたい。ベスちゃんのことは知っているみたいだけど、話のきっかけが掴めないのだろうか? きっとすぐ仲良くなれると思うんだよね。
よし! ここは僕が頑張って二人を仲良くしてあげよう。
「ベスちゃん。母様って凄いんだよ」
「ほぅ。どう凄いんだ?」
「ちょ! アーちゃん!?」
「んーとね。まず、この町一番の魔法使いになった時のお話をするね!」
「それは興味深いな」
「止めて! ストップ! ストップううぅーーー!!!!」
あれ? この話は駄目なのかな?
「じゃあ違う話にする? 大陸を沈めちゃう津波をやっつけた話は?」
「だ、駄目よ! 今は、今だけは駄目よ!」
「ほ〜。是非聞きたいね」
んむう。母様は照れているのかもね。無理に話す事はないのかな。
「じゃあ母様の⋯⋯」
「しー! 駄目ぇえ!」
「裁縫の話は?」
「それよ! それにしましょ!」
この後、母様の裁縫話が始まった。凄い勢いのマシンガントークに、僕はとてもびっくりしたよ。
母様はやっぱり喋りたかったみたいだ。一時間も裁縫のお話が途切れなかったからね。
一人でずっと語ってて、僕が会話に入る余地がない程だったよ。
こんなに楽しそうなら、またベスちゃん連れて来てあげよう。
一章はこれで終わりです。作品の雰囲気が伝わったでしょうか? 閑話を一話挟んでから二章がスタートします。
遂にあの男の過去が!?
どの男だよ(っ ˙-˙)つ)o゜)∵
二章、三章、四章ともっと面白くなってきます。
モチベ維持のため、ブクマ、評価、感想などよろしくお願いします!
下にあるブックマークと☆☆☆☆☆を黒くしてくれると嬉しいです。




