ヨコチンさん達との別れ
宿の食堂で兵士さんに招待状を渡される。兵士さんは用事が済むと、踵を返して帰っていった。
それにしても、見た目からして豪華な招待状だなぁ⋯⋯迷宮を攻略すれば、国からお金を貰えるってハルキバルさんが言ってたっけ。
でもいきなり過ぎてびっくりです。あぁ、どうしよう⋯⋯また貴族街で服を作った方が良いよね? イグラムで使った衣装だと、時代的に浮いちゃいそうな気がするんだ。
今日はビビとラズちゃんとライムローゼ様を、鳥さん達が何故か増える隠れ家に連れて行こう。それから僕だけ戻って来て、ガジモンさん達とデナートロスへ出発する。
向こうに着いたらハルキバルさんにライムローゼ様の事を報告しなくちゃだね。
うん。やる事がいっぱいだ。
黒狐様に支持されている訳じゃないから、別にこの世界の人に合わせる必要は無いのかもしれない。
別にお城へ行かなくても⋯⋯
──ピカ!
頭上が光ったと思ったら、紙がふわりと落ちて来る。
黒狐様の指示かな? えーと、
《城へ行け》
「ッ!!!」
黒狐様は僕の心の中を読んだのかな? も、元々ちゃんと行くつもりだったんだよ? 嘘じゃないもん。
*
はい、という訳で、
「皆ただいま!」
「クルルウェ! クルルウェ! クルルウェ!」
「クルルウェーーーーーイ!」
「フゥーワフゥーワクルルウェーイ!」
「ホーー⋯⋯ホケキョ!」
「フーワッフーワッフーワッフーワックルッルウェーーイ!!!」
「クルルウェッヘッヘッヘッヘ」
「おーよしよしよしよし! 元気にしてた? 昨日ぶりだけど会いたかったぁ!」
もっふもっふと鳥さん達を撫で回す。
あ〜気持ち良い⋯⋯最高のもふみがここにある!
ラズちゃんも大喜びで鳥さん達を抱きしめている。あら? ライムローゼ様が喧嘩を売られてる?
「くぅ⋯⋯なんだその舐め腐った目は! 妾を高貴な魔族の姫と知っての所業か!」
「クックックックッ⋯⋯」
「クルルウェ〜〜〜イ」
「プークスクスクルルウェ〜イ」
「⋯⋯こ、このー! もう許さん! 成敗してくれるわ──あ、あた、あ痛たたた⋯⋯痛い、痛い、痛いやめて〜! 突っつかないで! お、お願いだから! お願い⋯⋯謝るぅ〜謝るからぁ! 何でもします。ごめんなさいぃ」
「「「⋯⋯」」」
ライムローゼ様⋯⋯んーん⋯⋯ライムお姉ちゃんは、もう鳥さん達には逆らえないだろうね。
「ビビ、僕三日くらい帰らないから、二人の事よろしくね」
「私は着いて行かなくても良いのか?」
「んー⋯⋯だってラズちゃんとライムお姉ちゃんを放置は怖過ぎる」
「⋯⋯確かに」
ビビに必要な物を余分に渡しておこう。僕の血も沢山ビビに預けて、遠慮なく使うように言う。
「もう行っちゃうの?」
ラズちゃんの尻尾が、僕の右手の小指に絡んで少し引っ張ってきた。
背中で腕を組み、上目遣いで僕の顔を見てくる。
「少しの間大人しくしててね。ビビを困らせちゃ駄目だよ?」
「はーい。良い子にしてまーす」
ラズちゃんが凄く上機嫌なのは、知らない物を沢山見て楽しいからかも。
ライムお姉ちゃんもビビも、そんなラズちゃんの質問にちゃんと答えてあげている。
僕は気兼ねなく家を空ける事が出来そうだ。
*
迷宮に戻ると、入り口の外に様々な物が運び出されていた。滑車を複数繋げて使い、重そうな物も張られたロープから運んでいるよ。
酒場にいた踊り子のお姉さん達が、村娘のような格好をしていた。店主さんもいたので、一応頭を下げでおく。
ティーナは何処かなー? まだ迷宮の中なのかな?
「おい、お前」
僕を呼び止めたのはヨコチンさんだった。何をするのかと思えば、いきなり頭を下げられる。
「すまなかった」
「え?」
ヨコチンさんは頭をボリボリと掻くと、真剣に僕を見つめてくる。きっと迷宮での事だよね。
「仲間に言われたんだよ。お前がいなかったらまずかったって⋯⋯だからよ⋯⋯ありがとう」
まさか御礼を言われるとは⋯⋯ヨコチンさんのキャラじゃない気がするけど、ちゃかして良い感じじゃない。
「いえ、助けられて良かったです」
「⋯⋯これは借りだ。何かあれば言ってくれ」
「わかりました」
「俺にも⋯⋯子供が出来たんだとよ⋯⋯」
「え?」
「⋯⋯何でもねえさ」
最後は声が小さくて聞こえなかった。ただ、少し気恥しい感じだったような?
ヨコチンさんが去り、後ろから来ていた三人にも深々と頭を下げられた。
「兄貴を救ってくれてありがとう⋯⋯最大の感謝を」
「本当にありがとう⋯⋯」
「⋯⋯助けられて良かったです。お元気で」
僕がそう言うと、男性のうちの一人が仮面を外したんだ。迷宮で最後に倒したゾンビのように、その顔は悲惨な事になっている。
「貴方には顔を見せたいと思いました。本当にありがとう⋯⋯」
「いーえ」
顔が奇形しちゃってるんだね。だから普段から仮面で顔を隠しているんだ。
んー⋯⋯
「あの、余計なお世話かもしれません⋯⋯気分を悪くされるかもしれないのですが⋯⋯」
「何でも仰ってくれて構いませんよ」
にこやかに笑う顔を見て、僕は教える事に決めたよ。
「ケットシーには変身の魔術が伝わっているそうです。ケットシーならば、その顔もどうにか出来るでしょう」
「ッ!! そ、それは本当ですか!?」
「はい。人伝に聞いた話になりますが、一度伺ってみると良いかもしれません」
「あ、ありがとうございます⋯⋯ありがとうございます!」
良かった⋯⋯余計なお世話だって怒られなくて。
きっとコンプレックスだから隠しているんだよね⋯⋯地雷を踏みそうで怖かったけど、喜んでもらえてホッとしたよ。
名前もわからないけど、僕はこの三人が好きだなぁ。
去る背中を見つめながら、僕はそんな事を思った。
ティーナとも別れが迫っているんだね。ガジモンさんとも⋯⋯
出会いがあれば別れもある。当たり前の事なんだ⋯⋯ただ、やっぱり悲しいなぁ。
⋯⋯元気出して頑張ろう! さてと、ティーナを探さなくちゃ。




