ダンジョン完全攻略
青い炎に導かれ、奥へ奥へと進んで行く。
「あれかな?」
「扉か⋯⋯」
ビビが赤い玉を無造作に撃ち出すと、その扉は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ノックとは難しいものだな。アーク」
ビビがいつものビビになってるよ。
余裕がありそうに見えるけど、まだきっと痩せ我慢だね。
僕は気が付かないフリをしつつ、ビビの腕を優しく撫でた。
「クソ、ドモガ⋯⋯」
怒りの表情を浮かべるゾンビがいる。恐ろしい程の殺気を放っているけど、僕にはそれが涼しく感じた。
顔はグズグズに爛れ、目は片方が無くなっているらしい。
ガタイは良くて二メートルくらいあるかな。右手には宝石の散りばめられた魔剣を握り、左手にはラウンドシールドを装備している。
「君、強そうじゃないね」
「ナメル、ナ! ホンキ、ダセバ、オマエナド、テキ、デハナイ! バケモノ、ニンゲン!」
魔物に化け物って言われる日がくるなんてね。
「うぅ⋯⋯」
「ラズちゃん」
ラズちゃんの瞼が震えると、ピンク色の綺麗な瞳が現れた。
薄らと光る瞳が僕を捉えると、直ぐに涙を溜め始める。
「ご、ごめんなさい⋯⋯ごめんなさいアークちゃん⋯⋯」
「ビビ」
ビビがラズちゃんの拘束を解いて床に降ろした。
その場に力なく座り込み、膝を抱えて顔を埋める。
励ましてあげたいけど、今は後回しかな。
「ラズちゃん。スキルを使えるようにして欲しいんだけど」
「⋯⋯ごめんなさい。私のユニークスキルは、どんな相手のスキルでも封じる事が出来るスキルなんだけど、一度使うと最大一時間はそのままなの⋯⋯効果時間はランダムで、いつ切れるかは私にもわからない。その──」
「わかったよラズちゃん。そんなに悲しそうな顔をしないでも大丈夫。それに、ラズちゃんは何も悪くない」
「アークちゃん⋯⋯」
「悲しい顔はしないで、ラズちゃんには笑顔が似合うと思うんだ」
「エロ顔の間違いじゃないか?」
ん? エロ顔って何? ビビの顔を見ると、『あ、やべぇ』みたいな顔をしていた。
気になるけど、とりあえず今は後にしよう。
「ビビ、ラズちゃんをよろしく」
「大丈夫なのか?」
「うん」
よく周りを見渡して見る。
この部屋は大きな円形になっていて、壁際に四つの魔法陣が描かれていた。
多分あれは転移の魔法陣かな⋯⋯
ゾンビは部屋の中央で剣を構えている。
不用意に攻撃して来ないのは、こちらにビビがいるからだよね。
僕がゾンビのいる中央へ歩いて行くと、その腐った顔でニヤリと笑った。
「スキル、ナイ、ニンゲン、タダノ、ザコ、メ」
「⋯⋯」
確かに今の僕は弱いよ。でも、こんな奴に負ける程じゃない。
朧の夜桜を抜くと、青い炎の松明が激しく燃え上がった。一気に部屋の中が明るくなり、天井から鉄格子のような物が落ちて来る。
「クケケケケ、オマエ、モウ、ニゲラ、レナイ」
「逃げる、気、ない」
「チッ」
ラズちゃんにあんな事をさせた元凶で、ヨコチンさんが狂ったのもこのゾンビのせい。
戦いは唐突に始まった。
ゾンビが床を蹴り、大振りな袈裟斬りを仕掛けて来る。
僕は朧の夜桜で、その斬撃を横方向の力で往なした。
悔しそうな顔をしたゾンビは、続いて横薙ぎの一撃を放って来る。
そうか、僕のスキルが戻らないうちに倒そうと思ってるんだね。
単調な攻撃だ。
横薙ぎされた剣を、下から巻き上げるように振った刀で弾き上げた。突きをされれば横にずらし、また袈裟斬りも同じように対処する。
「ナゼダ⋯⋯ナゼダナゼダ! アタレ、アタレアタレ!」
「⋯⋯」
僕はこの場から一歩も動いていない。ゾンビもそれに気がついた様子で、更に力を込めて襲いかかって来る。
「クラエ⋯⋯“アシッドジャベリン”!」
近距離からの特殊な魔法みたい。でもそんなものは、イフリンの力で焼き付くさせてもらった。
「ナ、ナンダト!」
「油断大敵」
明らかにゾンビが動揺しているところへ、床から尖った岩が無数に飛び出してくる。
「ナゼダ! ナゼダー! ナニヲシテイル!?」
岩は次々とゾンビの体へ突き刺さった。
説明する義理は無いと思う⋯⋯ノーム様、、ノームに感謝しなくちゃね。
朧の夜桜へ力を流し込んだ。きっとこれが最後になる⋯⋯長かったなぁ⋯⋯
青白い炎が刀身を包み、ノームの力で強度を上げる。これにムーディスさんの力を合わせ、ゾンビの頭へ振り下ろす。
「マ、マイッタ、コウサン、コウサンダ──⋯⋯!! ヒギャァァァアアアア⋯⋯グゴオェゥガアァァアア!」
「もう終わりだよ。手加減しなかったから、直ぐに楽になる⋯⋯」
ゾンビの体が燃え上がり、直ぐに悲鳴は聞こえなくなった。
「終わったな」
「終わったね、ビビ、ラズちゃん」
僕は初めて迷宮をクリアした。何だか嬉しいな。
「ん〜っ!! スッキリした!」
「色々あったな」
「そうだね⋯⋯でも全体的に見たら楽しかったよ」
「⋯⋯私も楽しかった。ティーナはどうしているかな」
どうしているだろうね。まあ、思ったよりも階層が少なかったから、まだ迷宮の外は夕暮れ時だと思う。
ラズちゃんが僕達を見ながら、少し羨ましそうにしているみたい。
「ねえラズちゃん」
「なーに?」
「テイム出来るか試してみる?」
ここは黒狐様に連れて来られた世界だけど、もしかしたらテイム出来そうな気がしたんだ。
「良いの? 私の事、信じてくれるの?」
「勿論だよ」
ラズちゃんが視線を落とし、自分の両手を眺める。
「私⋯⋯全部覚えてるの⋯⋯アークちゃんを貫いた手、ビビを殴った拳⋯⋯勝手に動いちゃう体が怖くて、もう私が私じゃないみたいで⋯⋯」
「それは⋯⋯」
「わかってる。でも⋯⋯怖いわ⋯⋯怖い⋯⋯どうしても体が止まってくれなかったの⋯⋯さっきの事を、私⋯⋯何度も何度も思い出しちゃうの⋯⋯」
「⋯⋯」
ラズちゃんはさっきの事が相当ショックだったらしい。ガタガタと震えながら、大粒の涙を流している。
「私は自分が信じられない。名前をくれたアークちゃんを、私は殺そうとしたんだから」
僕は少し浮き上がり、ラズちゃんの頭を抱きしめる。こういう時は身長が低いと不便だなぁ。
「わかった。焦らないで良いんだよ。もし僕もラズちゃんと同じ事になったら、怖くて仕方ないかもしれないもん。ゆっくりで良いから、今は僕とビビに着いておいで」
「アークちゃん⋯⋯ありがとう⋯⋯」
泣くラズちゃんを暫くあやして、何度も頭を撫でてあげた。
ゆっくりで良いんだよ。僕とビビが傍にいてあげるからね。ラズちゃんが泣き止んだら眠らせてあげたいけど、今はこの部屋を調べないと⋯⋯
「ありがとう。もう大丈夫」
「いーえ」
ラズちゃんが微笑んでくれる。これで一安心だ。何だか頬までピンク色になってる? 尻尾が僕の足に絡みついてきた。
「良い匂い⋯⋯」
「おいラズ。そろそろアークから離れろ」
「嫌。まだ怖い」
「この!」
ビビが僕からラズちゃんを引き剥がそうとしてくる。でもラズちゃんの腕が僕の背中に回されていて、なかなか上手くいかないみたい。
「アークちゃん素敵。アークちゃん可愛い」
「ラズちゃん?」
そんな事をしているうちに、僕のスキルも戻ってきたみたい。
ラズちゃんが元気になってきて良かった。これでヨコチンさんも助かるはずだよね。
ザルのように間隔の広い鉄格子の間をすり抜けて、一つの魔法陣の前に立つ。
「どれに入ったら良いのかわからないね」
「罠は無いとは思うが、気をつけた方が良いだろうな」
「私もわからな〜い。どれでも良いんじゃない?」
どれも似たような魔法陣なんだよね。どれが正解なんだろう⋯⋯
「お〜い! お主! お主や〜い!」
遠くから緑色の髪の人が走って来た。
で、でも、まずは迷宮の魔法陣が優先だよね!
「さあ行くよ!」
僕が魔法陣の中に入ると、続いてビビとラズちゃんも飛び込んで来た。
「ちょ! ちょま! お主! わざとなの!? わざとなの!?」
その言葉を最後に、僕達の体が光に包まれた。
迷宮がやっと一段落(´>∀<`)
でもこの章の本番はこれからだ\( 'ω')/




