精霊界の危機(6)
魔剣を肩に担ぎ、ユシウスが勢い良く飛び出して来る。
速い! さっきとはまるで違う!
ドラシーで攻撃を受け止めると、あまりの衝撃に骨が軋むみたいだ。
パワーも上がっている⋯⋯でもこれくらいなら!
「うぅ⋯⋯」
「栞さん!」
僕は後方へ弾き飛ばされながら、少し空へと舞い上がった。
黒い玉のようなものを放ってきたので、ノームの力で岩の壁を作る。
「栞さん、大丈夫?」
「⋯⋯大丈夫です」
そうは言うけれど、戦いの衝撃は体を通して伝わってしまう。
「もし辛いようなら──」
「他人を気遣う余裕があるのかい?」
「ッ!!」
気がつけばユシウスが僕達の頭上にいた。
膨大な魔力を剣に込め、黒い剣閃を飛ばしてくる。
「はあぁぁ! タイプ“ブラーティス”! “暗黒の衣”!」
「⋯⋯面白いねぇ」
左手を振ると、視界を完全に遮る闇の膜が出現する。
気配、匂い、音、魔力、このブラーティスの暗黒の衣は、その全てを遮断する事が出来るんだ。
「タイプ“ヴォルティム”! “韋駄天の靴”」
赤い雷が僕の足に纏われると、床も空中も関係なく高速で走る事が出来る。
ユシウスと一定の距離を置くと、ドラシーに魔力を送り込んだ。
「“ホーミングレーザー”!!」
「ッ!」
ドラシーから無数の光の熱線が放たれた。これにはユシウスも驚愕の表情を浮かべている。
──ズガガガガガガガ⋯⋯!!
あれ? おかしい⋯⋯? 久しぶりに使ったドラシーのホーミングレーザーが、有り得ない程の威力に変わっていた。
昔は一発一発が中級魔法くらいの威力だったんだけど、今では上級魔法以上? それくらいの威力はありそうだ⋯⋯
それが数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど襲ってくるのだから、普通に洒落にならないよね。
ユシウスは必死に飛びながら、剣、魔法、結界で、その全てを防ごうとしてるみたい。
「それなら⋯⋯“ホーミングレーザー”!!」
「ッ!! 鬼だねぇ君は⋯⋯!」
さっきの三倍は魔力を込めさせてもらった。ユシウスが悪戦苦闘しているうちに、完全回復ポーションを飲み干す。
「⋯⋯」
確かにホーミングレーザーは効果的みたい⋯⋯っていうか、ドラシーがすっごく強くなってる!
『⋯⋯もち』
「はは」
ドラシーがドヤってきた。普段喋りかけても無言なのに、余程気分が良かったのかな。
『/////』
今度はちょっと照れているみたい。
「連戦でこれはきついねぇ⋯⋯年上は労わるべき──」
「え?」
──ズウゥン⋯⋯
信じられない程の寒気を感じた⋯⋯何か強大な力が、こことは別の何処かに生まれた? そんな気がする。
「どうやら合図みたいだねぇ」
ユシウスが変な魔導具の前に行くと、カチャカチャと何かを操作する。
──ゴゴゴゴゴオォォオオ!!
「これはッ!!」
「栞さん!?」
世界コアが激しく輝くと、体からヴォルティムの力が抜けていくのを感じた。
「わゎ⋯⋯」
慌てて自分の力で空中に留まろうとしたけれど、どうも上手く飛べないみたい⋯⋯
地上へ降りて体勢を整えると、ユシウスが顔に笑顔を貼り付けていた。
「何⋯⋯これ⋯⋯?」
「やられました! ユシウスは既に世界コアを操作出来るみたいです。多分さっきの操作で、精霊の力を制限されたのかと」
「そんな事が出来るの?」
「可能です。精霊界限定になりますが、世界コアを今から破壊したとしても、もう元には戻りません⋯⋯」
「⋯⋯そんな⋯⋯」
精霊の力の制限? そんな事をされれば、イフリンとシルフ先生が浮かせている国が落ちちゃうんじゃ⋯⋯?
まだヘイズスパイダーは沢山いたのに、皆飛べなくなって力も使えなくなれば⋯⋯
それに、さっき感じた物凄い力は何? まずい⋯⋯皆が危険だよ!
『イフリン! イフリン!!』
精霊のパスを開いて呼びかけてみる。
「⋯⋯」
返事が返ってこない? そんな事、今まで無かったのに⋯⋯
「何をしたの? ユシウス」
「ちょっとねぇ。援護射撃ってやつかねぇ⋯⋯いくらボクのペットが強いといっても、精霊の王が出て来ると苦戦する。まあここまで上手くいくとは思ってなかったけど⋯⋯ひゃひひひひ⋯⋯もう向こうは終わりだねぇ」
ユシウスが大きなボードを取り出した。そこには沢山の光の点が蠢いていて、三日月形の大きな湖もある。
その湖はウンディーネ様の国だろう⋯⋯そしてその湖の中心には、黒くて禍々しい点が浮かんでいた。
シルフ先生の国、イフリンの国も見える。そして全体を取り囲むように、数十万もの光が取り囲んでいるのがわかった。
「この光は⋯⋯」
「それは全部ボクが改造したペットさ」
「これが⋯⋯全部?」
「あと数時間もすれば、精霊界は完全にボクの物になるねぇ。ひゃひひひひ」
力を失った状態で、こんなに沢山の新手が押し寄せたら⋯⋯間違いなく精霊さん達は全滅しちゃうよ!
ビビ、トラさん、ベスちゃん⋯⋯皆⋯⋯
これ以上、ユシウスに世界コアを弄らせる訳にはいかない。
「栞さんは世界コアの操作は出来る?」
「すみません⋯⋯黒狐様しかその方法がわからないのです」
「そっか⋯⋯」
壁際へ行き、背中から栞さんを降ろした。
世界コアを最初に壊さなかった事がアダになっちゃったね⋯⋯操作出来ないのなら、もう。
「世界コアを壊すね」
「はい。これ以上奴の好きにさせないで下さい⋯⋯」
「ここで見てて」
栞さんの頭を撫でると、僕は世界コアへ向いた。
「壊させる訳が無いんだよねぇ。これはボクの大事な玩具なんだよねぇ」
「精霊さんに力を戻してヘイズスパイダーを引いてくれる?」
「それは無理な話だねえ」
「⋯⋯」
精霊さん達は皆のんびり屋さんだ。愉快で優しくて⋯⋯そんな精霊さん達がこれから沢山食べられようとしている。
許す訳にはいかない。皆を助けたい! 向こうで戦える戦力は、今ビビとベスちゃんだけなんだ。
魔力、気力、その全てを、限界を超えて解放する。
「ッ!! 君は⋯⋯本当になんなんだい?」
ユシウスは驚愕の表情を浮かべていた。紫電が地面を焼き焦がし、銀の奔流が荒れ狂う。
僕の全てでどうにかするしかない! 短期決戦だ!
\( ‘ω’)/ウオオオオアアアアーッ!




