おじいさんとログハウスへ
誤字修正ヽ('ㅅ' ;ヽ三 ノ; 'ㅅ')ノ
名残惜しい気持ちはあったけれど、いつまでもそうしてたら時間が無くなっちゃう。
ティーナには更に更にサプライズ♪ 訓練予定表を追加で渡し、声にならない感謝をいただきました。
あの顔を見たら、もう色々と吹き飛んじゃったよ。
ありがとう。さよならティーナ。
デナートロスは、どこも人で溢れかえっている。
迷宮から流れて来た人が殆どだけど、戦える人達だからきっと避難くらいは楽勝だね。
魔族と交戦状態にあるこの状況下で、住民がこれだけ多く残っているのは凄いと思うんだ。
王様の信頼が厚いのと、住み慣れた街から動きたくない気持ちがあるからだと思う。
普通はもっと恐怖状態になると思うんだ。人間同士の戦争とは違って、陸上で兵士同士がぶつかる訳じゃない。
それこそいきなり城へ上空から攻めて来ると思うんだよ。
だから戦える人程、魔族に対してその危険性を理解しているとは思う。
後はお願いね。スカーレット様。
往来の多い通りを避け、屋根の上を飛ぶように走った。
ハルキバルさんはどうしようかな? 敵か味方かで言えば、多分味方だよね。
そうじゃないと、ライムお姉ちゃんがハルキバルさんに懐く訳がない。
でも今回は一応スルーしておこうかな⋯⋯僕の直感が、会ったら駄目だって言ってるんだよね。
貴族の服だけでも返したいけど、着替えてる時間も惜しいかなぁ⋯⋯それに、
「⋯⋯やっぱり見られてる」
ティーナと別れる少し前から、僕は何者かの視線を感じていた。
むぅ⋯⋯どうしようかな⋯⋯後ろを着いて来ているみたいなんだけど、僕をどうしたいと思ってるんだろう⋯⋯
王国の関係者の人なのかな? それにしては、ちょっと尾行が上手過ぎる気がした。
気配拡大感知に引っかからないし、きっと隠密能力に長けている人だと思うよ。
良し、行こう。
人の少ない場所を選び、城壁をサッと飛び越えた。
追われているのか監視されているのか⋯⋯どちらにせよ、極力人と関わるのは止めておきたいな⋯⋯だからちゃんとした出入口を使う訳にもいかないと思ったんだ。
街の外へ出てから、森の中を大きく迂回しながら街道へ出る。
「⋯⋯まだ⋯⋯見られてる⋯⋯」
どうしようかなぁ。まだ着いて来ているみたいだし、家に帰りたいけど場所を教えたくない。
僕はもう一度森の中へと戻り、家がある方向とは真逆に走った。
⋯⋯着いて来てる⋯⋯
あまり時間が無いから早く何とかしたいな。
「ま、待て! 待つのじゃ!!」
「え?」
普通に向こうから話しかけて来るとは思わなかった! 敵じゃないって事かな?
結構深い森の中まで入って来たんだ。もし戦闘になったとしても、街に被害が出ないようにね。
僕は声のした方へ注意を向ける。森の暗がりから現れたのは、四本角の魔族だった。
敵なのかな? 執事服の上に、急所を守るプレートをつけたおじいさんだね⋯⋯
「ぐ⋯⋯も、もう走れぬ⋯⋯小僧だと舐めておったわ」
「⋯⋯おじいさん“達”は僕の敵なの?」
「ふっ⋯⋯バレておったか」
おじいさんが手を振ると、周りから沢山の魔族の人が現れた。
全員が使用人の格好をしていて、手にはそれぞれが武器を所持している。
この人達、何で気配を感じないんだろう? 何かの魔術か魔導具だと思うんだけど⋯⋯
「城から出て来た小僧じゃ。それにさっき見せた身のこなし⋯⋯もしかしたら勇者かもしれん! 皆、油断するでないぞ!」
『はい!!』
⋯⋯確かに僕はお城から出て来たよ? でも⋯⋯
「僕は勇者じゃないよ? おじいさん達は何?」
「多少の怪我は構わん!」
「⋯⋯」
聞いてくれないのかぁ⋯⋯あぁ、時間が無いってのに⋯⋯
太陽の傾きからして、今は三時のおやつタイム。さっきケーキを食べちゃったから、おやつは別に⋯⋯いや、おやつは別腹だね!
向こうはやる気みたいだし、早く片付けて家に帰りたいよ。
収納から“朧の夜桜”を取り出して、親指で鯉口を切る。
魔族にだって色々な人がいるんだ。出来れば斬りたくないな⋯⋯人と同じように考えて、同じように笑い合えるのだから。
ならどうするか。
「おじいさん達、戦いを生業にしている訳じゃないよね?」
「⋯⋯」
おじいさんは僕の質問に答えず、じりじりとにじり寄ってくる。
あれは普通のロングソードだね。一応ミスリルが入ってるっぽいけど、僕の持つ魔刀とじゃ比べるまでもない⋯⋯
でも油断は出来ないかな。材質は鋼に見えて、魔力も感じないのに伝説の剣って事もあるんだから。父様の剣みたいに⋯⋯
「気配が感じられないので、飛びかかられたら手加減が出来ないかもしれませんよ? 僕は斬りたくないです⋯⋯」
それでもやめようとしない人達を見て、僕は眉を寄せた。
仕方ない⋯⋯
「“ファイアボール”」
「ッ!! そんな子供騙し!」
おじいさんはそう言ったけれど、僕はイフリンと契約してるんだ。
それに、僕の魔法スキルは、自然の力が練り込まれている。普通より何倍も威力が違うし、直撃すればただじゃ済まない。
ファイアボールを上空に放ち、直ぐに大爆発させた。
「ぐっ、な、何だと!」
「自爆したの?」
「まさか⋯⋯そんな!?」
おじいさん達は、僕がさっきまでいた場所へ集まって来る。そしてその中心部には、大きな穴が開いていた。
僕が咄嗟にノームの力で掘った穴だね。
逃げられたと思ったのか、おじいさんは悔しそうな顔になる。
逃げても良いんだけど、もう終わらせようかな。
僕はファイアボールを目眩しにして、ノームで穴を掘ってから上空に逃げていた。
サッとおじいさんの横に降りると、その首筋に刃を当てる。
「なっ! いつの間に!」
「これでもう終わりに──」
「ええい! 何をしておる! 儂に気にせず小僧をやれ!」
そんな⋯⋯おじいさんはこの人達のリーダーだと思ったんだ。だから捕らえたのに、これでも止めないって言うの?
緊張しながら見守っていると、使用人達は武器を次々に手放していく。
良かった⋯⋯やっぱり傷つけたくないんだよね。さぁ、この後どうしようかな。
「お前達⋯⋯どうしてだ! 儂の事など捨て置けば良いものを⋯⋯最優先すべきは姫様なるぞ!」
「しかし! 私にはロディオ様を切り捨てる事など出来ません!」
「私にも出来ません!」
「ロディオ様が死ねば、姫様だって悲しみますぞ!」
「その姫様を助けるためじゃないか! くっ⋯⋯無念じゃ⋯⋯」
「⋯⋯」
姫様? 魔族の姫様って言ったら、僕は一人しか知らないよ。
「もしかして、貴方達はライムローゼ様の使用人の方ですか?」
「!!? や、やはり知っていたか!! 姫様は城の何処に捕らえられているのじゃ!?」
「⋯⋯その前に確認したいです。貴方達は、人間に“神光砲”という兵器開発をさせている派閥の人達ですか?」
「⋯⋯何処でその情報を⋯⋯」
「ライムローゼ様の影武者さんから聞きました」
「⋯⋯神光砲に関わっているのは、姫様の兄君にあたるお方じゃ。姫様はそんな兵器開発に携わっておらん⋯⋯儂らは姫様直属の使用人で、人間から助け出すために潜入していたのじゃ」
助け出す? ライムお姉ちゃんの影武者さんは、確かに軟禁されていると言えるよね。
色々詳しく話を聞きたいところだけど、それは後回しにしようか。この人達はライムお姉ちゃんに会わせても大丈夫そうだと思うから⋯⋯
「僕は城の人間ではありません。ライムローゼ様と同じように、お城へ軟禁されたので逃げて来ました」
「な、ではやはり城に姫様が⋯⋯」
「いえ、影武者さんは確かにお城にいますが、ライムローゼ様は僕が保護していますよ」
「はぁ?」
刀を鞘に戻して収納へしまう。もう普通にお話が出来そうだね。
「冒険者ギルドの⋯⋯えーと、ハルキバルさんにお願いされて、ライムローゼ様は僕が保護しております」
「な、なんと⋯⋯」
おじいさんは緊張が解け、地面にドサッと腰を下ろした。
僕も脅すような真似は好きじゃないから、あんまりこういう事もしたくない。
「とんだ非礼を⋯⋯許してほしい」
「気にしてません。全員空は飛べますか?」
「勿論⋯⋯と、言いたいところじゃが、飛べるのは半数以下じゃの」
半数以下⋯⋯それでも凄いとは思うけどね。
全体の人数は、全部で二十人くらいいるかな? そうなると⋯⋯
「案内したいと思うのですが、ちょっと遠いんです。走って行きますか?」
「姫様の無事を確かめるのが先じゃ。サイモン、ヴィオレだけ連れて行く。残りは待機じゃ。頼んだぞトゥメス」
「ハッ!」
*
ゆっくり飛ぶこと三十分。やっと家の近くまで帰って来れた。
何となく家を自慢したくなったので、滝の裏側の洞窟から行く事にする。
秘密基地っぽくて好きなんだよね。
奥の階段を上ると、一面の花畑⋯⋯いや、巨大な鳥さんだらけになっている。
魔族の人達は、違う意味でびっくりしているみたいだね。
「ここに姫様が?」
「はい。奥に家があるんです」
「なんと⋯⋯」
鳥さんったら、バッサバッサとお祭り騒ぎになっている。そんな中、一羽の鳥さんと目が合った。
まずい!
「クル──ッ!!」
「えい!」
ふぅ⋯⋯鳴かれて全員にバレる前に、鳥さんの口にヘイズスパイダーの足を突っ込んだ⋯⋯
暫く呆然と僕を見ていた鳥さんは、ハッと我に返って食べ始める。
ここで一羽に鳴かれると、あっという間に囲まれちゃうからね。可愛がる時は良いんだけど、今はお客さんを案内してるところだから。
その後も目が合った鳥さんには、次々と足を突っ込んでいく。何でかわからないけど、足を突っ込まれた瞬間は呆然とした顔になるらしい。
暫く歩くと、少し立派なログハウスが現れた。
ティーナが素人建築を手直ししてくれたから、普通の民家よりも豪華に見えるんだ。
「あ、あそこにライムローゼ様が──」
いるよ? って言おうとしたんだけど、どうも様子がおかしい。
「えへ、えへへ、ホロホロ様。こちら御所望の大芋虫でございます」
ライムお姉ちゃんが、手もみをしながらホロホロに近づいて行く。いったい何をしているのかな?
「クルルウェ!」
「それは差し上げます! ですから、どうか⋯⋯どうか妾に、その羽毛に触る権利を!」
「クルルウェ⋯⋯」
「ありがとうなのじゃ!」
え? 会話してるの?
「クルルルル〜」
「じゃあちょっと触らせてもら──ッ!! 痛い! 何故突っつくのじゃ!?」
「クルルウェ! クルルウェ!」
「「「クルルウェ!」」」
「や、やめるのじゃ!? 大芋虫をやったではないか! 何が不満じゃと言うのじゃ!」
⋯⋯すっごく突っつかれている⋯⋯痛そうだなぁ。
魔族の人達は、そんなライムお姉ちゃんを見て固まっている。
確かにお姫様の姿とは程遠いよね。
「良かった⋯⋯元気にしておられる⋯⋯」
「どういう事ですか?」
おじいさんは、感極まったように目頭を押さえていた。
元気は元気だけど、今絶賛突っつかれ中だよ? 良いのかな?
「アーク、もう戻ったのか?」
「アークちゃんだ! おかえり〜」
「ただいまビビ。ラズちゃん。ちょっと色々あってね」
「ふむ⋯⋯」
「色々?」
ビビがメイド服で歩いてきた。ラズちゃんも赤いメイド服だね。すっごく嬉しそうな顔をして、僕に小さく手を振ってくる。
「中で話そう。おじいさん達も疲れましたよね? 中で紅茶でも飲みながらお話しましょう」
「助かります。アーク殿⋯⋯それと、姫様を保護していただき、感謝してもしきれません。ありがとうございました」
「えへ、えへへ、ホロホロ様。こちら御所望の大芋虫でございます」
ライムお姉ちゃんが、手もみをしながらホロホロに近づいて行く。いったい何をしているのかな?
「クルルウェ!」 (ほほぅ⋯⋯これは見事な逸品だな)
「それは差し上げます! ですから、どうか⋯⋯どうか妾に、その羽毛に触る権利を!」
「クルルウェ⋯⋯」 (ふむ。考えておこう)
「ありがとうなのじゃ!」
「クルルルル〜」 (その調子で精進するんだな。だがな、覚えておくと良い。お前はまだアーク様の下僕としては最下位だ。下僕の中の下僕⋯⋯キングオブ下僕なのだ)
「じゃあちょっと触らせてもら──ッ!! 痛い! 何故突っつくのじゃ!?」
「クルルウェ! クルルウェ!」 (くっ! 不届き者をつまみ出せ!)
「「「クルルウェ!」」」 (へいボス!)




