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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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敵? 味方? 穏健派? 強硬派?





 ライムお姉ちゃんの影武者さんは、ベランダに紅茶とクッキーを持って来てくれた。

 白い丸テーブルがあり、僕に椅子を勧めてくる。


 紅茶とクッキーの甘い香りが、モヤモヤしていた気持ちを落ち着かせてくれた。



「ありがとうございます」


「いえ⋯⋯それよりも貴方の事を教えて下さい」


「僕はアークです。貴方はライムお姉ちゃんの⋯⋯」


「ええ、そうです」


 彼女が額に手を伸ばすと、小さな角が二本だけになる。

 直ぐにまた六本の角に戻したけど、多分魔導具を使っているんだね。



「アーク様はライムローゼ様に会ったのですか?」


「僕の事はアークで構いません。ライムお姉ちゃんには会いましたよ。えーと」


「すみませんがわたくしの事はライムローゼでお願い致します。何処で誰が聞いてしまうのかわかりませんので。アークさん」


 影武者さんが小さく微笑みを浮べる。


 確かにこのお城の中じゃ何をされるかわからないもんね⋯⋯それにしても、本当にお姫様みたいだよ。


 僕は積まれたクッキーに手を伸ばし、三枚掴んで口に入れる。


 サクサクしてて美味しいね。口の中が幸せでいっぱいです。



「なるべく早くこの国から離れて下さいまし」


「え?」


「もう直ぐ、ここは戦場になるでしょう」


 まずは軽く雑談でもするのかと思ったけど、いきなりそんな話をされるなんて⋯⋯



「ハルキバルさんから聞いています。ライムローゼ様は、人間と仲良くしたくない人から狙われていると」


「⋯⋯それは正確な情報ではありませんわ」


「どういう事ですか?」


影武者(わたくし)を狙っているのは、確かに貴方達の言う強硬派の人達です。しかし、それにはやむを得ない事情があるのですよ」


「やむを得ない事情⋯⋯」


「強硬派の人達は、(わたくし)を助け出そうとしているのです。ついでだと思いますが、決して敵ではございません」


「人間と敵対している派閥がライムローゼ様を助ける?」



 それって、ライムローゼ様は人間の敵って事なの? そんな風には見えなかったんだけど⋯⋯


「誤解なきように言っておきますが、(わたくし)は貴方が嫌いではありません。ですが、種族全体としては好きにはなれないのです。人間が愚かな(おこな)いをすると言うのであれば、それを全力で叩き潰す事が我々の使命なのです」


 叩き潰すって殺すって事?


 どうしたらいいのか困っていると、ライムローゼ様が優しく微笑む。


「場合によっては殺す事もありますね。じゃないと人間は、とんでもない物を生み出したりしますから」


「とんでもない物とは何でしょうか」



「貴方には教えておいた方が良さそうですね⋯⋯この城では、秘密裏に“神光砲”と呼ばれる強力な魔導兵器の開発が進んでいます。もしそれが完成してしまえば、多くの命が失われる事になるでしょう」



 真剣な表情のライムローゼ様を見て、只事ではないのだという事が理解出来た。


 兵器開発? 神光砲って大それた名前だね。魔族の強硬派は、その開発を止めるべく動いてるって事? ライムローゼ様は、本当は穏健派の魔族ではない?



「穏健派と呼ばれている魔族は、人間を利用しているだけなのですよ。力を与えれば、魔王様はそれに対処しなければいけなくなります。もし神光砲が完成してしまえば、その光は魔王様ですら焼き滅ぼすでしょう」


「そんなに強い兵器なのですか」


「強いだけなら放置すると思います。問題は、それを発動させるためのエネルギーです」


「エネルギー?」


「はい。この大気中には、様々な力が存在します。魔力だけじゃないんですよ?」


 それはわかる。昔は魔力すらも感じる事が出来なかったけど、今では魔力以外にも自然に流れる力を感じる事が出来るんだ。


「大気を満たす様々な力は、この星の命と言っても過言ではないのです。その力があるからこそ、我々は生きていく事が出来るのですよ」


「⋯⋯そうなのですか。でも確かにそうかもしれません。大気中に溢れる魔力や自然の気は、生物の体に入って蓄えられますもんね」



「神光砲は、その大気中にある様々な力を根こそぎ吸収してしまいます。その威力は想像する事すら難しい⋯⋯」


「根こそぎですか?」


「ええ」


 僕には難しい事はわからない⋯⋯でも、それはとってもまずい気がしたんだ。


 このデナートロスは、その神光砲を使ったから将来砂漠になっちゃったんじゃないかな?


 話が色々わかってきた。⋯⋯かも?

 魔王はそれを阻止するために、この国へ攻めて来ようとしてるって事?

 穏健派と呼ばれる魔族は、人の欲につけ込んで破滅を(もたら)そうとしている⋯⋯?


 ライムローゼ様は、本当は強硬派? いや、強硬派って言ってるのは人間で、別に侵略の意図がある訳ではないんだね。


 ん? ん? んん〜⋯⋯難しい⋯⋯難し過ぎてオレンジジュースが飲みたい。


 良し、単純に考えよう。


 えーと、強硬派と呼ばれる魔族は、魔王のいる勢力なんだよね。魔王は手段を選ばないけど、世界のために頑張ってるって事なんだ。


 穏健派は、魔王と敵対している訳なんだ。だから魔王を滅ぼすために、人間に擦り寄ってる感じなのかな⋯⋯



「何でライムローゼ様は、穏健派の旗頭にされているのですか?」


「それは誰が言ったのかしら?」


「ハルキバルさんです」


「そう⋯⋯あのSランク冒険者が⋯⋯」


 今思えば、魔族の事はハルキバルさんから聞いた情報でしかないんだ。

 それに魔族は悪い人達なんだって、色んな絵本に沢山書いてある⋯⋯だから魔族って聞くと、最初に悪いイメージばかり浮かんで来るんだね。


 正確な情報が知りたい⋯⋯こんな状態じゃ、もし今魔族に襲われたら僕は戦えないかもしれないよ。



 ライムお姉ちゃんが、絵本通りの邪悪な存在に見える? そんな事、これっぽっちもなかったよ。



「勇者様達は、今の情報を知っているのですか?」


「わからないわ⋯⋯」



 んん⋯⋯皆がどんな情報を持っているのかわからない。ハルキバルさんは僕にとって敵? 味方?

 王様は神光砲の事を全て知っているのかな?


 誰が味方で誰が敵なのか⋯⋯勿論神光砲が完成してしまうのは避けたい。強引に魔族が攻めてきて、罪も無い人が巻き込まれるのも嫌だ。



「⋯⋯魔王⋯⋯様と、話がしてみたいですね」

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