先生が出来ました。
精霊界はやっぱり綺麗な場所だよね。観光マップとか作ったら人気出るかもしれないな。
バブリン馬車の窓から顔を出して、ぐにゃぐにゃと不規則に曲がっている虹を発見した。
あんなの初めてだよ⋯⋯虹ってドーナッツ型だと思ってたのに。あれも食べれたりするの?
「アーク、多分あれは虹ではない。良く見てみろ」
「んー?」
虹じゃないの? でも七色に光って⋯⋯あれ?
虹だと思っていたそれはクラゲの大軍だった。クラゲが列をなして大空を泳ぎ、虹に見えるように発光している。
凄いなぁ⋯⋯これ夜に見たら凄く綺麗かもしれないね。
「美味しいだろうか?」
「どうだろう⋯⋯雲海ズベーラは美味しかったけど」
「ふむ⋯⋯お、アークあれ」
「え?」
うわぁぁあ⋯⋯凄い。今度は巨大なキノコの森だよ。真っ赤なキノコとか、チョコレートみたいな色のキノコもある。キャンディーみたいに透けたキノコもあるね。
巨大キノコの森を囲うように、薄紫色の胞子が全体を覆っていた。
この精霊界には、きっと色々な食べ物があるのかもしれない。ヘイズスパイダー達も、精霊さんじゃなくてもっと色々な物を食べたら良いのにな。
ビビが僕の首根っこを掴んでるから、これ以上身を乗り出す事が出来ないんだ⋯⋯
本当に楽しいな。魔物は殆どいないみたいだけど、全くいない訳じゃないみたい。
それに、たまに変な生き物の反応があるかな。
「ん? 村がある⋯⋯あれは何? ボーネイト」
「それは⋯⋯あまりお気になさらない方がよろしいかと⋯⋯」
「? どう言う事?」
「⋯⋯」
ボーネイトは口を噤んだ。そんなボーネイトの様子を見て、ビビが小さく息を吐く。
「⋯⋯アーク。多分精霊界には、四大精霊意外で寄り集まるグループがあるのだろう」
「それって⋯⋯」
「私達が助けれる範囲外の者達がいる村なんだ」
今精霊界は未曾有の大パニックの中にある⋯⋯だから、小さな村に構ってられないって事?
「アーク様。勿論道中の村には声をかけて回ってるよ。だけど、避難を受け入れてくれる所ばかりじゃないんだ。まあそれでも精霊だから、大抵の事は自分達でどうにか出来ると思う。それに、あの村は避難が完了しているみたいだよ」
確かに精霊さんの気配は無いね。
そうこうしている間に、遠くにフレイガースが見えてきた。僕にとっては久しぶりの再開になる。
何だか少しソワソワするよ。
窓から少し強めの風が入って来て、僕は目を閉じてしまった。不意な強風って思わず息が詰まるよね⋯⋯
同時に少し花の香りがしたような気がする。
目を開けてみると、目の前に美青年が座っていた。
突然の事に驚いていると、目の前の美青年が薄らと笑う。
この人は誰? 人形さんみたいに整った顔をしている⋯⋯
薄黄緑色の髪、エメラルドのような瞳、陶器のような白い肌で、年齢は十八歳くらいに見える。
豪華な貴族服に身を包み、面白そうに僕の事を見詰めていた。
「やあアーク、ビビ」
「シルフ様!」
驚いたのはボーネイトだ。敵意が感じられなかったので、僕とビビはまだ落ち着いている。でもシルフ様だと知れば、どうしたらいいのか判断に困っちゃうよね。
シルフ様と言えば四大精霊の王様だし、イフリンやノームと同格の最上位精霊様なんだから。
「こんにちは。シルフ様」
「にちは」
「だめだめ。そんな硬っ苦しい呼び方はしないでおくれ。そうだなぁ⋯⋯僕は君の先生だ。アーク、僕の事は先生と呼ぶと良い」
「先生?」
得意気に人差し指を立てるシルフ様。その顔はイタズラ好きそうな笑顔になっている。
「そうさ。君は飛行の補助に風魔法を使っていたよね。だけどあんなんじゃ全然駄目さ。下手くそ過ぎて見るに堪えないよ」
うぅ⋯⋯僕だってわかってるよ。だからビビと空中戦の特訓をしてたんだから。
「手を出しなアーク」
「手ですか?」
僕が差し出した手を、シルフ先生が軽く叩く。乾いた音が響くと同時に、胸の奥が熱くなる。
こ、これって⋯⋯
「はっはっはっはっ! これでウンディーネがビリっケツだ。クックック⋯⋯からかうネタが増えたなぁ。じゃ! そろそろ行くよ! またね! シーユーアゲイン」
「え? あの、シルフ先生!? わ!」
「ッ!」
またしても突風が僕達を襲うと、シルフ先生の姿が掻き消えた。
あまりに軽い⋯⋯自由過ぎる精霊さんだね⋯⋯精霊契約ってこんな感じで良いものなのかな?
「凄かったね⋯⋯」
「そうだな。さっきは何かされたのか?」
「精霊契約だったよ?」
「精霊と契約するには、それこそ準備に凄く金がかかると言われている。精霊界にいれば、呼び出す必要もないしな。それにしても、アークはシルフまで契約してしまったのか」
ビビが呆れたような顔をしているけど、僕から契約を迫った事なんて一度もないんだよ?
物は試しと言う事で、早速シルフ先生の力を使ってみよう! 右手を出して、手の平の上に小さな竜巻を作ってみる。左手には真白な超高温な炎を灯した。
二つの力を合成して、小さな白い炎の竜巻が出来上がる。それを右手で保持したまま、左手で輝く砂の玉を作ってみた。
イフリン、ノーム、シルフ先生の力を融合して、両手でギュッと握り潰す。
「何をしてるんだ?」
「⋯⋯」
暫くそのまま力を練り合わせ、安定したところで手を開いてみた。
「出来た」
「⋯⋯?」
僕も何を作っていたのかわからないけど、綺麗なガラス玉のような物が完成する。
「これビビにあげるね。強い衝撃を与えれば、力が解放される筈だよ」
「さっきの力が封印されているのか?」
「うん!」
「また恐ろしい物を作ったな」
確かに知らずに持ってれば恐ろしいかもね。もし転んで踏み潰したりしたら⋯⋯
「凄く綺麗だ。使うのが惜しいな」
ビビが気に入ってくれたみたい。ふふふ⋯⋯後で量産しようかな。きっと戦いの役に立つ筈だよね。
フレイガースとマウンティスの精霊さんは、上手く班分けが出来たかな?
街に近づくにつれて、懐かしい気配が沢山感じられた。




