ただいま精霊界
ふかふかな布団が気持ち良い⋯⋯少し肌寒い夜風が、ロウソクの炎を揺らした。
ここは多分黒狐様の御屋敷かな? そっか、僕は戻って来たんだね。
天井の木目を辿るように視線を動かすと、龍の彫られた欄間がある。
そこから風が少し流れてきてるのかな。肌寒いと思ったよ。
いつの間に僕は寝ていたのだろう⋯⋯最後に見たラズちゃんの顔⋯⋯消えかかっていた僕達を見て、最後に我慢の限界がきたって感じだった。
明るく振舞っていたから、大丈夫なのかと勝手に思ってた。
失敗したなぁ。
時間圧縮による精神的な負荷が抜けて、すっごく清々しい気分⋯⋯ただ、ラズちゃんの事だけが気がかりだね。
まだ強烈な眠気を感じる。そして右半身にはビビがピッタリとくっついていた。
半腕枕って感じかな? ビビは起きていたらしく、赤い瞳で僕の事を見つめている。
「おはよう」
「おはようアーク」
「いつからそこに?」
「起きた時にはこうなってたんだ」
そんな訳ないと思うけど、そうなんだ⋯⋯僕の右隣にも、ちゃんと立派な布団が敷いてあるんだけどね。最初から並んで寝かされていたのは事実だろうけど、きっと同じ布団ではなかった筈。
「本当に? 起きた時にはこうなってたの?」
「うん」
「うんかぁ」
ビビがそう言うのなら、そういう事にしておこうと思います。
真実とはねじ曲げるもの⋯⋯父様と母様が、弱者を装っているようなものさ。
「僕、もう少し寝る⋯⋯」
「アーク。血を吸っても良い?」
「どーぞ」
「やっぱり二人は良いものだ」
「いつも二人じゃない」
ビビは少し困った顔をすると、僕の首元に顔を隠す。
「アークには、私だけを見ていて欲しい」
「⋯⋯」
ビビだけを? そんな事を言われたのは初めてだよ。んーっと⋯⋯
ビビの顔を両手で包み、僕の顔の前へ持ってくる。長い銀色の髪がカーテンになって、これでビビ以外見えなくなった。
「血が吸えないんだけど⋯⋯アークなりに私の願いを叶えようとしてくれたのはわかる」
「こうじゃなかった?」
「違うと言いたい。でも、究極的にはこういう事か⋯⋯私がアークの世界を狭めているんだな」
「?」
「何でもないよ」
難しい⋯⋯哲学的な話ってやつだね!
ビビの牙がチクっと首筋に刺さる。寝る前にステータスを確認しておこうかな。
*名前 アーク
種族 半精霊人
年齢 6
出身地 ドラグス
魂魄レベル 152
体力 4005
魔力 7298
力 2979
防御 1340
敏捷 6008
残金 20081365ゴールド
武術系スキル
中級剣術レベル2
剣技“パワースラッシュ”、“ウェポンスナッチ”、“アーマーブレイク”、“オーラスティンガー”
中級短剣術レベル2
短剣技“クイックシャドウ”、“シャドウウォーリアー”、“スピードバインド”、“バックスタブ”
中級体術レベル3
体技“二段跳び”、“岩砕脚”、“震激雷波掌”、“加歩”、“超重踵落とし”
中級弓術レベル2
弓技“ディスタントビュー”、“エンチャントアロー”、“インビジブルセカンドアロー”、“ディスタントルーラー”
魔法系スキル
生活魔法レベル4
“クリーンウォッシュ”、“イグナイト”、“フリーズ”、“ドライ”
火魔法レベル5
“ファイアバレット”、“ファイアスネイク”、“ファイアアロー”、“ファイアボール”、“ボイルドファイア”
火炎魔法レベル2
“フレイムランス”、“アンチフレイム”
水魔法レベル5
“バブルボム”、“ウォーターフォール”、“ドライミスト”、“ウォーターウィップ”、“エリアレイン”
氷魔法レベル2
“ブリザード”、“アイスウォール”
風魔法レベル5
“エアークエイク”、“エアーショット”、“エアーコントロール”、“エアーカッター”、“ダストデビル”
暴風魔法レベル3
“サイクロンブレード”、“テンペストウィング”、“ウィンドプレス”
土魔法レベル5
“ヘキサゴンストーン”、“クレイゴーレム”、“ストーンハンド”、“フォーリングロックス”、“ストーンエッジ”
大地魔法レベル2
“アースドリル”、“サンドクラッシュ”
光魔法レベル5
“ライト”、“ポイントレーザー”、“オプティカルカムフラージュ”、“ミラージュ”、“ライトフェザー”
極光魔法レベル1
“オーロラカーテン”
神聖魔法レベル6
“ヒール”、“リジェネーション”、“キュアポイズン”、“リフレクション”、“セイクリッドスペース”、“キュアノーマリー”
補助スキル
魔力感知レベルMAX、魔力操作レベルMAX、魔力高速循環レベル5、魔力消費軽減レベルMAX、魔力効率化レベル2、魔力増強レベル6、魔法威力増強レベル4、探索レベル7、気配察知レベルMAX、気配拡大感知レベル3、罠察知レベル3、尾行レベル7、隠密レベルMAX、透過レベル2、悪路走行レベルMAX、忍び足レベル2、水上走行レベル2、荷運びレベル8、忍耐レベルMAX、物理耐性レベル3、苦痛耐性レベル8、精神耐性レベル3、毒耐性レベル5、火耐性完全耐性、水耐性レベル3、氷耐性レベル3、風耐性レベル3、土耐性完全耐性、光耐性レベル2、血晶耐性レベル3、礼儀作法レベル6、暗視レベルMAX、自然回復力向上レベルMAX、超回復レベル3、敏捷強化レベルMAX、高速移動レベル4、筋力増強レベルMAX、剛腕レベル2、剛脚レベル2、分割思考レベルMAX、並列思考レベル4、思考加速レベル3、投擲レベル8、料理レベル7、解体レベル5、釣りレベル3、回避レベルMAX、超回避レベル3、危険感知レベルMAX、危険予知レベル2、威圧レベル6、気力操作レベル9、身体強化レベル8、再生レベル4。
???スキル
複合闘気身体強化レベル3
ユニークスキル
恩恵の手引書、無限収納
称号
猫の天敵、お姉さん殺し、町のアイドル、魔法使い、小金持ち、我が道をゆく者、ゴブリンキラー、オークキラー、夢を追いかける者、異名を持つ者、金持ち、町の英雄、見習い賢者、大魔法使い、絵本の主人公、お兄ちゃん、小さな英雄、男を惑わす笑顔、オタクのアイドル、猫耳メイド、精霊界の救世主、蜘蛛の天敵、精霊のアイドル、半精霊、炎神を宿す者、邪神狩り、過去の改変者、神器に選ばれた現地人、鳥だらけ村の村長、刀神を宿す者、土神を宿す者、迷宮攻略者、大金持ち
加護
炎の加護、土の加護
⋯⋯結構強くなってる。いつになったら父様と母様に追いつけるのかな⋯⋯まだまだ頑張らなくちゃ。
*
空が明るくなり始めた頃、不思議な気配が近づいて来た。
懐かしい感じがする。確か栞さんだったかな。
「おはようございます。栞さん」
「おはようございます。私の事を覚えていてくれたのですね」
「勿論です」
「ありがとう。主がお呼びですので着いてきて下さい」
「わかりました」
「⋯⋯」
案内された場所は、多分ここに来た時にお菓子をいただいた部屋だった。
黒狐様は中央で正座をしていて、朝食が三人分用意されている。
「おはよう。アーク、ビビ」
「おはようございます」
「⋯⋯」
黒狐様には良い印象が無いんだよね⋯⋯ビビが大変な事になったんだもん⋯⋯
ビビもさっきからムスッとしているよ。安易に気を許して良い相手じゃないからね。
「まあ言いたい事はあるだろう。朝食を食べ、それから少し話をしよう」
「はい。あ、そう言えば他の皆は?」
「先にフレイガースへ戻っているよ。心配しなくて大丈夫だ」
「わかりました。ビビ、食べよ」
「わかった」
皆元気にしてるかな? 久しぶりだから早く会いたいね。ベスちゃんは今何してるんだろう。
朝食は焼き魚、サラダ、卵焼き、味噌汁、ご飯、どれも美味しかったけど、ビビの機嫌が戻る事は無い。
あ、卵焼き分けてあげたら少し戻った。代わりに焼き魚をくれたんだけど、戻る手が残りの卵焼きのお皿を捕まえていく。
「君達の事は良くわかったよ。とても強い絆で結ばれているようだ。それにしても面白い結果になったな」
「?」
「程度の問題だ。気にしなくて良い」
何が言いたいのかわからない。
朝食を食べた後で、三本角の魔族の人を栞さんに引き渡した。
それから黒狐様と色々な話をしたんだけど、フレイガースへ戻りたくてあまり内容が入ってこない。
「アークは勇者達を見てどう思ったかい?」
「えーっと、強そうだと思いました」
「他には何かあるか?」
「? 特にはありません」
「ふむ⋯⋯」
黒狐様が顎に手を当てる。勇者様達とはそこまで話をしていないからね⋯⋯余裕の無さそうだった真子ちゃんが気になったくらいかな。
「アークにはもっと強くなってもらいたいと思っている」
「! 僕も強くなりたいです!」
「だが急ぎ過ぎだと怒られてしまった⋯⋯」
「え? それは誰からですか?」
「古い友人だよ。昔のね」
遠い目をする黒狐様⋯⋯いったい誰がそんな事を言ったんだろう? 僕は強くなりたいんだけどね。
「ひとまずはフレイガースへ戻ると良い。次に会った時に、力の使い方を教えよう」
「はい。よろしくお願い致します」
やっと皆に会えるんだ。そう思うと、何だか凄く嬉しくなる。
難しい話はまた今度! 精霊界の皆を助けなくちゃ!
*
三人称視点
ここはとある城の寝室。暗い部屋の中に、二つのピンク色の光が揺れていた。
「⋯⋯まさか⋯⋯やっと?」
小さく呟いた女が、勢い良く飛び起きる。
天蓋付きのベッドから降りて、直ぐに隣の部屋に駆け込んだ。
その女の中指には、契約の指輪が薄らと光っていた。




