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精霊界の危機(5)





 血色の悪い顔をした魔族が、貴族服の上に白衣を纏っていた。白衣の中の服はボロボロで、血が滲んでいる箇所が沢山ある。


「この人で間違いないよね?」


「はい。この人こそが、六本角の魔族ユシウス⋯⋯黒狐様の仇です」


 震える栞さんの声⋯⋯その震えは、自分が殺されかけた恐怖からではなく、大切なものを奪われた悔しさから⋯⋯


 ユシウスは僕達を見ると、作業の手を止めて首を傾げる。


「なんだい君達は⋯⋯おや? 人間⋯⋯? おかしいねぇ⋯⋯レバンテスに会わなかったかい?」


 ユシウスからは、黒狐様と激しい戦闘をした後なのが伺えた。消耗が色濃く顔に出ているけれど、油断出来る相手じゃない。


 僕はこれでも場数を踏んできたんだ。不用意に情報を渡しちゃいけないって事くらいはわかる。


「し、しら、知らないよそんなヴァンパイアロード」


「ふふ⋯⋯愉快な子供だなぁ」


 手応えばっちり。上手く誤魔化せました!


 錬金術師っぽい雰囲気があるね。見た目は優男だけど、この不気味さはなんだろうか⋯⋯


 僕がドラシーを抜くと、ユシウスはあからさまに嫌そうな顔をしていた。

 白衣を面倒そうに脱ぎ捨てた瞬間、信じられない程の威圧感に息が止まりそうになる。


 手負いでこの威圧感なの? 明らかに次元が⋯⋯!!


 ユシウスの足元から、黒い触手が三本生えてきた。あれは⋯⋯!?


 咄嗟にバックステップで距離を置くと、ユシウスの目が鋭くなった。


「そうか⋯⋯そういう事だね。ボクの計算を狂わせたのは君だ。君は見た事があるんだろう? この邪神の力を」


「⋯⋯」


「ボクの計算違いはフレイガースから始まった。もっとスムーズに被害を出せる筈だったのに、おかしいなとは思ってたんだよ。アルフレッドを倒し、君はレバンテスの興味も引いた。いったい何処から迷い込んだんだろうねぇ⋯⋯」


 ユシウスが剣を抜くと、黒い触手がその剣に絡まっていく。


 あの魔剣も普通じゃないね⋯⋯


 僕はSスタンダードレベル3の状態になる。髪の毛が銀髪へと変わり、紫電が周囲を焼き焦がしていく。


「なんだいそれは? まさか⋯⋯擬似神気? 有り得ない⋯⋯だが⋯⋯くっ、ふはは! これは良い拾い物だ! レバンテスのために捕獲しようかと思ったけど、研究材料としてボクがいただく事にしよう」


 ユシウスが獰猛な笑みを浮かべると、さっきよりも圧倒的な威圧感に襲われた。


「アーク様! 来ます!」


「ッ!?」


 僕は雰囲気に呑まれていたのか、一瞬判断が遅れてしまった。ユシウスはただ真っ直ぐ飛び出して、魔剣を振り下ろしてくる。


 ──カッ!


 瞬きも出来ない刹那の時間、僕とユシウスは数十数百と剣を合わせる。

 一撃の威力が想像以上だよ。こんなに重い剣は受けた事が無い⋯⋯


 驚愕する僕と同じく、ユシウスもかなり驚いているみたい。


「君、本当に何者? 僕が戦った事がある人間の中で、間違いなく最強だ」


 激しい衝撃波に耐えきれず、床や壁にヒビが入っていく。それに気がついたユシウスが、気を世界コアに向けた。


「はあぁぁああ!」


「⋯⋯くっ!」


 視界がセピア色に染まり、高速でドラシーを振るう。一合一合が、Bランク程度の魔物なら消し飛ぶくらいの威力を秘めていた。


「まいったね⋯⋯場所を移動したいんだけど」


 四季山全体が揺れているみたいだ。世界コアを利用しようとしているユシウスには、気が気じゃないのかもしれない。


「聞く気無しかい? 君は精霊界の要を守りに来たんじゃないの?」


「悪用されるくらいなら、壊してしまう事になったんだよ」


「せっかくここまでやったのに、壊させる訳がないでしょう!」


「ッ!!」


 力一杯剣を振り抜かれて、踏ん張りきれずに吹き飛ばされる。



 強い⋯⋯でも、負ける訳にはいかないんだよ。



「“デビルドック”!」


 ユシウスの足元から、複数の黒い大型犬が現れる。この犬は多分斬れば爆発するね⋯⋯犬を野放しにしながら、ユシウスの剣を受け止め続けるのは無理がある⋯⋯


 仕方ない。ここで頼らせてもらうよ!


「タイプ“雪月虎”!」


「何ッ!?」



 僕の銀髪が真っ白に変わった。それと同時に、凍結の波動が全方位に放たれる。

 ユシウスが出していたデビルドックは、一瞬のうちに氷漬けになった。


「⋯⋯びっくりだねぇ⋯⋯笑えないよ」



 シルフの国へ到着する前、僕は自分の部隊の精霊さんをマリーに集めてもらったんだ。

 これからはもっと力が必要になる。だから、良かったら契約して欲しいとお願いをした。そうしたら、精霊さん皆が契約に同意してくれたんだよ。


「“アイスフィールド”!」


「ッ!!」


 床や壁全てが氷に包まれる。世界コアの放つ光が反射して、信じられない程に幻想的な光景になった。


「はぁあ! タイプ“シャニガル”!」


 急に現れた二色の光の玉が、僕とユシウスに降り注ぐ。


「なんだ⋯⋯これは⋯⋯ッ!」


 ユシウスは、呪いの光の玉に自ら触れたみたい⋯⋯体が異常状態になってしまう事に気がつき、急いで透明な結界を張った。


「無駄だよ。魔力を使った結界じゃ、シャニガルの呪いは防げない」


「⋯⋯」


 雨のように降り注ぐ呪いは、ユシウスの張った結界を素通りしていく。



「生け捕りは難しいかねぇ⋯⋯」


 ユシウスが魔剣を地面に突き刺すと、全身から黒い闘気を放ち始めた。



「そんな⋯⋯」


 確かにシャニガルの呪いはユシウスに降り注いでいる。それなのに、何でもないかのような顔をしていた。



「魔族は呪いに強いのさ。これくらい耐えられなきゃ、邪神様を受け入れる事なんて出来ないからね。さてと、次はボクの番だ」


 ユシウスが膨大な魔力を練り始めた。何をしてくるのかわからないけど、僕のやれる事はそんなに多くない。



『精霊の皆。それにドラシー。僕に力を貸して下さい』



 戦いは第二ラウンドへと移行する。ユシウスの背中から悪魔のような羽が生え、目は真っ黒に染まっていた。





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