爺やに怒られるぅ〜!!
ライムローゼ様の話だと、最後に乗ろうと思ってた魔法陣は外へと繋がっているらしい。だからビビにヨコチンさんを回収してきてもらったんだ。
ビビしかヨコチンさんを嵌め込んだ場所を知らないからね。
──ゴゴゴォゴゴゴゴ⋯⋯
「えッ!! 壁が崩れ始めたよ!」
「ふっふっふ⋯⋯慌てるでない。コアを失った迷宮は、最下層から崩落を始める。完全に消滅するのには、まだ三時間程の──のッ!」
「ッ!」
ライムローゼ様が余裕そうな顔で穴に落ちかける。
これは何の穴!?
「た、たたた助かったのじゃ⋯⋯もう少しで異次元に呑まれるところじゃったわ」
僕は泣きそうな顔のライムローゼ様を引っ張り上げた。
危ない危ない⋯⋯咄嗟に手を掴んで良かったよ。さっきの言葉が最後になるなんて可哀想過ぎる。
ライムローゼ様は滝のような汗を流しながら、顔を真っ青にしている。
「ライムローゼ様はおっちょこちょい?」
「そ、そんな事ある訳がな、な、なかろう? わ、妾は魔族の姫なるぞ? おっちょこちょいな姫なぞおらん」
「そうかなぁ? んー、そうだよね」
床に空いた穴の先には、何かの大きな渦が見える⋯⋯あの先には何があるんだろう? ちょっと興味があるかなぁ。
「アーク。おっちょこちょいの二の舞いになる。さっさと行くぞ」
「ッ!!!」
「はーい」
気絶したヨコチンさんを魔法陣へ放り込み、ライムローゼ様とビビも中に入る。
「⋯⋯どうしたの? ラズちゃん」
「⋯⋯私、本当に着いて行っても良いの?」
「まだ不安?」
「⋯⋯」
ラズちゃんの手を引っ張って、僕達も魔法陣の中へと入った。
「大丈夫。きっと良い事が待ってるよ」
*
僕達は迷宮の外に飛ばされた。ピラミッドのちょうどてっぺんにいるみたいだね。
「ライムローゼ様。一応これ頭に巻いといて」
狙われてる身ではあるから、一応髪の毛だけでも隠しておかないと⋯⋯
「その、ライムローゼ様はやめるのじゃ⋯⋯会った時にお主が言ったであろう? お、お姉ちゃ──」
「ビビ、兵士さん達がいないね」
「そうだな。ピラミッドが光ってないか?」
確かに⋯⋯きっと迷宮が攻略されたからかな? 僕の見つめる先に、ライムローゼ様が割り込んできた。
「お姉ちゃ──」
「ここが外なのね! 空気が美味しい⋯⋯す〜はぁぁ」
「出て良かったでしょ? ラズちゃん」
「うん! もっと怖いと思っていたわ!」
良かったね。迷宮の下層より怖い所ってあまり無いと思うけどね。
微笑むラズちゃんの隣に、ライムローゼ様が走って来る。
「お姉──」
「ぐぅ! こ、ここは!?」
「ヨコチンさん」
「お前! ランキング一位のアーク!」
「気がついて良かったです。まずは迷宮の中に入りましょう」
「何がどうなって⋯⋯クソ、なんで口の中がソース味なんだ!?」
「あ、食べたんだ⋯⋯」
頭を痛そうに抱えて座り込むヨコチンさんに、僕は手を差し出した。
ヨコチンさんは僕の手を払い除けて立ち上がる。
混乱するのは仕方ないよ。まずは状況を確認させてあげよう。
「おね──」
「町にヨコチンさんの仲間がいると思います。まずは迷宮に入りましょう」
「お前に言われなくても中に入るわ! ふんっ!」
ヨコチンさんは迷宮の扉を触り、一人で先に行っちゃった。僕もガジモンさん達に報告しなくちゃいけないね。
「お──」
「熱い!」
「ラズちゃん!?」
ラズちゃんの右手が光輝くと、中指に指輪が現れた。
「テイム⋯⋯あれ? 良いの? ラズちゃん」
「え⋯⋯あ、うん。今ね、私もアークちゃんと一緒にいれたら良いなーって考えたんだ。そしたら右手が熱くなって⋯⋯」
恥ずかしそうに頬を染めるラズちゃん。仲間が増えてくれて嬉しいよ。
僕の指輪は少しデザインが変わったみたい? ラズちゃんと契約したからかな?
「私が先輩だぞ? ラズは私の言う事を聞かねばならない」
「そうなの? わかったわ」
ビビが何故かマウントを取りにいってる。僕は苦笑いしながら、ラズちゃんの事はビビに任せようと思った。
二人が扉に触れて迷宮の中へ入ると、ライムローゼ様が落ち込んでいるのが見えた。
「⋯⋯行くよ“お姉ちゃん”」
「ッ!!!」
ライムローゼ様は花が咲いたような笑顔になる。
「仕方ないな! 妾も着いて行ってやる! お姉ちゃんだからな!」
「うん」
「⋯⋯ふぇっ!? あ、あっつ! あ、熱い!」
え? 何が⋯⋯
「ふおぉぉわぁああ!!! テイムされてしまったのじゃあ!!!」
⋯⋯なんでえええええぇぇえええ!!!
ちょっと待ってね⋯⋯魔族をテイム!? えーと、意味がよくわからないけど、それって僕が悪いの?
ライムローゼ様の右手には、ビビとラズちゃんと同じ指輪が輝いている。
「なんでテイムされてるの?」
「こ、こんな事になるとは⋯⋯爺やに怒られるぅっ!! お主は何者じゃ!」
「僕はアークだよ」
「聞いた事ないのぅ⋯⋯そもそもテイムとは、両者の合意が無いと無理なんじゃ⋯⋯ただ、一つ例外はある」
ライムローゼ様は、額に生えた小さな角を押し込みながら考える。
あの角⋯⋯柔らかいのかな?
「普通、知性ある生き物をテイムする事は難しい⋯⋯しかしじゃ。お互いの合意があれば、高度な知性を持つ者ともテイムは可能。そしてもう一つ、存在の格の違いでテイムされる事もあるのじゃ」
そう言ったライムローゼ様は、頭をブンブンと横に振った。
「じゃが有り得ぬ! 妾は魔族の姫である! 魔術も沢山使って存在の力を高めてきたのじゃ! そんな妾より圧倒的に格上な存在など、両手で数える程しかおらぬ筈なんじゃあ!」
んー。よくわからない。難しい事は後にしよう。ビビ達が待ってる筈だからね。
「ちょ、ちょま! お主。まだ大事な話が!」
「行くよ。お姉ちゃん」
「うくぅ⋯⋯仕方ないのう。妾はお姉ちゃんだからな!」
迷宮の中に入ると、津波のような歓声が押し寄せてくる。
何事かと思ってびっくりしたよ。
「遅いぞアーク」
「ごめんビビ。これは?」
「わからん。とりあえず行くか」
まるで町の人達が沸騰したかのようなはしゃぎっぷりだ。
「迷宮攻略おめでとう!」
「これで報奨金が出る! ありがとー!!」
「ありがとうございます!!」
「道を開けてやれ!」
「さっさと荷造りを済ませるぞー!」
「ありがとう!」
「ありがとー!!」
そんな事を言われながら、僕達は転移所まで歩いた。
花吹雪が舞って、楽器の楽しげな演奏まで聞こえて来る。笑顔な人達を見ていると、僕まで楽しくなってきたよ。
「踊ろう! ビビ!」
「いや、まずは用事を済ませて──」
「面白そう! 私も踊るー!」
「妾も踊ってやるぞ!」
今日は濃い一日でした。本当に楽しかったよ。
ティーナには抱き着かれ、ガジモンさんにはお肉を沢山食べさせられる。
魔導具のお酒が湧き出る聖杯を使って、町中に浴びる程のお酒が振る舞われた。
一緒に戦ったドルトーニさん、ゼファルさん、アウグシィスさんともお話をしたんだ。
迷宮の一階層も、三日後には消えて無くなるんだって⋯⋯だから冒険者ギルドと国にお願いして、明日の朝と昼に隊列を組んでデナートロスへ向かうらしいよ。
デナートロス行きと、違う迷宮へ向かう隊にも分かれるみたいだね。僕達もデナートロスへ行く隊に着いて行く事になった。
でもライムローゼ様を連れて行くのは危ないかもしれないから、鳥さん達のいる秘密の場所へ匿ってからかな。
ヨコチンさんは、パーティーメンバーの三人に泣きつかれていたよ。何も事情を知らないからか、慌てている様子が見れたんだ。
あー楽しかった。
*
僕達四人は、迷宮の宿泊施設で一泊する。僕は直ぐに寝ちゃったんだけど、朝なのにビビが疲れた顔をしていた。
「どうしたの? 大丈夫? 寝れなかったの?」
「⋯⋯大丈夫」
部屋は少し豪華な四人部屋で、簡単な造りだけど結構広い。床には簀巻きにされたラズちゃんが転がっていて、気持ち良さそうに眠っている?
ライムローゼ様はお腹を出してイビキをかいているね。今のライムローゼ様はお姫様には見えないや⋯⋯眠るのに僕のパジャマを貸したんだよ。
足音が近づいて来て、宿の人がノックをする。
「アーク様。王国の兵士の方が見えてます。下の食堂で待機してもらってるのですが、如何いたしましょうか?」
兵士さんが僕に? 何の用だろう。
「直ぐに行きます」
「ではそのように」
この部屋の中を今見せる訳にはいかない。僕は直ぐ着替えて、ドアノブへ手をかけた。
「ちょっと行って来るね」
「何かあれば呼んで」
「うん」
部屋を出て階下に下りると、髭を生やした立派な鎧の人がいた。あの人が兵士さんかな?
「貴殿がアークかね?」
「はい」
「ほぅ⋯⋯確かに普通とは違うようだ」
兵士さんは何度か頷くと、懐から手紙を取り出す。それを僕に渡さないで、その場で内容を読み始めた。
《明後日の昼、城まで来るように。レイナール・アス・デナートロス》
(´º∀º`)ファーw
ちょびっと長めでした(っ ॑꒳ ॑c)




