精霊界の危機(4)
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side ユシウス
楽しい事って何だろうか⋯⋯嬉しい事ってなんだろう? それは僕にはわからない。
毎日毎日が退屈で、抜け殻のように生きてきたんだ。
手を伸ばせば何でも手に入る。特別な苦労をする事も無く、何でも器用に出来たんだ。
ボクは魔族の国の公爵家に長男として生まれ、誕生した瞬間から何でも持っていたんだよ。
安定が約束された将来に、特別な六本角⋯⋯何処へ行っても尊ばれ、権力に名声に力に財力。それだけのものを、ボクは生まれた瞬間に手にしてしまっていたんだよ。
本当に毎日が退屈だったんだ。あの勇者と、レバンテスに会うまでは。
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噎せかえるような焦げた匂い⋯⋯朦朧とする意識を何とか繋ぎとめながら、辺り一面に転がっているスクラップ人形を眺めていた。
大変だったねぇ⋯⋯勇者とレバンテスには振り回されてばっかりだよ。
急に力が抜けて、無様にも土に片膝をつく。
綺麗だった庭が滅茶苦茶だよ⋯⋯まあ、もう庭なんて無いんだけどさ。
激しい戦闘の影響で、屋敷も何もかもが消し飛ばされていた。森は焦土と化し、地面が剥き出しになっている。
もうこんな場所に用はないね。世界コアを手に入れる事にするかな。
「⋯⋯待て⋯⋯」
「おや? まだ生きてるんだねぇ⋯⋯」
うつ伏せに寝かされた状態で、ボクの魔剣に背中を貫かれた男がいた。
男は元神獣の黒狐だ⋯⋯元神獣って言うだけあって、生命力が高いのだろう。色々準備してきたボクですら、全く油断出来る相手じゃなかったんだ。
黒狐に近づき、地面に縫いつけた魔剣に手をかける。
「過去を見る力⋯⋯本当に厄介だったねぇ⋯⋯でもこれからは安心して過ごす事が出来そうだねぇ。後は世界コアを操作するだけかな」
「ぬかせ下郎⋯⋯精霊界は、女神様が創った大切な場所だ。気安くどうこうしていい物じゃない⋯⋯」
「御説教は聞きたくないよ」
「グッ!!」
魔剣を引き抜くと、地面に赤い血が流れ出した。
もう体を癒す力も残って無いか。念の為に首は刎ねておかないとな。
「お前の目的は何だ?」
「ボクは⋯⋯知らない事を知りたいだけだよ。“ボクは”ね」
「⋯⋯ここは通さ──」
──スパン!
「残念だけど、もう君とは話す事は何も無い」
*
side アーク
見渡す限り何も無い⋯⋯何も無くなっている⋯⋯ついこの前お世話になった屋敷が、跡形もなく消されてしまったみたいだ。
酷い。あんなに綺麗な場所だったのに⋯⋯
そんな時、遠くで何かが動く気配を感じた。この不思議な気配は⋯⋯
「⋯⋯栞さん?」
「⋯⋯アーク⋯⋯様⋯⋯」
「ッ!!」
背筋が凍りつくような気がした。栞さんは下半身を失い、胸に岩の破片が突き刺さっている。
「大変! 今直ぐ助けます!」
「それには⋯⋯及びません⋯⋯この状態でも、まだ二百一年と五十四日くらいなら活動出来ますから」
「えっ!!」
「そんな事よりも、早く世界コアの元へ⋯⋯奪われるくらいなら、破壊せよと命令を受けています⋯⋯しかし、今の私では、その役目も果たせそうにありません⋯⋯」
「わかりました。黒狐様は何処にいるんですか?」
栞さんの顔が悔しそうに歪んだ。それも数秒間だったけど、とても辛そうな顔で奥歯を噛み締める。
「黒狐様は⋯⋯主様は、もうここにはいません」
その一言で、凡その事は理解出来た。理解は出来たけど、とても信じられなかったんだ。
あの黒狐様が、そんなにあっさり倒されるだろうか? ここで、いったい何があったって言うの?
「一つ伝言を授かっています。もしもの時は龍神を頼れと⋯⋯」
龍神? それって龍の神様なのかな? とりあえず今は時間が無い。また後で詳しく聞く事にする。
「わかりました⋯⋯」
「お願いします。世界コアを悪用される事があってはならないのです」
「任せて下さい。僕が絶対に何とかします!」
直ぐに歩きだそうとして思いとどまる。栞さんの顔を見て、優しく頭を撫でた。
「一緒に来る?」
「⋯⋯よろしいのですか?」
「うん。その目で見届けて」
「ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」
一度ギュッと抱き締めてから、栞さんを背中に背負うように括り付けた。
この人は、きっと黒狐様が大好きだったんだ。前に回された腕に、必要以上の力が入っている。
僕は走り出して、直ぐに地下へと続く長い階段を見つけて飛び込んだ。
「主様は⋯⋯とっても優しかったんです⋯⋯」
「⋯⋯うん」
「絶対に⋯⋯絶対に許す事なんて出来ません⋯⋯」
「うん」
とても強い気持ちが伝わってきた。今栞さんの顔を見る事は出来ないけど、さっき以上に腕に力が入っている。
「私は戦闘に出る事を禁止されていました。ですが、私は言い付けを守る事が出来ませんでした⋯⋯あの魔族が憎いです⋯⋯絶対に⋯⋯私は⋯⋯」
「⋯⋯」
栞さんは泣いているのかな? 首筋に生暖かい雫が流れてきた。
この先にその魔族がいるんだよね。黒狐様を打ち破った敵⋯⋯魔物とは比べ物にならない相手なんだろう。
気配拡大感知スキルが、魔族のいる場所を伝えてくる。
「まずは魔族と戦います。世界コアをどうするかは、その後に決めたら良いでしょうか?」
「はい。無理はしないで下さいね」
それはわからないなぁ⋯⋯でも、僕は今までの僕とは違うんだ。
世界コアのある場所へ辿り着くと、大きな魔導具を沢山並べて何かをしている魔族がいた。
ギリギリセーフ(´;ω;`)
毎日更新休まず更新_((Ф(・ω・`)カキカキ
湿気と暑さが辛いですね⋯⋯皆も体調管理に気をつけましょう。




