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精霊界の危機(9)





三人称視点



 強く目を閉じたライオとダキアだったが、いつまでも訪れない終わりに目を開く。


 蜘蛛は? 雷は? と、何が起こったのか理解出来ない。



「な、にが?」



「⋯⋯」


 いつの間にか、黒いジャガーが目の前にいた。ライオとダキアをじっと見つめると、直ぐに空へと駆け上がる。



「今のは⋯⋯? まさか⋯⋯」


「ええ。また会えたわね⋯⋯」


 鎧で隠されて見えなかったが、確かにの向こう側に感じたんだ。

 ライオとダキアは涙を流す。トラも鎧の内側では、涙が止まらなくなっていた。


「許さないにゃ。オイラが父ちゃんと母ちゃんを守るんだにゃ!」



 ゆっくりと再会を喜んでいる時間は無かった。ただ、生きていてくれた事が、これ以上無く嬉しかったのだ。


「見てて欲しいにゃ。父ちゃん母ちゃん。オイラ、勇気を出して頑張るんだにゃ!」


 それだけに許せなかった。このヘイズスパイダーを差し向けた人物に、どうしようも無い怒りが押し寄せる。


「はぁああ! 貫けにゃ!」


 無数の氷柱が現れ、次々とヘイズスパイダーを刺し貫いていく。それを見届けたあと、トラは湖の方へ顔を向けた。


 この世のものとは思えない禍々しい何かがそこにいる。本能が危険だと告げていた。





 レバンテスは異変を感じ、左右をキョロキョロと見渡している。ここはレバンテスが創り出した特殊な世界の中だが、レバンテスだけは外の状況を知る事が出来ている。


「遂に来ちまったか⋯⋯おい、女吸血鬼」


 レバンテスがビビに声をかけた。ビビは地面に這いつくばり、荒い呼吸を繰り返している。


(化け物め⋯⋯)


 そう心の中で呟き、シャムシェルを支えにして立ち上がった。


『まだやれるな? アイセア』


『勿論よ! ただ⋯⋯』


『わかってる』


 レバンテスを倒すのに、どうやっても火力が足りないのだ。必死に努力したつもりだった。ビビもアイセアも、精神圧縮訓練で強くなったと確信していたのだ。


 それなのに、レバンテスには手が届かなかった。全てが真紅に染まったこの世界で、ビビは必死に倒す糸口を考えている。


「なあ、もう満足したろ? その剣も精霊も一緒で構わない。あの子供も一緒に連れて行く。だから俺の女になれよ。酷い事にはならねーからよ」


「断る⋯⋯」


「どうしてそう頑ななん──」

 

 レバンテスの首が刎ね上がった。それと同時に、極大の雷がレバンテスの体を消滅させる。

 激しい爆風が辺りを包み、地面には大きなクレーターが作られた。


 ビビは地面に片膝を着くと、レバンテスが消滅した場所を見る。

 期待はしていなかったが、さっきと同じ場所にレバンテスが現れた。


「こっちへ来い。人間の側にいてどうするんだ。俺もお前も魔物なんだよ」


「五月蝿い⋯⋯」


「わかるだろう? 俺達は生きているだけで迫害を受ける。蔑んだ目で見られるし、恐れられる。何処にも居場所なんて無いんだよ」


「⋯⋯」


「何故わからない」


「⋯⋯わからなくはない。お前の言う事は理解出来る」


「なら──」


「それでも!」


 ビビはレバンテスを睨みながら、シャムシェルをきつく握りしめた。


「私は⋯⋯私はお前と行くつもりは無い。私は人間が好きだ」


「好きだからなんだ? 人間は裏切る生き物だ」


「⋯⋯」


「人間は俺達魔物が恐ろしいんだよ。いくら大事に想っていても、結局は裏切られるんだ」


「アークは違う」


「同じだ。人間傍に置きたいなら、更なる恐怖で支配するしかない」


「⋯⋯」


 ビビはレバンテスの胴体を両断した。更に激しい雷が落ち、レバンテスを跡形もなく消滅させる。


(徐々にだが、斬る度にレバンテスの魔力が小さくなっている。だが消耗戦ではこちらの分が悪い⋯⋯どうする⋯⋯)


 再度現れたレバンテスが、少し悲しげな表情になった。レバンテスからしてみれば、自分の気持ちを理解してくれる数少ない仲間だ。見つけた時は凄く嬉しかったし、分かり合えると今も思っている。

 だが、時期尚早だったかと思い始めた。目の前の同胞には、まだ絶望が足りないと。


「今直ぐ理解しろとはもう言わない⋯⋯だが、強引にでも連れて行くぞ」


「⋯⋯私にとって、アークは太陽のような存在だ。アークが好きだ。愛している」


「⋯⋯」


「私は人間になりたかった。短い時の中でも、人間は満足そうに死んでいく。大切な家族に囲まれて、緩やかな死を迎える⋯⋯それは、魔物の世界では体験出来ない事だろう。それに、アークはとても温かい。私の体はこんなに冷たいのに、アークは嫌な顔一つする事は無いんだ。何度も何度も、アークは私に沢山のものをくれた。ずっと一緒にいてくれると約束してくれた。一緒にいると楽しいんだ。心がとても暖かくなるんだ。私に住む場所を与えてくれた。私は私だと言ってくれた。吸血鬼だとわかっていながら、無防備に隣で眠るんだ⋯⋯ふわふわした髪の毛が好きだ。私に何度も好きだと言ってくれる。あの笑顔が好きだ。家を建ててくれた。友を紹介してくれた。家族同然に扱ってくれた」


「⋯⋯」


「アークに会う前ならば、私はお前に着いて行ったかもしれない。でも、今の私は違う。お前の気持ちもわかる⋯⋯どんな事があったのかも想像が出来る。だから、お前がこちら側へ来い」


「⋯⋯なんだと?」


「アークならば、お前にも居場所を与えてくれるだろう」


「信じられるかよ」



 そんな時、アイセアがビビから弾き出される。


「なっ! アイセア!」


「⋯⋯嘘⋯⋯強制解除? ち、から、が⋯⋯」


 アイセアがその場にへたり込んだ。


 ビビとアイセアは、今まで一つに合体していた。アークは自分の器に精霊を宿す事が出来る。しかし、常人に同じ事は出来ないのだ。

 ビビはアイセアを器の外側に纏う事で、爆発的に力を高めていた。それもなかなか出来る事ではないが、精神圧縮訓練で遂に会得していたのだ。



「⋯⋯なんだ? 俺も聞いてないぞ?」


 レバンテスが右手を振ると、外の世界が映し出される。


 沢山の精霊が地に付していた。かろうじて動ける者がいるが、殆どが身動きすらとれない状況になっている。



「そうか⋯⋯コアを操作したんだな。ユシウス」


 暫くその様子を眺め、レバンテスは外の映像を消した。



『レバンテス』


『ん? どうしたユシウス』


 ユシウスから魔術で声が送られ、直ぐにそれに応える。



『君の取り逃した魚がねぇ⋯⋯こっちで暴れてるんだけど』


『ああ、あの子供は元気か?』


『⋯⋯元気過ぎて困ってる──ッ!! ガハッ!!』


『お、おい! ユシウス!!』


 レバンテスは困惑する。ユシウスから余裕が無い声が聞こえてくるからだ。

 こんな事は今まで無かった。どんなのを相手にしても、余裕の溢れるあの男が⋯⋯


『まずいねぇ⋯⋯』






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