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デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
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黄金のピラミッド





 ビビの心臓の鼓動が聞こえてくる。ちゅーした時は凄く早くなるけど、今は静かでゆっくりとリズムを刻んでいるのがわかった。


 まだ頭がふわふわするなぁ。今はビビの魔力に包まれていて暖かい。

 魅了で相殺とか言ってたけど、僕は何かされてたのかな?


 低空で浮かんでいた状態から、僕達は一旦地面へ降りる。警戒をしながら、サキュバスと安全だと思われる距離を置いた。

 危険は無いと思うけど、一応用心はする必要がある。


 それにしても、やっぱりいつものビビとは違う気がするよ。いくら話が出来るとは言え、ビビがこんな行動をするとは思わなかった。



「外の世界を知らないのだな」


「知らないわ⋯⋯この目で見てみたいけど、私達(まもの)は自由に動けないの」


「迷宮の扉には近寄れないのか?」


「そうよ⋯⋯」



 ⋯⋯やっぱりそうなんだ。四十五階層のワイバーンは、比較的ボス部屋の近くにいた気はする。

 でもそれは扉へ行かせないためであって、あの階層でだけの特別なパターンだったと思うんだ。


 理由はわからないけど、他の階層は扉付近に魔物はいないしね。


 ビビはサキュバスから情報収集をしているのかな? 確かに迷宮の魔物から話を聞けるって凄い事だけど⋯⋯



「話し相手はいたのか?」


「そんなのいないわよ」


「じゃあ⋯⋯ずっと一人だったんだな⋯⋯」


「⋯⋯」



 サキュバスは口を(つぐ)んでビビの顔を見つめた。


 そうか⋯⋯ビビはサキュバスに昔の自分を重ねていたんだね。その時の気持ちを思い出して、直ぐ倒そうとは思えなかったんだ。


 情報収集なんかじゃないよね⋯⋯いつヨコチンさんが来るかもわからない状況で、大事な時間を使う訳が無いじゃんか。


 あの時のビビはボロボロに弱っていた。人の入り込まない森の奥深くで、青い花畑を日陰から眺めていたんだよね。



「アーク⋯⋯どうする?」


 ビビの声が聞こえ、その顔を見る。


 サキュバスをどうにかしてやりたいって顔に書いてあるよ。


「そうだね⋯⋯ビビがしたいようにするよ」


 ビビがこのサキュバスを放っておける訳がない。一人ぼっちの辛さは、ビビが一番よくわかってるもんね。


 このサキュバスを外に出すにはどうしたらいいかな?


 時間を止めて収納? いや、精霊の力は出来れば使いたくない⋯⋯ダンジョンマスターを倒した場合、迷宮ってどうなるんだろう?

 中身が圧縮されてぺちゃんことか? やだ、それは怖い⋯⋯



「君の名前を教えてくれる?」


「⋯⋯無いのよ⋯⋯ごめんなさい」


 うーん、悪い事を聞いちゃったかも⋯⋯誰とも話した事が無いのなら、名前が無い事も考えなきゃいけなかった。



「じゃあ僕が名前考えてもいい?」


「私に名前をくれるの?」


「うん」


 僕達の距離が自然に近づいていく。もう目を合わせても大丈夫みたい。


 名前、名前かぁ〜⋯⋯サキュバス⋯⋯んー、キュバス? ピンク色の長い髪⋯⋯ピンク色の大きな瞳⋯⋯


 サキュバスは僕の前でしゃがみ込むと、僕の体を触り始めた。気にせず名前を考える⋯⋯どうしたらいいかなー⋯⋯


 花や宝石から名前を取る? 安易過ぎるかなー? こういうのは直感で決めよう。



「じゃあ⋯⋯ラズちゃんでどう?」


「それが私の名前?」



 キョトンとした顔になり、直ぐに顔をうつむける。


「い、嫌だった?」


「んーん。ただ⋯⋯ちょっと、思ってた以上に嬉しくて⋯⋯」


 びっくりしたぁ⋯⋯でも喜んでくれたのなら良かった。今日から君はラズちゃんさ。



「本当にありがとう。貴方達のお名前は?」


「僕はアーク」

「ビビ」


「そう。皆素敵なお名前なのね。私はラズ、うふふ。初めてで嬉しい⋯⋯この名前、大切にするわ」



 考えた甲斐があったね。喜んでくれて僕も嬉しいよ。


 ラズちゃんは俯いていた顔を上げて、笑顔になって手を差し出してくる。


「アークちゃん。体の付き合いからよろしくね」


「? よくわからないけど、わかっ──」

「駄目に決まってるだろ!」



 ビビが顔を真っ赤にして割り込んでくる。服も瞳も真っ赤だから、髪の毛以外真っ赤っか。


 体の付き合いって握手の事でしょ?? 握手ならいくらでもしてあげる。


「三人でしないの?」


「えーと、僕に出来る事な──」

「駄目! まだアークに変な事を教えるな!!」


「⋯⋯? わかったわ」


「本当にわかってるのか?」



 色々噛み合ってないっぽい。後はラズちゃんをどうするかなんだけど⋯⋯うーん⋯⋯



 ──ウガアアァァァアア!!



「「「!!」」」



 強烈な叫び声が聞こえてくる。


 あ〜⋯⋯遂に来ちゃったかぁ。ちょっとのんびりし過ぎたかも⋯⋯


「何⋯⋯? 私、今の声は聞いた事がないわ」


 まあラズちゃんは聞いた事無くても仕方ない。


「今の雄叫びはヨコチンさんだ」

「ヨコチン? 可哀想な名前ね」

「⋯⋯早過ぎだろう⋯⋯あいつ、もう四十五階層のボスを倒したのか⋯⋯」



 僕達が倒すのに一時間かかった相手を⋯⋯やばいね、それを二十分もかからずに倒したんだ。

 ヨコチンさんがどんどん人間離れしていく⋯⋯グズグズしてはいられない。



「早く逃げないと! ラズちゃん、次の階層はどっちだかわかる?」



「⋯⋯こっちよ⋯⋯私は近寄れないんだけど、途中まで案内するね」



 ラズちゃんが背中から翼を生やした。少し寂しそうな顔をしているみたい。


 高速で飛んで行くラズちゃんを追いかけて、右へ左へ上へ下へ⋯⋯

 この階層は縦穴まであるみたいだよ。凄く複雑で、血管の中を移動しているみたいな気分になる。



 ──ぐるおぉおあぁああ!!


 爆発音と雄叫びが響いてきた。僕達の場所がバレているんだ。


 ビビが少し思案する顔になり、赤いブローチのような物を作る。



「これは?」


「私が少し時間を稼いで来る。ラズの事は⋯⋯アークが決めて良い」


「⋯⋯わかった。気をつけてね」


「ふっ。問題無い」



 ビビが僕の胸にブローチを取り付けると、体を反転させて飛んで行く。



「大丈夫なの?」


「うん。ビビは頼りになるんだ。僕の大切な仲間なんだよ」



「人間と魔物が⋯⋯ね⋯⋯」


 ラズちゃんはラズちゃんで、何かを考えているみたい。


 気持ち悪い赤い柱が立つ大広間を抜けると、少し雰囲気の違う景色に変わった。

 人工物のような螺旋階段が続く縦穴が現れて、それが先が見えない程深くずっと下まで続いているみたい。


 ラズちゃんは羽を畳むと、矢のような勢いで頭から落ちて行った。

 僕はその後を着いて行きながら、風に揺れる尻尾から目が離せない⋯⋯


 触ってみたいな。尻尾、すべすべしてるのかな? 柔らかいのか硬いのか気になるなぁ。



「ねえ、アークちゃん」


「ん?」


「ビビいないね」


「今ヨコチンさんを足止めしてるからね」


「そういう事じゃないのよ」


「?」



 ビビの魔力が解放されたのを感じた。きっと戦闘が始まったんだ⋯⋯


 物凄いプレッシャーと爆発音が聞こえてくる。迷宮全体もビリビリと振動しているみたい。



「ねえアークちゃん」


「なーにラズちゃん?」



 ラズちゃんが舌を出して、自分の唇をペロリと舐める。

 不敵に微笑みながら、僕の体を引き寄せた。


「食べちゃダメ?」


「ええー! 駄目駄目! 美味しくないよ?」


「絶対美味しいわよ。ん〜⋯⋯欲しいなぁ⋯⋯」


 ラズちゃんの胸にムギュっと顔が埋まる。大事な物を包み込むように、そっと背中が撫でられた。


 良い匂いがするよ⋯⋯滑らかな肌が温かい。


 ピンク色の瞳に見つめられると、やっぱりまた頭の中がふわふわしてくる。でもこの気持ちの正体がわからないよ。ビビと同じで、ラズちゃんにも人とは違う魅力を感じる。



「もう迷宮の中には居たくないよね?」


「そうね⋯⋯でも⋯⋯」


「でも? 大丈夫。僕が連れ出してあげるよ」


「⋯⋯」



 気がつけば螺旋階段が無くなり、どこまでも続く縦穴になっていた。

 でも、その縦穴も唐突に終わる。

 重力がいきなり反転したかと思えば、夕焼け空と星空のグラデーションが綺麗な世界が広がっていた。


 地面は見渡す限りの氷の大地で、夕焼けと星の光を反射して綺麗だった。

 宙にも氷塊が浮かんでいて、それがぶつかり合って小さく弾ける。

 ガラス同士が鳴らすような、涼やかな音色が心地良い。



「凄い⋯⋯ここは本当に綺麗だなぁ」


「もう。私以外に目移りしないでよね⋯⋯私もお気に入りの場所なのよ」


 ラズちゃんが少し不満な顔になっちゃった⋯⋯不機嫌って訳じゃないけど、僕は何故かおデコを舐められる。



「私の本能が言ってるのよ。アークちゃんは絶対美味しいってね」


「そ、そうなのかなぁ」



 ごめんなさい、食べられたくないですぅ。絶対に痛いもんね⋯⋯それにしても四十六階層は広い。いきなりこんなに広くなるなんておかしいよね?


 もしかして、ここが最深部とか? だから四十五階層はワイバーンに守られていたのかな?



「あっちに大きな扉があるの見える?」



 ラズちゃんの指す方角を見ると、高さ何百メートルもある黄金色に輝くピラミッドがあった。

 そのちょうどてっぺんに、大きな銀色の迷宮の門が見える。


 外にあるピラミッドと同じだ。もしかしたら、本当に最後の扉かもしれない。



「私はここまでよ⋯⋯バイバイ。生まれてきて、一番楽しい時間だった。私は今日の日のために生きてきたんだと思う」


「ラズちゃん⋯⋯」


「早く行って⋯⋯忘れないから⋯⋯」



 ラズちゃんのその瞳には、零れそうな程に涙が溜まっていた。






 ラズちゃん(「・ω・)「

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― 新着の感想 ―
[一言] かわいそうな名前→思っていて敢えて言わなかったことを・・・!!
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