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精霊界の危機(3)





三人称視点



 レバンテスは激しく動揺していた。自分の使った“血晶大監獄”は、決して見掛け倒しの技じゃない。膨大な魔力を消費するが、それだけの価値がある効果を発揮する筈だったからだ。


 血晶大監獄はヴァンパイアの種族魔法と結界魔術の合体技で、見破る事は困難⋯⋯ましてや抜け出せる訳が無いと思っていた。



「ああああ! クソ! 油断した! 空間を操る精霊なんて知らねえよ! それにさ! かっこよく空を飛ぶ事を禁ずるとか言っといて、不発したみたいになったじゃんか! 何で飛んでんだよ!」


「アークを普通のものさしで測ったら駄目だ」

「びっくり人間みたいな子だからねぇ⋯⋯」


「あんな美味そうな匂いを嗅がされて⋯⋯おあずけかよ⋯⋯」


 レバンテスが(うずくま)ると、アイセアが躊躇なく雷を落とす。さっきは食らってしまった一撃だが、来るとわかってれば避ける事くらい出来る。

 バックステップで雷を避けた所へ、ビビがレイピアのシャムシェルを突き出した。

 レバンテスは血晶魔法で片手剣を作ると、ビビの突きの軌道をズラす。


(思ってたよりはえぇ)


 ビビの体勢が崩れたた瞬間、レバンテスが前蹴りを放った。


「ちっ!」


 レバンテスはこれでもヴァンパイアロードだ。ビビより全体的にスペックが高く、真正面から来ても対処は出来る。


 ビビは咄嗟に腕を割り込ませ、レバンテスの前蹴りから身を守った。


「ぐっ⋯⋯重い⋯⋯!」


「当たり前だ。俺はヴァンパイアの頂点──ッ!!」


 ビビを蹴り飛ばした事で、レバンテスも体勢が崩れていたのだ。アイセアが死角に回り込み、雷で作った片手剣を斬り上げた。


「“スケルトンガーディアン”」


 アイセアの行く手を塞ぐように、盾と剣を持った黒いスケルトンが現れる。

 確実に決められるタイミングだと思ったアイセアだが、召喚されるスケルトンのスピードに一瞬躊躇してしまったらしい。


 スケルトンの剣とアイセアの剣がぶつかり合い、激しい稲妻が迸る。


「⋯⋯ッ! このスケルトン⋯⋯強い!」


「こうなったら、女だけでも連れて行くしかねえなぁ⋯⋯」


 いつの間にか背後へ回ったレバンテスが、アイセアの足を払って転ばせた。


「わ!!」


「くらえ!」


 魔力を込めた左手を向けると、なんの変哲もない魔力弾を放つ。アイセアは自を雷と化し、ビビの隣へ一瞬で移動する。



「避けた? そうか、精霊だったよな。人間のように相手をする訳にはいかねーか」


 ビビはさっきの前蹴りのダメージを、霧化する事で治していた。


「アイセア⋯⋯このままじゃ埒が明かない。やるぞ」


「本気? まだ実戦で試してないのに⋯⋯」


「なるようになるさ」


 ビビの男らしいところに、アイセアが苦笑い混じりの溜め息を吐く。






 ユシウス配下のブロスとダイモンが、巨大な地下水脈の中を進んで行く。

 魔術で拘束された精霊達が、その巨大な地下水脈に点々と配置されていた。


 精霊達はこの後どうなるかわかっているようで、全員が絶望的な表情を浮かべて泣いている。彼等はこれから餌になる事になるのだ。

 クイーンヘイズスパイダーは、もう命令が理解出来る状態じゃない。ユシウスに体を改造され尽くして、残っているのは食欲だけになっていた。


 ブロスはクイーンヘイズスパイダーを見て、背筋を虫が這い回るような悪寒を感じていた。


 精霊を食べ物として並べる事で、クイーンヘイズスパイダーを誘導する事になっている。

 


『⋯⋯思ったよりも奴の動きが速い! もっと急げダイモン! 化け物に追いつかれるぞ!』


『む、無茶言わないで下さいブロス様! これ以上速く泳げませんよお!』


『あの触手に捕まったら終わりだ! もし捕まれば、俺達だって簡単に食われちまう!』


 餌を地下水脈にセットしたまでは良かった。ただ一つ誤算があったとすれば、すれ違えない程に触手が伸ばされた事だ。

 引いたレールの上を進んでいるが、ブロスとダイモンにまでその牙が迫っていた。


『急げ! 急げ急げ急げ!』


『ひぃぃぃい!』


『もう少しで助かるぞ!』


『ッ!!』


『な!』


 その時だ⋯⋯ブロスとダイモンの足が、見えない何かに絡め取られる。


『なんだ!? クソ!』


『どうして! どうして! 嫌だあああ!』


 全力で手を漕いでも前に進まない⋯⋯それはほんの僅かな時間だった。どうせ食われるならと恨みを持った水精霊が、自分達をこんな風に使った魔族を道連れにしようと足を引っ張ったのだ。


 二人の悲鳴が響き渡り、それが食われゆく精霊達にせめてもの慰めとなる。


 クイーンヘイズスパイダーは止まらない。最早蜘蛛とは呼べない姿になってしまった。


 食う⋯⋯食う⋯⋯食う⋯⋯食う⋯⋯それだけが彼女の望み。地下水脈を抜けた先で、その化け物は月の明かりに向かい泳ぎ出す。



「ブウォオォォオオオオ!!!!」


 遂に化け物が戦場にやって来た。水面から顔を出したソレは、精霊界全土に響き渡るような産声を上げた。


(食べ⋯⋯物⋯⋯沢⋯⋯山⋯⋯食う⋯⋯食う⋯⋯食う⋯⋯⋯⋯⋯⋯食わせろ⋯⋯食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ⋯⋯全て⋯⋯動く物⋯⋯全て⋯⋯食う⋯⋯食わせろ⋯⋯食う⋯⋯食わせろ⋯⋯食う)






「もう⋯⋯お嫁にいけない⋯⋯」


「⋯⋯」


 黒いフードを被る二人組の女、その片方がボソリと呟いた。その言葉を聞いて、もう一人の女がペロリと下唇を舐める。

 巨大な魔導飛行艇の甲板に立ち、呟いた方の女が体を震わせていた。


「可愛いからついやり過ぎちゃった♡」


「つい⋯⋯ついじゃと!? ついであんな事⋯⋯ごにょごにょごにょ⋯⋯」


「と〜っても気持ち良かったでしょ? もっともっとじっくり開発してあ・げ・る♪」


「!!!」


 フードの奥の顔を真っ赤にして、力無く拳を振り上げる。しかし、その拳は簡単に避けられてしまった。

 ひらりと背後に回り込んで、そっと服の中へ手を入れてくる。


「育ってきたわね。私が育てたんだけど」


「ひゃ! んん⋯⋯あぅん、やめ! そんなとこ⋯⋯摘むな⋯⋯」


「やめちゃっても良いの? こんなになってるのに?」


「/////」


 顔を更に真っ赤にした女のフードから、はらりと緑色の髪が夜風になびいた。そんな二人の元に、凄く重たい足音が近づいて来る。


「わ、妾を⋯⋯あ⋯⋯助けてくれ⋯⋯この変態淫魔から⋯⋯あうん⋯⋯あ」


「クルルウェ?」





 ちょ、ちょっとギリギリなアレかな?:(;゛゜'ω゜'):

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― 新着の感想 ―
[一言] 立派なサキュバスになって‥(T . T)
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