ビビの秘密特訓
城の中庭へ降りると、まだ宴会をしていた様子が伺えた。
イフリンったら、ちゃんとお仕事してたのかな? やっぱり精霊さんってどこか呑気なんだよね。
そんな時、中庭を見下ろす視線に気がついた。
⋯⋯イグニス様だ。何で僕はイグニス様に嫌われてるんだろう。
怒りなのかなんなのかわからないけど、僕はイグニス様に良く思われていないんだ。
「アーク、私はちょっと訓練をしてくるよ」
ビビが僕とイグニス様の視線を遮る。
「え? 訓練? じゃあ僕も!」
「いや、アークは疲れているだろう?」
「そんな事もないと思うんだけど⋯⋯」
「いいから部屋で寝ていろ」
いきなりそんな事を言われてもね⋯⋯ビビがいないと寝れないかもしれないしなぁ。それにまだ昼間だよ? やっぱり僕元気だと思うんだけど?
イグニス様へ視線を戻そうとすると、既にそこには誰もいなかった。
うーん⋯⋯やっぱり一度話をしたいと思うんだよね。誰とでも仲良くなれるとは思わないけどさ。
「アーク?」
ビビは僕が部屋に行くまで見守るつもりらしい。
僕の両頬を摘んでグニグニしてくる。痛いからやめて? 今から寝てもつまらないしなぁ⋯⋯あうぅ⋯⋯ビビの目が鋭くなった。まさか、僕の考えが見透かされている!?
そ、そんな訳ないよね? こっそり訓練なんて考えてないからね?
「私はギリギリまでアイセアと特訓するつもりだ。寝るのも大事な仕事だぞ」
「でも⋯⋯」
「アーク?」
なんかちょっと⋯⋯今日のビビは怖いです。大人しく部屋に入ろうかな。
いやいや、僕はまだ寝たくない! 部屋に入ってからビビがいなくなるのを待とうかな?
*
side ビビ
アークは短期間で驚く程に強くなる。魔物の私にすら理解が及ばないくらいに早く⋯⋯
そんな無理を続けていれば、いつか取り返しのつかない事になるのではないか? そう時々考えてしまうよ。
大人の姿になり、もたもたと抵抗するアークを抱き上げる。
「ビビ。まだきっと寝れないよ? イフリン達にただいまの挨拶とかしてきた方が⋯⋯」
「それは私がしておこう。アークが寝る時に数えている動物は何だったかな?」
「え? それはジャンガ⋯⋯zzZ」
良し、これで大丈夫だ。
アークをベッドに放り込み、何故かベランダでふにゃけた面をしていたマリーを見つける。
「何をしているんだ? マリー」
「ふわぁ⋯⋯先輩! チーっす! 光合成っす!」
「お前は会う度にキャラが違うな⋯⋯」
「光合成出来れば皆友達っすよ! 先輩!」
「いや、出来ないが」
「ッ!!!」
驚愕の表情になったマリーを抱き上げ、アークを見ておくように頼んでおいた。
「了解っす! 先輩! うーっす!」
「なんかムカつく顔だな⋯⋯頼んだぞ」
「うっすうっすうぇーっす!」
「くっ⋯⋯いいか? アークが起きても動き回らないように見張るんだぞ?」
なんだあの顔は⋯⋯イライラして仕方ない。
さて、アイセアを捕まえて来るか。
*
side アーク
「ッ!!!」
目が覚めると、枕元にマリーが立っていた。
びっくりしたぁ⋯⋯普通にめっちゃ怖いです。あれ? マリー寝てる?
目を見開いて、僕の顔を覗き込みながら鼻ちょうちんを作っているみたい⋯⋯
何がどうなってそうなったのか説明をして欲しい。若干頭の花が萎れている気がするよ。
「ま、マリー?」
「⋯⋯すぴー⋯⋯すぴー⋯⋯すぴっぴすー〜すぴっぴぴぴぴ⋯⋯」
「⋯⋯本当に寝てる?」
仕方ない⋯⋯隣に寝かせてあげよう。
それにしても、僕はいつの間に寝ていたのかな? 記憶がないね。ビビが言う通り、僕は本当は疲れていたのかも。
でも沢山寝れたしきっと大丈夫だよね。ビビはまだ訓練しているのかな?
ベッドにいても暇なだけだ。マリーの鼻ちょうちん見てても仕方ないよね⋯⋯でも、ビビがゆっくり休めって言ってたしなぁ。
マリーを寝かせ、僕はあれを作る事にした。バブリンの馬車で作ったガラス玉のような爆弾だ。
それなりに集中力が必要なんだけど、一度作っているから簡単に出来た。
最初は一個作るのに三分かかったのに、どんどん時間が短縮されていく。
三分が二分、二分が一分、二個を同時に、三個を同時に。
完成した物は箱にしまってたんだけど、気がついたら凄い量を作っちゃった。
これ名前があった方が良いかな? んー、仮に“暴炎玉”としておこうかな。
やる事が終わっちゃったよ。マリー⋯⋯目が乾いちゃう⋯⋯
そっと瞼を閉じさせて、安らかに眠れと祈ってみる。
「ハッ!」
「ごめん。起こしちゃった?」
「事後?」
「え?」
「覚えてないのが悔しい! アーク様もう一回おねげーします!」
「わ、わかった」
いきなり凄い食いつきでびっくりしたよ。もう一度マリーの瞼を閉じさせた。
「安らかに眠れ」
「何プレイです?」
よくわからないけど、今はマリーに頼みたい事がある。
「ねえマリー。僕の部隊の皆を集めてくれる? ベスちゃんとアイセアさんとビビ以外に渡したい物があるんだ」
「お易い御用です!」
マリーは走り出すと、扉の前でこっちを振り返って投げキッスをしてきた。
何故か見えたハートマークの残像を避けると、マリーが扉の向こうへ消えていく。
準備は着々と整っていった。そしてなんと、最終決戦は今夜になりそうだった。




