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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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深層のスフィンクス





 ラズちゃんに何て言葉をかけようか、そんな事を考えていた時だった。

 氷の地面が鳴動(めいどう)し始め、濃密な魔力が周囲を包み始める。

 赤い二つの光が、明らかな敵意を持って僕達を睨んでいた。



「何これ⋯⋯私、こんなの知らない⋯⋯」


「⋯⋯」


 ラズちゃんが動揺するのも無理ないかな。際限など無いと言うように、溢れ出す魔力の上昇が止まらない。


 ──グゴゴゴゴゴ⋯⋯


 氷の地面がヒビ割れて、巨大な何かの腕が生えてきた。



 あれはなに⋯⋯もしかしてスフィンクス?


 目を赤く光らせて、バキバキと氷を砕きながら這い出て来る。その様子はまるで、墓場から這い出てくるゾンビのようだった。


 見た目は仮面をつけた巨大な獅子。間違いない⋯⋯あれは黄金のスフィンクスだ。


 轟音と共に裂けた氷は、スフィンクスが表に出ると再生を始めた。


 僕はあれを絵本で見た事がある⋯⋯確かどこかの勇者様が攻略した? っていう迷宮の冒険物語と一緒だよ。

 過去に勇者様が攻略した迷宮に、僕とビビは挑んでいたんだね。



 伝説に挑戦する事になるんだ⋯⋯少しワクワクするかも⋯⋯ヨコチンさんが危ないって時に、ちょっと不謹慎かな。



 どの勇者様かは覚えてはいない。でも、その勇者様と同じ事が出来るなんてまたとないチャンスだよ。


 僕にあれが倒せる? イフリンかノーム様の力を借りないと難しいかな⋯⋯



「あ、あれとは戦っちゃ駄目⋯⋯わかるでしょう? 恐ろしいくらいの力を感じる⋯⋯」


 顔を青くするラズちゃんに背を向けて、“朧の夜桜”を抜き放つ。


 魔力はたっぷりある。気力も充実している。きっと大丈夫!



「僕もね、最初は痛いのも怖いのも苦手だったんだ。でも震えて縮こまっていたら、追いつきたい目標には届かないんだよ。覚悟なんて呼べるものじゃないかもしれないけど、僕はどんな時だって前に進む⋯⋯いつだって僕は、そうしてきたんだ」



「⋯⋯目標⋯⋯」



「僕にはね、見たい景色があるんだよ。父様と母様が話す道の先へ、僕は行ってみたいんだ。そのために、迷ってる時間なんて無い」



 父様と母様は何度も世界を救った。だから僕も、身近な人の一人や二人救えなきゃ駄目なんだよ。


 ラズちゃんをどうするかは戦いの後かな。ビビも遠くで頑張ってるのを感じる⋯⋯僕も頑張らなくちゃ!



「もう少し離れててね」


「アークちゃん⋯⋯」


 ラズちゃんは何かに悩んでるように見える。外の世界を知らないから当たり前だよね。

 ラズちゃんにとって、外は楽しい事ばかりじゃないと思う。魔物だというだけで、ビビがどれだけ寂しい思いをしてきたことか⋯⋯それを思うと簡単には誘えないかな。


 けど、僕はドラグスを出てから沢山の人に出会えた。色々な人に出会えて世界が大きく広がっていく⋯⋯町にいたままじゃわからなかったよね。本当に良かったと思うんだ。



 頭を戦いに切り替えながら、眼前のスフィンクスを見下ろした。


 スフィンクス⋯⋯本当に大きいな。


 ラズちゃんから離れ、スフィンクスの巨大な体を一望する。いったい何十メートルあるんだろう⋯⋯

 その真っ赤な瞳は、絶えず僕を射抜いていた。


 ここはボスの部屋じゃないのに、今まで戦ったどのボスよりも強そうだな。


「Sスタンダード」


 髪の毛が銀色へと変わり、紫電が全身を包み込んだ。


 まずは⋯⋯っ!!


 危険感知スキルがけたたましく警鐘を鳴らす。


 何かをする気だ! でも動きは⋯⋯


「いぐぅ!」


 最初は何をされたのかわからなかった。突然頭上に現れたそれに、急いで刀を合わせる。


 重い! それに硬い!



 完全に力負けした僕は、弾かれた玉のように地面へ激突する。


 背中と頭が痛い⋯⋯朧の夜桜でも打撃のダメージは防げないみたいだ。



 クラクラする頭を振って上半身を無理矢理起こす。


 あれは尻尾の攻撃だった。先端は見えるけど、その殆どが不可視化されているみたい。

 スキルや魔法じゃなくて、スフィンクスの生まれ持った能力かな⋯⋯単純で気配が掴めないとか、本当に狡い!


 揺れる足で立ち上がった瞬間、横薙ぎされた尻尾に弾き飛ばされる。

 僕は地面から突き出た氷山に体を叩きつけられ、開幕早々に深手を負った。


「げほっ⋯⋯」



 頭から頬へと血が垂れてくる。呼吸がしずらい⋯⋯


 尻尾は速くてとことん重い。それだけで十分に必殺技だ⋯⋯人間と魔物の体格差って、ベスちゃんとティーナくらいの差があると思う。どこがとは言わないけど⋯⋯


 次は尻尾の突き攻撃だった。上にジャンプして躱すと、氷山が跡形も無く消し飛んでしまう。


 Sスタンダードレベル3。


 銀の奔流を纏わせた朧の夜桜を、“パワースラッシュ”で振り切った。


 刀の軌跡が空を駆け、地面を斬り裂きながら直進する。


 ──パアァン⋯⋯


「⋯⋯」



 僕の放った斬撃は、また見えない物にかき消される。


 今のは何? わからない⋯⋯敵の情報が欲しい。


「ごほ⋯⋯はぁぁあ!」



 右手を握り込み、魔力を全力で集めていく。頭上から振り下ろされた尻尾を横に飛び避けて、輝き始めた右手を空へと掲げた。


「範囲超拡大、“エリアレイン”」


 僕が呪文を唱えると、雲一つない空から雨が降り始めた。


 エリアレインは水魔法のレベル5。初級魔法だから魔力消費は少ない方なんだけど、ただ雨を降らす魔法になる。攻撃力がある訳じゃないから、普段は使えない魔法だよね。


 雨はスフィンクスにも降り注ぐ。これでさっきの見えなかった物が見える筈⋯⋯


 光がキラリと反射して、スフィンクスを覆う何かが顔を出した。



「⋯⋯狡いよ⋯⋯もう」



 スフィンクスは二重の結界? に護られていた。まず体が隅々まで何かの膜に覆われている。

 それと、攻撃とは別に盾のような尻尾もあるみたい。


 きっとあれがさっきの斬撃を止めたんだね。鉄を抵抗も無く斬る僕の技を、あっさりと止めるだけの強度があるんだ。

 これがダンジョン深層の化け物⋯⋯いきなりレベルが上がり過ぎだよ⋯⋯



「あの盾⋯⋯邪魔だね」


 頬を伝う血を拭い、テンペストウィングを唱える。でも僕は地面へ降りて、体を下へ押し付けるように気流を操作した。


 氷の大地を踏み割る程に力を込めて、弾かれたようなスピードで走り出す。


 目指すは不可視の強力な盾⋯⋯あれをどうにかしなきゃ勝ち目が無い。


 足に銀の奔流を纏わせた事で、爆発的な速度を生んだ。体を下に押さえつければ、浮かび上がらずに何度も地面を蹴れるんだよ。


 右手で朧の夜桜の柄頭を握り、切っ先を捻り込むようにスフィンクスの盾へと繰り出す。


「“オーラスティンガー”!!」



 ──ガオォォン!!



 激しい衝撃が盾を吹き飛ばした。


 やったかな?


 ビシリと音が手元から聞こえ、見てみると刀身にヒビが入っている。


「嘘⋯⋯朧の夜桜が⋯⋯」

 


 さっきのは僕の全力の突きだった⋯⋯それなのに⋯⋯


「盾は無傷⋯⋯」



 どうやらこのままじゃ勝てないらしいね


 僕は無限収納から、完全回復ポーションを取り出す。







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