大地と鋼の⋯⋯
深呼吸をしてから空へ浮かび上がる。尻尾が届かない位置まで逃げよう。
ん? あ、あれ?
いくら遠くまで逃げても尻尾の攻撃が追ってくる。あの尻尾は伸び縮みするらしい⋯⋯
必死に躱しながらやるしかないかな。
『ノーム様』
『ぬ?』
精霊契約のパスを開くと、ノーム様が直ぐに返事をしてくれた。
僕だけの力はまだ弱い⋯⋯最上位精霊さんや、ムーディスさんに比べたらだけどね。
『すいません。ちょっと助けて欲しいのです』
『⋯⋯時の不安定な場所にいるようじゃの。神獣様の所へ行ったと聞いたが⋯⋯なるほど。“消失”した時代の中にいるのか』
『え? 消失?』
『ふむ⋯⋯何も聞かされて無いなら話す事は出来ん。滅多な事をされるとバランスを取るのが難しいからのう⋯⋯』
えーと⋯⋯ノーム様は何の話をしているのかな? でも話す事が出来ないのなら、無理に聞いちゃ駄目だよね。
スフィンクスの尻尾が頭上を掠めた。それだけでも風圧に巻き込まれて踏ん張るのが大変だよ。
『もうちょっと僕が強ければ良かったのですが⋯⋯』
『何を勘違いしておる』
『え?』
『アークは十分に強いだろう。四大精霊を己が器に取り込むなど、最早人間技じゃないわい』
イフリンから聞いたんだね。でもそういうものなのかな?
『まだ納得せんのか』
パスを繋いでいる状態だと、心の内側も全部見られちゃうんだよね。
『それは帰って来てから話をするとしようかの⋯⋯いくかアークよ』
『はい! よろしくお願い致します!』
ノーム様の強大な自然の力が流れ込んでくる。イフリンやムーディスさんとはまた違う感じがするよ。
右手に全て集めると、手の平の上に黄色い光の粒が出現した。その光はどんどん大きくなり、夜すらも吹き飛ばす程の輝きを放つ。
僕はその光の玉を凝縮し、口の中に放り込む。
──ドクン⋯⋯
心臓が驚いたように力強く跳ねる。
体が何か全く別の物へと変わっていくような気がする。
髪の毛が長く伸びて、金髪へと変化した。上半身の服やライトメイルが無くなって、肌が浅黒く染まる。
爪が真っ黒になって少し伸びたかな? 何となく朧の夜桜の刃を反射させて見てみると、目が真っ黒で瞳が金色になっていた。
この力があればいける。
振り下ろされたスフィンクスの尻尾を、手の甲を使って殴り返した。
「オォオアアァァアア!!」
「⋯⋯」
スフィンクスの尻尾が砕け、初めて雄叫びらしい叫びを上げる。
ノーム様の力は、物理最強なのかもしれない。殴った感触が全く無かったんだよ⋯⋯
刀身を握って引き抜くと、朧の夜桜のヒビが修復された。
「儂はアーク。大地と鋼の化身なり。何人も儂を傷付ける物は無く、その全ては無駄に終わる」
手に黄金の煙管が現れる。それを一振りすると、硬い何かを弾く感触が伝わってきた。
スフィンクスの周り百メートルが、高重力で大きく陥没する。
這い蹲るスフィンクスが、苦しそうに唸り声を発した。
「たわいもない」
──カン!
さらに重力を倍増させると、スフィンクスが膝を折って地面にめり込み始める。
──カン!
重力が一千倍を超えた。
身動き一つ取れないスフィンクスへ、歩いて近寄りながら煙管を咥えた。
一度吸い込⋯⋯げほげほ⋯⋯うぇ⋯⋯変な味⋯⋯
──カン!
もう一度煙管を振り下ろすと、重力が一万倍へと達っした。自分も高重力に晒されているのに、それが全く苦にならない。
「楽にしてやろう」
「⋯⋯」
スフィンクスの首を挟むように、二本の鋼の柱が空へと伸びる。
これはギロチン台だ。てっぺんには斜めに巨大な刃が取り付けられ、躊躇なく落ちて首を切断した。
「⋯⋯」
『アークは甘いな⋯⋯いつもそうなのか?』
『え?』
『敵を倒していつも心を痛めているのかと聞いたんだ』
『ん⋯⋯敵だとしても、やっぱり命だから⋯⋯』
凄い力が流れ込んできた。魂魄のレベルが上がったんだと思う。
あまり苦しめたくないと思うのは変なのかな?
精神がノーム様と混ざり合う中、僕の部分だけがそう思っているみたい。
高重力を解いて、スフィンクスを無限収納に回収した。
命を奪うルールとして、なるべく無駄にしないって決めてるんだ。
スフィンクスだって、きっと生きたかった筈だからね。
『⋯⋯アークの気持ちはわかった。そうさな⋯⋯命を奪う事に責任を持つのは立派な事だ。儂も肝に銘じておこう』
『ありがとうございます。ノーム様』
『ノームで良い。儂らは対等な関係なんだ』
『⋯⋯え、えと⋯⋯でも⋯⋯』
『なんだ? イフリートはイフリンなのに儂はノーム様か?』
え? もしかして拗ねてる?
『拗ねてはいない』
あうぅ⋯⋯ノーム様はノーム様なんだけど⋯⋯
『じ、じゃあ⋯⋯ノーム。ありがとう』
『うむ。また呼べ』
体からノームの力が抜けていく。本当に助かった⋯⋯ありがとうございました。
肌の色が元に戻り、髪も銀髪へと戻った。
Sスタンダードを解除すると、更に栗毛色へと変わる。
服とライトメイルも元に戻ったみたいだね。変身中はどこにいってたんだろう?
「アークちゃーん!」
ラズちゃんが遠くで両手を振っている。扉が近いからあまりこっちに来れないのかも。
歩いて戻ると、空からラズちゃんが降って来た。
「アークちゃん凄かった! 何回も変身するんだもん!」
「スフィンクスは強い魔物だった。広い場所だから使えたんだ」
「無事で良かった」
ラズちゃんが凄く嬉しそうに笑う。
背中の羽を背中にしまうと、僕の顔の前に胸を持ってきた。
「どうしたの?」
「ビビいないじゃない? だから今のうちにね。ほらほら〜」
ビビならもうそろそろ戻って来ると思う。
ラズちゃんが胸を突き出してくるんだけど、どういう事なの?
薄い布を下にずり下げてみる⋯⋯うん。おっぱいしかないね。何かを見せたいのかと思ったんだけど、そういう訳じゃないみたい。
寒そうだから戻してあげよ。
「え? なんでしまっちゃうの?」
「ん? 駄目だった?」
「⋯⋯駄目って言うか、返品された気分なんだけど⋯⋯切ないわ⋯⋯」
「風邪引かないようにと思って」
「私サキュバスよ? 風邪なんか引いた事ないもん」
ビビも病気しないって言ってたね。ラズちゃんも羨ましい⋯⋯
「アークー!!」
「あ、ビビー!」
ビビがやっと追いついてきたね。手を振ると、ビビが僕の前に降り立った。
「ヨコチンさんは?」
「あまりに執拗かったから、あの巨体を細い道に嵌め込んできたわ。暫く動けないと思う」
「それなら良かっ──」
──ドス⋯⋯
⋯⋯え?
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これからもデタラメな冒険譚をよろしくお願い致します。




