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動き出すユシウス





三人称視点



 靴音を反響させながら、二人の男が歩いていた。

 その男とは、六本角の魔族とヴァンパイアロード⋯⋯ユシウスとレバンテスだ。


 鍾乳洞の奥深くに、光の届かない小さな湖があった。

 その湖の底に、体長五メートル程の白い何かが蠢いている。


「うん。そろそろ準備が整ったかな」


「⋯⋯またえげつないもんを作ったなぁ⋯⋯これ、もし魔族の国に放ったらどうなると思う?」


「ふふ。まともに戦ってもらえれば良いけど、逃げ回られたら⋯⋯そうだねぇ。半分は死ぬんじゃない?」


「うえ⋯⋯それでもそんなに死ぬのかよ。こいつ、もう元の面影がねーよ」


「君も強くしてあげようか?」


「やめてくれ」



 冗談なのか本気なのかわからず、レバンテスはユシウスから一歩後退った。それを見てユシウスがニヤリと笑うが、それすらもレバンテスには判別がつかない。


 ユシウスが左手に緑色の炎を灯すと、軽く放るように水面へ投げた。その炎は湖の上を滑るように移動して、底に沈んだ何かを照らし出す。



「短時間で改良したからねぇ。動き出せば三日で自然に死ぬだろうねぇ」


 ユシウスは口角を邪悪に吊り上げる。


「まあ、だけど三日もあればな」


「目的は達成出来る筈だよねぇ⋯⋯」


「自然の力の使い方がわかったなら、元神獣様に喧嘩を売る必要は無いんじゃないか?」


「あれは危険だ」


 少し緩かった雰囲気が、真面目なユシウスの声に塗り替えられる。


「必ずボク達の障害になるよ⋯⋯本当なら戦いたくない相手だけど、黒狐の能力は反則的過ぎる。出来れば殺したいけど、無理ならわかってるね?」


「勿論だ」


 そんな二人へ近づく気配が四つあった。フードで顔を隠しているが、背格好から男だと判断出来る。


「来たね⋯⋯待ってたよ」


 ユシウスの前でその四人組は(かしず)き、一人だけが顔を上げた。


「ただいま参上仕りました。ユシウス閣下」


「うん。アルフレッドが消えちゃってね、ブロス君には早速やってもらいたい事があるんだよ」


「ハッ! なんなりと」


 ユシウスは懐を漁ると、手の平サイズの四角い物を取り出した。

 それはレバンテスにも馴染みのある物で、日持ちする携帯非常食と言われる物だ。


「何か食べ物を作って欲しいねぇ⋯⋯ボクもレバンテスも、壊滅的な不味い料理しか作れなくてねぇ」


「⋯⋯畏まりました。直ぐに用意させます」


 ブロスと呼ばれた男が振り返り、他の三人が溶けるように姿を消した。


「アルフレッドがいないと、こんなに大変だとは思わなかったねぇ。本当、どこで何をしてるんだか⋯⋯」


「所詮は三本角だったって事だな」


 ユシウスが携帯非常食を湖に投げ捨てると、触手のような物がそれを絡め取る。満足気な表情で、更に携帯非常食を投げ入れた。


「油断はしない事だね。腐っても元神獣様だ。簡単にはいかないと思った方が良いねぇ」


「その事なんだがな、ユシウス。そっちはお前に任せられねーか? 精霊の群れの中に、とびきり美味そうな人間が混じってたんだよ」


「⋯⋯人間が? 精霊界に?」


「ああ。背中に吸血鬼の女も背負ってたぜ。そっちも良い女だった。無視するには惜しくてな」


「つまり、レバンテスはそっちに行きたいって事かい?」


「ユシウスが良いって言うならな。無理にとは言わねーよ」


「ふむ⋯⋯」


 ユシウスは数秒間目を閉じると、一度頷いてからレバンテスを見る。


「どちらにせよ、指揮を執れる者が必要だね。時間制限付きで許そう」


「流石ユシウス。話がわかるぜ」




side アーク



 お饅頭、和菓子、フルーツゼリーの詰め合わせをいただきました。なんて良い人なんだろう⋯⋯きっと栞さんは神様なんだね。


 何故かビビに優しい目を向けられながら頭を撫でられる。


 ああ、こんなに綺麗な食べ物⋯⋯どれから食べようか迷っちゃうなぁ。食後にビビと一つずつ分けて食べよう。


 縁側に座っていると、お土産とは別に白い小麦饅頭を持って来てくれた。

 丸い蒸籠(せいろ)に入っていて、蒸したばかりなのか湯気が揺れている。そのお饅頭からは優しい甘い香りと、緑茶の爽やかで深みのある香りが混ざり合う。


 良い匂い⋯⋯


 一つ手に取り頬張ってみると、思ったよりも皮に弾力があった。


 もちもちしてる! あ、中は栗餡みたい。ビビが食べてる小麦饅頭は、大粒の黒い煮豆が入っているみたいだなぁ。


 ここは良い所だね。温泉もあるし、紅葉も綺麗だし、栞さんがお饅頭を持って来てくれるし膝枕もしてくれる。

 時間の流れが緩やかに感じるよ。


 ぽけ〜っと空を眺めていると、空から白馬が降りてきた。


「あ、やっと来た」


 白馬の名はシャニガル。僕の部隊の一員だね。シャニガルの上にはボーネイトが(またが)っていて、後ろにはバブリンの変形した馬車が繋がれていた。


「アーク様ー。ビビさーん」


「ボーネイトー! こっちー!」


 懐かしい気がしてちょっと嬉しい。


「栞さん。またね」


「はい。また来て下さいね」


「それじゃ」


 栞さんに手を振って、中庭を走って行く。


「転ぶなよ。アーク」


「ティーナじゃないから大丈夫!」


 ビビが歩いて僕の後ろにゆっくり着いて来る。懐かしいってだけで、どうしてこんなに嬉しいのかな?

 シャニガルの前足に抱きついて、柔らかい毛皮に頬擦りする。


「アーク様」


「わ〜シャニガル、元気だった?」


「一日しか経っていませんから」


 そっか。こっちではそうなんだね。でも僕にとっては濃密な時間だったんだよ。

 色んな人に出会って、その分だけ別れもあって⋯⋯


「アーク様。また一段と強くなりました?」


 シャニガルから降りたボーネイトが、爽やかにニコリと笑う。


「ボーネイトにはそう見える?」


「昨日とは全然違いますよ。どうしたらそんなに早く成長出来るのかな」


 僕そんなに強くなったかな? もっともっと強くなりたいな。


 ドラグスに戻ったら、耐性スキルを中心に鍛えよう。健康体のスキルを獲得して、上位人族(ハイヒューマン)の進化条件を満たしたい。

 でも今半精霊になってるから、種族進化したらどうなっちゃうのかな?

 それはなってみてから考えれば良い事だよね。


「アーク様、時間がある時に俺を鍛えてくれませんか?」


「え? 僕で良ければ」


「是非お願いします」


 イフリンのやり方しか知らないけど、ボーネイトならいくら体を壊しても大丈夫そうだよね。


「じゃあそろそろ戻ろう。皆アーク様が帰るのを楽しみにしています」


「僕も楽しみだよ」


 馬車の扉が自動で開く。バブリンだと知らなければびっくりするかもね。


 一度中庭と建物全体を見渡して、ビビと馬車へと乗り込んだ。






 おばあちゃんの作った小麦饅頭がめっちゃ好きです(ºωº э)З


 田舎の味? みたいな安心感があります( ˇωˇ )

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