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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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お別れのパーティー





 どうせならご馳走をと思い、グラタン、ミートボールスパゲティー、チキンサラダ、エビフライ、ピザ、ホールケーキ、フルーツ盛り合わせ、生ハムチーズ、雲海ズベーラの塩焼きなどを用意させてもらった。


 もうテーブルに置ききれないね⋯⋯椅子を片付けて立食パーティーにしちゃおうかな。

 迷宮で見つけたお酒の出る聖杯を使って、鳥さん達にも沢山お酒を振る舞っちゃおう!


 このお酒は透明なんだけど、ほんのり光ってて綺麗なんだよ。僕にお酒の味はわからないんだけど、すっごく美味しいんだってビビが言ってた。

 一緒にお酒を飲めなくても、美味しそうに飲む人の顔は好き。なんか幸せそうだから、こっちまで嬉しくなってくる。


 でもこの聖杯は、無限にお酒を出す訳じゃない。ちゃんと対価として、使えば魔力がどんどん消費されていくんだ。


 ビビが聖杯を傾けると、赤ワインが出てくるみたい。人によって色も味も香りも違う⋯⋯僕は魔力、気力、自然の力を注ぎ込んでるからか、他の人のお酒と比べて段違いで美味しいらしい。


 ぼ、僕だって飲もうと思えば飲めるんだよ? 飲もうと思わないだけなんだから。



 ふう⋯⋯パーティーの準備が整ったよ。早速始めたいと思ったんだけど、主役の二人は寝室だね。僕とビビは寝室の扉を静かに開けた。

 暗くなっていた部屋の中に、ピンク色の二つの光が浮かび上がる。


 ラズちゃんの瞳はいつも光ってるから、暗い場所だと直ぐに見つかるね。


「しー⋯⋯」


「ん? もしかして⋯⋯」


「うん。ムーちゃん今寝ちゃったの」


「ムーちゃん?」


「ライムのムーちゃんね。私、ムーちゃんの先輩だから、助けてあげなくちゃいけないでしょ? だから抱いて背中撫でてあげてたんだけど、気がついたら寝ちゃってたの」


 それはビビが教えたルールかな? ちゃんとしたやつもあったんだ⋯⋯



「しかし、気持ち良さそうに寝てるな」


 ビビがライムお姉ちゃんの頬を突っつく。僕は角を触ってみたんだけど、意外と尖ってなくてツルツルしているみたい。


「緩みきった顔だな」


「そうだね」


 せっかく寝たところで悪いけど、起こさなきゃパーティーが出来ないよ。そのまま頭を撫でていると、さっきロディオさんから聞いた話がちょっと蘇ってきた。


 辛い経験をしてきたんだね。母様がいなくて寂しいよね? ライムお姉ちゃんの気持ちを考えたら、ちょっと涙が出てきちゃった。


 ライムお姉ちゃんに会った時、そんな過去を背負っているようには見えなかったなぁ。



「ラズちゃんに、ライムお姉ちゃんを任せたいんだ」


「勿論。先輩だもん」


「それでね⋯⋯僕とビビ、もうそろそろ行かなくちゃいけない⋯⋯」


「⋯⋯」


 ラズちゃんは唇をキュッと結ぶ。僕とビビの目を見て、言葉の意味を悟ったらしい。


「⋯⋯ずっと一緒だと思ってたのに⋯⋯」


「ごめんね。僕もこんなに急だと思わなくて⋯⋯」


「⋯⋯また⋯⋯会えるの?」



 ラズちゃんの瞳が、僕の瞳の奥を見ているように感じた。


「勿論だ。ラズ。だから強くなっておけ」


「強く?」


「そうだ。はっきり言って、アークの進む道はかなり険しいだろう。今のラズの力では、足手まといにしかならん。暫く会えないとは思うが、その間に鍛えておけよ」


「そっか。あの時のアークちゃんくらい⋯⋯」


「頑張れよ。ラズ」


「うん。わかった」



 ベッドから抜け出してきたラズちゃんを、ビビが優しく抱きしめる。背丈が同じだから、色違いの双子に見えなくもないかな。


「私頑張るわ。ビビ」


「ああ。ラズ──ムッ!!」


「⋯⋯」


 ラズちゃんはビビにちゅーすると、隣りのベッドへ押し倒した。


 他の人同士がちゅーしてるの初めて見るよ。ビビが顔を真っ赤にしてる⋯⋯両手を尻尾で縛られて、顔もラズちゃんに押さえられていた。

 ラズちゃんのピンク色の瞳が光ると、ビビから段々力が抜けていってるみたい? サキュバスの能力なのかな? 助けた方が良い?


「はぁ⋯⋯も、もうだめりゃ⋯⋯」


「ふふ。ビビ可愛い」


「ふむぅ──!」



 ⋯⋯そろそろ止めてあげよ。あれ、僕とビビがするようなちゅーじゃないね。なんかネロネロしてるし⋯⋯



 と、その前にライムお姉ちゃんから起こそうかな。





 最後のお別れパーティーはしんみりしなくて良かった。ライムお姉ちゃんはご馳走にはしゃぎまくり、肌ツヤの良いラズちゃんがお酒を美味しそうに飲んでいる。


 ビビはずっと僕の後ろに隠れていたんだけど⋯⋯「私にそっちの趣味は無い筈⋯⋯無い筈なのに⋯⋯」と、小さな呟きを零している。



 ラズちゃんは多分これから凄く強くなると思うな。魔法がどうとかって言う話じゃなくて、単純に肉体が強いんだ。

 頑張ってね、ラズちゃん。ライムお姉ちゃんをよろしくね。



「ビビ、家はどうする?」


「こいつらにやろう」


「良いの?」


「私にはアークがいて、それで満足なんだ。家なら帰ってからまた作れば良い」


 ビビが泣く程喜んだ家なのに⋯⋯きっとそれだけ残していく二人の事が気に入ったのかな?

 僕も残していく事に賛成だよ。ティーナが手直ししてくれた家だから、長い間使えると思うんだ。



 ビビと一緒に家の外に出ると、鳥さん達が大きな焚き火を囲んで踊っているところだったみたい⋯⋯色々突っ込みたいけど⋯⋯うん。なんだろ⋯⋯皆自由過ぎじゃない?


 (クル)(ウェイ)



「結局一羽も食べられなかったな」


「まだ諦めてなかったの? 卵沢山もらったでしょ?」


「仕方ないか」



 一応、飛ぶ事を忘れた鳥さん達にも頭を下げた。


 皆のお陰で本当に楽しかったよ。次に会った時は⋯⋯やっぱり考えないでおくね。



 魔族の人達が戻ってきたので、庭にバーベキューセットを取り出した。

 疲れた顔をしてたけど、美味しいお酒とお肉があれば大丈夫! 多分。



「アーク殿。とても助かります」


「いえ、ロディオさん。ライムお姉ちゃんと一緒に、ラズちゃんもお願い出来ませんか?」


「それはどういう事ですじゃ?」


「僕とビビは、次に行かなければならない場所がありまして⋯⋯」


「⋯⋯これも何かの縁ですな⋯⋯畏まりました」


「ありがとうございます。家はそのままにしておきますので、良かったら何かが決まるまで自由に使って下さい」


「よ、よろしいのですじゃ!?」


「はい。ボロボロになるまで使っていただいて構いません」



 無限収納へしまっておいた端材や丸太も取り出した。これで増築や修繕が出来ると思う。

 他の使用人の人達も、それを見て安堵の息を吐いた。


「何から何まで、ありがとうございます」


「まだありますよ」


 ノームの力で強固な台座を作ると、その上に金貨をどっさりと排出する。


 山のようにあった金貨の一部だけど、ロディオさんは目を見開いて口まで半開きにした。


「多分二十万枚くらいあります。移動先を探して屋敷を買っても良いですし、好きに使って下さい」


「アーク殿⋯⋯うぅ⋯⋯この御恩、生涯忘れる事はございません。姫様と一緒に、ラズ殿もしっかりと面倒を見させていただきますじゃ」


「よろしくお願い致します」



 僕がにっこり笑うと、ロディオさんも笑い返してくれた。


 魔族の人達が、次々に御礼の品を持ってきてくれる。魔術書や魔導具、オシャレな懐中時計ももらったよ。

 まだ魔術は基礎の段階だけど、そのうち使えるようになりたいなぁ。



「アークよ。妾からも礼を言うのじゃ⋯⋯これだけの資金があれば、ロディオ達の家族も引き取れよう。給金も出せるし、ゆっくり考える時間も作れそうじゃ」


「ライムお姉ちゃん。真面目な顔になってるよ?」


「こりゃすまん⋯⋯ん? 普段から真面目なのじゃ!」


「そうだね」


「雑! 妾の扱い雑ぅ!!」


 あはは。でも、本当に楽しかった。それに、ライムお姉ちゃんにはすっごく助けてもらったんだよね。

 心臓を貫かれた時は、流石に僕も死ぬかと思った⋯⋯それを救ってくれたのがライムお姉ちゃんだもん。とっても感謝しております。


「元気でね。ライムお姉ちゃん」


「どこか行くのかの?」


「うん」


「そ、そうか⋯⋯ちょっとだけ良いか?」


「?」


 ライムお姉ちゃんに抱き寄せられ、僕達は暫く何も話さなかった。ただお互いの存在を確かめ合うように、背中を撫でたり頬を擦り合わせる。



「落ち着く⋯⋯妾は可愛い弟が欲しかったのじゃ。また会えるのかの?」


「うん」


 きっと会えるよ。元気でね。お姉ちゃん⋯⋯



 最後はラズちゃんだ。もっと早く仲良くなりたかったよ。


 自然と近くに寄ると、ライムお姉ちゃん同様に抱き寄せられる。


「ご主人様。私、頑張るからね。もっともっと強くなって、アークちゃんを組み伏せられるようになるから」


「? 頑張ってね。でも無理は禁物だよ? 死なない事が大事です」


「うん」


「ッ!」


 これが自然だと言うような感じで、ラズちゃんの唇が重なってくる。


 柔らかい感触と、少し甘いような味がしたんだ。それは兎も角、なんだろう? 何かがギュンギュン吸われていく??

 あわわ⋯⋯力が抜けりゅうぅ⋯⋯



「はぁ⋯⋯ご馳走様。やっぱりアークちゃんは美味しいよ! ムーちゃんやビビとは比べられないくらいにね。アークちゃんがいない間は、ムーちゃん吸って我慢する」


「⋯⋯ほ、程々にしてあげてね⋯⋯」

「アーク、多分ラズもレア個体だ。男女関係ないとか普通有り得ない⋯⋯レア中のレアだな」



 ほぇぇ。ラズちゃんはユニークな魔物なんだ⋯⋯でも、僕にとってラズちゃんはラズちゃんでビビはビビだから、レアがどうとかってあまり大事ではないかな。



「ッ!! ビビ!」


「これは⋯⋯」


 僕とビビの体が透けてきた。


「アーク殿! それはいったい!」


「そろそろ時間みたいです⋯⋯」


「クルルウェ! クルルウェ!」


「ホロホロも元気でね」



 楽しかった。皆ありがとう。


 ビビの手を握ったのを最後に、僕は意識が遠くなるのを感じた。


 最後の瞬間、ラズちゃん泣いてたなぁ。






 七章のスローライフ⋯⋯きっと投げる方のスローだったんだ⋯⋯


 さ! 次は精霊編の後半戦スタートです(´>∀<`)


 アルフラから続く長い冒険の〆の章になります。感想沢山待ってます。

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