表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デタラメな冒険譚が僕にくれたもの〜憧れを追いかける少年〜  作者: まあ(ºωº э)З
第七章 いきなり始まるスローライフ?
172/214

傷だらけの三人





 どうにかしてあげたいと思う事は、いけない事なんだろうか? いや、きっと違うよ⋯⋯父様や母様のお話みたいに、誰も悲しまない素敵な物語にしたいんだ。


 僕は甘いのかな? 確かにそのままこの魔物を倒す方が楽だと思う。でも父様と母様の物語に、悲しいお話は一つもないんだよ。


 僕は理想を追い求めたい⋯⋯ヨコチンさんだって助けたい⋯⋯



「アーク」


「ビビ⋯⋯」


「アークは間違って無い。何も遠慮するな」


「⋯⋯うん。ありがとう」



 ビビが微笑み、僕の背中を優しく叩く。


 僕はしたいようにすればいい。



 ふと、三人の気配が近づいて来る事に気がついた。でも皆ヨコチンさんから目を離さないね。


 ヨコチンさんに意識を集中したまま、横目で気配の方向を見る。

 その瞬間、ヨコチンさんが“縮地”で天井へ移動した。


「“超重踵落とし”!」


 魔物の巨大な体で使われる強力なスキルは危険だ。


「散開!」


 ドルトー二さんが指示を出す。それを聞いてバックステップをすると、また空中でヨコチンさんの姿が消えた。

 二段跳びスキルと縮地を同時に使ったんだ。狙いは⋯⋯?


「ゼファルさん!」


「クソ!」


 蹴られたダメージの残るゼファルさんに、背中からヨコチンさんが襲いかかる。

 

 速い!


 繰り出された拳を回避するために、ゼファルさんが慌てて大ジャンプをした。それを追うように伸ばされた手が、ゼファルさんのつま先を掴んで握り潰す。


「があああ! 離せ!」


 掴んだ足を引っ張って、思い切り岩の地面へ叩き付けた。

 衝撃で地面が割れ、ゼファルさんの手から槍が零れ落ちる。


 ゼファルさんは意識を失ったみたいだ。それを見てヨコチンさんが獰猛に笑う。


 だけど動きが止まった!


 僕はノーム様の力を使い、石柱を伸ばしてヨコチンさんの足を絡めとる。


「“牙王会心撃(がおうかいしんげき)”!」


「“ディメンションソード”!」


 “牙王会心撃”は斧の上級スキル⋯⋯ガジモンさんの振り下ろした斧が、ヨコチンさんの頭に半分以上食い込んだ。


 間髪入れずにアウグシィスさんが剣の上級スキルを放つ。

 その剣は虹色の光を帯び、ゼファルさんを掴んだ腕を肘の辺りから両断した。


 皆はヨコチンさんを倒す事に躊躇が無いらしい。

 ヨコチンさんは頭を割られながら、ガジモンさんにカウンターでフックを入れる。

 ガジモンさんは片腕で頭をガードしたけど、横回転しながら壁に激突した。


「ぐぅ⋯⋯今ので⋯⋯まだ仕留められんか?」


「迷宮の力が流れ込んでるからな。頭の半分じゃかすり傷なんだろう」


 ドルトー二さんがガジモンさんを助け起こす。僕はゼファルさんにヒールをかけながら、ヨコチンさんから距離を置いた。



「いでええ! いでえよおお! 腕がああ! 頭がああ!」


「ヨコチンさん! 正気に戻って下さい!」


 僕の言葉に反応したのか、赤く染まった目でギロりと睨まれる。


「き、ききき貴様、貴様ァ、アーク! クソ餓鬼! お、お、お前を倒す、倒す倒す倒す⋯⋯こ⋯⋯す⋯⋯ころ⋯⋯殺す⋯⋯殺す殺す殺す殺す殺すぅぅ! ひひゃ、ひひゃひゃひゃひゃひゃ!」


「アーク! 奴はもう正気には戻れないんだ!」


 ドルトー二さんの言葉が聞こえた。確かにヨコチンさんは正気じゃない⋯⋯


 ヨコチンさんの傷口から、黒いドロドロした物が溢れ出した。

 それは瞬く間に腕を再生させて、割れた頭の傷を塞ぐ。


「な、なんて再生力だ⋯⋯」


 意識を取り戻したゼファルさんが、上半身を起こして完全回復ポーションを飲み干す。


 ドルトー二さんとアウグシィスさんが、ヨコチンさんを左右から挟んで時間を稼いでいた。

 僕はガジモンさんにもヒールをかける。



「あ、兄貴ー!!」


 そんな時、一人の女性が走り込んで来た。


 あの人は誰だろう? その背後には、ターバンの男性が仮面の男性を背負っている。

 必死な形相で、傷だらけの体を引きずって来たみたいだよ。



「も、元に戻ってくれ⋯⋯兄貴⋯⋯兄貴!!」


「それ以上近づくな!」


 フラフラとした足取りで、激しい戦闘をするヨコチンさん達の輪に入れば死んでしまう。

 ガジモンさんは女性の前に割り込んで、通さないように立ち塞がった。


「⋯⋯お前はあれのパーティーメンバーだな。残念だが、こいつはもう助からない」


「転位所のジジイ! 勝手な事言うな! 私達の兄貴は絶対に死なない! わ、私達を置いて死んだりするもんか!」

「兄貴を殺さないで⋯⋯くれ⋯⋯頼む⋯⋯頼むよ」


「ならん! あれを放っておく事は出来ない! ⋯⋯見たくないなら、目を閉じているんだな」



 ヨコチンさんのパーティーメンバーの人なんだ⋯⋯女の人も、男の人も辛そうな顔だ。



「どうか! どうかお願いします! 兄貴を見逃してくれるなら、この命を好きにしてくれて構わない! だから」


「駄目だ! 町に被害が出る可能性を野放しにしておく事は出来ない!」


「⋯⋯なら⋯⋯」


 女の人が剣を抜いた。今にも倒れそうなのに、それをガジモンさんへ向ける。


 本気の殺気を放っていた。ターバンの人も剣を抜き、仮面の人が背中から降りる。


「本気か?」


 ガジモンさんが三人へ殺気を叩き返した。どう足掻いたとしても、この三人にガジモンさんが倒せるとは思えない。



「お前達を倒せば⋯⋯兄貴は死なずに済む⋯⋯だから、殺してでも⋯⋯」


「あれを生きていると言えるのか? 正気すら失っているだろう」


「それでも!!」


 女の人が涙を流し始めた。



「⋯⋯それでも⋯⋯生きていて欲しいんだよ⋯⋯」

「俺達には⋯⋯あの人しかいねーんだ⋯⋯あの人だけが、俺達の支えになってくれたんだ⋯⋯」

「だから絶対に助けるんだ! 兄貴を殺させてなるもんか!」


「⋯⋯そうか」



 ガジモンさんは斧を三人へ向ける。


 そんなの嫌だ⋯⋯僕はそんなの見たくないよ。



「ガジモンさん、僕からもお願いします。倒すより助ける方が難しい事もわかります⋯⋯ですが、僕は聞いてからじゃないと納得出来ません!」


「アーク⋯⋯」



 僕は三人を背中に庇う。こんなに必死な人達を、見捨てる事なんて出来る訳が無い。ガジモンさんに斬らせるのも嫌なんだよ。


 ビビが僕の横に並んだ。



「無理なんだアーク⋯⋯正気に戻すには──」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] チンさん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ