精霊界の危機(1)
空を飛び戦場を駆け抜ける。
「“ベヒモスモード”!!」
体に新しい魔装が展開された。
これは本当に凄い⋯⋯前とは比較にならないくらいに体の中から力が湧き出てくるよ。
どこも酷い乱戦になっている⋯⋯でも、精霊さん達の士気は高いみたい。
皆が皆、声を張り上げて互いをカバーし合っているね。僕も頑張らなくちゃ。
僕達一番隊は、それぞれの小隊に分かれて魔物へとぶつかって行く。
因みに一番隊は精鋭部隊になっている。うちの隊以外は、新しく編成されて大精霊さんの割合も多いらしいよ。
凄い衝撃音と熱風が吹き荒れる⋯⋯さて、どれから倒そう。
「ぶっころです! ぶっころぶっころ!」
マリーが荒ぶってらっしゃる⋯⋯
まあどちらにせよ全部やっつけるつもりだよ。
「大きいヘイズスパイダーは強敵です! 皆油断しないように!」
まずは先制にシャニガルが嘶いた。二色の光の玉が降り注ぎ、幸運と不幸を齎す。
僕達だけじゃなくて、フィールド全体を包んでいるね。
「無理してない? シャニガル」
「数時間なら大丈夫です」
「そっか。辛くなったら言ってね」
シャニガルのお陰で体が軽いよ。良し、頑張るぞ!
「ブラーティス、雪月虎、ジャスルン、マリー」
事前に作戦は話し合ってある。ブラーティスの闇が敵の視界を奪うと、マリーが植物の蔦を召喚する。
それに合わせて、ジャスルンと雪月虎の力まで加わった。
砂、氷、蔦が、あっという間にヘイズスパイダーを締めあげる。
「キシャアア!」
「良し、ドラシーのお披露目だね」
『♪』
僕が普段から使ってるSスタンダードは、いつの間にか“複合闘気身体強化”って名前になっていた。
Sスタンダードは僕が勝手に名前をつけたんだけどね。
全ての力を解放すると、数百⋯⋯数千の視線が僕へ集まった気がする⋯⋯? 何で?
まあいっか⋯⋯でも、ちょっと恥ずかしいな。
銀の奔流をドラシーに纏わせ、イフリンの炎で強化する。
「はああ! “パワースラッシュ”!」
剣の軌跡が空を駆け、あっさりと巨大なヘイズスパイダーを両断した。
体が縦にズレて、切り口から炎が噴き出す。
「はは。凄いよドラシー!」
『⋯⋯凄い⋯⋯のは⋯⋯アーク』
ドラシーが喋った! 珍しい⋯⋯
大きな技を使わなくても、ヘイズスパイダーを倒せる事がわかった。これなら新手の大きなヘイズスパイダーを、全部相手にしても大丈夫だね。
「次行くよ。ボーネイト」
「は、はい!」
「? どうかしたの?」
「いえ、その⋯⋯み、皆、アーク様の凄さを再認識してるところじゃないかと⋯⋯また存在の格が上がってませんか? それも急激に⋯⋯」
「そうかな?」
確かに魂魄レベルは上がっているよ。それくらいだと思うんだけど⋯⋯
あ、一個だけ思い当たる節があるかも。心臓をラズちゃんに壊されて、暫く精霊の力だけで命を繋いでたんだっけ。
イフリンとの訓練は、まず体を壊す事から始まった。
今は完全な精霊の体じゃないけれど、生身でも効果があったのかもね。
「気にするな。アークだぞ?」
「そうだった」
ビビ、それ説明になってないよね!? ボーネイトも頷いてるし⋯⋯
「早く次行くぞアーク」
「わかった。皆! 頑張ろー!」
──それから一時間が経過する。部隊でローテーションを組みながら、次々ヘイズスパイダーを倒していった。
今回は街の中での戦いじゃないから、色々気にしなくても大丈夫だ。
ビビはどんな訓練をしていたのかな? アイセアさんと上手く連携が出来てると思う。
思っていたより余裕がある。ずっとSスタンダードレベル3を使っているのに、体が疲れる気配がないんだよね。
僕は自分の部隊以外にも注意を向けて、危ない精霊さんがいれば助けて回った。
「見えてきたぞー!!」
誰が言ったのかわからなかったけど、僕達はその方角を見る。あれは⋯⋯
「凄い! あれがウンディーネ様の国なんだね!」
「トラの故郷か」
上空から見てみると、綺麗な三日月形の湖があった。三日月の欠けた部分には、巨大な街があるみたいだ。
「良かった。結界はまだ残ってる」
全部が終わったら、ウンディーネ様の国も見て回りたいね。シルフ先生の国だってまだ見てないんだけど。
「だが包囲されているな」
「早く全部片付けたいね⋯」
そんな時、遠くで大きな爆発音が聞こえてきた。
「やれやれ、敵の増援か⋯⋯」
「きりがないね。ビビ」
『聞こえるか?』
「ムーディスさん!」
「ムーディス?」
ちょっといきなりでびっくりしたよ。向こうからパスを繋げられるのは、こういう感覚だったんだね。
『遂にヴァンパイアロードが出てきた。この前ノーム様が戦ったやつだな。特殊な魔導具を使っているのか、九番隊に大きな犠牲がでている』
『ッ!!』
『遊撃部隊として、ヴァンパイアロードを始末して欲しい。出来れば生け捕りが望ましいが、ヴァンパイアロードを捕まえるなんて無理があるだろう。アークの部隊が抜けた穴は、他の精霊に任せるから大丈夫だ』
『生け捕りは余裕があればですね。わかりました! 直ぐに向かいます!』
『頼むな』
皆に事情を簡単に説明して、ビビとアイセアさんだけ連れて現場へ向かう。
本当はビビに後を任せたかったんだけど、ビビは着いてくると言って聞かなかったんだ。
でも、ベスちゃんが残ってくれたから安心だね。
「アークを一人に出来るわけがない」
「わかったよ。僕もビビがいてくれて嬉しい」
「あらあら。私もいるんだけど?」
「ありがとう。アイセアさん」
本当に油断の出来ない敵だよね⋯⋯魔物のランクで言えば、ヴァンパイアロードはかなり強い方だと思うんだ。
ついこの前までは、CランクやBランクの魔物で手一杯だったのに⋯⋯
僕達の力がどこまで通用するかな?
邪悪な魔力を放つ男を見つけると、向こうも直ぐに気がついたらしい。
「カッカッカ! まさかそっちから出てきてくれるとはな!」
「“オーラスティンガー”!!」
「ちょま! ぎゃああああ!!」




