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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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ラズちゃんのユニークスキル





 ビビの表情が凍りつき、背後から薄ら笑いが聞こえてきた。僕の胸の真ん中から、血に濡れた指が四本生えている。


 どうして? どうしてなの⋯⋯ラズちゃん⋯⋯



「クケケ、ヤッタ、ユダンシタ、チビニンゲン」


「お前!」


 ビビが怒りの表情になって、僕の背後に蹴りを放った。

 衝撃音が聞こえると同時に、胸から勢い良く手が引き抜かれる。


「うぐ⋯⋯」


 感じた事の無い痛みだった。傷口から大量の血が噴き出して、地面が真っ赤に染まっていく。


 体に力が入らない⋯⋯どうしてこんな事に⋯⋯



「アーク! アーク! しっかりしろ! は、早く回復するんだ! さ、再生の方がいいか!」


 力なく倒れた僕を、ビビが直ぐに抱き起こした。珍しく取り乱す程に、僕の傷は深刻らしい⋯⋯



 喉から血がせり上がってきて、耐えきれずに吐き出す。なんとかしなくちゃと思うけど、思考が上手くまとまらないよ。


 焼けるような胸の痛みに、呼吸をするのも難しい⋯⋯


「早く傷を治せ! ポーションを取り出すんだ!」


「⋯⋯ヒー⋯⋯ル⋯⋯、、?」



 僕の震える手を、ビビが代わりに持ち上げて傷口へ持っていく。胸の傷を治そうとしたのに、何の変化も起こらなかった。


 指先に魔力が集まる感じが無い⋯⋯魔法も発動してくれないし、再生スキルも反応が無い⋯⋯


「どうしたアーク! 早く治さなければ死んでしまうだろ! アーク!」



「クケケケケ⋯⋯ギャハハハハハ」



 ラズちゃんの大笑いが聞こえてきたけど、ビビは僕だけを見ていた。

 血晶魔法で赤い包帯のような物を作り、ライトメイルを剥がして服を捲りあげる。


「ムダダ、ムダ、クケケケ。シンゾウ、ツラヌイタ、モウ、シヌ」



「アーク! 再生はどうした!」



「ギャハハハハハハ! スキル、イッテイジカン、ムコウカ、コノサキュバスノ、ユニークスキル」


「⋯⋯」



 ⋯⋯そうか⋯⋯だからなんだ⋯⋯だから、体が思うように動かない⋯⋯

 無限収納も今は使えない、魔法も使えない⋯⋯再生も使えないんだ⋯⋯


「アーク⋯⋯」


「⋯⋯」


 ビビが僕の胸に包帯を巻きながら涙を流し始めた。


 そんな事をしたって無駄なんだ。僕にだってわかる⋯⋯どんどん体温が無くなっていくんだから。


「駄目だアーク⋯⋯こんな所で⋯⋯死なないでくれ⋯⋯」


「⋯⋯」


 ビビの名前を呼ぼうとした⋯⋯でも、声が上手く出てこない。


 涙を流しながら、ビビは僕の体を抱きしめる。


「血が止まらない! どうしたら良い! 私にはアークを癒す術がない⋯⋯」




 ビビを⋯⋯一人にしないって⋯⋯約束したんだよ⋯⋯ビビは寂しがり屋なんだ。僕がずっと一緒にいてあげないといけない⋯⋯

 心臓が潰されたとしても、僕は死ぬ訳にはいかないんだよ。


 気持ちではそう思っているのに、体が動いてくれない。

 動いてよ。僕の体⋯⋯



「ツギハ、オマエダ。ケケケケケ⋯⋯」


「⋯⋯」



 ビビはずっと僕の事を見つめていた。


 捨てられた猫のように、去る飼い主を見送るように⋯⋯



 僕はそんなビビに無責任な事を言わなきゃいけないのかな。幸せになってねって⋯⋯


 嫌だ。嫌だ⋯⋯どうしたらそんな事が言えるの。


 悔しい⋯⋯僕はビビともっと生きたかった。



 僕の目からも、温かな涙が零れ落ちた。ビビの輪郭がぼやけて良く見えない。これが最後になるのなら、もっとちゃんと見ておきたいのに。


 意識が遠ざかっていくみたいだ。


 まだ⋯⋯ま⋯⋯だ⋯⋯駄目⋯⋯し⋯⋯っかり⋯⋯と⋯⋯



「殺せ⋯⋯」


 ビビがそう小さく呟く。


 その言葉を聞いて、途切れかけていた意識が繋ぎ止められる。



 ビビは、何を言ってるの?



「ミズカラ、シヲ、エラブカ」



「⋯⋯アークのいない世界に、生きる意味など無い」


「クケケケケ。ナラ、スグ、コロス。メイキュウノ、ヨウブンニ、ナレ」


 ビビがラズちゃんに蹴られて、激しく遠くまで弾き飛ばされた。


 僕は氷の地面を転がって、仰向けの状態で制止する。



 ビビの馬鹿⋯⋯そんな事言わないでよ。


 その時、初めてラズちゃんの顔が見れたんだ。

 ラズちゃんは辛そうな顔をしていた。目から涙を流しながら、歯を食いしばっている。



 さっきラズちゃんは言ってたよね⋯⋯このサキュバスのユニークスキルはって⋯⋯それを言うなら私のユニークスキルは、でしょ。


 誰かが、間違いなくラズちゃんを操っている。きっとその正体は、言うまでもなくダンジョンマスターだね。



 ──コトリ⋯⋯


 僕の胸ポケットから、万年筆が転がり出てきた。


 忘れていたよ⋯⋯大切な預かり物なのに、真ん中から傷がついている。


 やっぱり魔力を放って⋯⋯あれ?



「⋯⋯」


 万年筆が光り輝くと、緑色の髪の少女が現れた。

 そんな状況じゃないと知りながらも、いきなりの事に驚愕する。


「さっぶ! 何じゃここは! ハルキバル! ハルキバルーー!!」


 少女は十歳くらいに見える。口に手を当てて、大声で叫び声を上げた。

 髪の毛はショートでふんわりと巻かれていて、緑色のドレスと長い杖を持っている。

 気品さの中にお転婆そうなところが、イグラムで会ったレイナを思い出させた。



 そんな彼女の頭には、六本の短く小さな角が生えている。



「のわ! 何じゃお主! 死にかけではないか!」


 そんな事を言いながら、彼女はオーバーに上半身を仰け反らせた。


「人間? 違うな、人間なら即死な傷だろう。精霊が混じっているのかの?」


「⋯⋯」


 変な喋り方⋯⋯そう言いたかったけど、言葉は出てきてはくれなかった。



「なあなあ。(わらわ)の実験体にならんかえ?」






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