おかえり相棒
ベランダを見てみると、トラさんが座って精神統一している。
少しずつ月光から力を吸収しているみたいだ。
何をしているのかと思ったら、体が少し浮いているね。
飛行の練習でもしてるのかな? それにしても⋯⋯
トラさんの集めた力は、その殆どがロスしてしまっていた。
体の中に循環させようとしているみたいだけど、本人の魔力がそれを邪魔をしちゃってるみたい。
せっかく集めた力なのに、水と油のように分かれてしまっているんだね。
僕はそっとトラさんへ手を向けた。難しいけど、トラさんの力を遠隔で操作してみようと思う。
ぬぬぬぬぬ⋯⋯思った以上に難しいかも⋯⋯
トラさんの体内に流れる魔力に隙間を作り、そこに自然の気を練り込んでいく。すると、トラさんの体が少し光を浴び始めた。
少し強引だけど、自分の魔力で押しつぶすようにして吸収したら良いと思う。
「うにゃ!? で、出来たにゃ!? 飛べてる⋯⋯飛べてるにゃ!!」
凄く嬉しそうに空中で一回転した。
ふふ。良かったね。今の感じを忘れないようにね。あ、そうだ。暴炎玉の威力を実験しておかなくちゃ。
部屋を出て城の天辺まで駆け上がる。
良い風だね⋯⋯どこに向かって飛ばそうかな? 街の中じゃなければ何処でもいっかな?
流石にフレイガースの進行方向で爆発したらびっくりしちゃうと思うから、後ろへ飛ばせば問題無いよね。
暴炎玉を十個取り出して、シルフ先生の風で包み込む。
狙いは⋯⋯あの山で良いかな。飛んでけー!
──ゴガガガガガアアァァアア!!
「うわ!」
着弾と同時に、白い炎の竜巻が十本も出現した。夜も吹き飛ばす程の光を放ち、山肌を完膚なきまでに蹂躙する。
とんでもない威力でした⋯⋯やばぁ⋯⋯山がドロドロに溶けちゃってるよ。
「また変なもん作ったなぁ⋯⋯」
「あ、こんばんはノーム様」
「ノームで良いと言ったじゃろう?」
「すいませんノーム」
ノーム様を目の前にすると、呼び捨てはやっぱり恐れ多いです。
「さっきのは何じゃ?」
「えーっと、これなんですけど」
ノームに暴炎玉の入った箱を見せると、面白そうに摘み上げた。
「ほう⋯⋯ちょっと儂も試して良いか?」
「どうぞ。今どれくらいの威力になるのか試しにきたんです」
「良し。じゃあ儂は向こうに投げるかの」
箱を小脇に抱えて、種まきでもするかのような気軽さだった。
ガバッと掴めるだけ握り込み、僕が試した方とは少しズレた場所に投擲した。
──ゴガガガガガ!!
うわぁ⋯⋯やっぱり凄い威力だね⋯⋯
「こりゃあ良いのう」
ノームが嬉しそうに笑った。
「誰にでも使えるってのが良い。これなら力の弱い精霊の武器になりそうじゃ」
「何をしているんだ?」
今度はイフリンが見に来たみたい。ノームが僕の作った暴炎玉の説明をすると、イフリンまで試したいと言ってきた。
「どうぞ。まだまだ沢山作れますから」
「それは良いな。どれどれ」
イフリンも沢山暴炎玉を掴むと、また少しズレた場所へと放り投げる。
同じ場所へ投げれば良いのに、凄く自然破壊しちゃってるね。
「はっはっはっはっ。これは素晴らしいな! 上位精霊の攻撃並に威力があるわ! これがあればヘイズスパイダーも怖くないだろう」
「そうじゃろうそうじゃろう」
「これは酒を飲み直す必要がある」
「そのようじゃな!」
「え!? また飲むの!?」
イフリンとノームが、僕の頭を撫で回して去っていった。
まったくもう⋯⋯仕方ない精霊さんだよ。
「そうじゃった! 忘れておったわい!」
「え?」
ノームが戻って来て、大きな箱を取り出した。
この中身は⋯⋯うん。わかる! これはドラシーだ!
「鍛え直してやった。最高の剣になっている筈じゃて。それじゃな」
「ありがとうございます!」
早速箱を開けると、少し細身になったドラシーがいた。
凄い魔力を秘めてるみたい。SSランク? まさかSSSランクくらいあるんじゃ⋯⋯
「ドラシー?」
『⋯⋯!!』
ドラシーが箱を飛び出して、僕の体にピッタリとくっついてくる。
驚きと喜びが伝わってくるよ。懐かしいね⋯⋯会いたかったよ。
『アーク⋯⋯ありがとう⋯⋯』
「え? ドラシー?」
『⋯⋯』
ドラシーが喋った!? もうどれくらいぶりの事だろう。
「ドラシー?」
『⋯⋯』
「ふふ。ドラシーは無口だよね」
『⋯⋯』
鞘から抜くと、想像以上の重さにびっくりする。
ああ、でも良いなぁ。この手に馴染む感じ⋯⋯これからもよろしくね。
『!』
箱の中には魔装“ベヒモス”も一緒に入れられていた。凄い魔力を感じるよ⋯⋯
「良かった。ベヒモス、ドラシー、おかえりなさい」
*
side レバンテス
狙うは深夜だ。シルフの国とぶつかった時、大量のヘイズスパイダーを投入してやる。
フレイガースから付かず離れずに移動をしていた。
改造済みのこいつらがいれば、子供と女のヴァンパイアを捕まえるくらい余裕だろ。
気配は魔術で隠している。後はタイミングを待つだけだ。
「レバンテス様。我々だけでも十分だと思いますよ?」
「お前達は⋯⋯えーっと、クズリにメタガイだったか?」
「はい。私達がいれば、精霊など恐るるに足りぬと思われます」
この二人はユシウスの配下の魔族だったな。確かに実力はあるのかもしんねーが、お前ら精霊を舐め過ぎだ。
「作戦の変更は無しだ。このまま──」
──ゴガガガガガアアァァアア!!
「ッ!!」
あたり一面が、激しい炎に包まれる。
なんだこの熱量は!!
「ぎやあぁあ!! ユシウス閣下!!」
「ぐぉぉあああ!! こ、こんな所で!!」
なんてこった! 作戦がバレているのか? こっちの姿は見えてない筈だろうが!?
「レバンテス殿⋯⋯」
白い炎の竜巻が、クズリとメタガイを呑み込んだ。
あれはもう助かるまい⋯⋯クソっ! どこでバレたんだ!? 適当に攻撃しただけか!?
まずい⋯⋯とりあえず生きてるヘイズスパイダーだけでも⋯⋯
「ボサボサすんな蜘蛛共が! 早くこっちに来──」
──ゴガガガガガ!!!
クソっ! またか! これじゃ蜘蛛の強化大隊が⋯⋯
白い炎は全てを呑み込んでいく。
魔術は完璧だった筈だ! 何故こうも正確に狙ってこれる!?
「ちきしょう! くそお!! 後どれくらい残って──」
──ズゴガガガガガガ!!!!
なんてこった⋯⋯クソっ! 何も出来ねぇで全滅しちまったじゃねえか!
間違い無い⋯⋯フレイガースの中に、とんでもない魔術の使い手がいる!
迂闊だったぜ。どうやら精霊を舐めていたのは俺もだったのか⋯⋯
「今は引いてやる! 覚えてろよ!」
それにしてもすげぇ威力だな。あの街の中に、いったいどんな化け物が住んでいるのやら⋯⋯
『⋯⋯』(っ ॑꒳ ॑c)
ドラシーおかえりなさい\( 'ω')/
『⋯⋯』(〃ω〃)
ドラシー?
『⋯⋯』(:3_ヽ)_
ドラシー
『⋯⋯』( ˘༥˘ )スヤ




