四人の勇者
今大事な場面を書いているので、筆が遅くてすみません。
*
side スカーレット
楽しかったな。出来ればアークともっとお話しをしたかった。
アークはベランダから飛び上がると、一度こちらへ向いて会釈をする。私が小さく手を振ると、当たり前のように振り返してくれた。
でも、それは無理な話しだよね。私に残された時間は残り少ないのだから。
「まったく⋯⋯勝手な事をしてもらっては困るな⋯⋯何故アークを帰したんだ」
部屋の隅が歪み、一人の男が顔を出す。
「アークは良い子ですね。黒狐様」
「⋯⋯アークには、もっと勇者と関わらせたかったのだが⋯⋯何故城から出した?」
「神の消失に関わった可能性の高い四人の勇者ですか⋯⋯」
「そうだ。あの四人のうちの誰かが、女神様を地の底へ捕らえている。アークにはそれを見極めてもらわねばならんのだ」
「⋯⋯」
随分と勝手ですよね。あんな小さな子供に、どれだけの期待と重圧をかける気なのよ⋯⋯
アークに大人の都合を押し付けないで欲しい⋯⋯未来がどうとか知らないけど、私から見たあの子はとても純粋で良い子だった。
「お願いします。アークにもっと猶予を与えて下さい⋯⋯心の強い子ですが、あの子は人間なのですよ」
「⋯⋯」
私に言い返されると思っていなかったのか、黒狐様が面食らったような顔をする。
「確かにアークは急速に強くなります。迷宮へ入る前と後では、雰囲気ががらりと変わりました。それでもやっぱりまだ子供です。もう少し猶予があっても⋯⋯」
「そうも言ってられないんだ⋯⋯だが、善処しよう」
「⋯⋯ありがとうございます」
この戦いで私は死に、残り四人の勇者はバラバラになるらしい⋯⋯黒狐様はそう言ったけど、私には信じられなかった。
私が死ぬ事が信じられないのではなく、何て言えば良いのか⋯⋯実感が湧かないんだよね。
バラバラになった勇者達の誰かが、女神様を捕らえてしまう。そしてその女神様の近くには、知恵のある者が辿り着けない特殊な結界が施されてしまうんだとか。
過去を司る黒狐様は、間違いなく最強の神獣と言えると思う。そんな力を警戒した何者かは、黒狐様対策として重要な過去にはフィルターをかけてしまった。
あの四人にそこまでの事が出来るとは思えない。きっと魔族か何かに協力者がいる筈なんだよね⋯⋯
「何か望みはあるか? 出来うる限りの事はしたいと思うのだが⋯⋯」
私の望み⋯⋯それは⋯⋯
「いえ、もう一度弟に会いたいとは思いますが、会えば未練になってしまいそうなので⋯⋯」
「そう⋯⋯か⋯⋯」
「⋯⋯レフティスワルキューレと、ジェノシスライトはどうです?」
「アークはまだジェノシスライトを使っていないな。吸血鬼のビビはレフティスワルキューレを使用したが、ただ魔力効率の良い武器だと勘違いしている」
「神の神器がその程度の扱いなんですね⋯⋯」
「あれは魔法や魔術を増幅する力があるが、アークはまだ土台となる部分が弱い。高威力の魔法や魔術を覚えなければ、宝の持ち腐れになってしまうな」
黒狐様が右手を振ると、アークの戦闘映像が浮かび上がる。
これは、もしかしてアークの過去? 黒い鎧の兵士⋯⋯フォレストガバリティウスと? スタンピード⋯⋯そんな、どれも死にかけている⋯⋯
私の想像を遥かに超える修羅場を、あの小さな体で乗り越えて来たんだ。
そう思ったら、不意に涙が溢れてしまった。
どんなに辛かっただろう⋯⋯どんなに苦しかっただろう⋯⋯神の加護も無いのに、どうしてここまで頑張れるの?
全身傷だらけじゃないの⋯⋯穴だらけにもなって、あっちも⋯⋯あれも⋯⋯
「すまない⋯⋯そんなつもりで見せた訳じゃないんだが⋯⋯」
「⋯⋯」
黒狐様がもう一度手を振ると、アークにとっての過去の映像が消えた。
「現在、いや⋯⋯スカーレットにとっては未来だな。今は魔王の力も衰え、敵派閥はユシウスと言う六本角の魔族が統べている。そしてその上にいる人物こそが、四人の勇者のうちの一人だと考えられるのだ⋯⋯」
「何故⋯⋯そんな事に⋯⋯」
「わからん。が、心当たりが無い訳ではない⋯⋯憶測だが⋯⋯」
「それは?」
「すまんが話せる事では無いんだよ⋯⋯」
私には話せないのね。部外者になるからだとは思うけど、もしかしたら?
*
side アーク
優しそうな人だったね。スカーレット様。
元の世界に戻ったら、また友達になってくれるかな? 真子ちゃんに聞いてみれば、紹介してくれるかもしれない。
それはそうと時間が無いよ! あわわ⋯⋯急がなくっちゃ!
気配拡大感知スキルを使うと、露店市場の方にティーナの気配を発見する。
城の周りをグルっと回り、僕は急いでティーナへ向かってダイブした。
「ティーナーー!!」
「え、アーク!?」
ティーナは両手を広げてキャッチしてくれる。これが最後になるのかと思うと、抱き着いたまま離れる気にもならない。
いきなり空から現れたから、周りにいた市場の人達が驚いているね。
「どしたべ? アーク。甘えてくれるのは嬉しいけんど、これじゃ買い物が出来ねぇべ?」
「ティーナ。僕は、ティーナと迷宮の探検を出来て楽しかったよ。本当なら、ティーナが次に向かう迷宮にも行きたい⋯⋯だけど、僕には帰らなきゃいけない場所があるんだ」
「⋯⋯そっが。それは遠いだべか?」
「うん。すっごく遠い⋯⋯」
「じゃあ暫く会えねーんだべな」
「うん⋯⋯」
地面に降りてティーナの手を引っ張っると、何も言わずに着いて来てくれた。
誰もいない裏路地に入り、振り返ってティーナの顔を見る。
「ティーナ。今日の夕方までにデナートロスを出て欲しいんだ」
「な、何でだべ? 今日は宿が決まってるし、じいちゃも出発は明日だと言ってただでよ」
「それじゃ遅いんだよ。夜には魔族が攻めて来るらしいからさ⋯⋯」
「ええぇぇえ!!! それは大変でねーべか! す、直ぐにじいちゃにも伝えるべ!」
良かった。これでティーナはもう大丈夫だよね。
ティーナは急いで踵を返そうとしたけど、ハッとした顔で僕に振り返る。
「アークはどうするだ? まさか残る気だべか?」
「ううん。僕もデナートロスを出るよ」
「そっが⋯⋯じゃあこれで暫くお別れなんだべな」
お別れ⋯⋯そうだね。もう会えないかもしれないね⋯⋯
僕、別れって本当に苦手だなぁ。でも我慢しなくちゃ⋯⋯今度こそ笑顔で別れたいよ。
「うん。ティーナとの冒険は楽しかったよ。ありがとう」
「わだすだって⋯⋯楽しかったべ⋯⋯」
ティーナは拳を握り込むと、自分の胸の前に持って来た。
「迷宮での戦闘、美味しい食事、どうしたら強ぐなれっか⋯⋯わだすは全部アークに教えてもらっただ。感謝してもしきれねーべ」
「ティーナ⋯⋯」
「だがらこれだけは言わせてぐれ」
いつもとは違う雰囲気で、ティーナが見事な敬礼をする。
「本当にお世話になりました! アーク隊長殿! 必ず魔導飛行艇も完成させるだで、またいつか!」
「うん。またいつか」
僕もティーナに合わせて敬礼を返す。それを見たティーナが、格好を崩して僕の頭を撫でた。
「訓練も続けるだべよ。次に会った時は、アークに着いて行けるようになってるだ」
「そっか。じゃあそんなティーナにプレゼントをあげるね」
「プレゼント?」
前々から用意だけしてたんだ。きっとティーナは喜んでくれると思う。
「こ、これは⋯⋯」
「ティーナの新しい訓練予定表だよ」
「⋯⋯」
ふふふ⋯⋯良かった。声にならない程喜んでくれてるね。
「⋯⋯返すべ⋯⋯」
「ん?」
「あ、有り難くいただくべよ!」
「うん!」
「⋯⋯も、もらっちまっただべよ⋯⋯」
これでティーナも強くなる。僕がいなくてもきっと大丈夫⋯⋯
でも⋯⋯やっぱり我慢出来なかった。ティーナにギュッと抱き着いて、僕はこっそりと涙を拭う。
「ありがとうティーナ」
「こちらこそだべ⋯⋯」
「もう何も無い場所で転ばないでね? お風呂で眠って溺れないで? 干し肉とお酒ばっかりは駄目だからね? 道具の整理中に爆弾起動しないでね? トイレでスカートをパンツに引っかけたまま気が付かないのも駄目だよ? 直ぐソースを服に落とすのは気をつけて? 中々落ちないんだから。それに──」
「ちょっと待つだべ! 何も言い返せないべよ!」
言いたい事は言えたかな⋯⋯もう僕は大丈夫。
「元気でね。ティーナ」
「今ごっそりライフが削られたべ?」
その時、何処かから僕を見る視線を感じた。
「どうかしたべか?」
「ううん。何でもない⋯⋯ガジモンさんにもよろしくね」
「必ずまた会おうな。アーク隊長殿」
「うん! またね! ティーナ見習い兵殿!」
「わだす⋯⋯まだ見習いだっただべか⋯⋯」
やっと敵の輪郭が見えてきたような⋯⋯ヽ('ㅅ' ;ヽ三 ノ; 'ㅅ')ノ
デタラメな冒険譚⋯⋯完結は絶対100万文字超えてしまいますね(;`ω´)ゴクリ
既に75万文字です:(;゛゜'ω゜'):やばす
日常、ほんわか、まったり、イチャイチャでしたら、何百万文字でも書けます。
さて、これから過去編の〆に向かってひた走りますね!
頑張ります(´;ω;`)
応援よろしくお願い致します(っ ॑꒳ ॑c)
感想待ってます(´>∀<`)




